モンス・カッレントフト『冬の生贄 上下』(2)

スウェーデンのミステリーを最初に読んだのはヘニング・マンケルのクルト・ヴァランダーシリーズで、これも山田さんに教えていただいた。翻訳が2001年から出ていたのを2005年に続けて3冊読んで魅了され続けてずっと読んでいる。
マンケルの特徴はスウェーデンの最南端スコーネ地方で起きた事件でありながら、諸外国と関わりがある犯罪であることだ。ヴァランダー警部は温厚な人だがしつこく事件を追い、遠国のとんでもないことに巻き込まれる。血圧は高いし糖尿病でしんどいにも関わらず頑張り抜く。

それまではスウェーデンといえば、映画「野いちご」などの監督イングマール・ ベルイマンくらいしか思い浮かばなかったが、ヘニング・マンケルのパートナーがベルイマンの娘さんと知って両方ともますます好きになった。
本書の中でモーリンの娘トーヴェが別れた夫のヤンネの家で5本映画を見たと報告するシーンがある。「全部イングマール・ ベルイマンよ」というが、ウソは簡単にバレる。それだけ偉大な監督として名前がとどろいているのね。熱烈「野いちご」ファンとしてはうれしいかぎり。

猟奇殺人というか異常な死体の晒されかたで度肝を抜く発端だが、警察の捜査は一歩一歩確実に進んで行く。なにごとも疎かにせず調べに調べ抜く。関わりがあるかもしれない過去の事件も掘り起こして調べる。落ち着いて読めるのは警官たちの間が和やかなことかな。モーリンと組んでいるゼケは40代で合唱団に所属しており、息子はアイスホッケーのスター選手である。ゼケが悪い警官モーリンが良い警官に役割を決めて行う尋問も納得いく。

トーヴェに恋人ができ、ちょっとばたついたことがあったが、モーリンにちゃんと挨拶したし、相手の親の医師夫妻から食事に招待される。こんなことも落ち着いて読めた要素かもしれない。別れた夫とも静かな関係だし、肉体的につきあうダニエルもまともな新聞記者だし。

署長のカリムはクリーニング店へ服を受け取りに行く。店主はイラク出身でありフセイン政権から家族を伴って逃げてきたこと、もともとはエンジニアであり本来送るはずの生活について話したがったが、カリムは忙しいからと聞こうとしない。スウェーデンでは外国人は下級な人間と見なされていて、サービス業で生活を支えている。移民がクリーニング店やピザ屋をやるのを禁止したらいいとカリムは思う。カリムの父を死に追いやったのは内に向けた暴力だった。
訳者あとがきが親切丁寧でスウェーデン社会のことがよくわかる。
(久山葉子訳 創元推理文庫 1000円+税)