レーナ・レヘトライネン『氷の娘』

前作「雪の女」を今年の3月に読んで感想を書いている。
「雪の女」の最後で、フィンランド、エスポー署のマリア・カッリオ巡査部長は妊娠しているのがわかり産む決心をした。いま7カ月の大きなお腹をかかえて働いている。

マリアは上司のタスキネン夫妻とフィギュアスケートを見に行く。彼女はフィギュアスケートが大好きで、しかもタスキネン夫妻の娘シルキは女子シングルの選手でホープである。
アリーナ上では「白雪姫」が演じられ、白雪姫のノーラと継母役のシルキが喝采を浴びている。王子役のヤンネは美貌の青年でマリアは大ファンである。

カティはショッピングセンターの駐車場に停めてあった車のところへきた。仕事は忙しいし、息子たちを病院へ連れていかねばならない。息子たちを座席に固定し、ベビーバギーを折り畳んで鍵をかけてないトランクを開けると、目の前に血を流した少女の死体が横たわっていた。

翌朝出勤したマリアは白雪姫を演じたノーラが殺されたことを知らされる。タスキネンは娘の関連で微妙な立場にあるのでマリアが捜査を担当することになる。前作「雪の女」でもいやなやつだったペルツァが横取りするかもしれない。警察署では人事異動がありタスキネンが部長に選ばれると空いた課長のポストをマリアとペルツァが争うことになる。彼の下で働くのはいやだ。
部下のピヒコとともに聞き込みにいくと、妊婦の刑事に対してみんな困った顔になる。産休に入るまでに解決してしまいたいとマリアは必死で事件にくらいつく。

フィギュアスケートの選手が殺されたということで、選手やコーチや関係者への聴取が続く。テレビ中継で見ている華やかなスケート選手たちの素顔も見えて、この世界も大変だ。

そして、子どものこと。子どものいる妹にずばり言われる。仕事が人生で一番大事な要素と思っているなら、どうして子どもをつくろうなんて思ったのよ。
マリアの最大のアイドルは「なが靴下のピッピ」なんだって。
夫のアンティはマリアと暮らしはじめたころ、25年間弾いてきたクラシックピアノからもっと自由なブルースを弾くようになった。マリアがベースを持って合わせる。足元には猫がいる。お腹ではベビーが蹴っている。
(古市真由美訳 創元推理文庫 1200円+税)

遊びの現役

おとといSUBから帰る前の立ち話で、古い常連の男性が「今日は僕より年上の人が4人いてうれしいわ」とのたまわった。おいおい、なんや、「だれのこと?」と素知らぬ顔で聞いてやった。ピアノの大塚さん、ギターの竹田さん、そしてわたしらしい。ドラムの大森さんは少し下だそうだ。その男性は5番目だと喜んでいた。どこへ行っても最高年齢やのに今夜は5番やとよっぽどうれしかったのね。
そのあと、デモやジャズ喫茶など共通の話題で盛り上がったが、その彼がわたしのことを「すごい!」と言った。いまも遊びの現役だから。

昨日見た映画「ヴィーナス」は老人が主役だったが、ピーター・オトゥールもヴァネッサ・レッドグレーブもちょっとオーバーな演技をしていたと思う。お二人とも矍鑠たるお方だから老人役の演技をしてたのね。自然に老人をやってたら見てて悲しくなるかも。

昨日アップしてから検索したら、ピーター・オトゥールは2012年に引退宣言をしたとあった。80歳になったからか。映画に出なくても楽しく暮らしていてほしい。

天気最高! 人出最高! 2013光合祭

今年の光合祭は食べ物が多いらしいと相方が聞いてきたので、お昼ご飯を軽く食べて、なんやかやして3時過ぎに出かけた。行き先は湊町リバープレース、四ツ橋筋に近い道頓堀川の川岸の大階段。
川端に広い板敷きの広場があって、そこにDJブースや踊り場があり屋台が10店ほど設けられている。大階段を下から見上げるとたくさんの人で埋まっている。日陰に座ってビールとワインとエスニックな食べ物を楽しんだ。昨夜一晩煮込んだというホルモン(ハチノス)のトマト煮がうまくてお替わり3杯(笑)。トルティーヤもはさむものがいろいろでうまかった。

DJの合間にライブがあったりずっと音が絶えない。こどもたちが楽しげに踊っている。今年の特徴はこどもたち。2010年にはこどもはそんなに目につかなかった。いてもたいていは親の背中かベビーカーの中だった。去年2012年になるとよちよち走ってる子が多かったような。
それが、今年は踊り場で踊っている。階段を走って昇ったり降りたり。みんな元気だけどうるさくない。
クラブで遊んでいる若者たちがこどもと楽しく暮らしている。育てながら時間をうまくあんばいしてクラブで遊び、こういう機会には連れてくる。まぶしい。

2年くらい前にクラブで知り合ったTさんが娘のリズムちゃんといっしょにきた。リズムちゃんは同じ年頃のこどもたちと踊っている。薄いピンクと黒のコーディネイトがステキな服がすごくよく似合っている。最初は1歳くらいで母の胸で眠っていた。それ以来、ツイッターで写真を見るのを楽しみにしているが、ほんまにオシャレな子で成長が楽しみ。

ロジャー・ミッシェル監督『ヴィーナス』

土曜日だし家にいるし映画でも見るかと探したら、ピーター・オトゥールが出ているのが見つかった。おお、なつかしき「アラビアのロレンス」(1962)!! 見た映画ってこれだけかと思ったら「ラスト・エンペラー」では家庭教師をやっていた。
ロジャー・ミッシェル監督の映画はジュリア・ロバーツとヒュー・グラントの「ノッティングヒルの恋人」(1999)を見ている。「ヴィーナス」は2006年の作品でこのときピーター・オトゥールは75歳。老人になっても美しい瞳は相変わらず。

クレジットに脚本ハニフ・クレイシとあったので思い出した。彼の小説を3冊(「ぼくは静かに揺れ動く」「ミッドナイト・オールデイ」「パパは家出中」)読んでいて、このブログの〈カテゴリー:イギリス〉に感想が入っている。「マイ・ビューティフル・ランドレット」の脚本も書いてたんだ。

モーリス(ピーター・オトゥール)は元俳優で近所に住む俳優仲間のイアンともどもいまも老人役でお呼びがかかる。今回も死体役をやって現金で支払ってもらう。イアンは田舎から姪の娘ジェーン(ジョディ・ウィッテカー)を頼まれて居候さすが、魚の料理などとんでもなくて、腹が立ってしかたがない。モーリスは彼女の良さを見抜き夜の町やランチにつれて歩く。前立腺の手術をしたが精神的に女好きなのである。
別れた妻(ヴァネッサ・レッドグレーブ)としみじみとした会話。古びた家の修理費がいるだろうともらった出演料の袋を渡すと、なんとかなるからと半分返してくれる。
手に職のないジェーンにモデルの仕事を世話したり、服を買ってやったのに持ち合わせがなくて恥をかいたり、ほんまに色気のあるじいさんである。

最後は悲しいけど、モーリスは好きなことをしたからいいんだと悲しくならない。リアルに老人を描きながら楽天的な脚本がいい。

SUBで西山満さんの誕生記念演奏

西山さんが亡くなられて8月末でまる2年、亡くなられた日でなく誕生日パーティをするということでそれが今日だった。
老若のジャズミュージシャンが集まって6時からとのことで、わたしは7時過ぎに行った。終ったのは11時前で、お客さんはここまでかとわたしは帰ってきたが、ミュージシャンの方々はまだまだこれからみたい。
今日はミュージシャンがお世話になった西山さんを偲ぶ日で、わたしら客はそれに同席させてもらった感じ。

それでも、かぶりつきの席に4時間座って大満足だった。
ピアノ、ベース、サックス、ギター、ボーカル、それぞれ複数の奏者が入れ替わって演奏。
大御所(ギターの竹田一彦さん、ドラムの大森秀斗史さん、ピアノの大塚善章さん)が要所に加わって素晴らしい演奏をした。とにかく3人とも元気で艶があってよかった。すごい精神力と体力だ。

久しぶりに会ったボーカルの城下麻弥さんが容姿も歌い方も女っぽくなっていたのでびっくり。同じく久しぶりのピアノの松本有加さんも大人になって、相変わらずスイングするピアノだったのでうれしい。

大和和紀『あさきゆめみし』5巻まで読んだ

「源氏物語」とは全然関係なくミクシィの日記コメントに、ある男性の顔が〈末摘花〉に似ているとあって、納得の二人の笑い方がえげつない(笑)。そのあとにわたしが無粋にも「源氏物語」のなんて言ってしまった。Cさん、「こりゃkumikoさんはこれを知らんな」と思ったらしく、すぐに大和和紀さんのマンガ「あさきゆめみし」全13冊を送ってくれた。出ているのは昔から知っていたが面倒くさくて読まなかっただけ(負け惜しみ)。
発行日を見たら1980年である。
山岸凉子の『日出処の天子』(ひいづるところのてんし)も同じころだったと思う。こちらのほうはしっかりはまって出るたびに買っていた。わたしらは「ところてん」といい、本屋のおっちゃんは「ひでしょ」と言っていた。しょうもないこと覚えているね。
わたしの聖徳太子についての知識はこの本で得たものである。そのころはよく奈良や法隆寺へ行ってたから。

「源氏物語」のほうは、若いころから10年置きくらいに与謝野晶子と谷崎潤一郎と円地文子の現代語訳を読んでいたし、橋本治の「窯変 源氏物語」だって全部読んでいる。それでマンガを読むまでもないと思っていたのだろう。
最近また源氏物語を読もうかなと思ったのは、本の整理をしていて岩波文庫の古いやつを捨てたから。

ちょうどいいタイミングで貸してもらったので、次に読みたくなるまでこれでいこう。
絵がとても美しくて話がわかりやすい。知っていた知識で補うこともできるし、このクソ忙しさの中で読むにはちょうどよい。美しい日本語が読みたくなったら青空文庫に与謝野晶子訳がある。

ロバート・アルトマン監督『ゴスフォード・パーク』

ロバート・アルトマン監督「ゴスフォード・パーク」(2001)のDVDをYさんにいただいた(最近は借り物と貰い物が多い)。ロバート・アルトマンの名前はなつかしいが調べたらあんまり見ていなかった。
「M★A★S★H マッシュ」(1970)、「ロング・グッドバイ」(1973)、「ポパイ」(1980)「フール・フォア・ラブ」(1986)くらいかな。あとは見たような気がするのだが覚えていない。

「ロング・グッドバイ」が大好きで映画館で見たあとにレーザーディスクを買って何度も見た。20年くらい前に出した10号で終った手書き個人紙「キャット・クラブ・ニュース」に「ロンググッドバイ」特集号がある。エリオット・グールドがフィリップ・マーロウ役で、なんと猫を飼っている。その猫がカレー印の猫缶でないと食べないので、深夜にドラッグストアで探している。そんなことを書いて喜んでいた。

「ポパイ」にはヘンな思い出がある。当時仲が良かった友人カップルと4人でOS劇場で見たのだ。Aさんが行きたがったのはアルトマンの映画だったからだろうか。とにかくケッタイな映画でアニメでなく実写のポパイなのだ。オリーブ(シェリー・デュヴァル)の実写がマンガそっくりでおかしかった。いやまあヘンな映画だった。
以上、前置き。

1932年のイギリス、雨の降る郊外の道を車が走っている。伯爵夫人(マギー・スミス)が運転席と主人席を隔てているガラスを叩いて、魔法瓶のふたが開かないというと、助手席の召使いメアリーが車を止めるようにいい、雨の降る中を後部へまわってふたを開けてわたす。すぐにそびえ立つゴスフォード・パークの屋敷が見えてくる。ここでキジ撃ちとパーティが催されるのだ。ゴスフォード・パークの主人マッコードル卿は工場を経営する金持ち貴族で、彼から援助を引き出したい貧乏貴族もきている。アメリカから映画製作者も到着した。
迎えるのは客だけではなく、客にはそれぞれ使用人がついている。玄関から入るのは客で使用人は別の入り口から。
屋敷の上のほうには客がそれぞれの部屋に落ち着くと、使用人たちは地下の使用人の部屋が与えられる。食事のテーブルに座るのは各主人と同じ席順で名前も主人の名前で呼ばれる。上の廊下と階段でつながる下の廊下を使用人たちは歩き回る。

たくさんの客と両方の使用人たちの群像劇である。上ではゆったりと食事とおしゃべりに興じているが、下では上の彼らを快適にするための靴磨きや洗濯やアイロンかけと絶えず用事がある。
だが、使用人たちにも楽しみが・・・それは主人たちのゴシップ、そこまで言っても大丈夫ってこっちが気になるくらい。そして使用人たちの間にも階級がある。

マッコードル卿が死体で発見される。このあとはクラシックなミステリー調でいかにもイギリス人らしい警部が取り調べにあたる。

ヘレン・ハント監督・製作・主演『いとしい人』

ヘレン・ハントは「恋愛小説家」で、ジャック・ニコルソンの相手役でアカデミー主演女優賞を受賞した。感じのよいウェートレスの役で好感を持った。
今夜見た「いとしい人」(2007)は彼女が監督・製作・主演した映画(原作がエリノア・リプマンの小説『見つかっちゃった』)である。
すごく言いたいことがわかる映画だった、共演の俳優も知り合いたちが好意を持って参加したという感じ。

エイプリル(ヘレン・ハント)はユダヤ人の家庭の養子で弟は実子である。
39歳で小学校教師をしており夫ベン(マシュー・ブロデリック)も同じ学校の教師だが、突然ベンが別れようと言い出す。そしてその翌日は養母が死亡。
夫のクラスまで掛け持ちすることになったエイプリル、忙しくしているとそのクラスの生徒をフランク(コリン・ファース)が迎えにくる。フランクの妻は家出したので二人の子どもを育てているのだ。
エイプリルの実母(ベット・ミドラー)が突然現れる。15歳のときにエイプリルを産み養子に出したが、いまはテレビに出ている有名人だ。母と子の葛藤がいろいろあるがだんだんわかりあっていく。
フランクとも仲が深まるが、エイプリルは別れた夫の子を妊娠していることがわかる。彼女が病院へ行って診察椅子に座ったとき横にはフランクとベンが付き添う。その後に流産。
弟に相談すると養子をもらうか実母にお金を出してもらって人工授精したらどうかという。人工授精をしてからエイプリルはフランクに謝りにいく。
最後のシーンは遊び場にいる子どもを呼び寄せるエイプリル。彼女が抱きよせたのは東洋系の女の子だった。
コリン・ファース扮するフランクがまっすぐに怒り、まっすぐに愛するところがよかった。

読む本がいっぱいあって柿を食う

昨夜は映画を見てからブログを書き、「ジム・トンプスン最強読本」をぱらぱらと読んだり検索したりして遅くなってしまった。シャワーをすませてからもぐずぐずしていたら冷えてしまい、一度寝てからまた起きてトイレにいってソックスを履いた。映画のシーンが頭の中に出てきてなかなか寝付けず。今日は午後から爆睡2時間でとりもどした。ジム・トンプスンの力はやばい。
晩ご飯後にまた「ジム・トンプスン最強読本」を開いて評論を選んで読んだ。作品が何編か入っているのはまた後で読もう。
そして映画になった「グリフターズ」か、テレビで見た「鬼警部アイアンサイド」をまず読んでから、中身を忘れてしまった「ポップ1280」とあと2冊を読むとしよう。

まだ読みかけの本が待っている。
ヴァージニア・ウルフ「ダロウェイ夫人」、マイケル・カニンガム「THE HOURS めぐりあう時間たち 三人のダロウェイ夫人」、孫崎亨「戦後史の正体」の3冊。

〈山田さんちの柿〉をむきながらなにを先に読もうかと迷っている幸せな夜。

マイケル・ウィンターボトム監督『キラー・インサイド・ミー』原作ジム・トンプスン

原作がジム・トンプスンだからこの映画は手強いでと、見たいと思うときがくるまで置いてあった。ようやくマイケル・ウィンターボトム監督がどういう映画にしているか気になりだして今日見ることにした。2010年の製作。※本のタイトルは「内なる殺人者」、映画のタイトルは「THE KILLER INSIDE ME」

10年くらい前だったかジム・トンプスンにはまったときがあった。そのときに買った本を押し入れから引っ張り出した。6冊あったのでタイトルを書いておく。せっかく出したのだから当分身近に置いておこう。
「内なる殺人者」(1952)村田勝彦訳 河出書房新社
「失われた男」(1954)三川基好訳 扶桑社文庫
「グリフターズ」(1963)黒丸尚訳 扶桑社文庫
「ポップ1280」(1964)三川基好訳 扶桑社
「鬼警部アイアンサイド」(1967)尾之上浩司訳 ハヤカワポケミス
「ジム・トンプスン最強読本」(2005)小鷹信光ほか著 扶桑社

舞台はテキサス州セントラルシティ、だれもが顔見知りの田舎町、石油会社の経営者コンウェイが町のボスである。ルー・フォード(ケイシー・アフレック)は真面目で平凡な保安官助手。ある日、コンウェイに命令されて町外れの一軒家を訪ねる。ここに住む娼婦にコンウェイの息子が入れあげていて困っている。その女を町から出て行かせよとのことである。出てきた女ジョイス(ジェシカ・アルバ)は怒ってルーの顔を平手で叩く。そのときルーの中のなにかが目覚めた。彼はジョイスを殴り倒しベッドで獣のように交わる。それから何度もジョイスを訪れるうちにルーの内面がだんだん変わっていく。

見られたり関わりができた人間を無情に殺してもいつもの外見を保ち、前からつきあっている教師の恋人と結婚の約束をしているが、周りの人間にもだんだんおかしく思われるようになる。
ルーは自分の部屋の中ではオペラのレコードをかけ、ピアノを軽快に弾いているが、最初はいい感じと思っていたのがだんだん鬼気迫ってきて、どうなるやらと画面から目が離せない。
最後まで休む暇なく話がすすんでいく。
軽快な音楽が流れる画面ではほっとした。
新しい感覚のきっぱりした映画だった。