デユ・モーリア『レベッカ 上下』

年末に図書館で借りてきた。なんと中学生のときに姉の友人が貸してくれたのを読んで以来だ。映画(1940、日本公開1951)を見たのもずいぶん昔のことである。いま「レベッカ」が好きといっているのは、数年前に買った映画のDVDを何度も見ているから。マンダレーの門から屋敷に行きつくまでの長さは何度見てもおどろく。ピーター・ウィムジィ卿がハリエット・ヴェインを連れて母と兄がいる屋敷に行くときもそうだった。ダーシーさんとエリザベスのお屋敷もそうだった。イギリスのお金持ちに憧れるてるわたし(笑)。

ヒチコック監督の映画にすっかりはまって原作もそのとおりと思い込んでいた。ジョーン・フォンテインの〈わたし〉が語る物語。モンテカルロのホテルで金持ちのヴァン・ホッパー夫人の付き人をしている〈わたし〉と大金持ちのマキシム(ローレンス・オリヴィエ)が知り合う。ふたりは結婚してマンダレーの屋敷にもどる。若い娘にとってなにもなくても気後れするところを、マンダレーには亡くなった前妻レベッカの影響力がそのまま残っている。その上にレベッカに子どものときから仕えていたダンヴァース夫人が権勢をふるっている。

物語の大筋は映画と同じだが、肝心なところで映画は道徳的になっている。それと小説がもっている見せる場面が映画ではいっそうの見せ場になっていたように思う。
ヴァン・ホッパー夫人とのモンテカルロ滞在の話に入る前に、〈わたし〉とマキシムのいま(マンダレーがなくなってから)の生活が語られる。最初はすっと読んでいたが、あとでそこにもどって読み返し、ふたりの深い孤独な愛を想った。
(茅野美ど里訳 新潮文庫 上667円+税、下590円+税)

SUBの年末セッション

帰っても耳と心からジャズが離れなくて、さっきからニーナ・シモンを次々に聞いている。60年代、最初に持っていたジャズボーカルのレコードがニーナ・シモンで、タイトルを忘れてしまったが、一枚のレコードをすり減るほど何度も聞いていた。歌はけっこう覚えていてときどき歌っている。名盤として名前があるものではなかった。もともと弟のものでうれしそうに持っていたのを取り上げて返さなかったのだ。

今夜は出かけようと突然決め、あわててご飯を食べてSUBの年末セッションに行った。
竹田一彦さんのギター、矢藤亜沙巳さんのピアノ、千北祐輔さんのベースと、長谷川朗さんのサックスで、途中からドラムとクラリネットが入って楽しくも美しい演奏を聞かせてもらった。千北さんと矢藤さんは大阪出身だが東京で活躍されている。帰省されたのを長谷川さんが誘ってのライブである。
竹田さんのギターのお弟子さんたちが来られていて客席も賑やかだった。「弟子というよりファンです」という彼女らを〈竹田ガールス〉やなと思った。すごく慕っている感じが気持ちよい。
ギターを弾く竹田さんの指をじっと見ていたらほんまに繊細に動く。千北さんの力強い強烈な個性のベース。矢藤さんのピアノに新しいものを感じた。長谷川さんの演奏を来年はもっと聞こうと思った。ほんまに良い夜を過ごさせてもらった。

マイケル・ウィンターボトム監督『9 Songs ナイン・ソングス』

終ったとき、えっ、これで終わりなのと口走った。69分の映画だった。監督・脚本・製作・編集:マイケル・ウィンターボトム。2004年イギリス映画。

南極にいるマット(キーラン・オブライエン)の回想は別れてきたリサとのこと。
リサ(マルゴ・スティリー)は21歳のアメリカ人学生で、ふたりはロンドンのライブハウスで知り合った。マットの部屋で最初のセックスシーンがあって、それからずっと激しいライブのシーンとふたりの愛のシーンが交代にある。ふたりは夜になると人気バンドのライブに出かける。ライブシーンの現場感がすばらしい。帰るとふたりの世界になるのだが、ライブの影響を受けてだんだん激しくなる。マルゴ・スティリーのスリムな体がしなやかで美しい。

今回も先入観なしに見てびっくりしたマイケル・ウィンターボトム監督の映画だった。
セックスシーンということで昔見たベルナルド・ベルトルッチ監督の「ラストタンゴ・イン・パリ」(1972)を思い出したが、全然違う。昔はセックスもリクツっぽかったというのは冗談です。女子学生のマリア・シュナイダーがすごくよくて、それでいま思い出したのだが、もうお亡くなりになっていた。

アンドリュー・アダムソン監督『ナルニア国物語 第一章:ライオンと魔女』

なんにもしないのに気ぜわしい師走である。その上にたいそう寒い。
晩ご飯を食べて片付けをして、本も読みたいし映画も見たい。11時になったらユーストも見たい。メールの返信もしなくては・・・と気持ちが先走る。
だが、とりあえず映画を見ようとなった。
おとといみたいにしんどいマイケル・ ウィンターボトム監督の映画は今日はいらんねということで、確実に楽しめる「ナルニア国物語 第一章:ライオンと魔女」(2005)を見ることにした。

児童書の「ナルニア国物語」は大好きで全部70年代に読んだはずだ。あとのほうは忘れてしまったが、第一巻「ライオンと魔女」は何度も読んだしいまだによく覚えている。特に洋服ダンスからナルニア国へ行くシーンが好きだった。服がぎっしりつまった洋服ダンスって想像力を誘う。わが家が空襲で焼け出されて文化住宅にようやく入居したとき、どこかでもらった古い洋服ダンスには両親と姉兄たちの服がひしめいていた。かけられた服をたぐると向こうに別世界があるような感覚があった。向こう側にナルニア国があるとは思えなかったのは、狭い家と小さなタンスのせいだ(笑)。

映画はお話のとおりに進んでおもしろかった。大掛かりな戦闘シーンもありのままのように思えるくらい(笑)。白い魔女はアンデルセンの雪の女王を思い出させて、さすがのティルダ・スウィントンだった。ルーシーがとても可愛くてよかったな。
原作を読んだときには気がつかなかったが、ピーターは長男そのもので財産相続人として権力と責任とを持つ人間として育っていっているのがわかった。

マイケル・ ウィンターボトム監督『バタフライ・キス』

マイケル・ ウィンターボトム監督の映画をT氏のおかげでかなり見ることができ、なんとなくわかったような気になっていたのだが・・・。第二弾としてまた数本を貸していただいて、そのうちの1本「バタフライ・キス」(1995)をタイトルがいいからとなにげなく見たら、すげえ映画なのであった。

白い服の美しい女性が穏やかに語っているシーンからはじまる。ミリアム(サスキア・リーヴス)であることが見ているうちにわかってくる。
北イングランドのランカシャー。ユーニス(アマンダ・プラマー)はガソリンスタンドの売店で愛の歌を探していて声をかけた店番の女性にジュディスかと聞く。彼女はジュディスではなかった。ユーニスはなんということもなくその女性を殺す。
ミリアムが店番をしているガソリンスタンドにも来て同じように聞く。店から出て道ばたに座って話すふたりのシーンがよい。どきっとするユーニスからのキスシーン。ミリアムはユーニスを一晩泊めることにして家へ連れて帰る。その家でも勝手気ままなユーニス。病気の母親を狭いベッドに押し込め、母親のベッドでユーニスはミリアムを誘う。ユーニスの体は入れ墨が入り鎖が巻かれ肌は焼かれたように変色している。
母親をほったらかしてふたりの旅がはじまる。
旅の途中で関わった人間たちを殺し、その人間の車でまた旅を続ける。なぜか死体はすべて見つからないし、不審者として車を止められることもない。こんなロードムービーははじめてだ。
ミリアムの無垢の愛はユーノスが死を求めると死を与えるところまでいく。

キリスト教をわかっていたり旧約聖書を読んでいたらと思ったが、考えているうちにそうでもないような気がしてきた。いまの時代を生きる人間を描いた映画だ。

リチャード・カーティス監督『ラブ・アクチュアリー 』

今夜は楽しい映画を見たいということで、これは間違いなしのラブコメディと選んだのが「ラブ・アクチュアリー 」(2003)。偶然だが時期がいまの季節にぴったり。クリスマスまであと何週間というところからはじまる。クリスマスに関わる映画はたくさんあるけれど「恋に落ちて」が好きで、映画館で見てからレーザーディスクを買って何度も見た。「ラブ・アクチュアリー 」もこれから何度も見ると思う。

「ブリジット・ジョーンズの日記」「フォー・ウェディング」「ノッティング・ヒルの恋人」の脚本家リチャード・カーティスが監督した映画のもう1本の映画「パイレーツ・ロック」を先日見たところ。北海に浮かぶ船から海賊放送する話でDJや関係者の群像がよく描かれていた。「ラブ・アクチュアリー 」はなんと19人のロンドンで暮らす人たちの愛を描いている。

好きな俳優がたくさん出ているのも魅力。コリン・ファースでしょ、ヒュー・グラントでしょ、リーアム・ニーソンでしょ、それに、ローワン・アトキンソンが二度も出てきて笑わせてくれる。
女性のほうはエマ・トンプソンが会社経営者アラン・リックマンの奥さん役で夫の浮気を知る。キーラ・ナイトレイは結婚式シーンがあって、それをビデオに撮った彼は彼女の顔やしぐさばかり撮っていた。エマ・トンプソンの夫にちょっかいをかける女性社員ハイケ・マカッシュとミステリ作家役コリン・ファースと恋に落ちるルシア・モニスがいい感じ。

ヒュー・グラントの首相はたよりなげなのだが、アメリカ大統領をやりこめる挨拶をしたところにイギリスらしいユーモアがあった。ヒューもコリン・ファースもトクな役を楽しげに演じていた。リーアム・ニーソンの息子がめちゃくちゃ可愛くて幼い恋をがんばる。
9つの恋の物語がクリスマスに向かって熱を帯びてきて、ついにクリスマスがやってきた。

キース・フルトン &ルイス・ペペ監督『ブラザーズ・オブ・ザ・ヘッド』

映画をよく見ていると自負していたのはいつのことだったやら。いまDVDを貸していただいている映画の大部分はタイトルも知らなくて情けない。
今回の「ブラザーズ・オブ・ザ・ヘッド」(2005)を見る前にT氏からの解説を読んだ。
【原作は「地球の長い午後」で知られる、英国SF界の奇才ブライアン・オールディズ。ロックと映画、英国が誇る現代カルチャーの鮮やかな結合です。】
まず、ブライアン・オールディズを知らんがな、と言ったら相方がSFの棚から「地球の長い午後」を出してくれた。これもショック。なんか良さげなのでいま読んでる本をすませたら読む。

ドキュメンタリー映画ではないと承知して見はじめたのに、見ているうちにそのままドキュメンタリーとして見てた。
結合性双生児の兄弟として生まれたトム(ハリー・トレッダウェイ)とバリー(ルーク・トレッダウェイ)は、父と姉とともに島で育ち暮らしていた。島にぽつんとある建物がすごく雰囲気があって、海岸で遊ぶこども時代のふたりの姿が楽しげだけど孤独ですごい。
1975年、青年になった彼らを音楽で売り出そうとする人たちが、バンド名をザ・バンバンとして練習をはじめる。美しい結合性双生児を演じるのは美形の双子の兄弟ハリーとルークで実際に11歳からバンドをやっていたというから迫真力あり。
練習が進むにつれ妖しい美しさを発揮し出すふたり。グラムロックの美しさとパンクの激しさを合わせたような彼らの音楽と危うい姿にクラブの客もノリノリになる。

ブライアン・オールディズとケン・ラッセルの本人が出演している。それでますますドキュメンタリーを見ているように錯覚するのか。
よかった、よかった、すごく気に入った。異形の美形に魅せられた。

若きSUBとサミュエル・アダムス

先週の金曜日の帰りに来週の月曜日はニューヨークから帰阪中のタロー岡本さんが寄るからと誘われた。わたしはなぜかタローさんのドラムは聞いたことがないのでありがたい。昨日ミクシィでH氏がSUBへ行くと書いておられたので、久しぶりに会うのも楽しみに出かけた。

8時半に着いたらお店いっぱいの人でおどろいた。岡本さんは来られないそうで、若者たちの演奏を聞いたんだけど、いやー、よかった。大阪のジャズ界を引っ張って行く気概の長谷川朗くんなのであった。
メンバーは、長谷川朗(sax) 平野圭介(trombone) 武村一輝(bass) 中道みさき(drums)
わたしはトロンボーンを演奏しているところが好き。いちばん前に座ったのでトロンボーンのスライドの先がすぐ前に延びるのも楽しかった。なんとなくからだを傾けて避けてた(笑)。
時間がすぐに経ってええっ、もうこんな時間か〜 11時過ぎだ。

H氏とはずっと前にSUBで顔見知りになってたんだけど、ゆっくりと話したのははじめて。ずいぶん古いマックユーザーというのもはじめて知った。わたしのほうがちょっと古いが(えへん)。

いつもコーヒーなんだけど、H氏がビールはなににしようと聞いたときにサム・アダムスがあると返事が聞こえた。サミュエル・アダムスはボストンのビール、かのスペンサーが愛飲していたやつではないか。ということでわたしも飲んだ。帰って検索したら間違いなかった。素晴らしい記憶力やな(笑)。ちょっと濃くてうまかった。

マイケル・ウィンターボトム監督『マイティ・ハート/愛と絆』

「マイティ・ハート/愛と絆」(2006)というタイトルでは内容がわからず、マイケル・ウィンターボトム監督だからと見はじめたら、なんと9.11の翌日にパキスタンに着いた特派記者夫妻を描いた作品だった。製作がブラッド・ピットで彼のパートナーであるアンジェリーナ・ジョリーが妻を演じている。原作はマリアンヌ・パールの「マイティ・ハート 新聞記者ダニエル・パールの勇気ある生と死」。

ダニエル(ダン・ファターマン)とマリアンヌ(アンジェリーナ・ジョリー)はふたりともジャーナリストでマリアンヌは妊娠5カ月である。
ダニエルはウォール・ストリート・ジャーナルの特派員でアルカイダに関係のある人物と接触しようとしている。この取材がすんだらふたりで帰国するはずだったが、ダニエルはもどらず電話もつながらない。夫妻の友人アスラはイスラム系のインド人女性ジャーナリストで、マリアンヌを助けていつも側にいる。
マリアンヌはアメリカ領事館の担当者、パキスタンのテロ対策組織の責任者、新聞社の上司に連絡すると彼らは続々とマリアンヌの家に集まる。FBI捜査官も加わった。
ダニエルをスパイとする現地の新聞記事が出たあとに拘束された姿のダニエルの写真がメールで送られてきた。
ダニエルの足取りを追っていくとパキスタンのテロ組織が浮かんできた。ダニエルはこの組織に誘拐されて処刑され、ナイフでの処刑シーンのビデオが送られてきた。

ところどころに、ふたりが知り合ったころや結婚式のシーンが入り、ダニエルがユダヤ人としてのアイデンティティを主張するところも入る。
凛としたマリアンヌは夫が処刑されたと知って慟哭するが、テレビのインタビューでは冷静に応対する。処刑ビデオを見たかとインタビュアーに聞かれて、あなたは人間か(こう言ったように記憶)と聞き返すところが圧巻。

SUB、西山さんの遺してくれたもの

10月6日に行って以来だからいままでになく間隔をあけてしまった。午後のお茶も行けずじまいにも関わらず忘れずに歓迎してくれてありがたいこっちゃです(笑)。
この1カ月はまともに音楽を聞かずにユーストばかり見ていたような気がする。演奏がはじまってすぐに幸福感に満たされるのを感じた。

竹田一彦さんのギターに宮上啓仁さんのベース、途中から横尾昌二郎さんのトランペットと長谷川朗さんのサックスが加わった豪華な演奏。
ノリのよい3人連れのお客さんがいて盛り上がった。わたしのことを竹田さんの奥さんかと思ったそうな(笑)。こちらを振り向いて合図したり楽しいひとだなと思っていたら、その方は黒門市場の某有名店の店主で昔から竹田さんのファンなんだって。

休憩時間に何回か会ったことのある女性とちょこっと話をしたのだが、お互いに西山さんの最後の演奏の思い出を持っているのがすばらしい。遺してくれたものの大きさを思う。

その続きの会話から。晩ご飯のあとに出かける習慣というか文化が必要やね。ご飯食べたらテレビを見るんやなくて、たまにちょこっと出かけるのが当たり前になれば、SUBも生きやすくなるし、わたしらも生きやすくなるのにね。