ダーレン・アロノフスキー監督『ブラック・スワン』

初めて見たダーレン・アロノフスキー監督作品。おととい見た『レスラー』(2008)の次の作品が『ブラック・スワン』(2010)と知ってびっくりし、もう一度見ようということになった。かたや年を取り心臓に病気を抱えるレスラーが病をおして試合に出る話。かたや「白鳥の湖」を完璧に踊る生真面目なバレリーナが新しく与えられた役柄の黒鳥を踊りきる物語である。2人とも命を賭けて仕事を全うした。

ニューヨークの一流バレエ団でバレエに全てを捧げているニナ(ナタリー・ポートマン)。バレリーナだったがニナを妊娠したために踊りをやめた母(バーバラ・ハーシー)はいまは画家で、優等生の娘を過剰な愛情で縛っている。
振付師トマ(ヴァンサン・カッセル)はニナの踊りは認めていて白鳥役を与えるが、官能的な黒鳥の踊りが色気が足りないのが不足である。キスをしてきたトマの唇を噛んだニナに彼は積極性を感じて黒鳥を踊らせることにする。
しかし優等生なニナは性的に目覚めていず、代役のリリーの積極的なやりかたに妄想をいだくようになる。リリーが誘いに来てクラブに行き、クスリを入れた酒を飲まされ騒ぐ。帰ろうとするニナをリリーが追ってきてニナの部屋で二人は強烈なセックスに酔うが、これはニナの妄想だった。
リリーは代役として稽古に励んでいるのがニナの気に入らない。
初日がきた。ニナは完璧に『白鳥の湖』を踊りきった。しかし、白鳥の白い衣装から真紅の血が滲み出しニナは気を失っていく。

母親役のバーバラ・ハーシーが素晴らしい表情と演技を見せる。彼女の作品は『ライトスタッフ』『ナチュラル』しか思い出せないんだけど、その2本が素晴らしくて、好きな女優と聞かれると名前をあげる。特に『ライトスタッフ』の彼女が好き。

ダーレン・アロノフスキー監督、ミッキー・ローク主演『レスラー』

『ブラック・スワン』(2010)を見てからアロノフスキー監督にものすごく興味がわいてきた。先日マイケル・チミノ監督が亡くなったときに作品表を見ていたらミッキー・ロークがすごくカッコよかった『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』(1985)があった。そうやった、あのころどんなにミッキー・ロークが好きだったか思い出したらうるうるしてきた。
そして、見たばかりでもう一度見るつもりの『ブラック・スワン』の監督が『レスラー』の監督だと知った。これは見なあかんということで、いま見終わったところである。

ウキペディアによると「1991年にはプロ・ボクサーに転身。ボクサー引退後に再び俳優業に戻った。ボクサー時代の怪我が元で整形手術を受けている。2009年には、整形手術が失敗したとインタビューで語っている。」とある。
ということだが、『レスラー』のレスラーはもう年寄りの部類に入る役柄で、好きになったダンサーとのからみやほったらかしていた娘とのやりとりは、哀愁が漂ってむしろ美しかった。

ミッキー・ローク出演でわたしが見た映画
白いドレスの女(1981)、ダイナー(1982)、ランブルフィッシュ(1983)、イヤー・オブ・ザ・ドラゴン(1985)、ナインハーフ(1986)、エンゼル・ハート(1987)、フランチェスコ(1989)、蘭の女(1989)、バッファロー’66(1998)
こうやって眺めると、わたしの80年代はミッキー・ロークとともにあったのだとわかった。
リリアーナ・カヴァーニ監督の『フランチェスコ』は彼女がミッキー・ロークに惚れ込んで出演を頼んだのだと思う。

映画『ブラック・スワン』を見て思い出したバレエ映画

バレエ映画が好きだ。小学生のときひとまわり上の姉(いまつきあっている姪の母)に連れて行ってもらった『白鳥の死』でバレエに目覚めた。のちに昔の朝日新聞社の何階かにあった朝日会館で二度目を見て、主演の少女ジャニーヌ・シャラという名前を覚えた。彼女はパリで大人のバレリーナになって、自分のバレエ団を率いて日本にやってきて踊った。新聞記事を読んで行きたいと思ったものだ。

『白鳥の死』はパリのオペラ座の話で、二人のうち一人がプリマバレリーナの地位を得る。落とされたほうにはバレエ学校の生徒の熱烈なファンがおり、プリマが練習している床が外れるように細工する。床は外れプリマは大怪我をして一生踊れなくなりバレエ教師として生きることになる。なのに、応援していたバレリーナは結婚して去っていった。
少女は才能を認められるが、自分のしたことがばれるのを恐れて逃げ出す。結局捕まってしまい、自分の罪を白状する。
少女の未来のために最後は許すというストーリー。バレエシーンがすごく美しいのだ。

今日、ダーレン・アロノフスキー監督『ブラック・スワン』を見て『白鳥の死』を思い出した。『白鳥の死』をもう一度見たいものだ。
『赤い靴』は封切りで見て夢中になり何度も見た。レーザーディスクを買ってからは何度見たことか。いまもDVDでときどき見る。
今日見た『ブラック・スワン』を入れてバレエ映画の秀作は3本になった。

ウィリアム・モナハン監督『ロンドン・ブルバード -LAST BODYGUARD-』

アマゾンプライムでタイトルを見つけて、知っているようなタイトルだなあと検索したら好きな作家ケン・ブルーウンが原作だった。うちに本があるかなと探したら『酔いどれに悪人なし』と『酔いどれ故郷に帰る』の2冊(ハヤカワ文庫)が出てきた。『ロンドン・ブルバード』は新潮文庫から刊行されているが多分持っていない。

この映画『ロンドン・ブルバード -LAST BODYGUARD-』(2010 イギリス)は一度見た記憶がある。ところが見ながらそうだったと思い出すのだが、その先までは覚えていない。最後のシーンだって、ああこうやって死んでいくんだったと思い出した。いい映画なんだけど深さが足りない感じ、と自分の記憶力退化を映画のせいにしている。

ミッチェル(コリン・ファレル)は傷害罪で3年間服役して出所した。もう裏社会にはもどらないつもりで職を探そうと思っていると、偶然、女優のペニー(キーラ・ナイトレイ)のボディガードを引き受けることになる。ペニーはパパラッチの追いかけに悩まされていて、家から外に出られない。ミッチェルはできるだけのことをして彼女を守る。そんな清潔に生きようとするミッチェルをギャングのボスはしつこく自分の下で働くように勧誘する。
きちんとした服装でしっかりと仕事をするミッチェルにペニーは惹かれる。
最後はなんとなんと・・・こんな最後を迎えるなんて・・・映画の話だけど悲しくなった。

コリン・ファレルはアイルランド出身の太い眉毛が特徴の男前。Tシャツやスエット姿もいいし、スーツを着てもよし。

エリア・カザン監督『ラスト・タイクーン』

1940年に亡くなったスコット・フィッツジェラルド最後の未完の小説『ラスト・タイクーン』の映画化(1976)で、エリア・カザン最後の監督作品である。日本では長い間ソフト化されていなかったが、21世紀になってからDVDが発売されたとウィキペディアにあった。タイトルも知らなかったし、エリア・カザンへの関心をなくしていた。1952年の赤狩りに協力してリリアン・ヘルマン、ダシール・ハメットその他の名前を出した人だから。

豪華出演者たちに惹かれて見た。
登場人物がすごい。まず白黒映画のラブシーンからはじまるのだが、そのカップルがジャンヌ・モローとトニー・カーティスなのだ。ジャンヌ・モローの人気女優ぶりがすごい。そのシーンを写真で見たから全体を見る気が起こった。
主演の映画プロデューサーがロバート・デ・ニーロで、ジャック・ニコルソン、ロバート・ミッチャム、レイ・ミランドと男性たちが熱演。当時の男たちのスーツ姿がきりっとしてていい。
女優はどの役かわからなかったが、名前を知っている人はテレサ・ラッセル、アンジェリカ・ヒューストンなど素敵なドレス姿が美しい。デ・ニーロの恋人は野暮ったくてもひとつだった。
ロバート・デ・ニーロはほっそりとして神経質で、きりきりと仕事をしているが、女性に向いて笑うと人の良さが出てよかった。
デ・ニーロとジャック・ニコルソンは殴り合いあり卓球もするし楽しく共演してた。

監督・脚本ジョエル・ホプキンス『新しい人生のはじめかた』

ダスティン・ホフマンを久しぶりに見た。『卒業』は1967年、『真夜中のカーボーイ』は69年である。79年に『クレーマー、クレーマー』。それ以来なにか見たと思うけど記憶に残ってない。
最初に地味な姿でピアノを弾いているのを見て、一目で老けたなあって叫んだけど、お互いさまだ(笑)。

ウィキペディアに映画の成り立ちが出ていた。
監督・脚本のジョエル・ホプキンスはイギリスの独立系映画監督で、子ども用映画の監督候補にあがったときに同映画の脚本家で女優のエマ・トンプソンと出会った。ブロードウェイでダスティン・ホフマンとエマが舞台で共演しているのを見て、二人を生かした脚本を書くことにした。

ハーヴェイ(ダスティン・ホフマン)はニューヨークでテレビコマーシャルの音楽をやっているんだけど、古臭いと思われておろされそう。再婚した妻と娘がロンドンにいる。娘の結婚式なので行くことにするが仕事が気になって電話ばかり。
ロンドンに着くと、自分一人だけ安ホテルが用意されていて、娘はバージンロードをいっしょに歩くのは継父にするという。
ケイト(エマ・トンプソン)は40歳過ぎた独身女性で空港で働いて、仕事帰りに小説の講習会に参加している。偶然出会って次は空港のラウンジで出会って意気投合したふたり。なんやかやとあって結婚披露宴に一緒に行って祝福したので娘も喜ぶ。
ハーヴェイはロンドンで暮らそうと決心する。そこへ仕事の電話がかかるが断る。

ダスティン・ホフマンは初老の音楽家を楽しく演じていた。エマ・トンプソンは演技力の深さがにじみ出る好演。最後は靴を脱いで寄り添って歩くところがよし。
テムズ川が美しいロンドンのおとぎ話。

ウディ・アレン監督『ミッドナイト・イン・パリ』

ウディ・アレン監督の2011年の映画。ファンだと思ってたわりに見ていないのに気がついた。
見た映画は『ボギー!俺も男だ』『アニー・ホール』『インテリア』『マンハッタン』『ハンナとその姉妹』『ブルージャスミン』。

ハリウッドの脚本家ギル(オーウェン・ウィルソン)とイネズ(レイチェル・マクアダムス)はこれから結婚すると決まっているカップルで、大金持ちのイネズの両親といっしょにパリ旅行を楽しんでいる。イネズの友だちカップルと出会って行動を共にするが、ギルは親にも友人たちにも打ち解けない。彼の野心は脚本書きをやめて作家になることで書きかけの原稿を持っている。毎日4人で遊んで飲んで楽しんでいるが、ギルは小説を書くことを第一にしているので食い違う。

ある夜、ワインに酔ったギルは一人で深夜のパリを歩き疲れて道端に立つと古いプジョーが走ってきてギルを乗せる。
最初の行き先はジャン・コクトーの家だった。そして何度かのプジョー待ちで出会った人たちは、コール・ポーター、ゼルダ & スコット・フィッツランド、ヘミングウェイ、ガートルード・スタイン、ピカソ、ダリ、マン・レイ、ルイス・ブニュエル、ロートレック、ゴーギャン、ドガ と多彩。1920年ごろ。
時代にあったそれらしい会話がはずむ。ガートルード・スタイン(キャシー・ベイツ)に原稿を読んでもらったり、ヘミングウェイに小説を書くことについて忠告されるのがおもしろかった。

ただひとり架空の人物アドリアナ(マリオン・コティヤール)。ギルとつきあっているうちにもっと前の時代1900年ごろに生きたいといい、実際にいってしまう。シルクのドレスがからだにまとわり揺れて美しい。
最後にパリは雨がいいのと濡れながら歩き出すレア・セイドゥの雰囲気がパリって感じだった。

製作・監督・脚本ウェス・アンダーソン『グランド・ブダペスト・ホテル』

今夜は映画を見たいねと探したらおしゃれなタイトルが見つかった。『グランド・ブダペスト・ホテル』(2014 ドイツ、イギリス合作)ウェス・アンダーソン監督作品を見るのははじめて。
タイトルにシュテファン・ツヴァイクの名前を見たので期待した。ツヴァイクはずっと昔に家にあった本で読んだことがある。ずっと前すぎて作家の名前だけしか記憶に残っていないが、父親が大切にしていた本だ。お前にはまだ早いと言われたっけ。

最初に美しい山々を背景にしたグランド・ブダペスト・ホテルの全景が映し出される。(ヨーロッパ大陸の東端にあるという仮想の国ズブロフカ共和国が物語の舞台)夢のようにおしゃれな建物にすぐに物語に引き込まれた。1930年代、1960年代、そして現代の3世代のドラマ。
コンシェルジュのグスタヴ・H(レイフ・ファインズ)は徹底した接客の巧さで人気がある。ご婦人方の夜の相手もする。
お気に入りのベルボーイのゼロを仕込んで一人前にしようと教育し、どこにでも連れて歩く。ゼロがまた気の利く子で敏捷に仕事をこなす。
お得意さまの伯爵夫人が殺されたと聞き2人は列車で出発。タクシーで長時間かかって伯爵家に到着する。遺言で高価な絵画を贈られたグスタヴ・Hは遺族から容疑者として疑われ逃げ出す。

スピーディに物語は展開し、ユーモアたっぷりに進展していく。最初と最後に出てくる作家が心に残った。もう一度見てしっかり味わいたい。

ジュリアン・ムーア主演、スコット・マクギーとデイヴィッド・シーゲル監督『メイジーの瞳』

ちょっと重い東映 藤純子作品をおいて楽しそうな洋画を見ようと探した。ジュリアン・ムーアならいうことなし。タイトルどおりに可憐なメイジーの瞳に魅せられた。2013年のアメリカ映画。
母親のスザンナ(ジュリアン・ムーア)はロック歌手で、父親は美術品のディーラーだが離婚。メイジー(オナタ・アプリール)は10日ごとに二人の家に住むことになる。父親は出張が多く元ベビーシッターのマーゴにメイジーの世話を押しつける。スザンナはバーテンのリンカーンと結婚するが、娘の世話はリンカーンにまかせきり。それでもこどもを愛していると抱きしめる。なにをしてもここに止めることができないのをわかってツアーに出る母を見送る娘の瞳が悲しい。

ニューヨークの小学校の授業の様子やこどもたちの行動が描かれていて微笑ましい。メイジーの表情やしぐさが愛らしく、服やアクセサリーが素敵。こども部屋のインテリアはわたしが真似したい(笑)。
海辺の売り家をマーゴがツテで借り、二人で海辺で遊んでいてボートに乗りたいと話しているところへリンカーンがやってくる。明日は3人でボートだ! 夜中にツアーのバスがやってきてスザンナがいっしょに行こうというが、娘は明日は3人でボートに乗るといってがんばる。
マーゴとリンカーンが出てきて遠くから母娘を見ている。母はツアーに戻っていった。

悪いひとが出てこないけど自分勝手なひとは出てきて話がややこしくなるが、しっかり者の6歳の娘の自己主張がとおって気持ちよく物語が終わる。
トシがいってちょっと落ち目の歌手という役のジュリアン・ムーア。娘の自己主張に負けて引き、そして面倒を見る二人への敗北感と信頼もある演技力がすごい。

ルイス・ブニュエル監督『昼顔』のピエール・クレマンティ

1週間ほど前からMac miniにつないでいるスピーカの調子が悪い。長いこと使ってるから新しいのを買おう。それまでまあええやんと音無しで使っていた。ツイッターで「イイネ」しておいて音が出たらまとめてyoutubeを見よう。
今日届いたのでさっそくつないでもらった。おもしろいかたちの小さな白いスピーカ。机にもmacにも合う。

さてyoutube見ましょ。
『キャロル』のケイト・ブランシェットとルーニー・マーラ(テレーズ)の声が聞こえるのが何本も(笑)。
それからこれを見たかった、ルイス・ブニュエル監督の『昼顔』の予告編ぽいの。はじまったら予告編ではなくて映画の最初のほう10分間くらいだった。
1967年のフランス・イタリア合作映画、原作:ジョゼフ・ケッセル。主人公の人妻セヴリーヌにカトリーヌ・ドヌーブが扮してすごい魅力。
でも今日見て大喜びしたのは、客のヤクザな男をやっているピエール・クレマンティに再会できたこと。67年に北野シネマで見て以来だ。昔見たときのぐれかたがよかったけど、今日もうなった。