ミス・リード『村のあらし』

文字通りに〈あらし〉が村をおそう話かと思って読み始めた。なんと!〈あらし〉というのは電子力発電所の職員用住宅地計画なのであった。
架空の村フェアエーカー村は南イングランドのダウンズ地方にある。隣の村がビーチグリーン、そして近くにある町がカクスレー、村からバスで買い物などに行くところだ。

ある日、ミス・クレアが下宿人のミス・ジャクソンの部屋を掃除していると、窓から見慣れない男が2人、ミラー老人が精魂込めて耕している百エーカーの農地の中にいる。
それが始まりだった。男たちはニュータウン計画のために調査にきたことが村中に知れ渡る。原子力発電所の職員と家族が住む住宅とスーパーマーケットなどの設備を備えた大団地を、ミラー老人の農地とその向こうの斜面を開発して作る。発電所に通勤するためにバスがたくさん走ることになる。
だけど、学校はどうなるんだろう、教会はどうなるのか。教師も牧師も村の人々も寄るとその話で反対意見ばかりである。
【「思いあがった木っ葉役人どもめ。『公正なる価格にて、ご譲渡たまわりたく』なんて、ぬかしやがって。百エーカー農地は百年以上も、わしら一族の所有地だったんだぞ。(中略)わしの目が黒いうちは、そんなことはぜったいにさせやせんぞ」(中略)やるなら、やってみろ」老人はどなった。「やるなら、やってみろってんだ」】
説明会や公聴会が行われ、裕福な老婦人は有名な風景画家が好んで描いた村の風景を損なうと猛反発する。そして手にしうるあらゆる武器を使おうと、建設大臣に抗議のクリスマスカードを送る。ミス・リードの友人エイミーは新聞社に反対意見を何度も投書する。

すべての人が反対ではなく賛成する人もいるし、数週間するといずれ実行されるものとして計画を受け入れる態度が広まっていった。
【問題が始まった初期には、あれほど激しかった反対の意気ごみも、時間的にひきのばされ待たされるにつれて弱まったみたいであった。同じことを、今まではあまりに長く論じてきたので、どちらでもいいといった運命論的なあきらめが、かなり多数の人々の心を支配していた。】
だが、ミラー老人は違った。絶対、ここにがんばっていてやる。

〈あらし〉は過ぎ去った。一週間も雪が降り続いたある夜、カクスレーで集会が開かれた。地区議会の人たちと新聞記者は建設大臣と州当局からの文書を読み上げられるのを聞いた。
住宅地計画は取りやめになった。
(佐藤健一訳 角川文庫  1976年 485円+税)

ニール・ジョーダン監督『ことの終わり』

ニール・ジョーダン監督「プルートで朝食を」を貸してくださったT氏によかったとお礼のメールをしたら、同じ監督の「ことの終わり」(1999)もいいとのことで、今夜も映画鑑賞した。
タイトルに原作がグレアム・グリーンとあったので、ひとしお興味がわく。途中で、これって「情事の終わり」やなとわかった。昔、デボラ・カー主演の「情事の終わり」(1955)を見たことがあり、小説も読んだ。その映画でカトリックや宗教の厳しさをはじめて知ったような気がする。先日、イーヴリン・ウォー「回想のブライズヘッド」を読んだとき、解説にグレアム・グリーンと同世代とあったので、懐旧の念がわいていた。そしたら今日この映画。

第二次大戦下のロンドンで作家のモーリス(レイフ・ファインズ)は高級官僚ヘンリーのパーティでヘンリーの妻サラ(ジュリアン・ムーア)と出会い愛し合う。
ロンドンはドイツ軍の空襲が続いている。ふたりが逢い引きしているときに大爆撃があり、廊下に出ていたモーリスははねとばされて吹き抜けに落下、サラが探すとすでに死んでいた。死んでいたとサラは思った。サラは神に助けを求めモーリスが生き返ればもう会わないと神に誓う。そこへ怪我をしたモーリスが戻ってきた。

いかにもイギリス紳士らしいヘンリーとちょっと不良っぽいモーリスと、薄幸な感じがただよう人妻サラの不倫と。サラの不倫を調査するために雇われた私立探偵親子の尾行が物語を広げている。
ロンドンは雨降りばかり。ヘンリーはいつも傘を持たずに夜の散歩をしている。帽子と厚いコートで雨よけになるんやなとつまらんことに感心した。
ジュリアン・ムーアは儚い美しさがいい。「めぐりあう時間たち」の彼女が大好き。
いまアマゾンで「情事の終わり」の中古文庫本を見つけて注文した。

ミス・リード『村の日記』

ミス・リードのフェアエーカー村シリーズ3冊目。最初の2冊「ドリー先生の歳月」と「村の学校」は知人に頂いた本で、これからの2冊は1冊目を回した友人が若いときに買ったのが家にあったと貸してくれた本である。偶然だが出版順に読めてよかった。
目次を見たら一月から十二月までの愛想のない文字が並んでいる「村の日記」だが、内容はこんな小さな村なのに多彩だ。

休暇が終って年が変わり新しい学期がはじまった1月、一人の生徒が猫を2匹学校に持ってきた。1匹は行き先が決まったがもう1匹は決まるまでミス・リードが預かることになる。結局、その猫ティビーはミス・リードの一人暮らしの相棒になる。
土曜日に村の若者がオートバイ事故で死んだ。用務員のウィレット氏の言葉。
【「・・・家族が息子を失っただけじゃないね。村の誰もが取り残されちまったのさ」(「ゆえに問うなかれ、誰がために鐘は鳴るやと」何世紀もの昔に、ジョン・ダンが歌ったとおりを、ウィレット氏がくりかえしたような感じがして、私の心にささやきかける声があった)】
続いて【「鐘は汝がために鳴るなれば」「誰ひとり孤島たりうる者あらじ」】とジョン・ダンの詩が続く。
ミス・クレアは彼のためにセーターを編んでいたが、編み上がればクリケットクラブに寄付するという。クラブでゲームに優勝した人の賞品にすると。
この時代、第二次大戦終了後の村の様子が書かれているのだが、老人たちは地主階級の支配していた時代を知っている。すでに政府によって社会保障などがなされているが、昔は領主が福祉を担っていた。「高慢と偏見」でもダーシー夫妻は領民のことを考えて行動しているのがよくわかる(P・D・ジェイムズ「高慢と偏見、そして殺人」にそういうことが詳しく書かれている)。そんなことを考えるのも楽しい読書だった。
(佐藤健一訳 角川文庫  1976年 505円+税)

ニール・ジョーダン監督『プルートで朝食を』

「久しぶりに見た」が口癖になってしまっているが、ニール・ジョーダン監督の映画も久しぶりだ。「狼の血族」が大好きでレーザーディスクを持っている。「モナ・リザ」もよかった。「クライング・ゲーム」は期待して行ったのにもひとつだった。まわりの評判も映画評もすごくよかったんだけど。「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」はトム・クルーズとブラッド・ピットを見に行った。
それでT氏にまとめて貸していただいたニール・ジョーダン監督の分を見るのが遅くなったってわけ。今夜の「プルートで朝食を」(2005)がよかったからこれから続けて見るかも。

パトリック・マッケイブの原作を映画化とあるが本の翻訳は出ていないようだ。
70年代のアイルランド独立運動を暴力的に弾圧したイギリスに対して、IRAが各地で爆弾テロを起こしていた時代。北アイルランドに近いタイリーリンの町のカトリックの神父(リーアム・ニーソン)と家政婦の間にパトリック(キリアン・マーフィー)は生まれた。母は神父の家の前に赤ん坊を置き去りにしてロンドンへ行ってしまう。養子に出されたパトリックは美しく育ち女装を好む少年になる。
母を探そうと家出してロンドンに向かう途中でいろいろなひとに出会う。IRAの武器庫になっている家に住むことになって、武器を捨てたことで撃たれそうになったり、行きずりの男に首を絞められそうになったり。車に乗せてくれた男があとで知ったがブライアン・フェリー!
ロンドンのクラブで爆弾テロがありテロリストに間違われて逮捕され、拘置所暮らしが気に入ってしまう。尋問した警察官に出るのがいやだ、ここに置いてくれと迫るが、放り出される。
でも、その警官がパトリックにあった働き場所を世話してくれるのだ。
母や弟にもさりげなく出会い、父とは歩み寄り、これからまだまだ多難な人生をにっこりしながら生きていこうとする。

IRAやテロのことがひとりの女装男性が行く人生をとおして語られる。
キリアン・マーフィーが美しすぎる。
ブライアン・フェリーのロキシー・ミュージックを80年代にフェスティバルホールで見たときは美しかったなあ。

うまい菜がうまい

うちの両親は関東出身者なので、大阪独自の食べ物をあまり知らずに育った。こどものときに、父が文学好きだったから、だれやらの小説に出てきたと「うなぎの頭と豆腐を炊いた半助」と「はもの皮を入れたキュウリもみ」を大阪の味だと教えてくれた。正月の雑煮は元旦が関東風で二日が白味噌の関西風なんて言ってた。
日常的に食べた菜っ葉類で覚えているのは水菜で、庭の隅っこの家庭菜園(?)で育ったのをクジラ肉と炊いたのをしょっちゅう食べさせられていた。あとはほうれん草のおひたしが多かったな。

ハタチくらいのとき文学の会に入ったときは、兄貴みたいな口をきくのが数人いてなんだかんだと指導してくれたのであった。そのとき大阪生まれの大阪育ちの青年が「うまい菜」を持ってきて「これが大阪の菜っ葉や」と教えてくれた。それ以来、どこにでも売っているものではないが、見かけたら買っていた。
最近、近所に野菜屋を見つけて珍しい野菜も日常的な野菜も買っているのだが、うまい菜があってときどき買う。今日も厚揚げと炊いて食べた。うまい菜、うまい。

ミス・リード『村の学校』

先月読んだ「ドリー先生の歳月」のドリー先生(ミス・リードはミス・クレアと書いている)は、自分が学んだフェアエーカー村の学校の先生になり長く働いていたが、授業中に倒れて退職する。その後も村の両親が残した家に住み続け、体調がよくなってからは学校行事の手助けなどで登場する。
ミス・リードはその学校のもう一人の先生であり校長先生でもある。ミス・リードは校長先生だけに威厳があり、しっかりと子どもたちとまわりの人たちの面倒をみるし、自分の意見を持っている。

本書はミス・リードが語る「村の学校」のお話。〈第 I 部 クリスマス学期、第 II 部 春学期、第 III 部 夏学期〉。秋の「新学期の朝」からはじまり夏の「学期の終わり」まで。全児童数40人の小学校に新入生が3人が入学。その子どもたちと村の人々の暮らしが綴られている。時代は第二次大戦直後でまだ村に新しいものは入ってこず、村人は昔ながらの生活をしている。
ミス・リードは人間観察能力に優れていて、特に校務員のミセス・ビリングルの描写がするどい。実際にこういう人を相手に苦労したんだろう。ミス・クレアの後に入った先生のミス・グレイは、ともに音楽を愛するアネット氏と婚約する。
小さい村の一年、いろんなことが起き波紋が広がることもあるが、歳月を穏やかに迎えて見送る。いまは過去の桃源郷みたいなイギリスの田舎が懐かしい。
(中村妙子訳 発行:日向房 発売:星雲社 2000年 2400円+税)

今年最初のSUBで

新年早々から風邪を引いてしまいようやく夜遊び復活。1月の末からぼつぼつ夜の外出はしているけど、ひとに会ったり定期的なものだったりだった。
明日は絶対SUBへ行こうと昨日決めた(笑)。竹田さんの日からはじめなくちゃね。

竹田一彦さんのギターと萬恭隆(よろず やすたか)さんのベース。途中から長谷川朗さんのサックスが加わり、終わりのほうで宮上啓仁さんにベースが入れ替わって2曲。
久しぶりのライブは気持ちよかった。家ではいつも音楽はあるのだが、わたしは読書優先がくせになっている。こうして音楽だけに身を置ける場所がある幸せを味わった。
萬さんのベースをはじめて聞いたが、わたしの好みだった。
竹田さんの哀愁をおびたギターにいつもながらおののく。
竹田さんがわたしの近くに座っていた宮上さんと打ち合わせをしたとき、「ムーンリバー」と聞こえた。今日リクエストできたらしたいと思っていたのが「ムーンリバー」だったのでびっくり。すごくよかった〜

デヴィッド・ヒューソン『キリング 2 捜査』

昨日本を送っていただいのを超特急で読んでしまった。地下鉄を待つ間、電車に乗ってから、SUBで演奏がはじまるのを待ちながら、ずっと読んでいた。もちろん家でお昼は個食だったので食べながら、会報のコピーをとりながら、ずっと読んでいた。そう、昨夜寝る前も。落ち着きのないことはなはだしい。自分のミーハー魂に自信を持った(爆)

デンマーク警察の女性警部補サラ・ルンドは、スウェーデンに結婚を約束した相手がおり、前夫との息子マークといっしょにスウェーデンに移住する予定なのに、この事件のために出発を一日延ばしにしている。そのたびに温厚なベングト・ロースリングに謝っている。スウェーデンでの家族友人たちとのお披露目の日もせまっている。どないすんねん、サラ。
19歳のナナには秘密があった。その秘密をサラと新任のイエン・マイヤとが探る。サラとマイヤとの間は最初のうち険悪になったりしたが、いまはお互いに認め合ったはぐれ者どうしの友情も芽生える。
教師に疑いがかかったのを知ったナナの父が勝手に恨みを晴らそうとして迷走。教師への疑いが晴れると一転、異なった容疑者が浮かぶ。
その間に市長候補ハートマンへの嫌疑が浮上。
サラは古いコートの下にフェロー諸島産の手編みセーターを着て、髪は無造作に結んだポニーテール。このドラマが放映されたお陰でセーターは売り切れ、生産が追いつかなくなったそうな。

おもしろかった。どんどん読んでしまった。毎月1冊出るそうである。3月、4月が待ち遠しい。「キリング」を楽しむ春、早くこい。
(山本やよい訳 ハヤカワ文庫 880円+税)

アラン・パーカー監督『ザ・コミットメンツ』

先日見たアラン・パーカー監督の「ライフ・オブ・デビッド・ゲイル」が重かったので、今夜はよく知っている「ザ・コミットメンツ」(1991)を見ることにした。映画館で見てからビデオを買ったのを何度も見たが、もういいかなとひとにあげてそれ以来見ていなかった。

アイルランドのダブリン、親の家にいて失業保険をもらっているジミーは、自分がマネージャーになってソウルミュージックのバンドをつくろうと企てる。「アイルランド人はヨーロッパ人の中で黒人である。そしてダブリンの若者は黒人の中の黒人だ。黒人の音楽ソウルミュージックをやるバンドをつくろう」。
新聞に広告を出すといろんな連中がやってくる。あまりのひどさに呆れるが、ダブリンっ子って音楽が聞くのも好きだが、やるのも好きなのね。
メインボーカル役のデコの迫力がすごい。フィッシュ&チップスの売り子も3人娘のひとりに決める。いろんな有名ミュージシャンとやってきたと話す初老のトランぺッターのジョーイも加入。彼は3人娘さんそれぞれと関係をもつすごいやつ。教会でピアノを弾いている医学生も加入。神父さんも音楽好きで、懺悔をする彼の間違いを指摘するところは笑えた。
こんなメンバーだから練習中も演奏中も諍いが絶えない。演奏後の喧嘩はもっと派手である。音楽はだんだんよくなっていき人気もあがり、新聞記者がインタビューにくる。

U2とシンニード・オコナーに次ぐと言われたアイルランドの新バンド、ザ・コミットメンツは分裂して終わり、それぞれのメンバーは自分の道を探る。バンドが世に出る成功物語でないところがいい。

マイケル・ウィンターボトム監督『I WANT YOU あなたが欲しい』

1998年の映画なんだけどいま現在見て圧倒された。
自分なりにストーリー書くけど、誤解しているところがあるかも。
イギリスの海辺の町。砂浜には廃船がたくさんあってかつての繁栄をしのばせる。すこし離れると海に向かってしゃれた家が建ち並ぶ。
仮出所したマーティンが海辺の町へもどってきた。ヘレン(レイチェル・ワイズ)の家で23歳のマーティンは14歳のヘレンとの仲をなじった父を殺してしまう。それから9年経ったいま、ヘレンは自分の美容院で仕事している。
海のほうへ走りに走る少年ホンダ、自転車のヘレンと衝突して、彼女が落としていったブレスレットを拾う。彼は母の自殺以来口を利かなくなった。東欧からの難民で姉のスモーキーとふたりで暮らしている。
ブレスレットを渡しに行きヘレンに惹かれたホンダは、ストーカーのように彼女の姿を追って盗聴を続ける。
マーティンはヘレンに迫りセックスするが、ヘレンは警察に訴え、マーティンは保護司にバカなことをしたとなじられる。これであと5年拘束されることになる。マーティンはまたもヘレンの家に行くと、ヘレンとホンダがいて・・・

映像が斬新でよかった。クラブのシーンもあって楽しめた。音楽もすごくよかった。
映画は進んでる。見ていない間に取り残されているのを痛感した。追いかけなくちゃ。