内田百閒『猫の耳の秋風』

積み重ねてある本の中に内田百閒が見えたので掘り出した。ずいぶん昔に読んだままで置いてあった。昭和57年発行ということは1982年、へえっパンク・ニューウェーブに夢中の時代に買ったのか。そういえばパンク少年少女たちには読書家が多かった。うちの本棚を物色していたミュージシャンがいたっけ、と遠い目。

わたしが百閒先生の本を最初に読んだのは父親が買っていた文芸雑誌で「阿呆列車」。なにがおもしろいのかわからんのにおもしろかった。その後、夏目漱石の弟子であることや造り酒屋の実家が破産してお金が無くなって借金の名人ということなど知った。ノラという猫が行方不明になったことも知っていたが、この話が身にしみたのは猫の花子がうちに来てからだ。ノラやクルを親身に思うようになった。

タイトルになっている「猫の耳の秋風」は愛猫クルへのせつない愛があふれていて涙が出そうになった。それと同時になんともエエカゲンとしかいいようのないお話もあって笑える。
先生が奥さんを「アビシニア国女王」と呼んでいる一編もある。タイトルも「アビシニア国女王」である。最後は哀愁漂う一編。
【なにげなく「アビシニア国」で検索したら1ページ目は内田百閒がずらりと出てきた。その他にこんなのがあった。大阪時事新報の1925年の記事「アビシニア王国 (上・下)」。(データ作成:2005.2 神戸大学附属図書館)】

狸を騙した話もおもしろかった。
話のおもしろさもあるけど、語り口のおもしろさがなんともいえない。
小型でしゃれた装丁で12冊出ているようだ。わたしはこれ1冊しか持ってない。全集を買ったような気がするのだがどこへ行ったやら。青空文庫には入っていない。
(六興愛蔵文庫 内田百閒作品集)