レーナ・レヘトライネン『雪の女』(2)

エリナの背中には大腿部の後ろ側と背中と臀部に擦過傷と青あざができていた。まだ息のあるうちに意識を失った状態でついたものだった。何者かがエリナを引きずって森へ入って行き木の根元に運んだと推測できる。
同僚のペルツァがづけづけいう。「おまえの大好きな仕事じゃないか、カッリオ。おまけに、真性のフェミニスト集団の事情聴取ができるときた」しかも今日の事情聴取にはおれがつくことになったと満足げ。

館にいるヨハンナは古レスタディウス派の宣教師の妻で、教義により避妊も中絶もせずに9人のこどもを産み育ててきた。最後のこどもを母体が危ないということで中絶したのだが、その支えとなったのがエリナだった。ヨハンナはエリナを雑誌とテレビで知って連絡したという。ヨハンナは夫がエリナを殺したと確信をもっている。夫は自分を神の道具だと思っているから、自分のこどもを殺したエリナを罰したと。

詩人のキルスティラとエリナは2年ほど前に男性性に関するセミナーで知り合った。まるっきり意見の食い違うふたりは列車やレストランで話を続け、最後はキルスティラの部屋に泊まって恋人同士になった。

州刑務所からハルットウネンが脱獄したという連絡があった。マリアと同僚のパロが追いつめて捕まえた男だ。ハルットウネンは自分を捕まえた警察官のひとりが女性だったことに強い憎悪を抱いている。拳銃を持ち歩くことにしたというパロがハルットウネンに人質にされてしまう。ほんとうは女性の自分を人質にしたかったろうとマリアは思う。
捜査に向かうマリアを夫のアンティは気遣う。マリアが後先考えずに走ってしまうから。

そんな忙しさの中で妊娠検査薬を買ってくる。避妊効果は100%でないと避妊リングに書いてあった。医者に行くとやっぱり妊娠していてマリアはこどもを生もうと思う。
(古市真由美訳 創元推理文庫 1200円+税)

レーナ・レヘトライネン『雪の女』(1)

創元推理文庫を買うと去年の末頃から北欧ものばかりを集めた広告が入っている。そのどれもがおもしろそうだ。そんなときに友だちのメールでレーナ・レヘトライネンの「雪の女」を一押しされた。先日梅田を通ったときに紀伊国屋で探したらすぐに見つかった。

今回はフィンランドの女性警察官ものである。フィンランディアくらいしか知らないフィンランドになじめたらうれしいなと読み出した。
首都ヘルシンキに近い海に面した街エスポー、西にはスウェーデン、南にはエストニア、ラトヴィア、リトアニアがある。最近の読書でかなりこのあたりのことがわかってきているので入りやすかった。
本書はマリア・カッリオが主人公のシリーズの4册目で、前の3冊ではいろんな職業についているが、本書からはエスポー警察の一員となり、仲間たちと経験を重ねていくようだ。次の作品の翻訳が決まっているそうなので楽しみ。

エスポー警察の巡査部長マリア・カッリオは大学に勤務しているアンティ・サルケラと結婚している。ふたりの結婚式のシーンから本書ははじまる。アンティの姉さんに姓について聞かれて、アンティは「ぼくたち、夫婦別姓にしたんだよ」と答えた。

セラピストのエリナ主催の講座にマリアは講師としてロースベリ館に招かれる。館の壁や庭がバラに覆われているロースベリ館は男子禁制のセラピーセンターとして知られている。エリナのおばアイラもここに住んでいる。
20人ほどの女性たちを前にしてマリアは気持ちよく話し終える。

数週間後、マリアが家で休暇を過ごしているところへ署から電話があった。ロースベリ館のアイラからでエリナがいないという。館にいたのはわけありの女性ばかり数人。エリナには詩人の恋人がいたのもわかる。数日後、ガウン姿のエリナの死体がスキーヤーによって発見された。

マリアはどことなく体がだるい。避妊リングをつけているのに生理が遅くなっているのが気になる。
(古市真由美訳 創元推理文庫 1200円+税)

波屋書房で買ったG・K・チェスタトン『ブラウン神父の知恵』

先日久しぶりにミナミの映画館に行ったとき、目的地に近いところの本屋さん「波屋書房」があるか確かめた。ちゃんとあってほっとしてなにか欲しい本があればいいなと中に入った。昔と同じように入ったところにはプロが読む料理本がものすごくたくさん置いてあって懐かしい。
レジにはご老人と若者がいた。レジの後ろ側に文庫本があるのを見ていたら翻訳ミステリがあった。『その女アレックス』と『悲しみのイレーヌ』が平積みしてあって棚にもいろいろ並んでいる。これ新刊やったなと.G・K・チェスタトン『ブラウン神父の知恵』(坂本あおい/南條竹則訳 ちくま文庫 16年1月発行)を買った。新刊だけど古風なところが波屋書房に合っていると思って。

ブラウン神父ものを読んだのは何十年ぶりだろう。子どもの時以来だ。そうそう生意気時代にミステリを離れてフランス文学や難解な評論集などをかじっていたとき、花田清輝さんがブラウン神父を持ち上げたエッセイを書いていたっけ。こんなジャンルにも明るいぞと得意げに語る花田清輝さんに憧れた。一度講演会でお話を聞いたことがある。話しながらハンカチを広げては丸めてた。

『ブラウン神父の知恵』久しぶりに読んだけどおもしろかった。新訳だから読みやすかったのかな。

森の小道、ヘニング・マンケルの『霜の降りる前に 上下』を読みながら

ヘニング・マンケルの『霜の降りる前に 上下』を読んでいる。ストーリーを追って早読みしているので、もう一度ゆっくり味わって読むことになるなあと最初からわかっているという読み方(笑)。今回はクルト・ヴァランダー刑事ものだけど、娘のリンダが登場して父と娘の共演であり競演である。

物語は初老の女性文化地理学者が年代物のベスパに乗って森へ入っていくところからはじまる。彼女は森の小道を探すのが趣味で、今日の目的地は湖と城の間にある森だ。ベスパを置いて歩いて森の中の道をいくと、人間の通った形跡のない小道があった。

ここんとこを読んでいたら羨ましくてしょうがない。すぐに彼女は何者かに殺されてしまうのだが・・・
本の感想はいずれ書くことにして。
今日は「森の小道」という言葉に反応してしまったので、小道の話。

子どもの時に母の実家の山梨県の農家の庭、その近くには小川があり泉があった。少し歩くと笛吹川の支流になる川があり小道があった。そこをぶらぶら歩くのが大好きだった。
豊中市内に住んでいたときは自転車で林っぽいまばらに木があるところまで行って、眺めて帰ってきた。まだ田んぼや畑があってレンゲやタンポポやスミレがいっぱいで小道を歩いて小さな川に出た。
泉北にいたころも散歩によく行った。丘があり池があり墓地があった。山野草の宝庫のような田んぼがあった。

ハイキングに行っても脇道が好きで帰れる範囲で寄り道していた。なんせ方向音痴なので迷ったら危ない(笑)。
秋の北八ヶ岳に登ったときはナナカマドに魅せられたなあ、そして少し雪が降ってきて森の中のキノコに雪が帽子のようだった。

なんかスウェーデンの森の風景がわたしの中の「田舎好き」を刺激していった。
(柳沢由美子訳 創元推理文庫 上下とも1100円+税)

これから読む本が積んである

ここにサラ・ウォルターズの本が4冊(買ったばかりの中古本『荊の城 上下』と、Sさんが貸してくださった『エアーズ家の没落 上下』)あってホクホクしている。『黄昏の彼女たち 上下』は読んでしまってここにある。あとは『半身』だけかな。『夜愁』は昔読んだけど、今度は自分の本にして読むことにしよう。
ということで、サラ・ウォルターズを読む気持ちいっぱいなんだけど、その前に読んでしまいたい本がある。
ヘニング・マンケル『霜の降りる前に 上下』。ちょっと読みかけたがクルト・ヴァランダー刑事と娘のリンダが最初から出てきていい感じ。数日はスウェーデンの雰囲気の中で過ごす。
ヘニング・マンケルさんは昨年お亡くなりになって、本書を読めばあと1冊になるはず。翻訳されはじめてからずっと出るたびに読んできた。そこからスウェーデンと北欧の作品をよく読むようになった。

鼻がぐずぐず、目がしょぼしょぼ。ベランダに出ただけなのに花粉はすごいね。今日は早寝したいです。またクシャミ。

サラ・ウォーターズ『黄昏の彼女たち 上下』(2)

上巻はじわじわと胸にしみこむ女性どうしの愛の物語だった。好意とか善意とか友情とかでなく、ひたむきな肉体の行為を伴った愛に目覚めてふたりはリリアンの夫レナードの留守に結ばれる。
下巻は一転して殺人事件の物語になる。殺されたのはレナードで、殴られ殺された死体が屋敷の庭の外に横たわっていた。
リリアンはチャンピオンヒル殺人事件の悲劇の妻として注目され新聞種になる。
レナードは以前にも会社帰りに殴られて血まみれになったことがあった。浮気相手の若い女性ビリーの婚約者スペンサーが怒りの一撃をくらわせたのだ。そのことを調べたケイプ警部補とヒース部長刑事によってスペンサーが逮捕された。読者はスペンサーが犯人でないのを知っているから、この逮捕劇の行方がどうなるか気になる。スペンサーはずっと留置されている。

ついに裁判が始まって、リリアンは家族とよりもフランシスと裁判を傍聴すると主張して二人は裁判所の傍聴席に座る。スペンサーは冤罪から逃れることができるのか。フランシスの心の動きが繊細に描かれていて苦しくなる。

他の用事もしつつ長い物語を熱中して読んだものだから、目は充血するし座りすぎで腰はだるいしで、これはあかんとストレッチに励み長風呂して整体院にも行ってようやく回復した。

『荊の城』が良かったのを思い出してアマゾンの中古本を注文した。『エアーズ家の没落』は友だちが貸してくれる。

サラ・ウォーターズ『黄昏の彼女たち 上下』(1)

サラ・ウォーターズの作品は『荊の城』と『夜愁』の2作を図書館で借りて読んだだけだ。今回はどういう心境の変化か出ると聞いたときから買うつもりになっていた。パトリシア・ハイスミスの『キャロル』で百合心が刺激されたせいかな。タイトルがいいしね。
読み終わったらすっごくよかったので、こうなったら訳されている『半身』『エアーズ家の没落』も読まねば。もちろん一度読んだ本も買って再読せねば。

ロンドンから南へ5-6キロ離れたカンバーウェルといううらぶれた村のチャンピオンヒルという丘に建つ屋敷にフランシスは母親と住んでいる。並んで建つそれぞれの屋敷の前には広い庭が横たわり、その庭を木々がとりまいている。
第一次大戦で兄と弟が戦死し、その後父親が亡くなったのだが、母と娘が思っていたような財産は残っていなかった。広い屋敷で使用人も雇えずに家事雑用は全部フランシスの肩にかかっている。
フランシスは以前にクリスティーナという女性の恋人と付き合っていたが家に戻った。クリスティーナは別の女性とロンドンで自活して暮していて、フランシスはときどき母に内緒で彼女らの部屋を訪ねる。

今回どうしようもなく現金が足りなくなり2階を貸して家賃を得ることにした。新しい住人はレナードとリリアンのバーバー夫妻で、労働者階級出身らしいが言葉の訛りはない。レナードはホワイトカラーでリリアンは専業主婦である。
フランシスとリリアンはだんだん仲良くなっていく。リリアンが『アンナ・カレーニナ』を読んでいるところから会話がはずむ。一緒に公園を散歩してランチを食べる。
フランシスが過去のクリスティーナとの話をしたあと、リリアンは腕を突き出してフランシスの乳房の間から突き出しているなにかを握るように指をまるめゆっくりと手を引いた。その場所は心臓の真上で、そこから突き出した見えない杭をリリアンは引き抜いたのだ。

長い長い作品で上巻はフランシスとリリアンが惹かれあっていくところが素敵な愛の物語である。
(中村有希訳 創元推理文庫 上下とも1240円+税)

アレクサンデル・セーデルベリ『アンダルシアの友』続き

分厚いポケミスを読み終わった。ずっと読んできたスウェーデンのミステリは警察官が活躍&苦悩するものが多いが、今回はクライム・スリラー(スウェーデンの新鋭が放つクライム・スリラーと裏表紙の解説に書いてある)である。最初は勝手が違ったが読んでいるうちにどんどん引っ張られてしまった。おもしろかった〜

主人公のソフィーは夫と死別し息子と二人で住み心地のよい家で暮らしている。看護師として大きな病院で働いているが、ある日交通事故で大怪我をした患者が運ばれてくる。特定の患者に関心を持つのはいけないが、出版業というエクトルの言葉遣いや態度に好意を持つ。エクトルのほうはソフィーに惹かれているのを隠さないで退院してから食事に誘う。
エクトルはソフィーのことを知りたがる。そして話の最後に「おれのことは、怖がらなくていい。絶対に」と言った。
実はエクトルは〈アンダルシアの犬出版〉という社名で本を出版しているものの、実は大掛かりな犯罪組織の中心人物だった。エクトルとソフィーが食事に行ったのをつきとめた国家警察警部グニラはソフィーに接近する。部下の刑事ラーシュは盗聴や隠しカメラでソフィーを探る。
ロシア人のギャングも出てくるし、ソフィーの昔の友だちイェンスは武器商人として登場してソフィーと行動を共にする。

解説によれば、本書はソフィーを主人公とした三部作の第1作だそうだ。次の訳はあるのかな。
(ヘレンハルメ美穂訳 2100円+税 ハヤカワポケットミステリ)

アレクサンデル・セーデルベリ『アンダルシアの友』を読んでいる

一昨年の1月に出た本。紹介記事も読んだことがなく感想も読んだことがない。スウェーデンのミステリはいろいろあるけれど、この本も作家も知らなかった。
一昨年の夏にジュンク堂のポケミス棚をふらっと見ていて手に取った。まず第一にグレー地に赤い文字で原書名と作家名があるのが気に入った。第二に『アンダルシアの友』というタイトルが気に入った。言葉としては『アンダルシアの犬』しか知らないけど(笑)。
高いけど買おうかなとページをめくっていたら

外にはストックホルムの夜が広がっていた。

という一行があって、おっ、文学的!と思った。それで買ったのだが本棚に置いたまま1年半経ってしまった。

ようやく読み出して面白いのに気がついた。あと少しで読み終える。

2/3まできたところで、スウェーデン国家警察の警部グニラの家に上司が訪れるシーンがある。庭の片隅に小さなあづまやがあり、テーブルにグニラ手製のシナモンロールと紅茶が出される。それを見ながら上司は「部下にお袋さんと呼ばれているそうだね」と話を切り出した。
こんなとこも好き。もう少しで終わるんで今夜中に読んでしまう。
(ヘレンハルメ美穂訳 2100円+税 ハヤカワポケットミステリ)

ミネット・ウォルターズ『悪魔の羽根』

ミネット・ウォルターズの本を読むのは1995年に『氷の家』と『女彫刻家』を読んで3作目の『鉄の枷』で挫折して以来だ。10作目が翻訳されてなくて、本書『悪魔の羽根』(2005年発表 翻訳は2015年)は11作目になる。(すべて成川裕子訳 創元推理文庫)
わたしはミネット・ウォルターズに怖いというか気持ち悪いというか好きでない印象が残っていて、今回も読む気がなかったところへ友人が貸してくれた。読み出したらハマってしまい、あっという間に読み上げた。おかげでいろんな用事が停滞しております。

コニー・バーンズはイギリス人女性でロイター通信の記者である。ジンバブエで育ちアフリカ、アジアなどで取材経験を積んだ30代半ばのベテラン。2002年にフリータウンで5人の女性が相次いでレイプされた上に鉈で惨殺された事件に取り組んだ。コニーは外国人居留者のハーウッドを疑う。彼は他の名前で他の地域でも事件を起こしている。2年後にコニーはバグダッドで彼と出会う。民間の警備会社の顧問をしていて本名がキース・マッケンジーとわかるが、会社は本人と接触させない。バグダッドはレイプ事件が増えており、コニーのホテルにも誰か侵入した形跡があり、危険を感じたコニーは病気休暇をとってイギリスへ帰ることにする。
ところが空港に着く前にコニーは拉致される。他の女性たちと同じような目にあうと心配されるが彼女は3日後に解放された。逃げるようにロンドンのホテルに身を置くコニーは自分を拉致したのはマッケンジーだと確信する。
マンチェスター警察のアラン・コリンズ警部補は英国訓練支援チームの一員としてフリータウンに駐在していた。一連のレイプ事件の関連について証拠が示していると言うが『戦時にはレイプと殺人は日常茶飯事であり、女性に対する暴力は、平和が宣言されたからといってやむものではありません。』と語っている。彼はずっとコニーに連絡を欠かさずにいる。

イギリスに戻ったコニーはドーセット州の古い屋敷を借りて住むことにした。美しいが荒れたバートンハウスで著作生活をするつもりだった。家に着いたとたんに犬をたくさん連れたジェスと出会う。医師のピーターもいろいろと助けようとしてくれる。
(成川裕子訳 創元推理文庫 1340円+税)