監督・脚本ジョエル・ホプキンス『新しい人生のはじめかた』

ダスティン・ホフマンを久しぶりに見た。『卒業』は1967年、『真夜中のカーボーイ』は69年である。79年に『クレーマー、クレーマー』。それ以来なにか見たと思うけど記憶に残ってない。
最初に地味な姿でピアノを弾いているのを見て、一目で老けたなあって叫んだけど、お互いさまだ(笑)。

ウィキペディアに映画の成り立ちが出ていた。
監督・脚本のジョエル・ホプキンスはイギリスの独立系映画監督で、子ども用映画の監督候補にあがったときに同映画の脚本家で女優のエマ・トンプソンと出会った。ブロードウェイでダスティン・ホフマンとエマが舞台で共演しているのを見て、二人を生かした脚本を書くことにした。

ハーヴェイ(ダスティン・ホフマン)はニューヨークでテレビコマーシャルの音楽をやっているんだけど、古臭いと思われておろされそう。再婚した妻と娘がロンドンにいる。娘の結婚式なので行くことにするが仕事が気になって電話ばかり。
ロンドンに着くと、自分一人だけ安ホテルが用意されていて、娘はバージンロードをいっしょに歩くのは継父にするという。
ケイト(エマ・トンプソン)は40歳過ぎた独身女性で空港で働いて、仕事帰りに小説の講習会に参加している。偶然出会って次は空港のラウンジで出会って意気投合したふたり。なんやかやとあって結婚披露宴に一緒に行って祝福したので娘も喜ぶ。
ハーヴェイはロンドンで暮らそうと決心する。そこへ仕事の電話がかかるが断る。

ダスティン・ホフマンは初老の音楽家を楽しく演じていた。エマ・トンプソンは演技力の深さがにじみ出る好演。最後は靴を脱いで寄り添って歩くところがよし。
テムズ川が美しいロンドンのおとぎ話。

ウディ・アレン監督『ミッドナイト・イン・パリ』

ウディ・アレン監督の2011年の映画。ファンだと思ってたわりに見ていないのに気がついた。
見た映画は『ボギー!俺も男だ』『アニー・ホール』『インテリア』『マンハッタン』『ハンナとその姉妹』『ブルージャスミン』。

ハリウッドの脚本家ギル(オーウェン・ウィルソン)とイネズ(レイチェル・マクアダムス)はこれから結婚すると決まっているカップルで、大金持ちのイネズの両親といっしょにパリ旅行を楽しんでいる。イネズの友だちカップルと出会って行動を共にするが、ギルは親にも友人たちにも打ち解けない。彼の野心は脚本書きをやめて作家になることで書きかけの原稿を持っている。毎日4人で遊んで飲んで楽しんでいるが、ギルは小説を書くことを第一にしているので食い違う。

ある夜、ワインに酔ったギルは一人で深夜のパリを歩き疲れて道端に立つと古いプジョーが走ってきてギルを乗せる。
最初の行き先はジャン・コクトーの家だった。そして何度かのプジョー待ちで出会った人たちは、コール・ポーター、ゼルダ & スコット・フィッツランド、ヘミングウェイ、ガートルード・スタイン、ピカソ、ダリ、マン・レイ、ルイス・ブニュエル、ロートレック、ゴーギャン、ドガ と多彩。1920年ごろ。
時代にあったそれらしい会話がはずむ。ガートルード・スタイン(キャシー・ベイツ)に原稿を読んでもらったり、ヘミングウェイに小説を書くことについて忠告されるのがおもしろかった。

ただひとり架空の人物アドリアナ(マリオン・コティヤール)。ギルとつきあっているうちにもっと前の時代1900年ごろに生きたいといい、実際にいってしまう。シルクのドレスがからだにまとわり揺れて美しい。
最後にパリは雨がいいのと濡れながら歩き出すレア・セイドゥの雰囲気がパリって感じだった。

製作・監督・脚本ウェス・アンダーソン『グランド・ブダペスト・ホテル』

今夜は映画を見たいねと探したらおしゃれなタイトルが見つかった。『グランド・ブダペスト・ホテル』(2014 ドイツ、イギリス合作)ウェス・アンダーソン監督作品を見るのははじめて。
タイトルにシュテファン・ツヴァイクの名前を見たので期待した。ツヴァイクはずっと昔に家にあった本で読んだことがある。ずっと前すぎて作家の名前だけしか記憶に残っていないが、父親が大切にしていた本だ。お前にはまだ早いと言われたっけ。

最初に美しい山々を背景にしたグランド・ブダペスト・ホテルの全景が映し出される。(ヨーロッパ大陸の東端にあるという仮想の国ズブロフカ共和国が物語の舞台)夢のようにおしゃれな建物にすぐに物語に引き込まれた。1930年代、1960年代、そして現代の3世代のドラマ。
コンシェルジュのグスタヴ・H(レイフ・ファインズ)は徹底した接客の巧さで人気がある。ご婦人方の夜の相手もする。
お気に入りのベルボーイのゼロを仕込んで一人前にしようと教育し、どこにでも連れて歩く。ゼロがまた気の利く子で敏捷に仕事をこなす。
お得意さまの伯爵夫人が殺されたと聞き2人は列車で出発。タクシーで長時間かかって伯爵家に到着する。遺言で高価な絵画を贈られたグスタヴ・Hは遺族から容疑者として疑われ逃げ出す。

スピーディに物語は展開し、ユーモアたっぷりに進展していく。最初と最後に出てくる作家が心に残った。もう一度見てしっかり味わいたい。

ジュリアン・ムーア主演、スコット・マクギーとデイヴィッド・シーゲル監督『メイジーの瞳』

ちょっと重い東映 藤純子作品をおいて楽しそうな洋画を見ようと探した。ジュリアン・ムーアならいうことなし。タイトルどおりに可憐なメイジーの瞳に魅せられた。2013年のアメリカ映画。
母親のスザンナ(ジュリアン・ムーア)はロック歌手で、父親は美術品のディーラーだが離婚。メイジー(オナタ・アプリール)は10日ごとに二人の家に住むことになる。父親は出張が多く元ベビーシッターのマーゴにメイジーの世話を押しつける。スザンナはバーテンのリンカーンと結婚するが、娘の世話はリンカーンにまかせきり。それでもこどもを愛していると抱きしめる。なにをしてもここに止めることができないのをわかってツアーに出る母を見送る娘の瞳が悲しい。

ニューヨークの小学校の授業の様子やこどもたちの行動が描かれていて微笑ましい。メイジーの表情やしぐさが愛らしく、服やアクセサリーが素敵。こども部屋のインテリアはわたしが真似したい(笑)。
海辺の売り家をマーゴがツテで借り、二人で海辺で遊んでいてボートに乗りたいと話しているところへリンカーンがやってくる。明日は3人でボートだ! 夜中にツアーのバスがやってきてスザンナがいっしょに行こうというが、娘は明日は3人でボートに乗るといってがんばる。
マーゴとリンカーンが出てきて遠くから母娘を見ている。母はツアーに戻っていった。

悪いひとが出てこないけど自分勝手なひとは出てきて話がややこしくなるが、しっかり者の6歳の娘の自己主張がとおって気持ちよく物語が終わる。
トシがいってちょっと落ち目の歌手という役のジュリアン・ムーア。娘の自己主張に負けて引き、そして面倒を見る二人への敗北感と信頼もある演技力がすごい。

藤純子主演 小沢茂弘監督『緋牡丹博徒 二代目襲名』(1969)

緋牡丹博徒シリーズ第4弾は『緋牡丹博徒 二代目襲名』。原作が火野葦平。しっかりとした物語で見ごたえがあった。
お竜は矢野組二代目襲名のために不死身の富士松(待田京介)を連れて故郷の熊本へ戻ってきた。馬車に乗ると一目でお竜さんに惚れたという男(津川雅彦)につきまとわれる。馬車を追い越して騎乗の男が行き、その後をたくさんの男たちが馬車で追いかける。男どもを追い払い撃たれた男(半次)を病院へ連れて行き事情を聞き、金を預かって雪江に届ける。
川辺親分(嵐寛寿郎)はお竜の帰郷を喜び、いまの北九州の状況を話す。いままで石炭を運ぶのは川舟を使っていたのを列車輸送にするために鉄道を敷設しているところで、川辺組と危機感をもつ川船頭たちはトラブルを繰り返していた。
石炭の需要は増すばかり、本庁からは催促がきていて鉄道局の役人は川辺をせっつく。そこへ現れたのが荒木田組で、暴力を陰で使いながら権利を奪おうとする。
雪江の兄八代(高倉健)は刑務所からお前はカタギと結婚するようにと言い聞かせてきた。「馬鹿は俺一人で沢山だぜ」。
川辺親分が矢野組に後をまかせると言って亡くなったあと、お竜は矢野組一家の親分として川筋で働く。
大阪からやってきたお神楽のおたか(清川虹子)が襲名披露の座や最後の殴り込みで貫禄を示す。
喧嘩状を渡したお竜と八代はともに戦い荒木田をやっつける。妹を幸せにすると誓った半次と富士松に抱かれ、なお続くお竜の戦いを見つめながら死んでいく八代。
お竜は故郷を出て再び旅に出る。

8作中4本を続けて見たので明日は休む。

藤純子主演 加藤泰監督『緋牡丹博徒 花札勝負』(1969)

午後つるかめ整体院に行ったら肩がいつもにも増して凝ってると言われ、それは緋牡丹のお竜さんのせいだと言い訳した(笑)。もちろん映画だけ見ていたわけでないけど、すごく真剣に見ているから肩が凝りもする。

名古屋に着いたお竜は間違って列車の線路に入っていく盲目の少女(お君)を間一髪で助け、後からやってきた母親に礼を言われる。
名古屋で最も旧い家柄の西之丸一家でわらじを脱ぐが、胸のすくような初対面の仁義を切るシーンがすばらしい。親分(嵐寛寿郎)は統率力のある人格者。四年に一度の熱田神宮の祭りがあり勧進賭博を仕切るのが西之丸一家である。親分に贋のお竜が賭場に出没していると聞かされ、お竜は新興の金原一家の賭場へ出向く。そこで出会ったのがお君の母だった。
金原のところで奇食している花岡(高倉健)と雨が降る道で出会い傘を貸す。お竜が持っていた傘の柄の暖かさが忘れられない花岡とはそれから何度かすれちがう。一宿一飯の恩義ということで花岡は西之丸一家の親分を襲うことになるが急所を外す。勧進賭博を開くことができたが、傷口が悪化して親分は亡くなる。
西之丸一家の通夜の中をそっと出かけたのはお竜と富士松だった。乱闘中に花岡が加わる。この結末は自分に任せてくれと花岡は言う。
花岡がお君を病院に連れて行き手術でお君は目が見えるようになっていた。

若山富三郎の愛嬌、清川虹子の太っ腹、待田京介(不死身の富士松)がお竜を「おじき」と呼ぶのが楽しい。ちょっとだけど藤山寛美が笑わせてくれた。

藤純子主演 鈴木則文監督『緋牡丹博徒 一宿一飯』(1968)

今夜も夕食後はお竜さん。
緋牡丹博徒シリーズ第2弾は戦うお竜さんと鶴田浩二が出会って権力とつながる卑怯な奴と徹底的に戦う。前作では高倉健がやっていた役を鶴田浩二がやっている。

熊本の矢野一家再興のために各地を回って修行を重ねる「緋牡丹のお竜」こと矢野竜子は上州富岡の戸ケ崎一家に身を寄せている。
富岡では高利貸が生糸農家を締め付け農民は困窮の極みで、戸ケ崎はなんとか調停しようとしているが、舎弟の笠松が上州一帯の利権を得ようと裏で暗躍していた。戸ケ崎は騒ぎが起こるのを察してお竜を上州から去らす。
東京に出たお竜は笠松が上州の利権を確実にするために東京で上層部への接近を図っているのを知り阻止しようとする。
お竜が居ぬ間に戸ケ崎は笠松一家に襲撃される。それを知ったお竜は・・・
笠松の腕の立つ子分に菅原文太がなっていやな奴モードいっぱいで、それはそれでかっこいい。
鶴田浩二はもともとこの地の出身で貧しい家を嫌って家を出た。その後、両親は貧しさの中で死んだ。お竜との間はお互いに口に出さないけど愛と信頼で結ばれる。
お竜を阻もうとする賭博師の女にも戸ケ崎一家を守ろうとする娘にも、お竜は優しい。身を汚されたと泣く娘に、自分の背中の刺青を見せる。「女だてらに、こぎゃんもんば背負って生きとっとよ」

藤純子主演 山下耕作監督『緋牡丹博徒』(1968)

四方田犬彦・鷲谷 花 編集『戦う女たち 日本映画の女性アクション』(2009 作品社)を開いてまず読んだのは「緋牡丹お竜論」(斎藤綾子)だ。取り上げられている他の作品を全然と言っていいくらい見ていないから、なじみのあるお竜さんからまず入ろうと思った。

「緋牡丹博徒シリーズ」は全部で8作あって第1作が『緋牡丹博徒』である。わたしは1968年頃はずいぶん映画を見ていて、洋画は梅田で北野シネマやコマ劇場地下、日本映画は新世界の映画館だった。鶴田浩二、高倉健、池部良、ちょっと後には菅原文太とたくさんのヤクザ映画を見たものだ。このシリーズでは待田京介が好きだった。

「肥後熊本は五木の生まれ、姓は矢野、名は竜子、通り名を緋牡丹のお竜と発します」と仁義をきるお竜さんは美しくて清々しい。親分だった父親が辻斬りに殺されて、堅気の人と結婚寸前だったのに破談となる。多くの子分たちはいなくなり、終生ついていくという一人の子分に留守番させてお竜は渡世の旅に出る。
旅の途中で出会った高倉健に肩を怪我したお竜さんは片肌脱いで傷に薬を塗ってもらう。肩から背中に緋牡丹の刺青が花咲いている。
悪い奴がはっきりしており、女親分清川虹子の筋を通す古風な生き方が泣かせるし、お竜さんに惚れ込んでお竜さんのために死ぬ子分、若山富三郎(熊虎親分)のユーモア、不死身の待田京介の純情。様式美と笑い、すべてが揃ったやくざ映画だ。続けて8作みんな見るつもり。

ルイス・ブニュエル監督『昼顔』のピエール・クレマンティ

1週間ほど前からMac miniにつないでいるスピーカの調子が悪い。長いこと使ってるから新しいのを買おう。それまでまあええやんと音無しで使っていた。ツイッターで「イイネ」しておいて音が出たらまとめてyoutubeを見よう。
今日届いたのでさっそくつないでもらった。おもしろいかたちの小さな白いスピーカ。机にもmacにも合う。

さてyoutube見ましょ。
『キャロル』のケイト・ブランシェットとルーニー・マーラ(テレーズ)の声が聞こえるのが何本も(笑)。
それからこれを見たかった、ルイス・ブニュエル監督の『昼顔』の予告編ぽいの。はじまったら予告編ではなくて映画の最初のほう10分間くらいだった。
1967年のフランス・イタリア合作映画、原作:ジョゼフ・ケッセル。主人公の人妻セヴリーヌにカトリーヌ・ドヌーブが扮してすごい魅力。
でも今日見て大喜びしたのは、客のヤクザな男をやっているピエール・クレマンティに再会できたこと。67年に北野シネマで見て以来だ。昔見たときのぐれかたがよかったけど、今日もうなった。

リドリー・スコット監督『オデッセイ』

リドリー・スコット監督が大好きな上に好感を持っているマッド・デイモンの主演だから映画館で見たかったんだけど、混んでいそうで見送り。(久しぶりの映画館は『キャロル』になった。)
絶対におもしろいはずと思って見たのだが、やっぱりおもしろくてよかった。大作のおもしろさだからNASAのシーンとかいつものパターンと思ったけど、物語としてはなくてはならないシーンだからしょうがない。重要課題を決定していく立場の上司や管理職の人間をうまく描いていた。

火星で一人ぼっちで暮らすはめになったワトニー(マッド・デイモン)が、食べ物を確保するのを中心にユーモアをもって頑張るところがうまく描かれていた。ジャガイモを作るのに同僚の排泄物も使うところの独り言に笑ったけど、こういうところでユーモアを忘れない人間だから活路を開けるのよね。
とにかく丁寧に作ってあって、船長の好きな音楽とか細かいところに手が届き、お定まりのセリフだってちゃんと言うべきところで言っている。

火星のシーンなんか、ほんとの火星だと思って見ていた(笑)。
原作のアンディ・ウィアー『火星の人』(ハヤカワ文庫)を読みたい本リストに入れておこう。