マイケル・ウィンターボトム/マット・ホワイトクロス監督『グアンタナモ、僕達が見た真実』

この映画「グアンタナモ、僕達が見た真実」(2006)こそ見なければいけない映画なのに、なかなか見る気が起こらなかった。厳しい内容だろうなと思うとついおっくうになり、恋愛ものとかにいってしまう。恋愛映画だって人生について考えさせてくれるけど。
わたし的には、いまこそ見なければのとき。

DVDについていた監督インタビューでは若いマット・ホワイトクロス監督が答えていた。3人の本人たちと3人の主役とともに過ごして映画作りをしたそうだ。
次に本人たち2人のインタビューになった。映画の彼らとそっくりだ。こもごもあってはならなかったグアンタナモの経験について語った。最後に日本のみなさんも闘ってほしいと言われた。いま大阪では瓦礫焼却に反対の運動をしたひとたちが長く拘束されている。

アシフはイギリスのバーミンガムに住むパキスタン系イギリス人。結婚のために郷里のパキスタンに向かい、結婚を決めてイギリスにいる友人3人を結婚式に招待する。パキスタンでは従兄弟も加わり楽しく遊んでいたが、モスクへ行ったとき、導師がアメリカ軍の侵攻でアフガニスタンが混乱していると語るのを聞いて、なにか手伝おうと行くことにする。アフガニスタン行きのバスに乗ると思わぬところに着き、アメリカからの空爆や攻撃に逃げまどう。
アフガニスタンの捕虜収容所に拘留された彼らはアメリカ軍にテロリストと決めつけられ、キューバにあるグアンタナモ捕虜収容所に連れて行かれる。アフガニスタンでの拷問もすごかったが、ここでの拷問は想像を絶する。肉体の限界に迫る拘束、暴力、拷問を耐えるが、最後の最後にひどい拘束と音の暴力を受け、誘導尋問にうなづいてしまう。皮肉なことにアシフはその事件のときはイギリスで他の事件で捕まっていたためアリバイがあり助かった。
耐え続けた3人はイギリスにもどり、アシフは改めて結婚する。いっしょに行ったあと1人は行方不明のままだ。

ニール・ジョーダン監督『ことの終わり』

ニール・ジョーダン監督「プルートで朝食を」を貸してくださったT氏によかったとお礼のメールをしたら、同じ監督の「ことの終わり」(1999)もいいとのことで、今夜も映画鑑賞した。
タイトルに原作がグレアム・グリーンとあったので、ひとしお興味がわく。途中で、これって「情事の終わり」やなとわかった。昔、デボラ・カー主演の「情事の終わり」(1955)を見たことがあり、小説も読んだ。その映画でカトリックや宗教の厳しさをはじめて知ったような気がする。先日、イーヴリン・ウォー「回想のブライズヘッド」を読んだとき、解説にグレアム・グリーンと同世代とあったので、懐旧の念がわいていた。そしたら今日この映画。

第二次大戦下のロンドンで作家のモーリス(レイフ・ファインズ)は高級官僚ヘンリーのパーティでヘンリーの妻サラ(ジュリアン・ムーア)と出会い愛し合う。
ロンドンはドイツ軍の空襲が続いている。ふたりが逢い引きしているときに大爆撃があり、廊下に出ていたモーリスははねとばされて吹き抜けに落下、サラが探すとすでに死んでいた。死んでいたとサラは思った。サラは神に助けを求めモーリスが生き返ればもう会わないと神に誓う。そこへ怪我をしたモーリスが戻ってきた。

いかにもイギリス紳士らしいヘンリーとちょっと不良っぽいモーリスと、薄幸な感じがただよう人妻サラの不倫と。サラの不倫を調査するために雇われた私立探偵親子の尾行が物語を広げている。
ロンドンは雨降りばかり。ヘンリーはいつも傘を持たずに夜の散歩をしている。帽子と厚いコートで雨よけになるんやなとつまらんことに感心した。
ジュリアン・ムーアは儚い美しさがいい。「めぐりあう時間たち」の彼女が大好き。
いまアマゾンで「情事の終わり」の中古文庫本を見つけて注文した。

ニール・ジョーダン監督『プルートで朝食を』

「久しぶりに見た」が口癖になってしまっているが、ニール・ジョーダン監督の映画も久しぶりだ。「狼の血族」が大好きでレーザーディスクを持っている。「モナ・リザ」もよかった。「クライング・ゲーム」は期待して行ったのにもひとつだった。まわりの評判も映画評もすごくよかったんだけど。「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」はトム・クルーズとブラッド・ピットを見に行った。
それでT氏にまとめて貸していただいたニール・ジョーダン監督の分を見るのが遅くなったってわけ。今夜の「プルートで朝食を」(2005)がよかったからこれから続けて見るかも。

パトリック・マッケイブの原作を映画化とあるが本の翻訳は出ていないようだ。
70年代のアイルランド独立運動を暴力的に弾圧したイギリスに対して、IRAが各地で爆弾テロを起こしていた時代。北アイルランドに近いタイリーリンの町のカトリックの神父(リーアム・ニーソン)と家政婦の間にパトリック(キリアン・マーフィー)は生まれた。母は神父の家の前に赤ん坊を置き去りにしてロンドンへ行ってしまう。養子に出されたパトリックは美しく育ち女装を好む少年になる。
母を探そうと家出してロンドンに向かう途中でいろいろなひとに出会う。IRAの武器庫になっている家に住むことになって、武器を捨てたことで撃たれそうになったり、行きずりの男に首を絞められそうになったり。車に乗せてくれた男があとで知ったがブライアン・フェリー!
ロンドンのクラブで爆弾テロがありテロリストに間違われて逮捕され、拘置所暮らしが気に入ってしまう。尋問した警察官に出るのがいやだ、ここに置いてくれと迫るが、放り出される。
でも、その警官がパトリックにあった働き場所を世話してくれるのだ。
母や弟にもさりげなく出会い、父とは歩み寄り、これからまだまだ多難な人生をにっこりしながら生きていこうとする。

IRAやテロのことがひとりの女装男性が行く人生をとおして語られる。
キリアン・マーフィーが美しすぎる。
ブライアン・フェリーのロキシー・ミュージックを80年代にフェスティバルホールで見たときは美しかったなあ。

アラン・パーカー監督『ザ・コミットメンツ』

先日見たアラン・パーカー監督の「ライフ・オブ・デビッド・ゲイル」が重かったので、今夜はよく知っている「ザ・コミットメンツ」(1991)を見ることにした。映画館で見てからビデオを買ったのを何度も見たが、もういいかなとひとにあげてそれ以来見ていなかった。

アイルランドのダブリン、親の家にいて失業保険をもらっているジミーは、自分がマネージャーになってソウルミュージックのバンドをつくろうと企てる。「アイルランド人はヨーロッパ人の中で黒人である。そしてダブリンの若者は黒人の中の黒人だ。黒人の音楽ソウルミュージックをやるバンドをつくろう」。
新聞に広告を出すといろんな連中がやってくる。あまりのひどさに呆れるが、ダブリンっ子って音楽が聞くのも好きだが、やるのも好きなのね。
メインボーカル役のデコの迫力がすごい。フィッシュ&チップスの売り子も3人娘のひとりに決める。いろんな有名ミュージシャンとやってきたと話す初老のトランぺッターのジョーイも加入。彼は3人娘さんそれぞれと関係をもつすごいやつ。教会でピアノを弾いている医学生も加入。神父さんも音楽好きで、懺悔をする彼の間違いを指摘するところは笑えた。
こんなメンバーだから練習中も演奏中も諍いが絶えない。演奏後の喧嘩はもっと派手である。音楽はだんだんよくなっていき人気もあがり、新聞記者がインタビューにくる。

U2とシンニード・オコナーに次ぐと言われたアイルランドの新バンド、ザ・コミットメンツは分裂して終わり、それぞれのメンバーは自分の道を探る。バンドが世に出る成功物語でないところがいい。

マイケル・ウィンターボトム監督『I WANT YOU あなたが欲しい』

1998年の映画なんだけどいま現在見て圧倒された。
自分なりにストーリー書くけど、誤解しているところがあるかも。
イギリスの海辺の町。砂浜には廃船がたくさんあってかつての繁栄をしのばせる。すこし離れると海に向かってしゃれた家が建ち並ぶ。
仮出所したマーティンが海辺の町へもどってきた。ヘレン(レイチェル・ワイズ)の家で23歳のマーティンは14歳のヘレンとの仲をなじった父を殺してしまう。それから9年経ったいま、ヘレンは自分の美容院で仕事している。
海のほうへ走りに走る少年ホンダ、自転車のヘレンと衝突して、彼女が落としていったブレスレットを拾う。彼は母の自殺以来口を利かなくなった。東欧からの難民で姉のスモーキーとふたりで暮らしている。
ブレスレットを渡しに行きヘレンに惹かれたホンダは、ストーカーのように彼女の姿を追って盗聴を続ける。
マーティンはヘレンに迫りセックスするが、ヘレンは警察に訴え、マーティンは保護司にバカなことをしたとなじられる。これであと5年拘束されることになる。マーティンはまたもヘレンの家に行くと、ヘレンとホンダがいて・・・

映像が斬新でよかった。クラブのシーンもあって楽しめた。音楽もすごくよかった。
映画は進んでる。見ていない間に取り残されているのを痛感した。追いかけなくちゃ。

アラン・パーカー監督『ライフ・オブ・デビッド・ゲイル』

アラン・パーカーの映画は何本か見ているがかなり忘却の彼方にいっている。「ザ・コミットメンツ」は大好きな作品だが、ビデオを買ったのに神戸のボランティアの知り合いにあげてしまった。それで縁が切れていたが今回また縁がつながった。T氏にお借りしたDVDをいま見終わって興奮中。

デビッド・ゲイル(ケヴィン・スペイシー)は大学教授で物語はきびきびとした授業ぶりのシーンからはじまる。遅刻してきた女子学生にすげない態度をとる。家に帰ると妻は旅行中なので息子の相手をし、それから遊び場へ出かける。酔ってきたとき、授業に遅刻した女子学生が現れて性行為をせまり、最初は断っていたのにはまってしまう。激しい行為を要求され応えたのが、学校や世間にはレイプとして扱われ、仕事も家庭も失う。酒を手放せなくなりアル中になり病院に運び込まれる。
デビッドはずっとコンスタンス(ローラ・リニー)とともに死刑反対団体のメンバーとして活動してきた。コンスタンスは白血病で死が間近に迫っていた。ふたりは語らいのあとにベッドを共にする。そのコンスタンスを強姦して殺したとデビッドは逮捕され死刑を求刑される。
死刑の執行日が迫ってきたとき女性ジャーナリストのビッツィー・ブルーム(ケイト・ウィンスレット)がゲイルの話を聞くことになる。話を続けるうちにビッツィーには他に犯人がいるのではないかと思えてくる。ビッツィーは死刑までの短い時間を危険を乗り越え調査を続ける。

そこまではわりとストレートに話が進むが、そこからが複雑。じっと画面に見入っていると、オペラのアリア(プッチーニの「トゥーランドット」)が響きわたる。見るほうもどんどん盛り上がる。
すごーく良かった。2003年の映画で製作がアラン・パーカーとニコラス・ケージ。ケイト・ウィンスレットがよく走った。

フェルナンド・カリフェ監督『7DAYZ-U2を呼べ』

タイトルの「U2」に惹かれて見た2005年制作のメキシコ映画。U2というだけで見ようと思ったんだからU2はすごいなぁ。最後のコンサートシーンはちゃんとU2が出演する。

メキシコのモンタリーに住むクラウディオはこの町のサッカー場でU2のコンサートをやりたくて、お金をつくろうとマフィアのボスがやっているカジノへ行く。サッカーの試合を賭けたのだが負けてしまい払う金がなく殺されかけたとき、ボスの息子トニーがU2の熱狂的ファンで、U2を呼ぶことができたら金も返ると提案。1週間以内に結果を出さなければ殺される。
U2大好きなトニーはいかにもヤクザないかついやつだが、ボノの真似をしたお洒落で決めている。知り合いや目を付けた金持ちを訪ねるクラウディオにつきまとい、資金繰りの邪魔をしたり後押しをしたりとだんだん友情めいたものが生まれてくる。
クラウディオの恋人のグロリアも協力して話が煮詰まっていくが、トニーに悲劇が襲いかかる。
それでも1週間以内にと追いつめられ必死で権利を獲得。最後の最後にコンサートが実現する。わかっているけど、ああよかったねと一安心。U2のコンサートで映画は終る。

ジョン・シュルツ監督『バンドワゴン〈1996年〉』

フレッド・アステアの「バンド・ワゴン」は大好きでレーザー・ディスクで何度見たかわからない。アステアのダンス映画はRKOのジンジャー・ロジャースとの共演してるのが好きだけど、今夜はその話ではなく「バンドワゴン〈1996年〉」のほう。

働きながらプロのミュージシャンになろうと練習しているトニーは、歌いたいくせに人前で歌うのが苦手で、仲間を集めて練習するときは一人離れてカーテンの陰で歌っている。舞台に出たら後ろ向きだったり。それでもバンド「サーカスモンキー」を結成してライブをやり続け、彼らを認めるマネージャーとも出会う。
全員で汚いワゴン車に乗り込みツアーに出発する。演奏がだんだんさまになってくる。あるときラジオで「サーカスモンキー」の曲ががかかっており、そのラジオ局へ行ってDJのインタビューを受ける。そこでまたまた口喧嘩がはじまる。
あるときトニーの曲のテーマである「アン」の本人が現れるが、トニーが仕事をしている間にドラムのチャーリーがアンと仲良くなってしまう。
狭いワゴンでの移動の上にそれぞれ個性が強いから大変だ。車を降りて釣りをしようとしたのを追いかけたトニーが警官に声をかけられ、なんやかやでポケットから拳銃が出てきてつかまって。
メジャーになるチャンスができるが、自分たちはその道には行かないとみんなそれぞれ言う。

トム・フーバー監督『英国王のスピーチ』

最近はイギリスの小説や映画に囲まれて暮らしている感じ。
1930年代、ジョージ5世が亡くなり、長男のエドワード8世が〈世紀の恋〉で王位から降りて、二男のアルバート王子がジョージ6世(コリン・ファース)として王位に就く。
カズオ・イシグロの「日の名残り」がこの時代のイギリスの政治や紳士階級の暮らしぶりを書いていたなあと思い出した。

アルバートは真面目な人で幼児体験から吃音になった。王様は昔は馬に乗って威厳を見せていたらよかったが、20世紀では演説をしなければいけない。アルバートは王の代理の演説をしたラジオ放送でしくじる。妻のエリザベス(ヘレナ・ボナム=カーター)は言語療法士のライオネル(ジェフリー・ラッシュ)を見つけて夫といっしょに治療に行く。
ライオネルはオーストラリア人でなにも資格を持たず自分の経験で治療をしていた。第一次大戦のときの戦闘神経症に苦しむ元兵士を治療した自信がある。
葛藤を抱えたアルバートだが、過去の話をしたり体を動かしたりしているうちに二人の間に友情が芽生える。
王位につきジョージ6世となり戴冠式にのぞまなければならない。ローグを呼んだ王にカンタベリー大主教はイギリス人の専門家をつけるというが、しりぞけてローグとともにやりぬく。王はそのときのニュース映画を家族とともに見る。家族というのは娘のエリザベス(いまのエリザベス女王)とマーガレット(華やかだったマーガレット王女)である。
ドイツのポーランド侵攻を受けてドイツを敵にした第二次世界大戦がはじまる。王は大英帝国全土に向けて緊急ラジオ放送で演説する。放送室ではローグと二人きりで完璧な演説をする。放送室から出てきたジョージ6世は家族とともに宮殿のバルコニーから手を振る。

コリン・ファースはいつ見てもなに見てもええわ。
妻のエリザベスがとても人間味があってよかった。仲のよい夫婦やったんやな。
メアリー王太后をクレア・ブルームがやっている。最初の映画チャプリンの「ライムライト」(1952)からだから、すごい長い女優人生だ。
2010年のイギリス映画。

デユ・モーリア『レベッカ 上下』

年末に図書館で借りてきた。なんと中学生のときに姉の友人が貸してくれたのを読んで以来だ。映画(1940、日本公開1951)を見たのもずいぶん昔のことである。いま「レベッカ」が好きといっているのは、数年前に買った映画のDVDを何度も見ているから。マンダレーの門から屋敷に行きつくまでの長さは何度見てもおどろく。ピーター・ウィムジィ卿がハリエット・ヴェインを連れて母と兄がいる屋敷に行くときもそうだった。ダーシーさんとエリザベスのお屋敷もそうだった。イギリスのお金持ちに憧れるてるわたし(笑)。

ヒチコック監督の映画にすっかりはまって原作もそのとおりと思い込んでいた。ジョーン・フォンテインの〈わたし〉が語る物語。モンテカルロのホテルで金持ちのヴァン・ホッパー夫人の付き人をしている〈わたし〉と大金持ちのマキシム(ローレンス・オリヴィエ)が知り合う。ふたりは結婚してマンダレーの屋敷にもどる。若い娘にとってなにもなくても気後れするところを、マンダレーには亡くなった前妻レベッカの影響力がそのまま残っている。その上にレベッカに子どものときから仕えていたダンヴァース夫人が権勢をふるっている。

物語の大筋は映画と同じだが、肝心なところで映画は道徳的になっている。それと小説がもっている見せる場面が映画ではいっそうの見せ場になっていたように思う。
ヴァン・ホッパー夫人とのモンテカルロ滞在の話に入る前に、〈わたし〉とマキシムのいま(マンダレーがなくなってから)の生活が語られる。最初はすっと読んでいたが、あとでそこにもどって読み返し、ふたりの深い孤独な愛を想った。
(茅野美ど里訳 新潮文庫 上667円+税、下590円+税)