関口苑生さんの書評を読んで読む気が起こった。でも名前も知らなかった作家なので、まず先に出ていた「黒衣の女 ある亡霊の物語」を買ってみた。得体の知れない不気味な雰囲気が漂う作品に魅入られて、読後すぐにこちらも買った。スーザン・ヒル、すごい作家をいままで知らなかった。
「丘」は2004年に発表されたサイモン・セレーラー警部シリーズの第1作目。すでに7作が刊行されており、今年8作目が刊行される予定とのこと。本書が売れて次作も訳されることを願う。
イングランド南部の架空の田舎町ラファトンの警察署刑事部のサイモン・セレーラー警部が主人公である。サイモン・セレーラーは医師の家に三つ子のひとりとして生まれ、あとのふたりは医師である。セレーラーだけは医学になじめず、絵を描くのが好きなので絵画を学ぶが学校になじめず、法律の勉強をして警察に入った。そこで異例の出世で若くして警部に昇進した。線描画を描くセレーラーと警察官としてのセレーラーをきっちり分けて生活している。警察の人たちは画家のセレーラーを知らず、絵のファンは警察官のセレーラーを知らない。
P・D・ジェイムズのダルグリッシュ警視シリーズを思い出した。ダルグリッシュは詩人で詩集を出していることを警察の人たちに知られているが。
ラファトンには大聖堂の荘厳な建物があり、いまも信仰する人たのこころの拠りどころになっている。もうひとつラファトンにあるものは物語のタイトルになっているザ・ヒル(丘)である。
老人介護施設で真面目に働いていたアンジェラが失踪したのが最初で、次に失業中の娘デビーが行方不明になった。ザ・ヒルへ犬と散歩に行った老人が犬のリードを外すと犬はどこへ行ったのがついに戻ってこない。アンジェラはザ・ヒルへランニングに行っていた。
フレヤ・グラファム巡査部長はロンドンから転勤してきて間がない。離婚して心機一転ラファトン警察署で働きはじめた。続く失踪人を調べていて関連があると感じ若い巡査のネイサン・コーツとともに事件を追う。
町で開業している医師のキャットはセレーラーの三つ子のひとりである。彼らの母は教会の合唱団の世話をしている。フレヤは歌いたくなり合唱団に入る。
セレーラーは遅くなったフレヤを家に誘ってコーヒーを出し、またふたりはイタリアンレストランで食事を楽しむ。フレヤは恋に落ちる。セレーラーは女性から話を聞くのがうまい。
なんかね、普通のイギリス人のことがちょっとわかったような気になった。レジナルド・ヒルと重ね合わせて考えるといろいろと見えてきたような気がしてきた。
(加藤洋子訳 ヴィレッジブックス 上下とも860円+税)