スーザン・ヒル『雪のかなたに』

プロローグ、「ゆうべ、雪が降った」と何度も繰り返す年取った女性の独り言からはじまる。父も母も兄も村の人たちもだれももういない。みんな亡くなってしまって残ったのはわたしだけ。
ずっと昔、9歳の少女のわたしは牧師館で両親と兄と暮らしていた。いたずら好きの兄は妹をからかうが仲のよいきょうだいだった。ドーセットの枯れ草色のわびしい丘、お屋敷があり主人たちはぬくぬくとしていて、使用人たちは屋根裏部屋で寒さに凍えていた。

巡ってきたうれしいクリスマスの日、ファニーは母に新しく作ってもらったマフを手に教会に行く。帰るとご馳走ができていてお客さんや使用人と楽しい食卓を囲む。
その最中に村の男性が亡くなった知らせがあり、別の家では子どもが産まれた。牧師の父は両方の家に行き遅く帰ってきた。翌日、ファニーは父について亡くなったおじさんの家に行き遺体に別れを告げる。その近所の家では昨日生まれた赤ちゃんを抱っこさせてもらう。

クリスマスの3日間は楽しいことだらけだった。
年が明けて春に父は街の教会に転任する。街ではクリスマスになってももうあの村でのようなクリスマスは訪れなかった。あのときわたしは9歳だった。
(野の水生訳 パロル社 2004年発行 1400円+税)

スーザン・ヒル『ガラスの天使』

スーザン・ヒルとなにか結ばれているものを感じる。久しぶりに行った図書館の棚で目についたのが「ガラスの天使」と「雪のかなたに」の2冊のクリスマス物語だった。パロル社の美しい挿絵の入った小型の本だ。

「ガラスの天使」をまず手にとった。
ティリーは母と二人で屋根裏部屋で暮らしている。父は戦争で死んでしまった。
母はお屋敷のお嬢様のドレスを縫う仕事をもらった。お嬢さまは結婚式のドレスや付き添いの人たちのドレス、新婚旅行用の物も母に依頼してくれた。母が仮縫いに行くのにティリーはついて行き、母の仕事が終わるまでじっと待っていた。暖かい部屋で待っているのは苦にならない。
帰り道は土砂降りになった。重い荷物を持った母と歩いて屋根裏部屋へ。
翌日も雨、学校はクリスマス劇の練習で楽しい。家に帰ると母はお嬢様のドレスの生地を部屋いっぱい広げていて、ティリーは台所の隅でおやつを食べる。
階下のマクブライドさんはティリーに自分の過去のことやいろいろなことを話してくれる大人の友だちだ。
お母さんは学校のバザーに出すために人形を作ってくれた。ヴィクトリア・アメリアと名付けたこの子はくじ引きでルイーザのものになった。

母はひどい風邪を引き寝込んでしまう。ひどい雨漏りで縫いかけのドレスがびっしょり。ティリーは駆けてお屋敷へ。
けなげな母と子への周りの人たちからのさりげない贈り物に彩られたクリスマス。
(野の水生訳 パロル社 2004年発行 1400円+税)

久しぶりに図書館へ

相方が借りていた本「原発ホワイトアウト」を残りの2日間フルスピードで読み終えて図書館へ返却に行った。最近は本(新本、古本、お借りした本)がたくさんあって図書館の本を読む時間がない。
返したついでにせっかく来たのだからと本棚を眺めていたがやっぱり翻訳物に目がゆく。
先日はじめて読んだスーザン・ヒルのきれいな本2冊は10年前に訳されたクリスマスものだけど怪奇っぽくもあるようで楽しみ。アイルランド出身のメイヴ・ビンチーは「サークル・オブ・フレンズ」の映画と原作を楽しんだ。「クリスマスの食卓」もきっと楽しいだろう。たのしみ、たのしみ〜。もう1冊はP・D・ジェイムズの「灯台」、残念ながら読んで感想も書いていた。未読のダルグリッシュ警視ものはもうなかったっけ。再読を楽しもう。

ということで4冊借りて帰ったら郵便受けに原書房からの封筒が。山本やよいさん訳のメアリ・バログ「秘密の真珠に」。帰ったら宅急便が来て東京のSさんからお貸しした本の返却といっしょに、よしながふみ「きのう何食べた?」の8巻が入ってた。これが一番先や〜(笑)。和風のケーキもいっしょに入っていたのを食べながら読んだ。

スーザン・ヒル『丘 上下』

関口苑生さんの書評を読んで読む気が起こった。でも名前も知らなかった作家なので、まず先に出ていた「黒衣の女 ある亡霊の物語」を買ってみた。得体の知れない不気味な雰囲気が漂う作品に魅入られて、読後すぐにこちらも買った。スーザン・ヒル、すごい作家をいままで知らなかった。
「丘」は2004年に発表されたサイモン・セレーラー警部シリーズの第1作目。すでに7作が刊行されており、今年8作目が刊行される予定とのこと。本書が売れて次作も訳されることを願う。

イングランド南部の架空の田舎町ラファトンの警察署刑事部のサイモン・セレーラー警部が主人公である。サイモン・セレーラーは医師の家に三つ子のひとりとして生まれ、あとのふたりは医師である。セレーラーだけは医学になじめず、絵を描くのが好きなので絵画を学ぶが学校になじめず、法律の勉強をして警察に入った。そこで異例の出世で若くして警部に昇進した。線描画を描くセレーラーと警察官としてのセレーラーをきっちり分けて生活している。警察の人たちは画家のセレーラーを知らず、絵のファンは警察官のセレーラーを知らない。
P・D・ジェイムズのダルグリッシュ警視シリーズを思い出した。ダルグリッシュは詩人で詩集を出していることを警察の人たちに知られているが。
ラファトンには大聖堂の荘厳な建物があり、いまも信仰する人たのこころの拠りどころになっている。もうひとつラファトンにあるものは物語のタイトルになっているザ・ヒル(丘)である。

老人介護施設で真面目に働いていたアンジェラが失踪したのが最初で、次に失業中の娘デビーが行方不明になった。ザ・ヒルへ犬と散歩に行った老人が犬のリードを外すと犬はどこへ行ったのがついに戻ってこない。アンジェラはザ・ヒルへランニングに行っていた。

フレヤ・グラファム巡査部長はロンドンから転勤してきて間がない。離婚して心機一転ラファトン警察署で働きはじめた。続く失踪人を調べていて関連があると感じ若い巡査のネイサン・コーツとともに事件を追う。

町で開業している医師のキャットはセレーラーの三つ子のひとりである。彼らの母は教会の合唱団の世話をしている。フレヤは歌いたくなり合唱団に入る。
セレーラーは遅くなったフレヤを家に誘ってコーヒーを出し、またふたりはイタリアンレストランで食事を楽しむ。フレヤは恋に落ちる。セレーラーは女性から話を聞くのがうまい。

なんかね、普通のイギリス人のことがちょっとわかったような気になった。レジナルド・ヒルと重ね合わせて考えるといろいろと見えてきたような気がしてきた。
(加藤洋子訳 ヴィレッジブックス 上下とも860円+税)

マンガで覚えた料理

よしながふみのマンガ「きのう何食べた?」(1巻から7巻までSさんに貸していただいた)がすっごくおもしろい。あまりにおもしろいのでぱーっと読んで(最近はこれが多い。最後までいって納得してから2回目を読む)、いま2回目なんだけど、読む本がたまってきたので途中で止まっている。2回目を全部読んでから感想を書くことにして、今日は出ていた料理を作ったのでその話。
ゲイのカップルの生活を描いているが主に晩ご飯の話である。弁護士の筧史朗は6時で仕事を切り上げて帰ることにしている。帰りにスーパーで買い物をするのだが細かく値段を検討して今日の献立を決める。料理の過程が細かく書かれていてそのとおりに作ればできる。野菜中心で皿数が多い。
ご飯が出来上がるころに相棒の美容師 矢吹ケンジが帰ってくる。「シロさん、これうまい!」とケンジ。幸せなカップルの晩ご飯風景が楽しい。

この本を教科書に一皿の料理を作ってみた。
いんげんとじゃがいもの煮物(「きのう何食べた?」5巻より)
じゃがいも中4個を4〜5等分してひたひたに水を注いで水から煮る。
湯が沸いてきたら長さを半分に切ったいんげんを1袋分入れる。
(味付けにめんつゆを使っているのをパスして醤油とみりんにした。)
濃いめに味付けして汁気がなくなるまで中火で煮たら出来上がり。

やっていそうでやってなかったじゃがいもといんげんの煮物。さっぱりとしてうまかった。わが家の定番になりそう。

アンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレム『三秒間の死角 上下』(2)

アンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレムの作品を読んだのははじめてなのだが、すでに2004年に「制裁」、2005年に「ボックス21」(2冊ともランダムハウス講談社文庫)、2006年に「死刑囚」(RHブックス・プラス)があり、2007年の未訳の本が1冊あって本書「三秒間の死角」になるシリーズである。

シリーズの主人公はスウェーデンの首都ストックホルム市警のエーヴェルト・グレーンス警部。本書でもしつこい捜査で警察上層部の秘密に迫る。彼と常にやりあっている検察官と今回は連携する。部下の二人の警部補は上司のやり方に慣れているベテランである。

人質をとったホフマンを1503メートル離れた場所から狙撃できる者は警察にはいない。警察の仕事に軍が介入することは許されていないが、法のほうを合わせることで軍の狙撃手に頼む。
現場で狙撃の命令を下すのはグレーンス警部である。警察上部の人間はホフマンの悪人イメージを作りあげた。いまになるとそういう悪人だから殺して当然な雰囲気になっている。グレーンスは狙撃手に命令を下す。

なにかおかしい。すべてすんだ後にグレーンス警部のもとにホフマンから封筒が届く。それを調べたグレーンスは部下のスンドクヴィストをアメリカで研修中のウィルソン潜入捜査担当官に会いに行かす。だんだん闇の中が見えてきた。

登場人物の名前が覚えにくくて、新しくまたは再び三たび出てくるたびに表紙カバーの〈主な登場人物〉を見ながら読み進んだ。
最後がよかった。
(ヘレンハルメ美穂訳 角川文庫 上下とも840円+税)

アンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレム『三秒間の死角 上下』(1)

医師の山田真さんが薦めてくれたスウェーデンのミステリ、アンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレム / ヘレンハルメ美穂訳「三秒間の死角 上下」(角川文庫)の二度目を読み終えた。
山田さんのおかげでヘニング・マンケルのヴァランダー刑事ものと、グレッグ・ルッカのボディーガード アティカス・コディアック+女性私立探偵ブリジット・ローガンものを知った(その上に翻訳者の飯干京子さんまで知り合えた)のだから、足を向けて寝られない。その他にもいろいろ教えていただいたが、好みが微妙に違っていて、最近はこれは久美子さんの好みではないでしょうと書いてあることが多い。おおまかに分けると山田さんは〈快男児〉で、わたしは〈腐女子〉なのである(笑)。
「三秒間の死角」は満点に近いと褒めつつ久美子さんにはどうかなと言われたのだが、好みではないが読み出したら離せなくて夜中になっても読みふけっていた。

いまのスウェーデンの警察の仕組みと警察官たち、警察官と摩擦を起こしながら仕事する若手検察官、そして潜入捜査員の仕事と人生が描かれている。
上部組織の決定で刑務所への潜入捜査が行われることになり、ホフマンが指名される。捜査員の人生が書類上に勝手に作り上げられ、定められた場所で逮捕され、そのときから極悪人として拘留されることになる。そして刑務所内で秘密任務を果たさねばならない。
ホフマンはソフィアと結婚して二人の男の子がいて幸せな家庭生活を送っている。表向きはホフマン・セキュリティ株式会社の経営者である。妻も働いていて子どもは保育所に預けて夕方どちらかが引き取りに行く。妻は彼が警察の仕事をしているのを知らない。

ホフマンを指名した捜査担当官ウィルソンは9年もホフマンを潜入捜査官として使ってきた。今回の指名はホフマンがいままで一度も失敗したことがないからだ。ウィルソンとホフマンの専用携帯電話がある。二人だけにつながっている電話だ。そして二人の間には微妙な友情がある。
話が決まるとホフマンは動き始める。自分は絶対に生きてソフィアのもとへ帰るという決意。自分を守るのは自分だけだ。
彼は図書館に行って人が借りそうにない詩集を5冊借りる。そしてハードカバーの本に細工して返す。
妻に真実を打ち明けて愛していると言い、考え抜いた自分の頼みを告げて彼は出て行く。果たして妻は頼んだことをやってくれるだろうか。

「きみはだれにも頼れない。絶対にそのことを忘れるな」とウィルソンに言われて踏み出す。
指名手配されたホフマンは4人の制服警官に見つかって暴力をふるわれて捕まり、つばを吐いて悪態をつく。ウィルソンは思う。“犯罪者を演じられるのは犯罪者だけだ”
(ヘレンハルメ美穂訳 角川文庫 上下とも840円+税)

スーザン・ヒル『黒衣の女 ある亡霊の物語』(新装版)

先週の「週刊現代」のブックレビュー「特選ミステリー」で関口苑生さんが紹介していたスーザン・ヒルの「丘」が気になった。一冊も読んだことがない作家だし上下あるのが外れたらいややなとアマゾンを開いて考えていた。そしたら1年ちょっと前に出た本書の中古本が目につき、なんと4円+送料250円で手に入った。

解説に著者はヘンリー・ジェイムズ「ねじの回転」とディケンズの「クリスマス・キャロル」を再読しながら書いたとあったが、わたしも「ねじの回転」を思い出しながら読んでいた。その上にエミリー・ブロンテの「嵐が丘」も思い出していた。

昨日の日記に書いたように、シャーロック・ホームズでギネスと料理を前に読み出したのだが、たちまち我を忘れて読みふけった。そして目の前にKさんが座ったときはまだあっちにいて、「こんにちは」でこっちの世界へもどってきたのだった。

弁護士のアーサー・キップスは中年を過ぎてから4人のこどもを持つエズメと結婚して、一目見て気に入って手に入れた〈修道士の館〉と呼ばれる屋敷で幸せに暮らしている。クリスマスイブの夜に子どもたちが集まって賑やかに過ごしているうちに、恐い話をしようと誰ともなく言い出す。ひととおりすんだあと、今度はアーサーだと指名され、だれでも恐い話のひとつくらい知っているはずと言われる。「がっかりさせてすまないがそんな話は知らない」とアーサーは外に出てしまう。
庭に出たアーサーはハムレットの中の詩を思い出し、明日は家族の喜びの日を楽しもう。それがすんだら関係者はみんな死んでしまって自分しかこの恐怖を覚えていない恐い話を書き残そうと決心する。

そして物語がはじまる。
ロンドンの若い弁護士アーサーは雇い主のベントレー氏の言いつけで〈うなぎ沼の館〉へ行くことになる。顧客のドラブロウ夫人が亡くなったので葬儀に参列し遺品の整理をするという仕事だ。
キングス・クロス駅から二度乗り換えて小さな駅で降りると、そこで引き潮になるのを待って土手道を行くと〈うなぎ沼の館〉がある。霧深いロンドンを列車が出るときは気分がよかったがだんだん曇ってくる。
列車にはアーサーの他には一人の紳士が乗っているだけで二人は同じ駅で降りる。
ホテルに泊まるがなんだか怪しい雰囲気である。
子犬のスパイダーを貸してもらっていっしょに行動するところを読むのが救い。
迷っていたが「丘」を買おう。
(河野一郎訳 ハヤカワ文庫 680円+税)

スウェーデンミステリとシナモンロール

おととしの11月の関西翻訳ミステリ読書会の課題本はヘニング・マンケル「殺人者の顔」だった。始まる前に主催者のKさんがシナモンロールを1/4ずつ配ってくれた。この本の中で主人公のヴァランダー刑事がシナモンロールを食べるところがあったそうだ。わたしはそれを全然気がついておらず、その日がシナモンロールという言葉の初聞きで初食べだった。運よく1個残ったのをもらって帰って食べた。うまいやん。スウェーデンで発明されたパンなんだと検索して知った。それからはヴァランダー刑事が食べてたパンということでパン屋を探しまくり。大丸にあるパン屋のがうまくて2店で代わりばんこに買っている。

いま医師の山田真さんが薦めてくれたスウェーデンのミステリ、アンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレム / ヘレンハルメ美穂訳「三秒間の死角」(角川文庫)をもうちょっとで読み終る。そういえばヘニング・マンケルも彼が教えてくれたんだった。
この本では警察官がシナモンロールを食べるところが多い。小さい食堂でご飯を食べて、帰りにシナモンロール4個を袋に入れてもらって会議に参加なんてところもある。

短編小説と長編小説

おとといまでエドワード・D・ホック「サイモン・アークの事件簿 V 」を読んでいた。いま気がついたけど、ミステリーだとわたしは長編小説を読んでるときはストーリーに引っ張られてすごくはや読みだ。反対に短編小説はゆっくり読む。短編だと一編ずつ登場人物名が変わるし場所も犯罪のやりかたも変わる。それをアタマに入れるのに時間がかかり、じっくりと味わうことになる。つまらん小説ではそうはいかないけど、ホックのような老練な作家だとほんまに味わって読む。幸福感がわいてくる。読み終ってももう一度読んで味わいなおす。

そうやって読み終え感想を書き終えて、先日から待っているスウェーデンのミステリ、アンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレム / ヘレンハルメ美穂訳「三秒間の死角」(角川文庫)を昨日から読み出した。おもしろくて手放せないところをガマンして会報作りのかたわら読み進んでいる。それでふっと思った。この文庫は文字が大きいからかもしれないけど早く進んでく。それではじめに書いたようにストーリーに引っ張られたはや読みなのだと気がついた。
そして、これももう一度読むことになる。なぜかというと早読みしすぎてストーリーがわからなかったり、人物がこんがらがったりするから(笑)。
さて、これを早くアップしてコピーとりをしながら本を読もう。