「鬼平・剣客・梅安の舞台」(江戸古地図でみる池波正太郎の世界)

ずっと池波正太郎が好きだ。最初に好きになったのは「鬼平犯科帳」で、連載中の「オール読み物」を待ってて買ったものだ。亡くなられてからは文庫本で揃えていた。最後のほうは単行本で持っていたが、阪神大震災のあとに本を処分したときに処分本の中に入れた。いまは読みたいときに図書館で読んでいる。佐藤隆介さんの「池波正太郎・鬼平料理帳」は座右の本というか季節ごとに献立の参考にしている。章のはじめの引用文で鬼平さんを偲べる。
最初はあまり好きでなかった「剣客商売」を10年ほど前に再読してから夢中になり、文庫本を揃えていていまもときどき読む。「仕掛人・藤枝梅安」はかなり前に読んだがあんまり好きでない。そのうちに爆発的に好きになるかもしれないので楽しみ。

関東在住のYさんにとても素敵な地図を送っていただいた。「鬼平・剣客・梅安の舞台」(江戸古地図でみる池波正太郎の世界)である。「東京都台東区立中央図書館内 池波正太郎記念文庫」発行の大きな古地図。三つの作品の中に出てくる場所(三人の住居、道や橋、神社仏閣のほかに作品中の道場とか料理屋とか蕎麦屋)が入っている。番号入りの索引もついていて便利だ。これを開いたら時間がすぐに経つので気をつけなくては。

いつか池波正太郎記念文庫と弥生美術館にいきたひ。

特集 なぜハメットが今も愛されるのか(ミステリマガジン8月号)

ミステリを読み出したのは早かったが手当たり次第に読むだけだった。父の持っていた本をたくさん読んだが雑誌「宝石」で戦後に訳された、レイモンド・チャンドラー、クレイグ・ライス、ウイリアム・アイリッシュに目覚めた。ハメットはそのあとで古本屋で買った「デイン家の呪い」をまだ持っているのだが、よくわからなかったままになっている。そろそろ読まなくては。その後は「マルタの鷹」「赤い収穫」はまだまだで、次に読んだ「ガラスの鍵」がぴたっときて、好きな作家と言えるようになった。その後はリリアン・ヘルマンの伴侶だから好きになったような感じもある。
「マルタの鷹」は映画を見て、ジョー・ゴアズ「スペード&アーチャー探偵事務所」のあとに読んで、ようやくほんとのハメットファンになった。

ミステリマガジン8月号は没後50年ということで「なぜハメットが今も愛されるのか」という特集である。まだ全部読んでないのだが、カラー写真のハメットがいいオトコなので開いてはにやついている。翻訳されたハメット作品が4作あるのだがまだ読んでいない。ふたりの知らなかった書き手による〈評論〉諏訪部浩一〈成長する作家—「『マルタの鷹』講義」補講〉と相原直美〈リリアン・ヘルマンがみた文学者ハメット〉が勉強になった。
リリアン・ヘルマンについては、昔はミステリファンと話すといつも「いやな女」と言われて、いやな思いをしてきたので、ファンとしてうれしかった。
(ミステリマガジン8月号 920円)

宮本百合子「伸子」「道標」

最近ツイッターで「百合子、ダスヴィダーニヤ」という言葉をよく見かける。ダスヴィダーニヤというロシア語っぽい響きで、きっと百合子は宮本百合子だろうなと思った。よく読めば湯浅芳子の名前も出てきてどうやら同性愛のふたりを描いた映画らしい。
検索したら「百合子、ダスヴィダーニヤ―湯浅芳子の青春」 (沢部ひとみ著 女性文庫) という本があり、「往復書簡宮本百合子と湯浅芳子」(黒澤亜里子編さん  翰林書房) という本がある。すこし興味はあるが買ってまで読む気はない。

「伸子」なつかしいな。なんせ50年も前に読んだ本であるから当時は同性愛もなにもわからなかった。吉屋信子の「S」はわかってたけど、あれは麗しの世界のことで(笑)。
若くしてかなり年上の男性と恋愛結婚した伸子がついに離婚することになり、鳥かごから鳥を離した元夫が「鳥でももどってくるのに、君は・・・」というところを覚えている。先日、青空文庫で読み出したけど途中から飛ばして湯浅芳子が出てくるところを探して読んだ。なるほど愛の雰囲気が読み取れる。
次に「道標」を読んだ。物語の最初が列車でモスクワへ着いたところ。ふたりのモスクワ生活がはじまる。小説の中では伸子と素子で、素子は伸子のことを「ぶこちゃん」と呼んでいる。実際には「りこちゃん」と呼んでいたのかな。
【白い不二絹のブラウスの上に、紫の日本羽織をはおっている伸子が、太い縞ラシャの男仕立のガウンを着ている素子について、厨房のわきの「浴室」と瀬戸ものの札のうってある一つのドアをあけた。】なんか百合って感じがする。
こちらも途中まで読んでやめた。

宮本百合子はすごく読まれた作家だった。我が家は姉2人が買った本を受け継いでわたしと妹が読んでいる。いつごろからか翻訳小説ばかり読むようになった。ボーヴォワールとかサガンとかオースティンとかのほうがおもしろくなったのだ。

ミシェル・ティー『ヴァレンシア・ストリート』

デモ帰りに難波のジュンク堂をぶらぶらしていたとき目についた新刊書。表紙がこっちを向いていて、服部あさ美さん描く肩を抱いた女性二人の顔に惹きつけられた。この本買おうって即思った。
サンフランシスコに生きるレズビアン女性の愛と生活を描いた自伝的小説で、原作は2000年に発表され、ついさきほど5月に翻訳が出た。
読み出したらアンドリュー・ホラーラン「ダンサー・フロム・ザ・ダンス」を思い出した。あちらはゲイでこちらはダイク(レズビアン)の物語だが、どちらも愛の物語である。読み終わったら「ダンサー・フロム・ザ・ダンス」を読みたくなったが、貸し出し中なのでしかたなく自分の書いたブログを読んだ。自分の熱さに笑った。

「ヴァレンシア・ストリート」は「ダンサー・フロム・ザ・ダンス」のような物語ではない。主人公のミシェルの昼と夜の愛と快楽と金を稼ぐための労働が淡々と綴られているだけである。淡々とではあるが、かなりえげつないセックスや第1市民なら眉をひそめるであろう行為(公道でおしっこしたり)が描かれている。その書き方に〈いま〉を感じた。もともと本書はミシェル・ティーがクラブやライブハウスなどでジン(ファンジン)に書いた詩を朗読していたものが主になっている。
書くことがネット主体になる前にはアメリカではさまざまなジンが発行され、ひとりで発行するのや共同作業でつくるジンがあった。いま、わたしがそういうことを理解しているかのように書いているのは、少しだけ大阪のクラブシーンを覗き見ているからだ。ミシェルのジンをクラブイベントのフライヤーから想像できる。

たくさんのレズビアンの女の子が描かれていて、それぞれ個性的で楽しい。死んでしまった子もいるしカナダへ帰った子もいる。セックスのやり方、タトゥーの絵柄、酒の飲み方、会話・・・いろんな女子たちの交流があり、物語が終わっても終わらない愛の生活が続いていくのが見える。
(西山敦子訳 太田出版 2850円+税)

シャンナ・スウェンドソン「スーパーヒーローの秘密」

これで「(株)魔法製作所」のシリーズ5作を読み終わった。山本やよいさんご推薦の本で、2册は自分で買い、3冊はSさんが買って貸してくださった。最後はSさんに5冊とも持っていてもらう。
このシリーズは「ニューヨークの魔法使い」「赤い靴の誘惑」「おせっかいなゴッドマザー 」「コブの怪しい魔法使い 」と続いて最後は本書「スーパーヒーローの秘密 」である。4作目まではアメリカで出版されたものの翻訳だが、5作目は「日本版オリジナルの書き下ろしで登場」とある。アメリカでは受けそうにないと読んでわかった。主人公ケイティとオーウェンはいつまで経っても抱き合ってキスするだけなんだもん。日本のロマンチック好みの女性にぴったりだ。うまい話の作り方なんだけど、破れたところがない上手さが古風で、いまのアメリカ人女性には受けないだろうと思った。

今回は魔法界を支配しようとするライバル会社との戦いである。悪の手に利用されるオーウェンの出生の秘密が明かされる。才気あふれるエキセントリックな若い魔法使いケイン・モーガンが妻ミナとともに黒魔術に手を染めるが、子どもを産んだ母は生まれて間もない子どもを悪の手から離して人手に託す。その子がオーウェンだったのをケイティが調べる。冷たい存在だった養母がどんなに自分を抑えてオーウェンを育ててきたかとか過去が明かされる。
ケイティの大活躍で最後に正義が勝つ。
細かいところの説明が行き届いていてうまい作品だと思う。こういうのってやっぱりプロ作家の仕事だよね。
(今泉敦子訳 創元推理文庫 1100円+税)

館山 緑『しあわせな恋のはなし』

青年と少女が抱き合っている甘い甘い表紙。うすむらさきとピンクとうすみどりを濃いヴァイオレットが引き立てている。
作者の館山さんとはかなり前にミクシィで知り合った。作家としてのお名前を知ったのはごく最近のことである。小説を書いているのはうすうすわかっていたが、どのような作品を書いているのかはあまり気にしていなかった。館山緑さんと知ってからツイッターでも付き合いがはじまり、日記以上にリアルに執筆時の苦しみを知った。わたしのRTや返信は常識の範囲で、きっともどかしく思われたことだろう。そのときに書いていた作品「しあわせな恋のはなし」が出版されるまでをリアルタイムで知って、ぜひ読みたいと思った。

サウンドデモの帰りに本を買ってから足を休めようと千日前のジュンク堂へ行ったが、ティアラ文庫の売り場がわからずうろうろ。店員さんに訊ねて売り場まで連れて行ってもらいようやく手に入れた。それからは3階のティーコーナーで読み出したらやめられないってやつ。甘い表紙を向かい側にいる客に見られたら恥ずかしいと思いながら読んでいた(笑)。

わたしは昔もいまも少女小説が大好きで、思い出の本、何度も読んだ本、いまだに読む本といろいろあるのだが、どれもセックスシーンがない。なんかもう清教徒的に育ったんだといまさら思う。性教育というものを受けたことがないから、やってからこういうもんかと(笑)。
「しあわせな恋のはなし」という静かな作品は、昔からある少女小説にセックスを取り入れただけではない。時代は表紙や挿絵にあるドレスからして18世紀ごろかしら。「高慢と偏見」よりも昔だよね。むかしむかしと語られる童話の世界と思ったらいいのか。

主人公セラフィーナは〈野の花〉を愛する少女である。そして相手は〈野の花〉を愛する少女と一度だけ散歩したことを忘れられない青年ユーシスである。清々しい恋である。そして青年は城主を継ぐ身で、あまたある縁談を退け初恋を貫く。まだ心身ともに少女であるセラフィーナが愛されて目覚めてしっかりした女性に育っていく。
これだけの単純な物語を一冊の本に書く力につくづく感心した。
(坂本あきら絵 ティアラ文庫 533円+税)

ジョージェット・ヘイヤー『紳士と月夜の晒し台』続き

弁護士でヴェレカー兄妹と仲が良い従兄弟のジャイルズと、担当になったスコットランドヤードのハナサイド警視は事件を調べるにつれ、話が合うようになる。検死審問が行われた日の夜、ジャイルズはハナサイドを家に招いてチェスに興じたあと話し合う。この事件にはまだなにか起こりそうな気がするとジャイルズは思う。
翌日のヴェレカー家では家政婦のマーガトロイドが大掃除をはじめるが、手伝っていたヴァイオレットがアントニアのビューローに拳銃を見つける。きちんとしまっておくようにいうヴァイオレットをアントニアはこともなげにあしらう。
部屋が片付きお茶にしようとしたとき新しい来客がある。死んだと思っていた次男のロジャーが7年ぶりに外国から帰ってきたのだ。これで遺産はロジャーのものになる。殺人のあった夜には彼はすでにイギリスに帰っていたことがわかる。彼は名も知れぬ女性とどこともわからぬ場所にいたというのだ。
やがてアパートでロジャーの死体が発見される。

巧妙に意図された殺人事件が賑やかな主人公たちの会話のうちに進行していく。貧乏であっても品のある兄と妹と幼なじみのレスリーに比べると、美人だが貧しい階級から這い上がったために卑しく描かれるヴァイオレットが可哀想。そしてアントニアが婚約を解消するルドルフも可哀想。なんだかなあって感じもする。

アントニアがジャイルズに言う。「ルドルフとヴァイオレットよ。あの人たちはお似合いの二人だわ。どうしてもっと早く気づかなかったのかしら。考え方がそっくりなの。」そして、アントニアとジャイルズは結ばれる。ロマンス好きにはたまらない。
(猪俣美江子訳 創元推理文庫 980円+税)

ジョージェット・ヘイヤー『紳士と月夜の晒し台』

ツイッターで本書の刊行が楽しみというツイートを発見したので東京創元社のお知らせを見た。あった、あった、5月下旬発売となっている。久しぶりに発行を楽しみに待って買った。
タイトルが「紳士と月夜の晒し台」(1935 原題は Death in the stocks )って、思わせぶりなところがいい。

ジョージェット・ヘイヤー(1902-1974)はロマンス小説で人気が高いそうで、いま検索したらたくさんのファンのかたのサイトが出てきてびっくりした。本屋に行ったらMIRA文庫を探しそうでコワイ(笑)。

わたしのお気に入りのクラシックミステリ、ドロシー・L・セイヤーズやエドマンド・クリスピンやジョセフィン・ティと共通しているところがある。登場する女性たちだ。なんて自由におしゃべりし、なんて自由に行動するんでしょ。ジェーン・オースティンの描いた女性たちもそうだけど。

月夜の晩に、ロンドンからすこし離れた村で、夜の巡回を終えて帰宅しようと自転車で走っていた巡査が、広場の晒し台に男性が座っているのを見つける。側に行くと晒し台の穴に両足を突っ込んでいて、酔っているのかと近づいて触るとぐらりと倒れ、死んでいるのがわかる。週末限定の住人アーノルド・ヴェレカーだった。警部と医師が調べると背中を刃物に刺されほとんど即死だった。

翌日、警部がアーノルドの家に行くと、腹違いの妹のアントニアが泊まっていた。アントニアはロンドンから従兄弟の弁護士ジャイルズを呼ぶように頼む。ジャイルズはスコットランドヤードの警視ハナサイドといっしょにやってきた。
アーノルドは金持ちで、腹違いの弟で画家のケネスと妹アントニアは貧しい。アーノルドの死で遺産がケネスに入ることがわかる。
ケネスには美人の許婚者ヴァイオレットがおり、アントニアはルドルフと婚約している。レスリーは兄妹の幼なじみで、ケネスに惹かれている。
饒舌な兄妹と偉そうな態度のヴァイオレットのやりとりに悩まされながら、ハナサイド警視とジャイルズは捜査を続ける。(ここでNHKでチェルノブイリのドキュメンタリーを見たので、続きはまた後に)
(猪俣美江子訳 創元推理文庫 980円+税)

サラ・パレツキーさん、グランドマスター賞授賞式の写真

サラ・パレツキーさんのブログにエドガー賞の授賞式パーティの写真がアップされている。昨日のサラさんのツイッターの書き込みで知った。

アメリカ推理作家協会が選んだ2011年度のグランドマスター賞(巨匠賞)をサラさんが受賞するのを知ったのは去年の12月で、授賞式は最優秀長篇賞はじめ他の賞とともに、2011年4月28日にニューヨークで行なわれるとあった。

●ハヤカワオンライン ニュースリリースより
巨匠賞は、生涯にわたってミステリに貢献し、良質の作品を多数発表した作家に対して与えられる賞で、1955年の第1回受賞者はアガサ・クリスティーです。
1982年に『サマータイム・ブルース』でデビュー以来、英国推理作家協会(CWA)のゴールド・ダガー賞、ダイヤモンド・ダガー賞(巨匠賞)をはじめ、数多くの賞を受賞しているパレツキーですが、意外にもMWA賞は初の受賞となります。

その授賞式の写真がいろいろアップされていて、黒のフォーマルなドレスを着た美しいサラさんは、夫のコートニー・ライトさん、ミステリ作家のローラ・リップマン、ドロシー・ソールズベリー・デイヴィスをはじめいろんな人たちとにこやかに笑っている。

シャンナ・スウェンドソン『コブの怪しい魔法使い』

「(株)魔法製作所」シリーズ第4作は3冊目までのニューヨークからケイティの故郷テキサス州コブへ移動する。ニューヨークでの悪い魔法使いとの戦いで、自分の存在がオーウェンの仕事の邪魔になったことで、ケイティは身を引いて故郷へ帰る。
家族が経営するテキサスの小さな町の農業用品店を手伝いながら、両親と祖母と個性豊かな三人の兄とその妻たち、その子どもたちと賑やかな毎日を過ごしている。旧友のニタとも久しぶりにゆっくり話し合う。家族も友だちもみんな激しいうちにもおおらかな南部的性格をうまく書いていると感じた。

ところが奇妙なものが見えたり不思議なことが起こりだし、母親がヘンなものを見て失神するまでになる。ケイティの一家は魔法にかかわる血筋であるらしい。おかしく思ったケイティはニューヨークの代表に報告すると誰かを派遣するという。出張してきた警備担当のサム(ガーゴイル=怪物をかたどった彫刻。主として西洋建築の屋根に設置され、雨樋から流れてくる水の排出口としての機能を持つ)が屋根の上から舞い降りてくる。二人はコブの町の悪い魔法を使う者を探そうとする。

そこへケイティのボーイフレンドとしてオーウェン登場。母親が家に泊まるようにすすめる。二人は昔ケイティや兄たちがしていたように、2階のポーチから木を伝って降り、夜のしじまに出て悪い魔法使いと対決する。なんと次男のディーンが事件にからんでいたのがわかる。

オーウェンの体力を使い切った活躍で事件は解決。おばあちゃんが大活躍。
オーフェンが帰った後、残っている娘に封筒を差し出し父親がいう。これでニューヨークへ帰る切符を買いなさい。ネットで調べるとなぜか飛行機には自分の席がとってあった。ニューヨークに着くと赤いハイヒールを片方持ったオトコマエが立って待っていた。めでたし、めでたし。
(今泉敦子訳 創元推理文庫 1080円+税)