花畑のようなテッシュ入れを見つけたのは、美津紀が普通の切手を探すのに夫の哲夫の机の引き出しを開けたときだった。夫に親しい若い女性がいると感じる。そのとき電話がかかって母が骨折したことを告げられる。母の死に至る長い療養生活のはじまりである。
美津紀と哲夫は若いときパリで知り合って結婚した。哲夫は当時の留学生の中で垢抜けたしぐさで目立っており、東京での生活よりもお嬢様ふうな留学生活を送っていた美津紀に近寄ってきた。そして、階段をたくさん昇って蝋燭がたくさん灯された部屋に通され求婚される。いま考えてみると幸福だったのはそのときだけではないか。
哲夫はいまは大学教授であり、美津紀は大学講師をしつつ翻訳仕事をしている。哲夫はテレビにも出るようになっている。いままで二度の浮気をしたことはわかっているが、そのときは年上の女性が相手だったが今度は違う。若い女が相手である。
母の住んでいた家と土地を売って母を有料老人ホームに入れるが、また入院して亡くなるまでの美津紀と奈津紀の看病生活が綴られる。疲れ果てた娘二人は母の死を待っている。
そして母の死。葬式をしないと病院出入りの葬儀屋にいうと、立派な葬式をする人と葬式をしない人といまは二極化していると葬儀屋がさらっという。料金明細があるので参考になる。
本書の特徴はお金の話である。昔知っていた夫のパスワードを入れてみたら夫のメールが読めてしまった。夫と女の往復書簡を美津紀は読んで嘆く。メールには、哲夫と美津紀が別れたあとの周到なお金の計算がしてある。
美津紀は自分から離婚しようと決意する。哲夫からのお金の上に母の遺産を姉と二人で分けて足す計算をする。母の遺産は哲夫には渡せないとさっそくマンションを買う。
住まいがあって一生食べていけるお金があるって大変なのだ。お金の計算の苦労をしないですむのは大金持ちと貧乏人だなと思わせてくれる(笑)。
この本、ヘンにおもしろい。
(中央公論新社 1800円+税)