シェーン・メドウス監督『THIS IS ENGLAND』

なんの予備知識もなくTさんに貸していただいたDVDから選んだのは、ものすごく真面目なイギリス映画だった。シェーン・メドウス監督の「THIS IS ENGLAND」(2006)。監督が少年時代の実体験をもとにした作品だそうだ。サッチャー政権下の1983年のイングランド中部に住む少年ショーンを中心にイギリスの労働者階級の現状を描いている。

ショーンは父親をフォークランド紛争で亡くし母と二人暮らし。学校ではいじめらて疎外感を味わっている。学校の帰りに知り合ったスキンヘッズのグループに関心をもたれて彼らの仲間になる。服装がださいので、まず母に靴をねだるが、ドクター・マーチンの赤いブーツは大き過ぎる。しかたなくよく似た黒い靴にする。グループリーダーのウディの彼女ロルがチェックのシャツとGパンとサスペンダーを整えてくれ、髪も刈ってくれた。そして不良らしく遊び歩いているところへ、刑務所からもどったコンボが子分たちとやってくる。コンボは国粋主義者で移民排斥を唱え、ウディのグループから何人か引き連れて行く。ショーンはコンボに立ち向かうが、反対にコンボに惹き付けられる。
そしてコンボについてナショナルフロント(英国国民戦線)の一員となり、パキスタン人の子どもたちの遊びを妨害し、食料品店では店主を脅し商品を略奪する。
コンボは刑務所に入る前に一晩つきあったロルに気持ちを打ち明けるが、さっぱり拒否される。そのあと大荒れし仲間に暴力をふるいショーンにも当たりちらす。

ショーンは家に帰り母親と父のことをしみじみと話す。
最初のほうで一人歩いていた荒れた海辺の廃船のところまできて、カバンから出したのはナショナルフロントの旗。海辺で旗をまるめて力いっぱい投げる。旗は海に吸い込まれた。
いい曲が聞こえてきたと思ったらザ・スミスの曲だそうだ。最後のところをもう一度見なくては。

「リトル・ダンサー」の少年がすごかったが、「THIS IS ENGLAND」のショーンをやった少年もすごい。そういえば同じ時代の労働者階級の少年だ。

ダグ・リーマン監督『オール・ユー・ニード・イズ・キル』

トム・クルーズの最新の映画。テレビの予告も新聞広告も見ないし、ネットも気にしてなかったからほんまに初体験。わあわあと圧倒されて見入ってしまった。
桜坂洋によるライトノベル「All You Need Is Kill」の映画化というのもはじめて知った。

【近未来。地球は「ギタイ(Mimics)」と呼ばれる宇宙からの侵略者により、滅亡の危機に晒されていた。】という背景があって、トム・クルーズ扮するケイジ少佐が登場する。ロンドンの中枢部で将軍に面会したケイジは報道官という立場を乱用したのをとがめられ、歩兵として最前線にとばされてしまう。
最前線でギタイ殲滅作戦に出陣したものの次々に隊員はやられていき、英雄のリタも戦死する。死んだはずのケイジは出撃前の自分にもどって目が覚める。

最初はわけがわからず見ていたがわけがわかってくるとほんまにおもしろい。わけがわからなかったときもおもしろかったけど(笑)。
最後のトムのニッコリは何度見てもいい。「トップガン」の笑顔を思い出した。

ピーター・ジャクソン監督・製作・共同脚本「ホビット 竜に奪われた王国」

去年の8月に1作目の「ホビット 思いがけない冒険」を、今回もまたご厚意に甘えて見せてもらった。
【邪悪なドラゴンにスマウグに王国エレボールを奪われたドワーフの王子トーリンはスマウグを退治し、王国を奪い返そうと13人の仲間と、灰色の魔術師ガンダルフ、そしてホビットのビルボ・バギンズらとエレボールを目指して旅を続けている。】(ウキペディアより)という物語。
今回も長くて161分あった。竜との戦いのシーンがちょっと、いやかなり長かったが、ぎくっとするおそろしい場面が何度かあって、退屈しないようにできている。最初のほうででっかい毒蜘蛛がいっぱい出てくるところで「ああっ!」と叫んでしまったし(笑)。

旅の途中で出会うエルフの王子レゴラス(オーランド・ブルーム)、その妹で闇の森の守備隊長タウリエル(エヴァンジェリン・リリー)と二人とも美しくて強い。ドワーフのキーリが毒矢で負傷して旅を続けられなくなって寝ているところへ、タウリエルが薬草を持って行き呪文を唱えて治す。タウリエルは兄が来いと言っているのに逆らって残ったから、兄は苦戦する。

ビルボ(マーティン・フリーマン)は出演場面は多いがちょっと地味な印象、ガンダルフ(イアン・マッケラン)の出番が少なかったのがちょっと残念。
1作目を受けて3作目につなぐ役目の2作目という感じ。風景が美しくて大画面で見たらさぞ雄大だろうと思いました。3作目「ホビット 決戦のゆくえ」が待ち遠しい。

 

オードリー・ウェルズ監督・脚本『トスカーナの休日』

今日もばたばたと過ごした。すこし落ち着きたい、心温まる映画が見たい、と思って選んだが、もし大甘の映画だったらどないしょう。解説読んだらなんかよさそう。アメリカのベストセラー小説を女性監督オードリー・ウェルズが監督したもの。ウィスキーとパンとチーズ、オリーブも用意して楽しむ姿勢をとって見た。

作家で厳しい批評で知られるフランシス(ダイアン・レイン)はある日突然夫から離婚を迫られ家を出る。レズビアンの友人パティは妊娠中で取りやめたゲイ仲間とのツアーを譲ってくれる。楽しいイタリア旅行中にフランシスは築300年の家を衝動買いし、イタリア トスカーナに住むことにする。
古い建物の修繕をするのは親切な不動産屋が紹介してくれたポーランド人の労働者一家で、話しているうちに彼らが知識階級出身であることがわかる。
明るく楽観的にふるまっているが、孤独に悩まされる。うまく知り合った男前の男性といい仲になるのにパティがやってきたためにデートを断る。パティの出産を手伝ったりして、日にちが開いたせいで男には他に女性がいるのがわかりサヨナラ。散歩で出会った子猫は連れて帰っている。
失意のフランシスだが、仲を取り持ったポーランドの若者と地元の少女との結婚パーティをわが家の庭で開く。
パーティの場のフランシスのところに若いアメリカ人がやってきて、以前自分が書いた作品をフランシスに辛口批評されたと言う。その的を得た批判のおかげで前に進めたと言った彼と、その後は楽しく暮らすようになった。めでたしめでたし。

いかにもイタリア的な大胆な美貌の女性の存在がフランシスの生き方に影響を与える。
最後のほうでトレビの泉にドレスのまま入って水と戯れるシーンは、フェデリコ・フェリーニ監督の「甘い生活」のアニタ・エクバーグそのまま。フランシスに背中を押されて泉に入って行く紳士はマルチェロ・マストロヤンニそのまま。

オリヴァー・ヒルシュビーゲル監督『インベージョン』

原作はジャック・フィニイのSF小説「盗まれた街」で、2007年に4回目の映画化されたもの。
フィニイの名前は昔から知っているが本は読んだことがない。もしかしたら「レベル3(異色作家短編集)」を買った覚えがあるので読んだかもしれない。

ニコール・キッドマンがワシントンに住む精神分析医キャロル役、すごくきれいで真面目で、ちょっとゾンビっぽい映画の品格を高めている。夫と別れて小学生の息子と二人暮らし。ハローウィンの日でスーパーマンの衣装で登校する息子を見送るという楽しくきちんとした日常生活を送っている。パーティでは美しく装って知的な会話で周りの人たちを魅了する。

そのころ原因不明のスペースシャトル墜落事故が発生。空中分解したシャトルの破片が地球の各地に落ちてくる。破片についたウィルスが世界中になぞの感染症を引き起こす。周りの親しい人たちも感染していく。
別れた夫との面会日に息子を行かしたのが心配になり会いに行くと、夫はすでに感染していてキャロルもその毒を浴びる。眠ったら最後、発病するのがわかっているので、眠らないように頑張る。息子は小さいときにかかった感染症で免疫ができていて眠っても発病しなかった。
恋人の医師ベン(ダニエル・クレイグ)とともに街を脱出したが、あとで会おうと別行動になり、待っている間に追われたり襲われたり危機一髪が続く。

「インベージョン」はいま現在見るのにもっともふさわしい映画だと実感した。ニコール・キッドマンがウィルスの恐怖と闘っている姿を見ながら、エボラ出血熱の恐怖を実感していた。

マーク・ロマネク監督・カズオ・イシグロ原作『わたしを離さないで』

翻訳が出始めたときから大好きでかなり読んでいるカズオ・イシグロだけど、「わたしを離さないで」(2005)は途中までしか読めず置いてある。
いま映画「わたしを離さないで」(2010 イギリス)を見終えて、現代SF小説の映画化だとわかった。

クローン技術で生まれた子どもたちが70年代のイギリスの田舎の広い屋敷に隔離され集団で生活させられている。彼らは注意深く教育され、一定の年齢に達すると臓器提供可能者としてコテージで過ごし、臓器が必要とされるときに病院へ送られる。
臓器の提供は3回ほどで【終了】となる。介護士は【提供】をはじめた者を介護するので、少しだけ余分に生きられるが、やがては【提供】する者になる。

ゆっくりした寄宿舎生活だけど悲劇的な雰囲気がただよう。真実を教えようとする新しい教師がすぐに辞めさせられる。
キャシーはちょっとはぐれっ子のトミーに関心を持っているが、友だちのルースがトミーと仲良くなる。

大人になったキャシー(キャリー・マリガン)は介護士になってルース(キーラ・ナイトレイ)の介護を担当している。ルースはトミー(アンドリュー・ガーフィールド)と仲良くなったのはキャシーとトミーの間を嫉妬したからだと言って、償いをしたいという。連絡するとトミーはすでに2回【提供】していたが元気だった。
愛し合っている者どうしなら提供猶予されるという規則があるとルースに聞いて、キャシーとトミーは当時の校長(シャーロット・ランプリング)に会いに行く。校長はそれは噂に過ぎないと否定する。
その後、トミーは3回目の【提供】で【終了】した。それからすぐにキャシーに提供開始の知らせがきた。

クリストファー・ノーラン製作、ザック・スナイダー監督『マン・オブ・スティール』

昨夜もお金に糸目をつけない超大作を見て圧倒されたが、今夜も上映当時話題になったスーパーマンを描いた映画「マン・オブ・スティール」を見てしまった。2013年の製作で日本でも8月に公開されている。やることがいっぱいあるのに二人揃って大作映画を見たい病気にかかってしまった。

「スーパーマン」は昔から自然に知っていたが、アメリカの小説を読んだら出てくるからかな。マンガを知ったのはいつのことだろう。マンガの映画を見た記憶はない。映画の「スーパーマン」はテレビ放映で見たことがある。もしかして連続テレビドラマを見たのだろうか。なにかあるとクラーク・ケントが公衆電話でSの字がついた制服に着替えて空へ飛ぶのだった。

「マン・オブ・スティール」は重厚な作品に仕上がっていた。
父親(ラッセル・クロウ)が滅びゆく惑星クラプトンから、生まれたばかりのわが子を宇宙船に乗せて地球へと送り出す。ラッセル・クロウが重厚な演技を見せる。
農地で赤ん坊を乗せた宇宙船を発見したカンザスの農民(ケヴィン・コスナー)と妻(ダイアン・レイン)は息子として大切に育ててくれ、クラーク・ケント=スーパーマン(ヘンリー・カヴィル)は成長する。父は息子の能力を知って、他人には能力を隠して暮らすようにしつける。そのために息子が助けに行けば助けられるシーンだったのに、自分が走って命を落とす。カンザスだから竜巻だ。
新聞記者のロイス・レイン(エイミー・アダムス)がよかった。いままでのスーパーマンのときと立場は同じでも、いまの時代のロイスだ。
スーパーマン(ヘンリー・カヴィル)はオトコマエで好み。イギリス人だって。

ローランド・エメリッヒ監督・脚本・製作総指揮『2012』

予備知識なしで見はじめたらすごい大掛かりな映画でびっくりした。「2012」(2009)はマヤ文明の予言による世界の終焉を映画化した作品だった。ローランド・エメリッヒという名前は知っていた。フィルモグラフィを読んでいたらけっこうテレビで見ているのに気がついた。
※テレビを捨ててからテレビ放映に縁がなくなったし映画情報はメルマガとツイッターになってしまった。

おもしろい映画なんだけど、これでもかこれでもかとクライマックスがあって疲れた。最後の予想はつくけど、それまでにまだあるのかと驚かせてくれて、またそれにのってほいほいと見てしまった。上映時間158分。

大作に向いてないように思えるジョン・キューザックが主役。わたしは「すてきな片想い」(1984)で彼を好きになった。汚いTシャツの上によれよれのレインコートをひっかけた姿がよくて真似したくらい。30年も前のことだけど(笑)。「グリフターズ/詐欺師たち」もよかった。主な出演作品の表を見たらテレビでが多いがたくさん見ている。どれも〈好いたらしい男〉である。
「2012」でも家族を愛する売れないSF作家でリムジンの運転手をしいている。妻と娘と息子とともに災厄に立ち向かう。勇気あるいい人の役を自然にやっててやっぱりステキ。

ケヴィン・レイノルズ監督・リドリー・スコット製作『トリスタンとイゾルデ あの日に誓う物語』

久しぶりに映画を見ようということになったが、秋だしSF映画や暴力ものはやめよう、軽くない恋愛映画はないかなと探した。リドリー・スコット製作で「トリスタンとイゾルデ」があったはず。そのうち見ようと言っててまだ見てなかった。

「トリスタンとイゾルデ」の物語は有名だし本もいろいろ出ている。わたしの持っているのはローズマリー・サトクリフの「トリスタンとイズー」(1971年 井辻朱美訳 沖積舎 )。何度も読んで大切にしている。
こういう古典という感じの映画だと思って見たら大間違いで、活劇シーンが多くて恋愛映画と言い切れないのが残念だ。
そして媚薬が出てこないのもちょっとがっかりだった。傷口に薬は塗ってあげてたけど。媚薬がなくても、二人は宿命的な恋に落ちたからそれでいいのか。

トリスタンをやってるジェームズ・フランコがすごく端正な美男子でよかったし、ソフィア・マイルズのイゾルデも気品があった。

アレハンドロ・アメナーバル監督・脚本・音楽・製作『海を飛ぶ夢』

実在の人物ラモン・サンペドロの手記「地獄からの手紙」(1996)をもとにした映画(2004)で、全身不随の主人公が尊厳死を求めて闘う姿を描いている。

ノルウェー船の船員だったラモン(ハビエル・バルデム)は25歳のとき事故で首から下が不随となった。それ以来、父と兄夫婦とその息子の世話になって25年にわたり寝たきり生活をしてきた。自分自身で死ぬこともできず尊厳死を望むだけの毎日。
尊厳死団体のジェネが弁護士のフリア(ベレン・ルエダ)を紹介する。フリアは杖をつきながらも住み込んでラモンに接し、彼が文章や詩を書いているのを知る。口に咥えた棒で操作するパソコンと甥の協力で清書やプリントアウトしたものを嫂が大切に保管してあった。フリアは読むなり感動し本にしようと勧める。
ふたりは話したり仕事したりしていて、フリアがタバコを吸うとラモンが一服吸わせてくれと頼む。なんとも言えない色気があふれるシーン。
ラモンがそろそろと立ち上がり窓辺へ行く、それから海へ飛ぶ。ラモンとフリアは海辺で抱き合う。

フリアはラモンの家の階段で倒れる。実は大病を患っていて最終的には痴呆症になるとわかる。彼女はラモンの尊厳死に協力すること、自分も尊厳死の道を選ぶことを決心し、実行はラモンの本を出版したときと約束する。

フリア役のベレン・ルエダがすごく美しくて彼女を見ただけで満足だった。目尻に皺もあるのだけど上品な昔のハリウッド女優のような。

アレハンドロ・アメナーバル監督の作品は「オープン・ユア・アイズ」とショートフィルム「ルナ 月は見ていた」だけしか見ていない。もっと見たい。