ロジャー・ミッシェル監督『恋とニュースのつくり方』

ちょっと息抜きにラブコメディを見ようということで探したのが『恋とニュースのつくり方』で2010年のアメリカ映画。全体にやたらとテンションが高くてストーリー展開は単純なものだけど、あれよあれよと最後までいった。面白かったけど日本語タイトルがなんとかならんかったかな。

主人公のテレビプロデューサー、ベッキー(レイチェル・マクアダムス)は仕事をクビになって新しい職場を必死で探す。ようやく手に入れた仕事は低視聴率で存続が危ぶまれている番組で、なんとか資料率を上げようとテコ入れに奮闘する。
メインキャスターの老練ダイアン・キートンの横に有名キャスターのマイク(ハリソン・フォード)を雇って座らせるが、彼は自己主張が強く最近のテレビ界の軟弱路線を軽蔑しているからどうしようもない。
あれこれあって、視聴率は低下するばかり、ベッキーは寝る間も惜しんでアイデアを出すがうまくいかない。局内で恋人ができるがデート中も仕事のことばかり考えている。
最後は頑なだったマイクが誇り高く自分の仕事をして、ベッキーの評価も上がり、格上のテレビ局からお呼びがかかる。
面接中につけてあるテレビにマイクが料理しているシーンが映る。それはマイクからベッキーへのラブコールのようなものだった。
さすがにハリソン・フォードとレイチェル・マクアダムスは恋愛の対象には無理だから、別の恋人ができる設定。

トッド・ヘインズ監督『キャロル』

とっても素晴らしかった小説『キャロル』の映画化。2015年11月米英公開だからすごく新しい映画だ。トッド・ヘインズ監督は先日『ベルベット・ゴールドマイン』を見たところだったので期待した。

わたしはこの10年くらい映画館に足を運んでいない。いま調べたら去年九条のシネヌーヴォへ60年代のチェコの映画『ひなぎく』を見に行っただけ。その前は普通の映画館に行っていてシネコンははじめてという時代遅れ(笑)。しっかりDVD派である。

見逃したらいかんと映画館の場所と時間を検索して早めに出発。TOHOシネマズなんば別館にたどり着いてみれば、ここは昔敷島シネマという映画館があったところだ。カトリーヌ・ドヌーブの素敵な映画を見た思い出がよみがえった。
入場券を買うのを係員に尋ねたりしてようやく着席。

時代は1950年代。ニューヨークのアパートで一人でつつましく暮らし、写真家を目指しているテレーズ(ルーニー・マーラ)はクリスマスシーズンのデパートのおもちゃ売り場で働いている。忙しい店内に美しい人妻キャロル(ケイト・ブランシェット)が娘へのプレゼントを買うために訪れた。キャロルが置き忘れた手袋を配達伝票の住所宛に送ると、キャロルはテレーズを翌日のランチに誘う。
そして、二人は自動車で旅に出る。ホテルでのラブシーンが美しい。
旅から戻ったキャロルはテレーズの電話に出ず、失意のテレーズは友人の紹介で新聞社に就職して働きだした。
キャロルは夫との離婚問題と子どもの養育権問題を経て仕事を考え始めた。最後はテレーズがキャロルが居る場所を訪ねていって向き合って終わる。

という物語のことは小説『キャロル』の感想でも書いているが、映画ではファッションや車や街の風景が目でも味わえるからいい。
それでも映画は見なくてもすんだと思うが、小説は読まなくてはすまなかったというのがわたしの感想だ。
キャロルは決まり過ぎていてちょっとなあという感じ。テレーズの一途なところがよかった。

吉田喜重 脚本・監督『嵐を呼ぶ十八人』続き

いつものことだけどDVDで映画を見てすぐに感想を書くので、新鮮な気持ちではあるけれど書き忘れが多い。今回も大阪弁を自然に受け止めていたせいか大阪弁が自然だったと書くのを忘れていた。
手配師森山の芦屋雁之助、村田係長の殿山泰司、ヒロインのぶ(香山美子)の祖母役の浦辺粂子、怪我をした息子を迎えに来た母親役の浪花千栄子のベテランたちが暴走する若者たちの群像を要所で締めていた。芦屋雁之助と浪花千栄子の大阪弁と物腰に爆笑しつつ感じいった。
町の与太者役の平尾昌晃の自然な喧嘩っぷりもよかった。

レイプされたのぶが去って広島へ行き、追いかけた島崎(早川保)は野球場に行ってるはずだと聞いて広島球場へ行く。試合中の場内をあちこち走って見つからず、場内放送で呼び出してもらうが、のぶは暗いところでじっと佇んでいる。野球が終わり照明が落とされていく。どうなるのと思っていたらようやく見つかってほっとした。
撮影が成島東一郎、照明が佐野武治と吉田監督と長い仲の二人が協力している。こういうことも最近本で知ったのだが(笑)。

吉田喜重 脚本・監督『嵐を呼ぶ十八人』

DVDを買ったときなぜか吉田監督2本目の映画と思い込んでいた。フィルモグラフィを確かめたら5本目で『秋津温泉』の次だった。『秋津温泉』(1962)は封切りで見ていて数年後に奥津温泉に行った。その後に見たのは『エロス+虐殺』で、その後はおととしごろまで吉田監督の映画はこの2本しか見たことがなかった。吉田監督に興味を持ち始めてから本も読み出した。いまはファンである。

『嵐を呼ぶ十八人』を予備知識なしでさっき見終わったところ。
52年も前の映画なのに白黒画面から怒りでもなく嘆きでもないただそこに生きている青年たちの姿が立ち上がった。
呉市の造船所の下請けとして働く島崎(早川保)は毎日の鬱憤を酒で紛らわしている。今日手配師(芦屋雁之助)が大阪から集めてきたのは不良たちの集団のような十八人である。彼らはだだっ広い空き地にある老朽化したカマボコ宿舎に入れられる。島崎は寮監として彼らの面倒をみることになる。彼らを嫌いだと言いつつ、彼らのあまりの不潔さに洗濯機を買ってきて洗濯さすうれしそうなところもある。
造船所で本工たちのストが始まるが彼らには関係ない。
疎外されっぱなしの彼らは気の赴くままに喧嘩し、飲み、遊び、最後は造船所の仕事がなくなり、北九州の新しい仕事場に向かう。
物語としては島崎と飲み屋の女主人の娘(たこ焼き屋台を出している)が十八人中の一人にレイプされる事件がある。二人は最後に結婚するのだが、広島球場でプロ野球試合のシーンがあり、映画の楽しさが味わえる。

それと・・・いろんなシーンで流れる十八人が歌う『アキラのズンドコ節』がよかった。実はわたしは『アキラのズンドコ節』が大好きで用事をしながらよく歌っているもので。

グラム・ロック! トッド・ヘインズ監督『ベルベット・ゴールドマイン』

トッド・ヘインズ監督『ベルベット・ゴールドマイン』は1998年のイギリス/アメリカ映画。どんな映画かも知らずに見たけど、よかった〜
なにも知らなかったグラム・ロックの勉強にもなった。
わたしは70年代の終わりまでほとんどフリージャズを聞いていて、78年ごろから一気にパンクにいった変わり者である。デヴィット・ボウイもイギー・ポップもそのころのロック雑誌で知っていたが、グラム・ロックはこの映画を見るまで知らなかったようなものだ。

主人公のモデルがデヴィット・ボウイとイギー・ポップであるのも知ってる人は知っているところ。
ブライアン(ジョナサン・リース=マイヤーズ)とカート(ユアン・マクレガー)の実演シーンは実際こうだったんだろうなと楽しく見た。男どうしのベッドシーンもあり。

ニューヨークで雑誌記者をしているアーサー(クリスチャン・ベール)は編集長から70年代はじめのロンドンで爆発的に人気があったグラム・ロックの大スター、ブライアンの現在を取材するように命じられる。ブライアンは人気絶頂時に暗殺事件を自演して非難されスターの座から転落してしまい行方不明である。
アーサーは過去と現在のブアライアンを追いかけつつ、自分の過去も振り返ることになる。

ものすごく大金が動く音楽業界と麻薬と酒と女(同性愛も含む)に入り浸るロックスターたちの華やかで寂しい姿を描いた映画。タイトルの文字もおしゃれで、衣装やメイクも美しい。そして音楽!ほとんど初体験のグラム・ロックの嵐!よかった〜

ブラッド・ファーマン監督『リンカーン弁護士』

最近なにか映画を見ようというときは必ずというほど恋愛ものを見ているので、今日は趣向を変えて活劇ものを選んだ。そうはいっても今回も内容を全然知らない。原作がマイケル・コナリーだから甘いものではないはず。2011年のアメリカ映画。

ロサンゼルスのやり手の弁護士ミック・ハラー(マシュー・マコノヒー)は運転手付きの高級車リンカーンを乗り回し、事務所としても使いつつ依頼人のために仕事をしてカネを稼ぐ。運転手は秘書を兼ね、周りには暴力で協力する人間やプロの調査員などが彼の仕事を助けていて、とにかくまめに働いている。
別れた妻は検事でまだ小さい娘は妻のところにいるが、二人は仲よくつきあっている。
今回の依頼人は不動産業者の若い息子ルイスで殺人容疑で訴えられている。司法取引でうまく収めようとしたミックに、ルイスは無罪を主張して裁判に臨む。

マシュー・マコノヒーがカッコよくて、ハリー・キャラハン刑事の弁護士版のようだ。『評決のとき』を見ていないのが残念。

アン・リー監督『ブロークバック・マウンテン』

2005年製作のアメリカ映画。アン・リー監督のことも原作がE・アニー・プルーの同名の短編小説だということも、なにも知らずに見た。2006年のアカデミー賞では、監督賞、脚色賞、作曲賞を受賞している。というようなこともいま検索して知った次第だ。わたしはなにをしてたんだろう、この頃。

なにも知らずに西部劇かななんて言って見始めた。
1963年夏のワイオミング州ブロークバック・マウンテンの山の中で羊の放牧を行う季節労働者として二人の青年イニス(ヒース・レジャー)とジャック(ジェイク・ジレンホール)が雇われる。
初対面の二人は仕事をしながら仲良くなっていく。別々のところで夜を過ごしていたが、ある夜、焚き火の側で横たわるイニスにテントに入らないと凍えるぞとジャックが声をかける。そして二人は結ばれる。翌日二人が抱き合っているところを雇い主が山の下から望遠鏡で見つける。
イニスは婚約者のアルマと結婚。翌年ジャックは同じ仕事を求めるが断られた上に嫌味を言われる。4年後にジャックはイニスを訪ねるがアパートの陰で抱き合っているところをアルマに見られてしまう。
ジャックはロデオクイーンのラリーン(アン・ハサウェイ)と結婚。金持ちの父親が娘の家でも権力を持っている。

20年にわたる切れ切れに会う愛の生活がジャックの凄惨な死によって終わる。
イニスはジャックの両親の家を訪ねる。ブロークバック・マウンテンに彼を葬るつもりだった。母の案内で二階に上がると、ジャックの部屋に自分のシャツがジャックのシャツに包まれるように掛けてあるのを見つける。二枚のシャツを母親からもらう。ジャックの父親は息子は家の墓に入れると言った。

イニスのトレーラーハウスに19歳になった娘が結婚の報告にやってきた。イニスは結婚式に行く約束をする。娘が喜んで帰った後、クローゼットに飾ってあるブロークバック・マウンテンの絵葉書とジャックと自分の血がしみているシャツを見つめる。

なんせ予備知識なしで見始めたものでどんな展開になるかわくわくして見た。男同士で抱き合うところがとてもいい感じでどきどきして見ていた。二人の青年がすごくよかった。画面からこっちを見たときなどどきどきしちゃった(笑)。
新年そうそう素敵な映画を見て幸せ。

ロブ・ライナー監督『最高の人生のつくり方』

『恋人たちの予感』『スタンド・バイ・ミー』の監督ロブ・ライナーの2014年の作品。不動産業のオーレン(マイケル・ダグラス)は妻の墓参りに行くが、丘の上なので息を切らして悪態をつく。オーレンが所有しその1棟に住んでいる入江のそばに建つ2階建の住宅には、隣りにお節介なリア(ダイアン・キートン)が住んでいる。自己中心のオーレンはその他の住人ともちぐはぐな関係である。
ある日、ずっと音信不通だった息子が来て服役することになったから9歳の娘(スターリング・ジェリンズ)を預かってくれと置いていく。オーレンはどうこどもに接近していいかわからず、リアの善意にまかせてしまう。子どもを仲立ちにオーレンとリアの間は接近する。
娘役のスターリング・ジェリンズが抜群に可愛く、マイケル・ダグラスは不器用だがいいところのある男性で、ダイアン・キートンは涙もろくて可愛い高齢者役がぴったりで、この3人の芸達者に引っ張られて見たようなもの。
ダイアン・キートンの笑顔に『アニー・ホール』(1977)を思い出していた。

ピエール・トレトン監督『イヴ・サンローラン』(ドキュメンタリー映画)

こんな映画があると全然知らなかったが見てよかった。
イヴ・サン=ローランは1936年生まれ、天才的なファッションデザイナーとして輝き、2002年に引退して2008年に亡くなった。この映画は若きサン・ローランと出会って愛し合い、半世紀にわたって公私ともに支えてきたピエール・ベルジュが語るドキュメンタリー映画。ピエール・ベルジュはビジネスマンとしても優秀だったが、のちにミッテラン政権のときにエイズ撲滅運動にも関わる。

イヴ・サンローランは21歳でディオールに特別の才能を認められた。その年にディオールが亡くなり後を継いで主任デザイナーとなる。最初のコレクションが成功し大きな歓声を浴びる。それからは大いなる栄光を背負うことになり常に新しいファッションを世に送り出すための苦悩の日々であった。そのイヴをピエール・ベルジュが支える。映画のはじめから終わるまでピエール・ベルジュの語りがずっしりと重い。2010年のフランス映画。

イヴ・サンローラン(字幕版)

ジョージ・C・スコットの「クリスマス・キャロル」(クライブ・ドナー監督)

晩ご飯のあとになにか映画を見ようと何本か候補があがった。「クリスマス・キャロル」を見たいと主張したのはわたしだけど自分でもおかしくなった。いくらディケンズが好きでいろいろ読んでいるといってもクリスマスに吝嗇を改心する話を見たいなんて。いやいや、これには理由があるのです。
半年くらい前に中沢新一の『純粋な自然の贈与』を読んだのだが、数編の論文の中の「ディケンズの亡霊」というタイトルに惹かれた。ディケンズの亡霊ってなんのことかと読み始めたら「クリスマス・キャロル」が主題になっていた。長いあいだ忘れていた物語を中沢さんの導きで再び読めて、しかもわたしの目には見えていなかったものが示されている。
「クリスマス・キャロル」をわたしはこどものときから家にあった絵本でよく知っていた。その物語が教訓的だとさえ思っていた生意気な子どもだった。
それだけに「ディケンズの亡霊」を読んだ時はそんな大切なことが書いてあったのかと驚き、知ったことに感謝した。

今日見たのはいままで9本製作された「クリスマス・キャロル」の中の3作目、ジョージ・C・スコットがスクルージを演じている1984年の作品。
ジョージ・C・スコットのスクルージさんはそのままのスクルージさんぽくて微笑ましく見た。従業員のクラチットさん、甥のフレッドも物語にあるとおりだった。

クリスマス・キャロル (字幕版)

さっき素直な気持ちで友だちへのメールに「メリー・クリスマス」と書き添えた。

(『純粋な自然の贈与』 講談社学術文庫 960 円+税)
純粋な自然の贈与 (講談社学術文庫)