ピエール・ルメートル「その女アレックス」に心奪われ

「その女アレックス」の評判はいろいろと読んでいたのだけれど、フランスのミステリ苦手やからとためらっているうちに1年以上過ぎた。去年の9月発行の本である。
それが、読んだらすっごくおもしろい。
あれっ、なにがとっかかりになって読んだのかしら。

そうそう、ツイッターでフォローしている若い人がすごく好きでこれから3回目を読むと書いていたのを読んだのだった。ミステリファンが書いててもふーんと思うだけだけど、若い映画ファンの熱い言葉には動かされる(笑)。
そのツイートがミクシィの「つぶやき」にまわってマイミクYさんが読んだ。Yさんもすごくよかったと出ているもう1冊「死のドレスを花婿に」を教えてくれた。それでわたしは最近出たのを買うつもりと書き、マイミクYさんはそれは知らなかったと即注文というすごいスピード。
わたしも土曜日に「悲しみのイレーヌ」(文春文庫)「天国でまた会おう 上下」(ハヤカワ文庫)を本屋で見つけて購入したのだった。
そして用事がすむまで読まないと言ってたにもかかわらず手にとってしまい読み終えた。あとの3冊は用事が終わるまで読んだらあかん。

「その女アレックス」はフランスの警察官の物語である。主人公カミーユ警部について話したいが、ここをもし読んだ人が本を読むとき邪魔になる。本書は解説や他人のブログなど読まず、本を買ったら即読むこと。
二人の部下、気持ちも身だしなみも素敵なルイと貧乏丸出しだけど実直なアルマン、上司ル・グエンはカミーユと対照的な見かけで、交わす会話が楽しめる。いやみな予審判事さん。
事件は陰惨な連続殺人。日にちをおいて場所もまちまちに起こった事件をつなげて解明していくカミーユたち。哀しみと怒りの主人公アレックスが愛おしい。
(橘 明美訳 文春文庫 860円+税)

スチュワート・マクブライド「花崗岩の街」

作者のマクブライドという名前なんだけど、スコットランドの人かなと思ったのは「あしながおじさん」のジュディの友だちサリー・マクブライドがスコットランド人だったから。アタリだった(笑)。帯に「イアン・ランキンに好敵手誕生」とある。喜んで読み出したが、うーん、イアン・ランキンと比べたらかなり落ちる。だがイアン・ランキンのリーバス警部が最初に紹介されたのは脂ののり切った8冊目の「黒と青」だったから、第1作の「花崗岩の街」と比べたらマクブライドが気の毒だ。

リーバスのエディンバラに対して「花崗岩の街」のローガン・マクレイ部長刑事はアバディーンの警察官である。首都エディンバラ、人口の集中する大都市グラスゴーに次ぐ第三の都市がアバディーンで、北海油田の石油基地として発展した。たしかリーバス警部が北海油田へ捜査に行く物語があった。
でも、この本に出てくるのは貧しい地帯に住む人たちやその人たちの中の犯罪者によって起きた事件である。雨が降り続くアバディーンの街に起こった連続幼児誘拐殺人の捜査に病み上がりの疲れた体で立ち向かうローガン部長刑事。
(北野寿美枝訳 早川ポケットミステリ 1700円+税)
※第2作「獣狩り」が11月にハーパーBOOKSから出版予定。

ダニエル・シルヴァ「亡者のゲーム」

わりと最近になってわたしはロマンス小説が好きなんやなと自覚した。日本のも海外のも少女小説に囲まれて育ち大人になっても昔の小説を読み返しているわたし。先日もブロンテ姉妹やバーネット夫人が好きと書いたばかりだ。ところがそこにロマンス小説が加わって生きる喜びが増えた(オーバーな!)。と同時にロマンス小説が好きなことについて考えるようになった。ミステリが好きだといっても実は探偵の恋物語が好きなんだ。

もともと冒険小説は好きでないと思い込んでいるのでほとんど読んだことがなかった。昔、男友だちたちとの会話からジャック・ヒギンスを1冊読んだことがある。その次に冒険小説と言えるかどうか知らないが「ダ・ヴィンチ・コード」をVFC会員の高齢男性会員に薦められて読んだ。どっちも最後まで読んでおもしろかったけれど、途中が苦痛でもあった。

そんなわけでダニエル・シルヴァ「亡者のゲーム」は翻訳者の山本やよいさんがくださったので読まねばならぬと思うがなかなか読み出せなかった。ところが読み出してみればおもしろくてどんどんいってしまった。
途中でこれって冒険小説やスパイ小説というよりも男のロマンス小説やんかと思うところが多々あった。そのせいか最後までおもしろく読めた(笑)。

ダニエル・シルヴァという作家の名前も知らなかったが、すでにこのガブリエル・アロンのシリーズはシリーズ最初の4作まで訳されていて、5〜13作目まで未訳、そして最新作が本書「亡者のゲーム」ということだ。
ガブリエル・アロンはイスラエル諜報機関の伝説的スパイだが、表向きは腕のいい絵画修復師として知られている。20年前にテロリストの手で当時5歳だった息子を失い、妻は生き延びたが心に深い傷を負いガブリエルとは離婚して入院中である。その後ヴェネツィアに住む若いユダヤ人のキアラと出会って結婚した。いま妻は双子を妊娠中。

【イスラエルとアラブの闘争についてはさまざまな解釈がなされているが、ガブルエルは、結局は同じ聖地をめぐって二つの宗教が死闘をくりひろげているのだと結論している。爆弾にも流血にも無縁の静かな時期が何カ月も、さらには何年も続くかもしれないが、真の平和は永遠に訪れないような気がしてならない。】(290ページ)
(山本やよい訳 ハーパーBOOKS 963円+税)

物語の力

読みかけで置いてある新刊本がたくさんあるのにiPad miniを出して「ジェーン・エア」(シャーロット・ブロンテ)をまず拾い読みし、「秘密の花園」(フランシス・ホジソン・バーネット)の花園シーンを読み、つぎに文庫本で「抱擁」(A・S・バイアット)を読む。読むページはだいたい決まっている。何度読んでも気持ちが落ち着くのに変わりはない。
物語はわたしには精神安定剤みたいなもの。眠れなかったりするほどの悩みごとがそんなにあるわけではないが、なんとなく先のことが気になってユーウツになったり、お金の心配でどないしょと思うことがたまーにある。そんなときは物語に逃げるのがいちばん。主人公たちはそれぞれの悩みを抱えながら妥協せずに生きている。本を読んで励まされ、この苦境どうにかなるやろと思わすのが物語の力だ。
「秘密の花園」を検索して映画の写真を眺めている。花園のシーンを見始めると飽きない。コーヒーカップを手にしていつまでも眺めている。

中将姫と折口信夫「死者の書」

先日から折口信夫「死者の書」を寝る前に読んでいる。ずっと昔に読んだ本でながらく忘れていたのを青空文庫で見つけた。iPad miniに移して読んでいるのだが、夜の読書にふさわしいしみじみとした物語だ。
ブロンテ姉妹、バーネット夫人からしばし離れて奈良の姫君に想いをはせる。

「中将姫」の絵本をこどものときに持っていた。絵本とはいえ仏教とかお経とか外国物を読むよりわかりにくかったが、蓮の糸で当麻曼荼羅を織り上げた話が不思議であると同時に神々しく、すごいことをしはったと思っていた。絵本の色づかいがまた独特の毒々しさを持っていて魅了された。継子いじめの話でもあって歌舞伎的だし。
そんなことを昨夜「死者の書」を読みながら思い出していた。

當麻寺には何度か訪れている。竹内街道を歩いて行ったこともある。いま思い出したが「死者の書」を読んだのはそのころだった。當麻寺の庭の石積みのところに長いこと座って、したしたという足音が聞こえるのを待っていたりした。

エドワード・D・ホック『怪盗ニック全仕事 2』

エドワード・D・ホックの3つのシリーズのうち、犯人を捜す物語のサム・ホーソーンとサイモン・アークは「事件簿」(『サム・ホーソーンの事件簿』と『サイモン・アークの事件簿』)で、ニックは泥棒だから「全仕事」なんだなと納得して本棚を眺めていた。そしたら、1冊『怪盗ニックの事件簿』(2003 ハヤカワ文庫)があった。
その後、怪盗ニックのシリーズ全部が訳されることになって、「全仕事」となり今年3月に『怪盗ニック全仕事 1』が出て、今回『2』が出たということである。

ニック・ヴェルヴェットはガールフレンドのグロリアとニューヨークで暮らしている。仕事は一件につき2万ドルで値打ちのないものを盗む泥棒である。世間で値打ちがあると決まっているもの(お金とか宝石とか)には頼まれても手を出さないのを原則としており、そういう仕事を依頼されるとはっきり断る。
たいていは裏社会での噂を聞いた人からの連絡で仕事がくる。突然の電話で会いに行き話を決める。お金はほとんどきちんと支払われるので、年に数回仕事があれば二人で豊かに食っていける。

今回も、マフィアの虎猫、サーカスのポスター、将軍のゴミ、石のワシ像、ヴェニスの窓、シャーロック・ホームズのスリッパなどなど、意表をついたものを盗むよう依頼される。
短編15話のうち、わたしは「なにも盗むな」がおもしろかった。言われた木曜日にじっとしていると2万ドルが支払われる。

秋の一日を家で静かに読書して過ごした。
世間離れした怪盗ニックの物語は楽しい。ニックとグロリアの会話に癒される。
(木村二郎訳 創元推理文庫 1300円+税)

関西翻訳ミステリ読書会で感じたこと

会場が西梅田の大阪駅前第2ビルなのでシャーロック・ホームズで夕ご飯を食べてから行った。
今日の課題書は昨日の日記に書いたロバート・B・パーカーの「初秋」だった。主催者のKさんがこの本が大好きでずっと前からやりたかったんだって。先日お会いしたときに話したので、最初の3冊を持っていった。「ゴッドウルフの行方」(ハヤカワポケミス)「誘拐」「失投」(2冊とも立風書房)で、どれも汚れていて外れているページもある。昨日書いたけど33年前の本だから。
みなさんの手を一周したがどなたも初見だったので持って行ってよかった。
読書家の集まりだから鋭い指摘があって、そうなのかとうなづいたり、言葉にならないけどちょっと違うなというところもあった。
一人ぐらいはスペンサー大好きな人がいるかと思ったらいなかった。ほんまに時代は変わってしもたんやな。

いろんなことをしゃべったのだが、あの時代の空気を伝えるのは無理だ。
帰りの地下鉄で思い出したんだけど「初秋」が出たころ、つまり33年くらい前のこと、千日前の飲み屋「中野」で、わたしは相方にいかに「初秋」がいかに面白いかをしゃべっていた。そしたら横にいた見知らぬ男性が「僕も読んだところです。ものすごくよかった」と声をかけてきて、1時間くらいスペンサーとスーザンとホーク大好きで盛り上がった。他にも得意先の編集者などロバート・B・パーカーがちょっとインテリぽい人の間で大受けしていた。

われながらいろんなシーンを生きぬいてきたものだが、いまはいまの時代の空気があるのだからそれでいいのだな。老婆心はいらんな。

ロバート・B・パーカー「初秋」を33年ぶりに読んでいる

明日開かれる〈関西翻訳ミステリ読書会〉の課題書ロバート・B・パーカー「初秋」をいまごろ読んでいる。明日ということは1カ月以上も前からわかっていたが、33年も前に読んだ本をようやく探したら安心して読んだ気になっていた。こりゃいかんわと昨日から慌てて読み出したのだが、内容を覚えていないのにおどろいた。もちろんストーリーやスペンサーとスーザンの言い合いのところなんかは覚えているけど細かいところは全然忘れてた。

この本が出版された1982年にわたしはなにをしていたろう。
我が家の最初のアップル社製品であるMacplusを買ったのが1987年だから、それより5年前だ。Macがなかった時代なんやな。
いま思い出していたら、78年ごろから夢中になったパンク・ニューウェーブもそろそろわたし的には終わりごろで、やっぱりわたしには読書とか思って翻訳ミステリにはまりこんだんだった。そのころ買った新本も古本も押入れの中で眠っている。
そうだ、スペンサーに入れあげているときにヴィク(V・I・ウォーショースキー)が現れたのだ。1985年に早川ミステリ文庫で発行されて次々と翻訳された。1991年にはヴィク・ファン・クラブ発足。1998年に「VIC FAN CLUB SITE」発足。最初のMacを手にいれてから11年目にウェブ時代に突入したんやな。スペンサーから話が飛んだ。これをアップしたら明日に備えて「初秋」にもどる。
「VIC FAN CLUB SITE」にある「わたしのサラ・パレツキー論」はスペンサーからヴィクへとわたしの視点が変わっていったことが書いてあってなかなかいいので読んでみてください。古いサイトなのでちょっとリンクがややこしいけど3章まであります。)

村崎修三「乙女のふろく 明治・大正・昭和の少女雑誌」

2カ月とちょっと前、7月10日の日記に〈ミクシィ・コミュニティ「昔 素敵な少女雑誌があった」を懐かしむ〉というのを書いた。そのミクシィ・コミュを主催していたおられたJさんから数年ぶりに連絡があり、教えてもらったのが熊本の菊陽町図書館とそこにおられる村崎修三さんのことだった。そして、〈吉本由美さんによる『吉本由美のこちら熊本!』というサイトの「小さな町の小さな図書館は少女雑誌の宝島」(2013.05.04)という記事〉も教えてもらった。

Jさんからいただいた次の連絡は村崎修三さんの本「乙女のふろく 明治・大正・昭和の少女雑誌」が青幻社から出版されるというものだった。
出版されたのを確認して早速アマゾンに注文。厚い文庫本には絵がぎっしり。美しい、楽しい、おもしろい。ページをめくり出したら離せない。

中原淳一の絵がついた雑誌ふろくは、うちには2人の姉が買った雑誌がたくさんあったので淳一先生の絵はおおかた知っている。松本かつぢ、竹久夢二はかなり知っている。その他、名前だけは知っている人、はじめてこの本で知った人もいて楽しい。

「菊陽町図書館 付録コレクション一覧」もついていて、深く勉強したい人にはありがたいことだと思う。熊本の菊陽町図書館へ行けばいいのだ。わたしがもし行ったら笑ったり叫んだりうるさいだけだけど(笑)。
(青幻社 1500円+税)

吉田喜重「変貌の倫理」と岡田茉莉子「女優 岡田茉莉子」

つい最近になって気になりだした吉田喜重監督だが、なにげなく買った雑誌「ユリイカ」の「高峰秀子特集」で高峰秀子を語るインタビューを読んですごく論理的な人だと思ったのが最初だ。
それから彼が監督している映画DVDを何本か見て、パートナーの岡田茉莉子の自伝「女優 岡田茉莉子」(文藝春秋)を買って読んだ。
岡田茉莉子の自伝はすごい文字数に驚いた。あとで知ったが全部ペンで書いたという。記憶力もすごいが、母上が資料をきちんと残しておいてくれたからこそ書けたそうだ。
わたしは岡田さんの映画は最初の出演作「舞姫」を見ている。この間木下恵介監督の「今年の恋」を見て「はしけやし」という感じやなとつくづく思った。この映画の助監督が吉田さんだったんだって。
この本で吉田監督とどのようにして出会ったかがわかり、二人がいっしょにした仕事や、別々にした仕事のことがわかって楽しかった。
いまやお二人の大ファンである。

吉田喜重の本は他に「小津安二郎の反映画」(岩波書店)を読んだ。「ユリイカ」の総特集「吉田喜重」も読んだ。きちんと感想を書きたいが雑用に追われてなかなか書けないのに、また「変貌の倫理」(青土社)のページをめくっている。あ、みんな自分で買った本です(笑)。
「ユリイカ」の岡田茉莉子と蓮實重彦氏の対談でお二人のことをかなり知ることができてうれしかった。ファンだから(笑)。