レジナルド・ヒル『死にぎわの台詞』続き

パスコーとウィールドはいっしょに聞き込みにまわる。母親を介護している女性との会話では、
【「ときどき喜んで母を殺したくなるときがあるのよ。実の母親に対して感じるべきではことじゃないわね?」パスコーはこの率直な告白にいささか度肝を抜かれて、言葉に窮した。だが、ウィールド部長刑事は、報告書から目も上げずに、言った。「お母さんだって、あなたがまだ赤ん坊で、真夜中にギャーギャー泣いたときには、喜んであなたを殺したいと思ったことがあると思いますよ。・・・」】その言葉で彼女は一瞬いきいきとかわいい少女のような顔になる。

パスコーは早退するので〈黒牡牛亭〉でウィールドにビールをおごり、捜査の打ち合わせをする。レズビアンの女性の件になるとウィールドは、
【「彼女はレズビアンだから、悪いことをやっていそうだ、という意味ではないでしょうね」彼は穏やかに言った。】パスコーは否定したが自分が偏見をもっているとみられたことに苛立つ。【ウィールドはうなずいて納得した。彼が職業人としての場で自分がホモであることを言明するのは、せいぜいこの程度の穏やかな抗議によってだった。彼が警察に入ったころは、ホモであることを隠さなければならないのは自明のことだった。だが、時代は変わり・・・】

ウィールドがパスコーについて思うこと。パスコーが現代的なリベラルな物の見方をするにもかかわらず、
【男女平等であるという彼の信念は、女性がその業績だけでなく、下劣さにおいても男性に匹敵することを発見して、いまなお失望せずにはいられないのだ。】

車に衝突して死んだウェスタマン(70歳)の「パラダイス! 運転してたやつ・・・あのふとっちょ・・・酔っぱらいめ!」の最後の言葉でダルジール警視は窮地に立つが、最後にヘクター巡査の身勝手というかご愛嬌というか、の行動のおかげで一件落着。地味な聞き込みではじまった物語だがクライマックスがど派手。
(秋津知子訳 ハヤカワポケットミステリ 1500円+税)

「ミステリマガジン」5月号はレジナルド・ヒル特集

いちばん楽しかった記事は翻訳者の松下祥子さんの連載記事の「ダルジール警視の好物」(ミステリヴォイスUK 第53回)だ。松下さんはヒルが亡くなったあとで日本の愛読者情報を知ろうとネットを見た。数は多くないがとても熱心で、感想をブログに綴っているひとも何人かいるのがわかった。わたしもブログを書いているので読んでくださったと知ってうれしい。というのはわたしが書いた「パーキンというお菓子を食べてみたい」に応じた「ダルジール警視の好物」なので。

【ホテルのテラスで。「濃いヨークシャー・ティーをポットで頼む。あと、パーキンもいいな」。パーキンは〈ヨークシャー名物の生姜と蜂蜜のケーキ〉と註がある。パーキン食べてみたい。(230ページ)】とわたしは書いている。
以上をふまえてパーキン(parkin)の作り方を教えてくださっている。パーキンにはいろいろなバージョンがあるが、黒糖蜜、オートミール、生姜を入れるのが特徴だそうだ。レシピが書いてあって、もっちりした黒いケーキができるそうである。わーっ、食べたい!
材料はなんとかなりそうだけど、うちにはオーヴンがないのでできない。そのうち誰かが作ってご馳走してくれるのを期待しよう。
ヨークシャー・ティーは製茶会社テイラーズの紅茶の銘柄だそうだが、日本で手に入るのかな。

その他、ダルジールの好物や作中で食べたものいろいろ。おいしそうなロースト・ビーフとヨークシャー・ブディング、ミート・パイ。そして、マトン・パスティー、イヴのブディング、スポッティド・ディッグなど名前も知らなかった食べ物の話や作り方があって楽しい。
(早川書房 876円+税)

レジナルド・ヒル『幻の森』再読

旧日記から最初の感想〈レジナルド・ヒル「幻の森」〉をこちらのブログに移したので内容などはそちらへ。

今回本書を再読して第一次大戦に巻き込まれた人たちのことを解き明かそうとするレジナルド・ヒルの意気込みを感じた。パスコー主任警部は曾祖父の生まれと育ちとそして戦争での死の真相を徹底的に調べる。小説であるから曾祖父の死といまヨークシャーで起きている事件は結びつけられるが、ヒルは第一次大戦の反省がまだ終わっていないというか、まだ引きずっていることを書こうとしたのかと思う。

第一次大戦というと1914年と思い出す。中学のときに読んだロジェ・マルタン・デュ・ガールの「チボー家の人々」1914年夏。エーリッヒ・マリア・レマルクの「西部戦線異状なし」は姉たちがさわいでいたのでよくわからなかったが読んだ。ヴァージニア・ウルフの「ダロウェイ夫人」は小説と映画で。そして、ドロシー・L・セイヤーズのピーター・ウィムジイ卿は戦争体験の記憶に悩まされている。フランソワ・トリュフォー監督の「突然炎のごとく」。
(松下祥子訳 ハヤカワポケットミステリ 1700円+税)

レジナルド・ヒル『子供の悪戯』を再読 

先日、中古本で買ったうちの一冊。
「社交好きの女」(1970)、「殺人のすすめ」(1971)、「秘められた感情」(1973)、「四月の屍衣」(1975) 、「薔薇は死を夢見る」(1983)、「死にぎわの台詞」(1984) に続く7冊目の作品「子供の悪戯」(1987) を再読した。
当ブログの前に書いていた「kumiko pages」に2003年1月に感想があるのをいま見つけた(こちらに至急移す)。レジナルド・ヒルが大好きになってもう病気だと書いている。そのわりには全部を読むのが遅かった。いま新たに全作品を読むと決意したところ。実は最近読み出して年内に全巻読むと宣言している知り合いがいるので負けていられない(笑)。

このシリーズでは登場人物は年代よりもゆっくり年をとっていく。パスコー夫妻が結婚して娘のローズが生まれて成長していくが、まだ大人になっていない。現代の社会が引き起こす事件があって、ダルジール警視、パスコー主任警部、ウィールド部長刑事が動き、やがて若手の刑事たちが登場するが、中心になって事件にあたるのはこの3人である。
ダルジールとパスコーが出会う最初の作品「社交好きの女」からはじまって、パスコーとエリーが再会して結婚にいたり、エリーは子どもを育てながら作家として世に出る。ウィールドがゲイの警官であることで悩み、過ちもあったが立ち直り、そしてインテリでユーモアがわかる伴侶を見いだす。ダルジールもほんまにぴったりの伴侶を得る。爆弾で生死の間をさまようが彼女の尽力で生のほうへ戻ってきた。

本書ではウィールドが自分が泊めた若者が殺されて窮地に立つ。ゲイであることをダルジールに告白するとすでに知っていたとダルジールは答える。ダルジールはウィールドを守りきる。
芝居の演出家としてアイリーン・ジュンが出てくるが、彼女は「骨と沈黙」の重要人物アイリーン・チャンですね。

レキシーがパスコーにいった言葉。
【「詩とオペラ、ええそれはわたしも認めます。その二つがなければ、わたしは生きていけないわ。でも、もうずっと以前から、詩や音楽の背後に、隠蔽することのできない、避けることのできない、恐ろしい、醜悪なものが満ちあふれた世界があることを、わたしは知ってたわ」
「わたしにお金が必要ないのは、父と同じよ。自分にはお金が必要だと考えたことが、すんでに父を破滅させそうになった。お金が手に入りそうもないと悟ったことが、父を正道に戻したのよ」】
(秋津知子訳 ハヤカワポケットミステリ 1300円+税)

レジナルド・ヒル最後の作品『午前零時のフーガ』を再読

去年の1月に読んで感想を書いている。
〈レジナルド・ヒル「午前零時のフーガ」がおもしろくて〉と〈レジナルド・ヒル「午前零時のフーガ」〉

1月12日にお亡くなりになって、本書が最後のダルジール警視シリーズになった。追悼読書を何冊かしたが最後の作品だからと取り出して読んだ。去年読んだときとは気がつかなかったヒルが死を意識していたような部分がある。巨悪のほうの手下で、頭がちょっと足りないが暴力的な兄と頭の切れる妹が出てくるのだが、妹のほうが脳腫瘍で余命が短いとわかっている。彼女は自分の死後の兄をなんとかしてやりたいと体を鞭打って動く。カツラをつけ薬を飲みながら動くが、大事なときに倒れることもある。

最後の大詰めになるところで、ダルジールとパスコーが話し合い、ダルジールが「・・・きみは来るのか、残るのか?」と問う。パスコーは夢から醒めた男のように首を振り、苦い、悲しげでさえある笑みを浮かべて承諾する。部下のシーモア刑事はそのふたりをじっと見守っている。
【「それから」と、のちにシーモアは聴衆をとりこにして語った。「二人は廊下を走っていった。パーティーに向かう大きな子供って感じでな!」】
この一節がシリーズからのふたりの退場場面のように思えた。作品の中ではまだ事件の大詰めがあって、最後は警官それぞれが揃っての大団円になるのだが。

キャロル・オコンネル『愛おしい骨』

キャロル・オコンネルの作品をはじめて読んだのは10年くらい前で、友だちが送ってくれたキャシー・マロリー刑事のシリーズだった。最初の1冊でお腹いっぱいになって、次へ送った記憶がある。それ以来いくら評判が良くても「クリスマスに少女は還る」さえ読む気にならずだった。
いま検索して「このミステリーはすごい」のサイトを見たら本書は2010年の海外編1位だった。なんだかネットで見た気がして検索してみたのだが、わたしは「わたしが好きなものは好き」というタイプなので「このミス」に興味がない。うーん、本書も好きでたまらん作家なら客観的評価は見ないで「ここが好き」とどんどん書いているはず。

カリフォルニア州の北西部と書いてあったのでアメリカ地図を見た。東はネバダ州、北はオレゴン州に接している。本書を読んでいると町の感じがわたしの感覚では南部っぽい。レベッカ・ウェルズ「ヤァヤァ・シスターズの聖なる秘密」を思い出したが、こちらはルイジアナ。ひとびとの雰囲気が似ているような気がする。

その町へ20年ぶりにオーレンがもどってきた。17歳で町を出て陸軍の犯罪捜査部下級准将という地位まで勤め上げたが退職して故郷へもどったのだ。父親のホップス元判事と家政婦のハンナが住んでいる家に着いたオーレンに、ハンナは最近になって弟のジョシュの骨がひとつずつ家にもどってきているという。家政婦ハンナがとても魅力があってしかも謎。
オーレンとジョシュは幼いときに母を亡くしハンナに育てられた。20年前、オーレンとジョシュは森へ行き、帰ったのはオーレンだけで弟は死体で発見された。ジョシュは写真を撮るのが趣味で人を追い回して盗み撮りしたりしていた。

骨の状態を見て埋められていたものと判断したオーレンは保安官事務所に行く。バビット保安官は非公式に捜査に協力するようにいう。いろんな凝った登場人物たちと美女が出てきて飽きない。この町にいるときにオーレンとうまく知り合えなかった鳥類学者のイザベルは幼いときから寄宿学校に入れられ孤独に育った。母のセアラはアルコール中毒である。そのセアラを愛し見守る男。セアラの夫は大舞踏会を開く。そこでタンゴを踊るオーレンとイザベル。
女たちが強い。弱いけど強い。ミステリというよりも土着的な小説と感じた。
(務台夏子訳 創元推理文庫 1200円+税)

レジナルド・ヒルの短編『ダルジールの幽霊』

4つの短編小説が集められた「ダルジール警視と四つの謎」を「ダルジールの幽霊」から読んだ。ヨークシャーは11月ですごく寒そう。いまの大阪の寒さを経験しながら読んでいると現実感があってすこぶる楽しい。猫が出てくるし。

ダルジールとパスコーは友人エリオットとジゼル夫妻に頼まれて、彼らが改修した農場の母屋に一夜を過ごすことになった。ジゼルが幽霊がいると怖がっているからだ。ふたりは用意されたサンドイッチとお酒で暖炉の前に座り、ダルジールははじめて警官になったころの事件について語っている。

ひっかくような音を聞いたパスコーが怪しいと言いだす。そこへ電話があってパスコーは署へもどらないといけなくなる。ようやく車を出すと目の前に光るものが・・・それは猫の目だった。ひっかくような音は猫がひっかいていたのだ。母屋を改修するときに猫が住んでいた納屋が取り払われた。猫は果樹園にいたがこう寒くなると外にはいられない。しかも子猫が何匹かいる。パスコーは車を降りて親猫と子猫を抱いて母屋にもどりミルクをやる。
家に入るとダルジールは書斎で金庫から書類を出して調べている。パスコーがなじると、これには理由があり金庫の開け方と道具を用意してきていたが、パスコーがいないときにやろうと署の警官に呼び出し電話を頼んだという。

ダルジールが台所で四つん這いになって猫に子牛のタンのハムを食べさせていたり、パスコーが真夜中に親子の猫を抱いて家に運ぶなどユーモアたっぷりのシーンがあってうれしい短編。(嵯峨静江訳 ハヤカワ文庫 820円+税)

レジナルド・ヒル『骨と沈黙』(2)

ダルジールは自分が目にしたのは自殺ではなく殺人だったという確信をもって聞き込みや捜査を続けている。続けて事故死とされる死があり行方不明者もいることがわかる。

パスコーは建設業者スウェインの事務所へ聞き込みに行く。事務机の前に若い女性が座っていた。机の上には読みかけの本、表紙は〈活劇調ロマンス小説〉風だがタイトルは「ジェーン・エア」が置いてあった。角張った顔立ちで太っていて化粧気がなくハスキーな声にはヨークシャー訛がある。シャーリーはスウェインの共同経営者の娘でまだ19歳だが子どもがいる。いろいろと話しを聞いたあとにパスコーは、
【「・・・純愛の力をもし信じないんなら、あなたは本の選択を誤ったんじゃないかな」彼女は読みさしの『ジェーン・エア』を手にとった。「つまり、ハッピー・エンドで終わるってこと?」彼女はいった。失望したような声だった。「残念ながらね。不幸な結末がいいんなら、男性作家の本を読まなきゃ」パスコーはちょっとからかうようにいった。】

パスコーはダルジールの捜査に加わりつつも、謎の女〈黒婦人〉からダルジール宛に届いた手紙が気になってファイルを調べる。この件で相談した精神科医のポットルは、前作で大けがの経験したパスコーの心理を大切にするようにいう。
【「・・・それに人を助ける上でも役に立つ。たとえば、この黒婦人を、きみは自分で思っている以上に、彼女の抱えているような暗黒を知っているかもしれない」】という。

最後の最後まで必死に〈黒婦人〉を探すパスコー。思い当たる女性を追って無作法をかえりみず走る。シャーリーもその一人として追うのだが、逆境を生きる強さを見せられる。
【彼女は急いで立ち去った。それは、愛し、耐える能力のある、そして、無惨きわまる絶望を越えてなおも生きつづけようとする意思のある、生命力あふれる、強い、若い女性の姿だった。】

そして、最後に見つけ出した〈黒婦人〉は、思いもよらぬ女性だった。
シャーリーが愛おしい。太めと化粧気がないところがわたしと似ているからだけでなく(笑)。今回はエリーよりもシャーリー。
(秋津知子訳 ハヤカワ文庫 1000円+税)

ジョゼフ・ハンセンのブランドステッター シリーズ

押し入れのミステリ箱を掘り出したのはおとといのこと。読書会の課題本「ブラック・ダリア」は厚くて読みにくそうだから読書会前まで置いとく。ロバート・クレイスのエルヴィス・コールシリーズはそんなに忘れてないから結末のところに目を通して友人宛に送る手配。

そしてもう一発! ジョゼフ・ハンセンのデイヴ・ブランドステッター シリーズ8冊(全12冊)をあちこち拾い読み。本の厚さがちょうどよい。映画でいうといまのミステリは2時間30分の超大作みたいなのが多いから、あっさりと90分で終わる昔の白黒映画みたいで小気味よい。
1970年から91年の間に書かれたシリーズでポケミスをずっと買っていた。不足の4冊はどこへいったやら。そのころ読んだ多くの私立探偵小説と同じく〈ネオハードボイルド〉に分類されるのかな。しかも男性の恋人とのやりとりがリアルである。

デイヴ・ブランドステッターは保険会社の調査員をしている。父親がその会社の社長をしていて、いつも落ち着いた結婚生活をするようにいうのだが、デイヴはゲイであることを隠さないで恋人ロッドと暮らしてきた。
家具を買いに行ったときの店員だったロッドと20年にわたる愛の生活だったが、突然の癌でロッドを失い、最初の作品「闇に消える」のときは孤独に暮らしている。そして知り合った青年は亡くなったロッドの存在で落ち着かない。
そしてさっき「砂漠の天使」を開いたら懐かしきセシルが出てきた。

レジナルド・ヒル「骨と沈黙」(1)

ダルジール警視シリーズ9作目になる「骨と沈黙」(1990)を先日買って今日二回目を読了。いつのもように一回目はストーリーを追ってとばし、二回目で細部を味わった。1994年のヒルさんの講演会のときは一冊も読んでなくて、その場で短編集(薄かったから)を買ってサインしてもらった。その次に読んだのが「骨と沈黙」だったが人に貸したままきれいさっぱり忘れていた。それにシリーズ途中の本を読んだのでなにがなにやらわからない。
本気になったのは図書館で借りた「武器と女たち」である。それからは真面目な読者だが、それでもジュンク堂であれっと未読本を見つけて買っていた。そのときはいいようのない喜びなので、これもいいかなと思うことにしていた(笑)。

エピグラムにヴァージニア・ウルフの「波」の一節がある。最後の言葉が「こういう舗道の下には、貝殻と、骨と沈黙が横たわっているのだ。」である。
物語の最初に謎の女からの手紙がある。ダルジールに宛てたものではっきりと自殺すると書いていて、確実に12カ月以内と新年の誓いのようなものだともある。

パスコーは前作「闇の淵」で炭鉱事故からあやうく生還したが、エリーと微妙な仲になったコリンは死んだ。パスコーは脚の怪我の完治を待って休んでいたが明日から仕事に行こうとしている。パスコーとエリーの間はまだ少しぎくしゃくしている。エリーは演出家アイリーン・チャンの広報の仕事を手伝っている。イギリス人の父と中国人の母を持ちバーミンガムで育ったチャンは素晴らしい美貌の持ち主で頭がよく人使いがうまい。次の芝居は中世史劇を野外を舞台にするべく画策していて〈神〉の役をダルジールにと考えている。

ある夜ダルジール警視は酔っぱらって帰りさんざん吐いたあと、狭い庭の向こうを見ると一軒の家の窓に裸の女性の姿を見かける。そのあとは破裂音で、ポルノ映画からアクション映画に変わったように事態は変化した。ダルジールは駆けつけるがゲイルは顔を撃たれて死んでいた。その場にいたのは夫のスウェインとゲイルの愛人ウォータソンで、彼女は自殺だったという。
ダルジールは以前彼らを見たときから虫が好かぬやつらだと思っていた。【偏見と職務が一致したときほど愉快なことはまずない。】
スウェインを逮捕するが、彼は自殺しようとした彼女の手にあった拳銃が暴発したのだと主張する。ウォータソンもそう調書に書いた。
ダルジールは殺人と確信して執拗に事件を調べる。弁護士とのやりとりなど老練な会話、警察長との軋轢もある。

パスコーは職場へ復帰するとすぐに警部から主任警部への昇進を伝えられる。
ウィールドはゲイであることをカミングアウトしたがふだんの生活はなんら変わらない。だが夜間に呼び出されて「ホモ野郎」と殴る蹴るの暴行を受ける。ダルジールがウィールドを精神的に支えるところがいい。
(秋津知子訳 ハヤカワ文庫 1000円+税)