ペドロ・アルモドバル監督『トーク・トゥ・ハー』

『トーク・トゥ・ハー』(2002)は『オール・アバウト・マイ・マザー』と『ボルベール〈帰郷〉』の間に位置するペドロ・アルモドバル監督「女性賛歌三部作」の二作目。

とても激しい作品で見ているだけで疲れたがその疲れが心地よくもある。
バレエを見ている観客席に二人の男性がいる。マルコは舞台を見ながら涙を流している。ベニグノはそれをいぶかしく思っている。

母の介護を15年間続けたベニグノは母の死後マンションのベランダから見えるバレエ教室の練習を眺めていて、ダンサーのアリシアに恋をする。財布を落とした彼女が拾ってくれた礼をいうとぐずぐずとした態度。結局後をつけて住まいを確認する。
その後アリシアが交通事故に遭い植物人間になると、介護師となって病院に就職し彼女の看護を積極的に引き受ける。彼女の体や髪を洗いマッサージするのが喜びになって4年経った。

旅のライターのマルコは女性闘牛士のリディアと知り合い愛し合うようになるが、彼女は闘牛場で牛に刺されひどい怪我をしアリシアと同じ病院で治療を受けるも目を醒ますことなく死亡する。マルコとベニグノは病院で親しくなるが、マルコは仕事をするべく旅に出る。

病院ではアリシアが妊娠していることがわかり騒ぎになる。
サイレント映画を見に行ったベニグノが見た映画、女性科学者が発明したクスリを飲んだ男性の肉体が縮んでいき、小さくなった彼は眠っている女性の性器の中に入っていくというもの。
ベニグノは逮捕され刑務所に収監される。

事情を知って慌ててベニグノに会いにいくマルコの必死さ、二人の間に愛があるのがわかる哀しくも美しいシーン。マルコはアリシアが昏睡状態から醒めたことを知るが、ベニグノには言うなと口止めされる。

元旦の夜に見た映画。2日連続でペドロ・アルモドバル監督の作品を見て疲れた。

ペドロ・アルモドバル監督 ペネロペ・クロス主演『ボルベール〈帰郷〉』

ペドロ・アルモドバル監督の映画を全部見たいとずっと昔に『オール・アバウト・マイ・マザー』を見たときから思っていたのに、なぜか『抱擁のかけら』と『バッド・エデュケーション』しか見ていなかった。しかも当ブログに『抱擁のかけら』の感想が見当たらない。書いてないはずないので探さなければ。

先だって相方が友人に勧められたのは劇場上映中の『ジュリエッタ』なんだけど、映画館にめっそいかないわたしらは昔から見たかったのにまだ見ていなかったのを家で見ることにした。『ボルベール〈帰郷〉』(2007)を昨夜大晦日から元旦にかけて見た。

ライムンダ(ペネロペ・クロス)は夫と娘のパウラと暮している。失業した夫は妻に冷たくあしらわれ、義理の娘のパウラに手を出す。抵抗したパウラは父親を台所の包丁で刺し殺してしまう。
ライムンダは泣いている娘から真相を聞き、夫の死体を隠そうと流れた血を拭き取り毛布に包む。そこへ近所のレストランの店長が来て、店じまいするから鍵を預かってくれと頼む。気付かれなくてよかった。

その地へ来ていた映画撮影の人がレストランのそばにいたライムンダを見て店の人と思い大勢のランチを頼む。ライムンダは友だちの顔を見るとパンやケーキを焼いてくれるように頼み、お金を借りて買い物に行きランチの支度をする。料理の手際がよくて新鮮な野菜がうまそう。

物語の展開が早い。殺人だけでなく死んでいたはずの人が出てきたりしてすごくおかしい展開。夫の死体は友人の手を借りて遠くへ埋めに行く。埋めたところにある大きな木の幹に墓碑銘のように文字を彫りつける。

撮影隊がレストランで打ち上げパーティするときライムンダは歌を歌う。それをじっと見る娘と姉と長いこと隠れていて現れたばかりの母親。姉の美容室でライムンダから隠れるところがおかしい。

『オール・アバウト・マイ・マザー』『トーク・トゥ・ハー』に続くペドロ・アルモドバル監督「女性賛歌三部作」の三作目。

映画『ジュリエッタ』を見る代わりに原作の本、アリス・マンロー 小竹由美子訳『ジュリエット』(新潮社 2400円+税)を読むことにした。昨日深夜アマゾンに注文した本が今日夕方届いた。すごい。

ウディ・アレン監督 ケイト・ブランシェット主演『ブルージャスミン』

昨日はなにが見たいか思いつかなくてこれならいいかと見たんだけど・・・今日になって見たい映画あったやんかと思い出した。ケイト・ブランシェットの『ブルージャスミン』。去年のアカデミー主演女優賞をとった。
始まるとすぐに思い出した。ヴィヴィアン・リーが主人公ブランチを演じたエリア・カザン監督『欲望という名の電車』。妹(キム・ハンター)とその夫スタンリー(マーロン・ブランド)とその同僚ミッチ(カール・マルデン)の舞台劇の映画化。杉村春子がブランチをやった文学座の舞台も同時に思い出した。
狂っていくヒロインの姿を見るのはつらいが、女優にとってはやりがいのある役だろうと思う。ブランチもジャスミンも。

ジャネットという本名をジャスミンに変えて、名前のとおりの美貌と優雅な身のこなしで生きてきたジャスミン。ニューヨークで金持ちと結婚して超豪華な暮らしをしてきたが、夫が逮捕され自殺し彼女はすべてを失う。ともに養女だった妹を頼ってサンフランシスコにやってくる。飛行機に乗ってもファーストクラスに慣れていたからとランクを落とすつもりはさらさらない。とっても上手に奥様ファッションで決めている。

社交生活は得意でも働いたことがないジャスミン。歯医者の受付に就職してそのお金でパソコン教室へ行く。パソコンを覚えてネットで資格を取ってインテリアデザイナーになるつもり。そうはなかなかいかないだろうと思っていると、パーティで知り合った男性と結婚といううまい話になる。だが、身から出たさびでみんなうまくいかず、部屋を飛び出したジャスミンは街のベンチに座り延々と独り言をいう哀れなシーンで終わり。

グレン・フィカーラ/ジョン・レクア監督 ジュリアン・ムーア主演『ラブ・アゲイン』

心温まる映画が見たいなと探してジュリアン・ムーアだからと期待した。笑って見終わったがちょっと柔らか過ぎ。まあ予備知識なしで見たんだからしかたない。テレビドラマを見ているようでお腹の底から笑えなかった。達者な俳優がたくさん出ているのにもったいなかったなあ。

10代からつきあって結婚して浮気もせずにきた40代の夫婦だが、妻エミリー(ジュリアン・ムーア)が同僚(ケビン・ベーコン)と浮気したのを知って、夫キャル(スティーヴ・カレル)が責め離婚にいたる。裕福そうな家には妻と子供2人が残る。
キャルはバーでナンパしようと頑張るがダサくて相手にされない。それを見ていたかっこいい男ジェイコブ(ライアン・ゴズリング)が手取り足取り指導してようやくナンパ方法を会得する。でもなかなかうまくいかないもので、これでもかと笑わせる。
ジェイコブのほうはプレイボーイだったのに若いハンナ(エマ・ストーン)にメロメロになる。ハンナが失恋したのに同情して家に連れて帰ったのだが、ふたりがくっつくところが笑わせる。

芸達者な俳優が揃いいっぱい笑わせてくれて楽しい映画なんだけど、あまりにも上手くいきすぎるところにモンクをつけたくなった。

トム・カリン監督『美しすぎる母』

見たい映画をメモしてあるのからこれどうかなと選んだ。美しい母がジュリアン・ムーアだから文句なし。そして息子が『リリーのすべて』でリリーをやったエディ・レッドメインである。
「1972年11月17日、バーバラ・ベークランドは誰よりも愛する息子・アントニーに殺された。」とあるが、本当に実話を映画化(2007年 西仏米)したものだそうだ。

貧しい家庭に育ったバーバラはフランス人の大金持ちと結婚して息子が生まれ、表面的にはなに不自由のない毎日を送っている。
息子が赤ちゃん時代の1946年から物語がはじまり、少年から青年へと成長していく。その間、夫と妻の間にいろいろと齟齬があり、浮気があり、息子は育っていき女性とも男性とも関係を持つ。母と父が抱き合っている横に息子もきて3人で抱き合うなどショックなシーンがいっぱい。

1972年に美青年に成長した息子が素敵なスーツを着て母とファッション話を交わし、そのあと母は息子の横にいって下半身を触る。
その後に息子は母親を殺してしまう。死体となった母を横に、冷静に警察に電話し、そして腹が減ったと中華屋に出前を頼む。警官が来たときは床に座ったまま食事中だった。

レニー・エイブラハムソン監督『ルーム』

アイルランド出身の作家エマ・ドナヒュー原作の『部屋 上下』(講談社文庫)の映画化。7年間密室に監禁されていた女性ジョイ(ブリー・ラーソン)が生んだ子どもジャックが5歳になった日から物語がはじまる。犯人は毎週やってきてドアを暗号で開く。生活に必要な品物を買ってきて、ジョイを犯して帰っていく。ジャックは寝たふりをしてその様子を見ていた。

朝起きるとジョイは狭いルームでジャックにご飯を食べさせ、歯を磨かせ、ストレッチさせる。髪を切るハサミがないからジャックの髪は伸び放題だ。ジャックはこの髪には力があると思っている。口喧嘩するけど、二人きりで愛しあっている家族。ジョイはなんとか脱出しようと頭をしぼる。ある日、ジャックが熱を出したと演出して男をだまして外に出そうとするが相手にされない。ついに決断したジョイは敷物にジャックを巻いて死んだとだまし、男に捨てに行かせる。こうして車から逃げよと教えて。
囚われていたルームを探す女性警察官のてきぱきした応対が気持ちよい。必死の逃亡劇が成功し、母と子は両親の家に帰ることができた。

そこから外の世界へ出た母と子の苦悩がはじまる。マスコミにも追いかけられる。家族にも感情の行き違いが起こる。
とにかくジャックは可愛い子で長い髪が女の子みたいでとても魅力がある。祖母にその髪を切ってもらい病院の母に届ける。そこで、祖母と孫は愛しあっているのを確認。髪は母に力を与えた。
小さな犬をもらい、近所に住む少年と遊ぶようになり、退院した母と抱き合った少年は成長していた。

とても迫力があり隙のない映画だった。
ブリー・ラーソンはアカデミー賞の主演女優賞。

トム・フーバー監督『リリーのすべて』

世界初の性別適合手術を受けたリリー・エルベ(エディ・レッドメイン)と妻のゲルダ( アリシア・ヴィキャンデル)を描いた2015年に製作(イギリス、アメリカ、ドイツ)された映画。
1926年、デンマーク コペンハーゲンで風景画家アイナーと肖像画家のゲルダ夫妻は穏やかに暮らしていた。ある日ゲルダのモデルが来られなくなって脚の部分を描くのにアイナーにモデルになってもらう。妻の出したストッキングと靴とドレスを身につけてポーズしたアイナーは真剣に女装が自分の身に合っているのを感じた。
あんまりぴったりなので、ゲルダは夫を女装させてリリーと名付けパーティに出かけることにした。美しいリリーは客たちの目を引く。
外出にも慣れだんだんリリーでいることがぴったりしだしたアイナーは絵を描くことをやめる。
夫妻はいろいろな医師に相談するがたいてい精神疾患という結果で、拘束衣を着せられるところで必死に逃げたこともあった。
ゲルダの絵が売れ出し、二人はパリへ行く。アイナーの幼馴染ハンスがパリで画商をやっていてゲルダを手助けする。
そしてついにまだ先例のない性別適合手術をする医師を探し出し手術を受けることになった。

リリーに扮するエディ・レッドメインをはじめて見たが、ほっそりと美しい男性であり、着替えて化粧するとものすごい美貌の女性。スーツを脱いでドレスに着替えるシーン、女性化するところがすごかった。

マーティン・スコセッシ監督『ラスト・ワルツ』

昨夜はボブ・ディランのステージを思い出しているうちに懐かしさがつのり、久しぶりに映画『ラスト・ワルツ』を見ることにした。1978年製作のマーティン・スコセッシ監督の作品で、ザ・バンドの解散コンサートの映像とインタビューを組み合わせて絶妙な美しさをもった映画である。

そのころはジャズから離れてパンクにはまりだしたころで、ザ・バンドなんてバンドがあったのも知らなかった。そのころから読み出したロック雑誌に出ていたのか、誰かから勧められたのか、相方が見に行き、帰ってから「ものすごくよかった、明日見に行け」と強引に勧めたのだ。
難波の映画館に行ったらけっこう人が入っていた。2階の前のほうに座って最終回を見たわけだが、最初はわけがわからず、途中からは熱中してもう一度見たかった。

ボブ・ディラン、エリック・クラプトン、ヴァン・モリソン、ニール・ヤング、ジョニ・ミッチェル、ドクター・ジョン、マディー・ウォーターズ、ロニー・ホーキンス、ポール・バターフィールド、ニール・ダイヤモンド、エミール・ハリス、ザ・ステイプルズ、リンゴ・スター、ロン・ウッド、・・・。以上、ネットから出演者名をコピペしました。

ニール・ヤングを初めて知った。よかった〜 ロビー・ロバートソン、このときはまだ真価がわかってなかった。この二人を知っただけで幸運だったなあ。
そしてボブ・ディランが素敵だった。名前となにかで聞いた歌しか知らなかったのが、ここで見てすごい人だとわかった。

最後にラスト・ワルツがバックに流れて、これで終わったと思ったら、なんと「グリーンスリーブス」が美しく奏でられ、もうもう感激の涙だった。昨夜もじーんとしながらいっしょに歌っていた。

デヴィッド・フランケル監督『プラダを着た悪魔』

2006年製作の評判になった映画を10年後のいま見た。当時の雑誌やネットでの評判や批評を思い出す。今日見ていてもすでに見た映画みたいで二度目に見ている印象。
地方の大学出身でニューヨークで働き成功しようと出てきた女性の物語。
人使いの荒い編集長メリル・ストリープのもとで働きだしたアン・ハサウェイは時間に関係なく呼び出され、私用も含めて用事を言いつけられる。恋人とパーティでくつろいでいても携帯に電話が入れば走り出さねばならない。まだ出版されてない本を双子の娘たちのために手に入れろ、それもすぐにという命令で走り回る。
ダサい服装をファッショナブルに変えて装わせてくれる男性が出てきたり、本の原稿を手に入れてくれる男性がいるし、運がいいんだけど、それを生かす才能やセンス、気配りがある。本だって双子のために2部コピーして、それに表紙をつけてやる配慮がある。

コーヒーを持って走るのは日常茶飯事、ステーキも持って走る。先輩の同僚は慌てて車にぶつかり大怪我、目標にしていたパリ出張がパーになる。その前に編集長はアンを見込んでパリへ連れていくと決めていた。
大味だけどおもしろい映画だった。パリもニューヨークも華やかで。

Carolar’s fan Book『Flung Out Of Space』を読む幸せ

去年の暮れに『キャロル』(パトリシア・ハイスミス、柿沼瑛子訳、河出文庫)を読んでからずっと『キャロル』にひたっている。その次に映画を見た。映画館で映画を見るのは久しぶりですごく上質な恋愛映画だった。
それからはツイッターで映画『キャロル』を何回見た何十回見た何百回見たとの共感のツイートがたくさんあり、英語版のDVDを楽しんでいる人もいて羨ましいかぎりだった。その後アマゾンで字幕版のBlu-rayが出るのを知りすぐに申し込んだ。
大阪でキャロラー会が発足したというツイートを横目で見ていた。友人に行くんですかと聞かれたけど、いくら厚顔なわたしでもこのトシでのこのこと行くのもね、ということでツイートを羨ましく読んでいた。

キャロル合同誌『Flung Out Of Space』の発行を気にしていたのだけど、申し込みが遅れて1回目の締め切りに間に合わず増販の申し込みに滑り込んだ。届いたのが9月30日だった。
『キャロル』の本と同じ大きさで表紙のカバーと帯がそっくりな出来栄えである。すごい本格的。プロローグからはじまって第一部、第二部とエピローグまで、文章とイラスト(カラー版たくさん)とコミックで構成されている。書いているのはすべてキャロラーさんたちである。文章力がすごい、絵を描く能力がすごい、その力が結集した本である。「好き」という原動力が文章を書かせ絵を描かせているのを感じる。(ベタ褒めです。)

裏表紙の言葉がすべてを語っていると思うので引用する。
【今日キャロりたい・・・と思ったあなた。この一冊でこれから毎日キャロれます。(中略)映画『キャロル』をこよなく愛する者達によって創られた渾身の一作】
本が届いてから今日まで毎日あちこち読んだりイラストを眺めたりしていたが、なかなか紹介記事が書けないでいた。今日になってふと思った。毎日楽しんで読んでいると書いたらいいんや。わたしの大切な生涯に何度でも読む本に加えて。