アーナルデュル・インドリダソン『湿地』(1)

アイスランドの作家アーナルデュル・インドリダソンの「エーレンデュル警部シリーズ」でいま翻訳があるのは3作目の「湿地」(2000 翻訳2012)と4作目の「緑衣の女」(2001 翻訳2013)の2冊。
さきに「緑衣の女」のを読んだらすごくよかったので、前作の「湿地」を買って読み終った。

アイスランドの作家の本を読んだのははじめてで、アイスランドといえば歌手のビョークしか知らなかった。そして2008年金融危機のニュースでアイスランドの経済だけでなくどんな国かを知った。同性婚が認められているとか、人名には姓がなく電話番号だって名前で登録されているとか。広さは北海道と四国を合わせたくらいで人口は32万人。

エーレンデュル警部は首都レイキャヴィクの犯罪捜査官で50歳、かなり前に離婚している。娘エヴァ=リンドと息子のシンドリ=スナイルがいるが、別れた妻にずっと会わせてもらえなかった。エーレンデュルは妻がつけたこどもたちの名前が嫌いだ。大きくなってから二人は父を探して会いに来たが二人とも問題を抱えていた。特に娘がやっかいだ。いま彼女は妊娠していてクスリから離れようとしている。

レイキャヴィクの北の湿地にあるアパートで老人の死体が発見された。老人ホルベルクに部屋に入れてもらった者が殺して逃げたらしい。死体の上には「あいつはおれ」というメッセージを書いた紙が置いてあった。

エーレンデュルと同僚のエーリンボルグとシングルデュル=オーリの3人が捜査にあたる。シングルデュル=オーリはアメリカの大学で犯罪学を学んだ秀才で、背が高くエレガントでいつもきちんとした服装をしている。エーレンデュルと正反対だ。シングルデュル=オーリがプロファイルを作るべきと言うと「なんだ、それは、プロフィール(横顔)のことか」というぐあいだ。女性警察官のエーリンボルグの個人生活は出てこないが、エーレンデュルの捜査法に対して批判的になるときがある。

ホルベルクには家族がいない。部屋に残されたものを調べると引き出しの下から古い写真が出てきた。古い墓石の写真でウイドルという女の子の名前、亡くなったときは4歳。そこからエーレンデュルの引くことのない捜査がはじまる。
(柳沢由実子訳 東京創元社 1700円+税)