ユッシ・エーズラ・オールスン『特捜部Q 檻の中の女』(1)

久しぶりにミステリにのめりこんだ。ユッシ・エーズラ・オールスンによるデンマークの警察もの「特捜部Q 檻の中の女」がおもしろい。医師の山田真さんが2作目の「特捜部Q キジ殺し」を激賞されていたので、まずは1作目を買ってみた。これ読み上げたら2作目を買いにいく。
あと少しで読み終わるのだが楽しみを引き延ばしておもしろいということだけでも書いておこう。

コペンハーゲン警察のカール・マーク警部補は部下の二人とともに悪臭に気づいた隣人が通報した朽ち果てた小屋に入って行った。死臭立ちこめる中へ入って5分もしないうちに銃撃される。アンカーは死亡しハーディは脊椎損傷専門の病院に入院中である。生き残ったカールは罪悪感から立ち直れないでいる。

カールはヤコブソン課長から新しい部署で働くように言われる。新設の部署〈特捜部Q〉はカールが単独で動き、全国各区の未解決事件を担当する。オフィスは地下におくといわれてカールは思う「不愉快な同僚は隔離房に監禁か」。オフィスが整うと彼は助手を要求する。

地下のオフィスにやってきたのはハーフェズ・エル・アサドと名乗るシリア系の浅黒い肌の男でカールよりも年上のようだ。彼は掃除をしお茶を入れ書類の整理をする。二人はたくさんの未解決ファイルの中から「女性議員失踪事件」を選ぶ。
(吉田奈保子訳 ハヤカワポケットミステリ 1900円+税)

レジナルド・ヒル『探偵稼業は運しだい』

レジナルド・ヒルのダルジール警視ものとは別のシリーズで私立探偵ものである。1月にSさんから貸していただいて読んだ「幸運を招く男」が1冊目で、本書は3冊目。表紙を見てコージー・ミステリと間違ったくらい明るい表紙だ。
1冊目はアメリカに例えればデトロイトの感じ。ジョー・シックススミスは工業町ルートンで旋盤工をしていて失業し、これならいけるかと私立探偵事務所を開いた黒人の独身男。冴えないけれど愛嬌がある。お節介な伯母さんと彼女に紹介されたペリルとうまくいきそうだったが。

今回は季節が夏というだけでなく全体にカリフォルニアの雰囲気である。
ひまな午後をジョーが事務所でまどろんでいると依頼人が現れる。〈若き金髪の神〉30歳になるかならず、長身で少年ぽいハンサムで髪は淡い金髪で濃い金色に日焼けしている。金がかかった服装をしているが態度がすがすがしい。
クリスチャン・ポーフィリはウッドパイン警視に紹介されてきたという。相談に行ったら警察の扱う仕事ではないからジョーのところへ行け、彼はこの仕事にぴったりだといったそうだ。「ええと、現在わたしは非常に忙しくて・・・」とジョーがいうと、「もちろん、あなたがひっぱりだこだということは承知している・・・」と4枚の50ポンド札を置いた。そして明日〈ロイヤル・フー〉で待つという。
ルートンにはクラブは多いが、ジョーは〈ロイヤル・フー〉を知らない。フーというのは〈ドクター・フー〉かというくらいに。

こんな出だしでいくからどんどん先を追って読んでしまう。殺されそうになるし、女性にもてもてだし、私立探偵ものの醍醐味をこれでもかと盛り込んで楽しんでいるヒルさんである。
(羽田詩津子訳 PHP文芸文庫 857円+税)

サラ・パレツキー『アンサンブル』(3)

第三部「ボーナス・トラック」には去年(2011年)の11月に刊行されたアンソロジーのために書かれた作品「ポスター・チャイルド」が入っている。ヴィク・シリーズでなじみのフィンチレー警部補が出てくるのがうれしい。

湖畔には霧が立ちこめていてジョギングやサイクリングの連中が前を通っているのに気づかれず、死後1時間も経ってから男の死体が湖畔のベンチで発見された。男は顔面を強打されて眼球がつぶれていた。口からはみ出ているのは中絶反対のチラシを丸めたものだ。
フィンチレー警部補が連絡を受けたときはまだ被害者が有名人であることがわからなかった。それでベテラン刑事ではなく、怠け者のビリングズと新米のリズ・マーチェクの二人組を現場へ行かせる。

被害者は中絶推進派を激しく攻撃しているカルヴァーだった。中絶に反対するアメリカ国内の教会の潤沢な資金を後ろ盾にし、リベラルなクリニックにヘリから爆弾を投下したり、リベラルな考えのクリニックのスタッフの子どもたちをつけまわすなどの活動を続けている。
今回も活動中でドクターがタクシーから降りて船に乗るときに、連れていた子どもに中絶反対のチラシを渡させる。そのチラシをドクターはカルヴァーの顔に投げ返した。ドクターは警察に連れていかれる。

リズは祖父母に育てられたユダヤ系アメリカ人で、7年間パトロールの仕事をしてから刑事試験に合格した。祖父は彼女を〈アナーキスト刑事〉と呼んでいる。
懐かしきフィンチレー警部補はリズが単独行動をとったときに「きみがV・I・ウォーショースキーになったつもりで・・・」と注意する。笑えるシーンだ。リズはそのときヴィクを知らないのだが(もしかして次の長編にリズが出てくるかも)。
アメリカの現在の状況がわかる一編。
(山本やよい訳 ハヤカワ文庫 900円+税)

サラ・パレツキー「アンサンブル」(2)

全部読み終わったのだが、やっぱりはじめて読んだ「V・I・ウォーショースキー最初の事件」のインパクトが強かった。
最初の事件と聞けば、私立探偵になって最初に引き受けた事件のことかなと思うよね。そこはヴィクのこと、栴檀は双葉より芳しくて子ども時代の話なんである。懐かしのいとこブーム・ブームが出てくる。ヴィクトリアはいとこからトリと呼ばれている。ふたりはお金を払わずにリグレー球場に忍び込んだり自転車で遠出したりして仲が良い。だが、夫が兄弟どうしのブーム・ブームの母のマリーとトリの母のガブリエラは真っ向から意見が対立している。キリスト教に忠実なマリーと自由を愛するガブリエラ。

1966年、父親のウォーショースキー巡査はキング牧師のデモ行進があるため、三日連続で勤務している。この夏はデモや暴動がすでに何回もあり、サウス・サイドに住む白人たちはキング牧師たちに本来の居場所であるミシシッピーなどにとどまるべきだと教えるために全力をあげようと誓っていた。

父の兄弟の事件とデモの騒動がからんでシカゴの街が大荒れの中、父トニーを殺すという言葉を聞いたトリは父を探そうと自転車で走り出す。ブーム・ブームは母につかまって追えない。
父からプレゼントされたカメラで悪いヤツを写しておくし、推理は働くし私立探偵の素質充分のヴィク。しかもワルたちに車のトランクに放り込まれて放置されるが、探しにきたブーム・ブームに助けられる。
毎度おなじみのボビー・マロリーだってまだ若い。そしてヴィクをヴィッキーと呼んで読者を喜ばせる(笑)。
(山本やよい訳 ハヤカワ文庫 900円+税)

サラ・パレツキー『アンサンブル』(1)

表紙をめくるとすぐに、サラ・パレツキーさんの日本読者に向けた温かい気持ちが伝わる「三十周年に寄せて——日本の読者のみなさまへ」がある。

読み出したらかなり読んだことがあるのに気がついた。第一部は4作中3作は読んだことがある。残念ながらブログをはじめる以前に読んでいるので感想が残っていない。会報のバックナンバーを調べれば出てくると思うのだが。

第一部 V・I・ウォーショースキーの事件簿
追憶の譜面 《ミステリマガジン》1997年1月号で読んだ
売名作戦 《ミステリマガジン》1997年11月号で読んだ
※2002年にサラ・パレツキー自身が自費出版した「V.I. ×2」(2002)に入っている
フォト・フィニッシュ 《ジャーロ》2001年春号で読んだ
※2002年にサラ・パレツキー自身が自費出版した「V.I. ×2」(2002)に入っている
V・I・ウォーショースキー最初の事件 ◎初紹介
※上の「V.I. ×2」に本作品を加えて「V.I. ×3」(2007)として自費出版された

第二部 ウィンディシティ・ブルース
命をひとくち 《ミステリマガジン》1998年9月号で読んだ
スライドショー ◎初紹介
フロイトに捧げる決闘 《ミステリマガジン》1994年11月号で読んだ
偉大なるテツジ ◎初紹介
分析検査 武田ランダムハウスジャパン《主婦に捧げる犯罪》2006年に読んだ

第三部 ボーナス・トラック
ポスター・チャイルド ◎最新の作品

以上を目次とタイトル裏から書き出したら落ち着いた。これで古い雑誌を捨てることができる。ヴィクものが少ないけど、「V・I・ウォーショースキー最初の事件」が楽しいので充分むくわれた。
そして、「ポスター・チャイルド」では、ますますサラ・パレツキーが元気であることがわかってうれしい。

※「V.I. ×2」が2002年に自費出版されたことを知ったとき、ヴィク・ファン・クラブ会員の一人がまとめてネット購入してほとんど全員が手に入れた。「V.I. ×3」のときは知らなかった。
(山本やよい訳 ハヤカワ文庫 900円+税)

ピーター・トレメイン『サクソンの司教冠』

アイルランドの修道女フィデルマが滞在中のローマの僧院で殺人事件が起こる。殺されたのはカンタベリー大司教の指名者ウィガードで、犯人はアイルランド人の修道士だとだれもが思っているようだ。もしそうならアイルランドとサクソンの間の争いが再燃する。
翌朝、ゲラシウス司教に呼び出されたフィデルマの前に現れたのは、ローマに滞在中のサクソン人の修道士エイダルフだった。前日挨拶にいったフィデルマが〈アイルランドのブレホン法の法廷に立つドーリィー〉と答えたのを覚えていたゲラシウス司教が、以前、フィデルマとエイダルフが協力して事件を解決したことから、今回もと命じた。二人の護衛に宮殿衛兵隊の小隊長リキニウスがつく。

真実を探ろうと二人は関わりのあった人たちに会って話を聞く。続く殺人、第三の殺人と追いかけるよりも早く事件は続いていく。殺人だけでなく、好色な修道士や、アレキサンドリアの図書館の放火による火事から救い出された貴重な本を巡る事件がある。ハードボイルドの女性探偵のようにフィデルマは地下墓地で襲われる。やがて殺されたカンタベリー大司教の指名者ウィガードの過去が明らかにされる。権力欲と色欲と所有欲、そして兄弟愛がフィデルマの明晰な頭脳によって明らかにされる。

なにも思わず7世紀アイルランドの修道女のシリーズとして読んでいたが、この時代だったのだ。
【「預言者?」「三十年ほど前に、亡くなった“メッカのムハンマド”のことです。彼の教えは、野火のように東方の人々の間に広がっていきました。彼らは、この新しい宗教をイスラム教と呼んでいますが、これは、“唯一神”、あるいは“アラーへの服従”という意味です。」】

アレキサンドリアの街への襲撃、そして図書館の放火について、
【「イスラム教というのは、ほんの数十年前に予言者ムハンムドが始めた新興宗教の信者だが(中略)彼らは、新しい教えに改宗しない者を“異教徒(カーフイル)”と称し、彼らの指導者たちは“聖戦(ジハード)”と叫びつつ、あらゆる“異境徒”を襲いはじめた。」】

事件を解決しローマでの用件も終わり、フィデルマはアイルランドに帰る船に乗ろうとしている。エイダルフが見送りにきているところへリキニウスがお別れの品を持ってくる。ゲラシウス司教もやってくる。エイダルフは船が見えなくなるまで見送っていた。
(甲斐満里江訳 創元推理文庫 1300円+税)

修道女フィデルマの物語を読んでいて思い出したこと

「サクソンの司教冠」はピーター・トレメインの修道女フィデルマシリーズの7冊目、短編集が2册と長編で上下になったのが3冊あるから冊数からいくと10冊目。
7世紀のアイルランドを舞台に修道女フィデルマが活躍するシリーズだが、今回は教会会議に出席する代表たちに法律上の助言をするためにローマにきている。
フィデルマはローマの司教にアイルランドの王たちは法廷に女性が立つことを認めているのかと問われて「修道女であるだけでなく、アイルランドのブレホン法の法廷に立つドーリィー(弁護士、時には裁判官としても活躍)でもありますので・・・」と答えている。
7世紀のアイルランドの物語を読んで羨ましがってます(笑)。

さっき、お風呂でわたしが若いときから比べると世の中は変わったといえる出来事を思い出した。もう30数年前のことだ。仲良しの女性が結婚した。もちろんずっと働くつもりでいる。結婚披露宴は会費制でたくさんの友だちが集まっていたが、挨拶でだれもが彼女に内助の功を求めるのである。しかも挨拶をするのは男性ばかり。わたしはだんだん怒りが溜まって、ついに手を挙げて「彼女ばかりが内助の功を求めらてますが、彼も彼女のために内助の功をやってください」といったら、しらけ鳥が飛んだ(笑)。

まだまだ女性の賃金は低く家事労働の負担も大きい。でも反原発のデモに行くと元気な女子がいっぱいいて、子どもを連れたお母さんたちが元気だ。すこしは世の中進んでいるよね。そう思いたい。そうやなかったらやっとられん(笑)。

レジナルド・ヒル『武器と女たち』を買って読んだ

さっき「武器と女たち」三度目を読み終えた。最初に読んだのは2002年で次に読んだのは2007年、2回とも図書館の本だ。今回はアマゾンの中古本で最後の4冊を買った。これで翻訳された本はみんな持っていていつでも好きなときに読める。箱に入れてしまうと取り出すのが面倒なので、本棚を整理してずらりと並べようかと考え中。いまのレジナルド・ヒル熱がそのままいくとすれば本棚でないとややこしい。
いま気がついたが5年おいての三回だ。いまや全册読んで(持って)いるから余裕である。シリーズの前のほうに出てきた登場人物がさりげなく出てくるのを楽しめるのもベテラン読者ならでこそ、えへん(笑)。

エリーとダフネ・オールダーマンは階級をこえて仲が良い。ダフネは「薔薇は死を夢見る」で知り合った資産家の妻である。今回は何者かに狙われたエリーを娘のロージーと犬のティグ(この犬も最初は「ベウラの頂」に登場、ウィールドが引き取って連れて帰り、病気が治ったロージーの友となる)ととも海辺の別荘に招待する。

ドクター・ジョー・サウデンは「死にぎわの台詞」で知り合った医師である。お互いに忙しくてぎすぎすするが、最後には今日は帰りにいっしょに飲みましょう、となった。それから仲良くなっていたのね。ここではダフネがエリーにかかわって怪我をし入院したときに出てくる。

このシリーズは登場人物がゆっくりと年を取っていく。それでも16冊目となればピーターは主任警部となり、エリーは本が最初の本が出版される手はずとなる。ふたりの娘ロージーは学校に行っている。それなりに貫禄がついているのを、若いシャーリー・ノヴェロ刑事はエリーとダフネを〈おばさん〉(ダフネは裸で海で泳ぐおばさん、エリーは詩を朗読するおばさん)としか認識してない。

ダフネの夫パトリックは薔薇と植物に精通している。別荘名の〈ノーズブリード・コテッジ〉が〈鼻血〉を意味することについてうんちくを傾ける。ノコギリソウのことを〈ノーズブリード〉という。その葉を鼻に入れると鼻血が出る。それが愛が本物がどうか確かめる方法なのだ。こんな話をエリーにする。
〈ノーズブリード・コテッジ〉に行って外で犬と遊んでいたロージーは、知らない女性から花束をもらう。エリーが見るとそれはノコギリソウだった。そこでエリーは詩を暗唱しノヴェロにいやがられる。
最後の一節は【わたしはすべての男を傷つけ、一人の男もわたしを傷つけることはない。】これはノコギリソウを摘むときに唱えるゲール語の呪文だとパトリックは教える。すごいなあ。
(松下祥子訳 ハヤカワポケットミステリ 1800円+税)

ナンシー・アサートン『ディミティおばさまと貴族館の脅迫状』

毎度Sさんに貸していただいているディミティおばさまのシリーズが7冊目になった。1年半経たないうちに7冊だから人気があるのね。たしかに嫌みがなくて読みやすい。
主人公のロリはいつも美男子とあやうい中になりかけるが、事件を片付け最後には優しい夫のビルのもとへもどる。
ロリはシカゴの労働者階級の生まれだが縁あってイギリスへ渡り、弁護士の夫ビルと双子の男の子とコッツウォールドに住んでいる。遺産を遺してくれたディミティおばさまは、ロリがひとりでいるときにノートを開くと流麗な文字で意見を書くという行為で存在する。
今回は隣家に住むエマが突然ロリのところへやってきたところからはじまる。

エマの夫デレクは前の妻を亡くし二人の子どもがいる建築家で、アメリカ人のエマとは二度目の結婚である。デレクは実は貴族の跡継ぎだったが父親に背いて自立していたのをエマに話していなかった。今回父のエルスティン伯爵に招待されたので行かねばならない。エマはロリにいっしょに行ってほしいと頼む。ビルは三カ月前から伯爵のアメリカでの事業の顧問弁護士になっているのでロリはいっしょに行くことにし、エマとロリは大慌てで衣装や持ち物を整える。

英国のお屋敷というと、わたしは映画「レベッカ」を思い出す。門を入ってからうねうねと車で行くと大きなお屋敷が見えてくる。ドロシー・L・セイヤーズのピーター卿のお屋敷もそうだったなぁ。まあ、そういう屋敷に到着し、それぞれの部屋に落ち着く。ロリはさっそくデレクのいとこサイモンと気が合う。サイモンの妻のジーナは伯爵の顧問弁護士として屋敷にいる。
(朝月千晶訳 RHブックス+プラス 820円+税)

ジェシカ・ベック『午前二時のグレーズドーナツ』

タイトルと表紙のイラストを見ただけでドーナツを食べたくなる。訳者の山本やよいさんに送っていただいたのをすぐに読みはじめて翌日読んでしまった。ドーナツを食べたくなる本やでと友だちにいったらすぐに二人が注文した。ドーナツでなくてこの本をね。

アメリカ、ノースカロライナ州にある人口5001人の町エイプリル・スプリングスで、スザンヌ・ハートはドーナツの店〈ドーナツ・ハート〉を経営している。俳優のマックスと結婚していたが、夫の浮気がわかって離婚し、離婚手当で店の権利を手に入れた。
毎日午前2時には店にきてドーナツ作りをはじめ、正午には後片付けをすませて店を閉める。おかげで夜の8時以降のデートの可能性はゼロ。でもマックスと別れて以来男性に興味がもてないでいる。アシスタントのエマは2時半頃にやってくるが、今日はお休みの日でスザンヌは一人で働く日である。

外で車の音がしたので照明をつけると、スキーマスクをした男が店の前に人の身体を投げ出して車で走り去った。よく見ると知り合いの銀行員パトリックですでに死んでいた。
警官たちが帰った後、ドーナツ作りをはじめる。パンプキンドーナツを作り終えてプレーンなケーキドーナツ(プレーン、ブルーベリー、チェリー)を作り始める。この手順を読んでいるとだんだんドーナツが食べたくなってくる。
常連のジョージが来ていつもの通りの注文をしてから、噂を聞いたが何があったかほんとのことを話してくれという。ジョージは10年以上前に警察を辞めた元警官である。
州警察捜査官のジェイク、警察署長と警官たちが捜査をはじめているが、ジョージや親友のグレース、近所で衣料店をやっているギャビーが協力してくれてスザンヌは自分なりに調べ始める。
そして、ジェイクと食事に行く仲になる。いっしょに行ったイタリアン・レストランの料理が、これまたおいしそうでコージーミステリの醍醐味をたっぷり味わえる。お約束のレシピ〈ドーナツの作り方〉が巻末にいっぱいあります。
近くにおいしいドーナツ屋さんがなくて、わたしはまだドーナツを食べてない。
(山本やよい訳 原書房コージーブックス 838円+税)