ミステリーで恋愛小説『トレント最後の事件』

先日「探偵小説 最初の3冊」というタイトルで、F・W・クロフツ『樽』、A・A・ミルン『赤色館の秘密』(いまは『赤い家の秘密』)、E・C・ベントリー『トレント最後の事件』のことを書いた。
『トレント最後の事件』を突然思い出したと書いたが、実は新刊の文庫本を本屋で見かけて突然!思い出したのだった。クリスタ長堀にある本屋さんはわたしが欲しい本がわりとすぐ目につく。ちょっと前の川端康成の「虹いくたび」もそうだった。本の並べ方がわたしに合っているみたい。そのときはほうと思っただけだったが、帰り道で無性に読みたくなって、通りかかったよその本屋さんを見たが見つからなかった。それでまたクリスタ長堀まで行って買ったというわけ。

トレントの最後の事件なのだが、トレントがいままで扱った事件は前作があるわけでなく、この本の中で言われているだけである。本職は画家なのだが有名な素人探偵として新聞社から依頼を受け、自身の推理による解決までを書いて探偵料と原稿料を稼ぐ。探偵にせよ画家にせよ普通は寡黙な人間だと思うが、トレントはおしゃべりである。めちゃくちゃおしゃべりで楽しい(笑)。

トレントはアメリカ人の大富豪で大実業家マンダースンがイギリスの海岸の別荘で殺された事件を調べるために現地に到着した。紹介される前に海岸の崖にひとり座っている富豪夫人メイベルを見て一目惚れする。のちに彼女に紹介されるが夫の莫大な遺産を受け継いだ未亡人と思うと片思いのまま諦めるしかない。
(『トレント最後の事件』E・C・ベントリー 大久保康雄訳 創元推理文庫 1000円+税)

探偵小説 最初の3冊

小さいときは絵本や兒童もの、その後は少女小説、少年ものも兄たちのを読んだ。少女小説は買い直したり買い足したりしていまも読んでいる。情緒の安定によく効く。
そのあとに読んだのが大人の探偵小説だった。
F・W・クロフツ『樽』、A・A・ミルン『赤色館の秘密』(いまは『赤い家の秘密』)、E・C・ベントリー『トレント最後の事件』の3冊がわたしの寝ている部屋の本棚に並べてあった。それはもういろいろな本があって、いまも背表紙が思い浮かぶのだが、内容が記憶に残っているのがこの3冊なのだ。3冊とも小学5年くらいで読んだかなあ。

『樽』の表紙は樽の割れ目から人間の腕がぎゅっと伸びていて、金貨が手のひらからこぼれ落ちている。それはそれは怖かった。とにかく父親がなにかといえば『樽』というので、長い間これが探偵小説ナンバーワンかと思い込んでいた。大人になってから読んで、そこそこええけどなあって思った。
『赤色館の秘密』は大好きになって何度も読んでいる。それでも大人になると途切れて、20年くらい前に文庫本を買った。ギリンガム君とかだいたい覚えていた。図書室で本棚をとんとんと叩いて地下道への入り口を知るとか、これいまの記憶だけどあっているかどうか。兄が病気で入院したとき見舞いに持って行ったら懐かしがっていたっけ。また読みたくなった。

そして、『トレント最後の事件』だけど、前の2冊は何度か読んでいるけど、これだけは小学生のとき以来である。なんで読む気にならんかったのかな。先日、突然思い出して、半世紀以上前に読んだんだぜとびっくりした。トレントが初めて出てくる本なのに最後の事件とはなんや?と当時思って父や兄にうるさく聞いたのを思い出した。普通の探偵小説とは違って犯人を探して終わりではないところがいいんだと父がいってたような気がする。どうも納得いかなかったが。恋愛小説でもあるのになぜいままで読んでなかったのかな。これからは愛読書になったりして(恋愛部分が)。
(『トレント最後の事件』E・C・ベントリー 大久保康雄訳 創元推理文庫 1000円+税)

ステファン・アーンヘム『顔のない男』に夢中

読み出したもののページ数が多くて、いつになったら読み終えるやら。最近とみに目が疲れるのでずっと読み続けるのがしんどい。章の切れ目に他のことをしてまた戻る。戻ったところがどうなっていたかつかめてなくて、そこからまた戻って納得がいくと突き進む。まさに主人公リスク刑事が乗り移ったように突き進むようにして読んでいる。スピード感がたまらない。

著者ステファン・アーンヘムは、解説によるとヘニング・マンケル、スティーブ・ラーソン、ヨハン・テオリン、アンデシュ・ルースルンド(わたしは4人とも訳された本はすべて読んでいる北欧ミステリファン)に続くスウェーデンの作家だそうだ。目下とても売れている作家で、日本ではこの本が初訳である。
主人公はスウェーデン南部の港町ヘルシンボリに移転してきたファビアン・リスク犯罪捜査課刑事、一匹狼で突き進むから同僚たちからは困った存在になる。
彼は転勤前に休暇をとることにしていた。妻とこども2人と楽しく過ごしたい。ところが新しい職場のトゥーヴェソン警視から連絡が入る。休暇は取りやめしてすぐに職場に出て欲しいと。
仕事に入ったファビアン・リスクは両手を切断された死体の事件にのめり込んでいく。
(堤朝子訳 ハーパーBOOKS 1157円+税)

サラ・パレツキー『カウンター・ポイント』(3)

ヴィクは最初からではなかったが早くからAppleのパソコンを使っていた。わたしのMac歴は1987年から始まっているが、ほんとに実用に使い始めたのはヴィクと変わらないと思う。サラ・パレツキーさんが来日されたときは出たばかりのiPadを持参されていて、奈良の喫茶店で写真を見せてくださった。わたしのほうは次に出たiPad2をようやく買った。

前作『セプテンバー・ラプソディ』ではパソコンなんて次元でなく、高度な知識を身につけた天才少年が出てきた。そして先駆者エイダ・バイロンのことを書いていた。絶対この人のことを書こうと思ったんだろうとはわたしの推察である。

以前はパソコンがまだ主だったけど今回はiPhoneだ。
iPhoneがヴィクの脇役を引き受けて、通話にメールに写真に記録に大活躍するのが爽快だ。ヴィクのやることがテキパキして気持ちよい。

物語は初心に帰って、サウスシカゴが舞台になっている。
各章の見出しに野球用語が多く使ってあっておしゃれだ。
1遊撃手、2ホームベース、3スラッガー、4出塁、5カーブで三振、・・・・・56チャンスに強い打者、57ホームスチール、という具合である。
(山本やよい訳 ハヤカワ文庫 1400円+税)

サラ・パレツキー『カウンター・ポイント』(2)

著者の謝辞に「ブーム=ブームが〈バーサ・クループニク〉号のスクリューに巻き込まれて命を落とした経緯について知りたい方は『レイクサイド•ストーリー』をお読みください。」とある。本書を読み終わったら読もうと思って探したら、カバーが破れて黄ばんでいるし文字が細くて読みにくい。そのうち電子書籍で読もうと今回は中止した。最近はタイトル見ても内容がわからないのでナンギである。カタカナタイトルで17冊あるんやもん。第1作『サマータイム・ブルース』からもう一度読むつもりはしているんだけど。

謝辞のとおり本書を読む前に『レイクサイド•ストーリー』を読めば登場人物の半分くらいの25年前の姿がわかる。それと『サマータイム・ブルース』に出てきた人も出てくる。新聞記者のマリ・ライアスンはますます元気。そういえば彼も以前ヴィクとつきあっていた一人だ。作品中では別れたあとだったが。行きつけのバー、ゴールデン・グローでは店主の大柄な美女サルが健在で相変わらず黙ってジョニーウォーカーを注いでくれる。ただ一人ヴィクをヴィッキーと呼ぶシカゴ市警マロリー警部は亡き父の同僚で、シリーズ最初の頃はよくヴィクとやりあっていた。心優しい人だが女性が銃を振り回すのが好きでない。
今回もヴィクの暴走を引き止めようとする元恋人のコンラッド警部補。いまもヴィクのことを気にしているが、いっしょに暮らすのは無理なのがよくわかっている。別れたときの悲痛なやりとりを思い出すと胸が痛む。
いまのヴィクにはジェイクという1階下に住むコントラバス奏者の恋人がいる。
それから同じ建物に住むコントレーラスさんも古い仲だ。本書では90歳になっているが、ヴィクとともに大活躍。口も達者でいざとなったら暴力的な相手をやっつける根性と機知を持っている。
そうそう、ロティはもちろん出てくる。ロティの連れ合いマックスも最後のほうでジェイクの頑張りに協力する。わんちゃん2匹ともに健在で大活躍。

そしてヴィクに甘えたり怒ったり迷惑をかけたりのバーニーはブーム=ブームの親友ピエールの娘で、天才的なアイスホッケーの選手。今回カナダからシカゴに見学にやってきてヴィクの部屋に泊まっている。ヴィクは可愛いと思う反面迷惑をかけられてナンギする。

だけど本作でいちばんの主役はシカゴカブスのリグレー球場である。原作が出たのは2015年だが、シカゴカブスは2016年にワールドシリーズで優勝してしまった。
(山本やよい訳 ハヤカワ文庫 1400円+税)

サラ・パレツキー『カウンター・ポイント』(1)

待っていた本が2016年の終わり12月20日に出版された。早川書房の宣伝に〈元恋人から依頼を引き受けた探偵ヴィクは、二十五年前に起きた殺人の真相を追う。事件の裏に潜む巨大な闇とは!? 待望の最新刊〉とあったので、25年前の恋人って誰だろうとVFC会員とメールのやりとりをしたが、思い浮かばなかった。彼女もわたしもコンラッドが好きなんだけど、彼は警官だから頼みには来ないし。金額表示(1400円+税)を見て分厚そうやなという意見も出てたが実際分厚い(622ページ)。

ヴィクシリーズ17作目『カウンター・ポイント』を読み終えた。1回目はささっと、2回目はていねいに読んだ。ハラハラさせられておもしろかった。いくつになってもヴィクは頑張るんだ。
前作『セプテンバー・ラプソディ』(2015年発行)はロティをめぐる物語でヴィクの奮闘はもちろんあるけれど、物語は格調高く、第二次大戦の前にヨーロッパで学び研究に励んだ女性科学者の物語でもあった。

今回は最初から最後までサウスシカゴの風が吹き荒れる。徹底的に頑張るヴィク健在。
ヴィクの事務所に突然やってきたのは25年前の恋人フランク。ヴィクが10代のときちょっとだけつきあったが彼がベティと仲良くなって終わった。
いまも昔と同じサウスシカゴに住みトラックの運転手をしている。シリーズに登場するのは初めての人だ。彼の依頼は自分の母親ステラのこと。ステラは25年前に実の娘アニーを殺した罪で服役し2カ月前に出所したところだ。いまも「殺したのは自分ではない。誰かにハメられた」と言い続けている。フランクはなにかあるかもしれないから調べて欲しいと頼んだ。ステラはいやな女でそんな調査などヴィクはやりたくない。しかし頼まれたら断れない性格だから(いままでの作品と同じように)しぶしぶ探ってみると返事する。
(山本やよい訳 ハヤカワ文庫 1400円+税)

髪を整え、体を整え、ヴィクの活躍を読む

髪が伸びて頭のてっぺんの白髪がむき出しになっていたのを、ようやく昨日美容院シュリットできれいにしてもらった。気持ち良くしてもらいながらおしゃべりしたり聞いたり。相手が若くて話題が多いから聞くほうが多かったけど、楽しく情報交換できた。コーヒーとお菓子も出て名犬シェルくんと遊んでいい午後を過ごした。

今日はつるかめ整体院で体の手入れをしてもらった。ずいぶんと左の肩が凝っているそうで、なにをしたか聞かれた。本とパソコン前としかいえないなあと考えていたら、ブログを読んでくれてはるから「年賀状」のせいだと理由をいってくれた。ペンを持ったのは右手だけど左が凝るのね。

サラ・パレツキー『カウンター・ポイント』を再読中だけどまだ読み切れてない。25年前の恋人が出てくるんだけど、読者には初お目見えである。早川書房の最初の広告に書いてあったので、友だちと誰のことかなあと話し合っていた。彼女がいままでの恋人の中でコンラドッドがいちばん好きというので、わたしもコンラッドが好きだと答えたのだが、彼ではなかった。コンラッドは警官として出てきて、ヴィクに好意を持っているけど、今回もやりすぎるヴィクを食い止めようとする役。
物語の発端で依頼人として現れるフランクが正解なんだけど、シリーズのいままで出てきてない。
さあ、コーヒー淹れてもうちょっと読もう。

サラ・パレツキー『カウンター・ポイント』を読み出した

ヤマト運輸の「ネコポス」で本が届いた。ありがたいシステムやなあとしみじみ包みを眺めてから開いた。最初の数ページしか読めなかったけど、ヴィクの事務所に依頼人がきた。昔の恋人!
本にはまり込んでばかりいられない。まずはヴィク・ファン・クラブ会報の「あとがき」を片付けなくてはととりかかった。書き上げないうちに晩ご飯になった。あとは夜なべ仕事だ。
晩ご飯の片付けしてからすこし読もうと思ったが、毎夜定期便の姉への電話20分がある。天気予報に夜中に雨があがって明日は天気になるとあったので、洗濯機に走った。夜中に干しておけば明日ぎりぎりまで寝ていられる。明日は姉の家で晩ご飯を食べる。帰るまで読書はお休みだ。だからこれから会報できるぶんやって本をできるだけ遅くまで読むことにする。

25年前の恋人が出てくると広告で読んで誰のことかしらと考えていたけど、わからないはずだ。そんなことがあったなんて。その相手がヴィクの探偵事務所にやってきて25年前の事件を調べてほしいと頼む。いやいや頼まれてしまうヴィクだが、このあとのめり込むんだろうな。とんでもない事件があったのだろうなとドキドキしながら読む。楽しみ〜
文字が大きく読みやすいのはありがたいが622ページもあって重い。通勤読書は無理みたい。わたしは通勤してないけど老婆心で(笑)。
(山本やよい訳 ハヤカワ文庫 1300円+税)

サラ・パレツキー『カウンター・ポイント』発売をジョニーウォーカー黒ラベルで祝う

昨日のラジオの天気予報で明日が寒さの底だと言っていた。ほんまに寒い。
外出嫌いではないのだが、こう寒いと家で本を読んでいるのがいちばんいい。飽きたらパソコンがありツイッターが待っている。年末だって自分が構わないのだから掃除は適当。洗濯だけはきちんとやっている。
ヴィク・ファン・クラブの会報作りを午後に少々やったが、ページどりを間違ってやり直したりちょっとボケてきたかと心配になったりして(笑)。土曜日だし公私とも働くのはやめることにした。用事が溜まるけど。未読本の山があるので片付けなくてはいけないし。

もうちょっとしたら寝る前のウィスキーを飲むつもり。サラ・パレツキーさんの『カウンター・ポイント』が20日発売される。久しぶりに私立探偵V・I・ウォーショースキー(ヴィク)愛飲のジョニーウォーカー黒ラベルで前祝いってこと。本棚から何冊か取り出して拾い読みしながら。

ネレ・ノイハウス『死体は笑みを招く』

ドイツの女性作家ネレ・ノイハウスの作品を読むのは『深い疵』(2009)『白雪姫には死んでもらう』(2010)に続いて3作目。
フランクフルトに近い町ホーフハイム刑事警察署の主任警部オリヴァー・フォン・ボーデンシュタインと同警部ピア・キルヒホフが活躍するシリーズである。
事件が起こり複雑な様相になるが、熱心な捜査活動で核心にせまる物語に加え、警察官の私生活がからんで読み出したら離せない。
今回はオリヴァー警部の結婚生活の危機になるような妻との会話があり、殺人事件を抱えた警部が仕事を休んで妻につきそう。代わりに事件解決の責任者となったピアは中心になって指揮しようとするが、上級警部のフランクにことあるごとに嫌味をいわれる。ピアが小さい農場を持って馬を飼っていることが気に入らないのだ。その金の出処についての悪口が出回っていると同僚のカイにいわれる。ピアは上手に株を売買して運良く手にいれたお金と説明する。
ピアから別れ話をして法医学者の夫と別れて暮らしているが、向こうはピアとよりをもどしたい。事件捜査中に知り合った若者からも好意を寄せられ、殺人事件の舞台となった動物園の男性とはお互いに好意を持つ。

どどっと読んだので事件がつかめてない。そのうちもう一度読むことにして、次の本が待っているので移動する。
読んだ印象だけど、何日もかけて読んだピエール・ルメートル『傷だらけのカミーユ』と比べるとものすごく読みやすかった。フランスとドイツの差も感じたし、男性・女性の差も感じた。
(酒寄進一訳 創元推理文庫 1200円+税)