恋愛小説

26日(土曜日)にジュンク堂で買った「忘れられた花園 上下」を読み終わってまた読み返している。久しぶりでしっくりとくる上質な恋愛小説だ。A・S・バイアット「抱擁」を読んで以来の興奮とあちこちで言いふらしている。
オーストラリアの港に着いた船にたったひとり乗っていた引き取り手のいない女の子を、港で働く男が家に連れて帰る。その女の子がどこから来たのか、どこの子が全然わからない。それからオーストラリアとイギリスのロンドン、コーンウォールとみごとに話がつながっていく。
「秘密の花園」みたいと思って読み進めると、バーネット夫人がパーティに招かれている。バーネット夫人はこの屋敷と花園と屋敷の主人を見て「秘密の花園」を書いたという感じになっている。

恋愛小説好きとしてはとってもうれしい本にめぐりあえた。「学寮際の夜」「ジェーン・エア」「嵐が丘」「高慢と偏見」「リンバロスとの乙女」に匹敵する何度でも読むだろう恋愛小説。
(青木純子訳 東京創元社 上下とも1700円+税)

メアリ・バログ『婚礼は別れのために』

読み出したらやめられなくて2日で読んでしまった。ストーリーづくりがうまいのと日本語が読みやすいからだと思う。ジェーン・オースティンの時代の物語をいま書いている〈時代小説〉である。ヒロインのイヴの性格は「高慢と偏見」のエリザベスとよく似ている。荘園の相続問題が柱になっていて、いやな従兄弟のものになりそうになるのも似ている。現実にこういうことが多々あったのだろう。

貴族階級に対してブルジョワ階級が勃興してきた時代、ヒロインの父親はウェールズの炭坑夫だったが、社長令嬢と結婚して猛烈に働き富を手にした。妻の親も同じようになり上がった人だろうと思う。ディケンズの作品でもお屋敷で働いていた一家の息子が豊かな工場主になった話があった。

そんな時代背景を考えながら、ロマンスに酔いしれていた(笑)。ヒロインは美しくて誇り高い。父親に譲られた荘園にウェールズから大伯母を引き取り、生活に困っている人を雇い入れ、親の亡い子どもを二人わが子のように育てている。大伯母は炭坑で石炭を運んで何十年も働いていた人だ。

ある日突然、イヴの屋敷へイヴの兄が戦死したことを告げにエイダン・ベドウィン大佐が訪れる。たった一人の兄の死にショックを受けるイヴ。まだなにかあるとみたエイダンは、兄がもどらずイヴが結婚しなければ、この荘園があと5日で従兄弟のセシルのものになることを知る。イヴの兄の死の間際に約束した言葉を思い出し、迷った末にエイダンはイヴと結婚するしか手がないと思う。

二人はロンドンへ行き特別許可を得て結婚する。そのまま別れるつもりだったが、イヴのことを考えていっしょに荘園へもどり、村でのパーティに参加する。だんだんイヴに惹かれていくがまだ義務感である。5日経って従兄弟がやってくるが結婚したと追い返す。

エイダンは貴族階級に属し兄が家督を継いでいて彼は二男で軍隊に入った。家にもどって結婚したというと波紋が起きる。結婚したからにはレディ・エイダンになって女王陛下に拝謁しなければいけない。イヴを連れに行き、叔母に頼んで貴族の教育を受けさせ、無数のドレスを注文する。従順で終わらせないイヴの勝ち気さが小気味よい。

エイダンもイヴも相手に惹かれていくが、大切なパーティにイヴの昔の恋人が現れたり、いろいろとあって、物語にうまく引っ張られてどうなっていくやら、はらはらどきどき。最後はうまくおさまってめでたし。セックス場面もほどよくあって楽しませてくれた。
(山本やよい訳 ヴィレッジブックス 860円+税)

シャンナ・スウェンドソン『赤い靴の誘惑』

「(株)魔法製作所」シリーズ第2作で2007年に発行され版を重ねている。おもしろくてたちまち読んでしまった。あと3冊あるのだがここでちょっとお休みして他の本を読むことにする。

ケイティは会社で積極的に仕事して経営者マリーンの信頼も厚い。不祥事があり社内にスパイがいるのではないかという疑いが起こり、彼女が担当者になり張り切る。

デートのための着るものを買いにルームメイトと百貨店に買い物に行くと、まずは靴だとデザイナーブランドの靴売り場へ連れて行かれる。そこにあったのが赤いハイヒールでぴったり合ったが弱気になって買わない。
そこへテキサスから両親が遊びにくるという知らせ。魔法の会社で働いていると言いにくくごまかしつつ、大変な気遣いでもてなす。母の買い物を手伝うのに百貨店に行くと、なぜか母の反対を押し切って赤い靴を買ってしまう。

弁護士のイーサンとランチデートをすると、自分はもっと魔法に近づきたいからと、仕事以外は普通の生活がしたいケイティとの違いを指摘されてふられる。26歳にもなって5年間もベッドの相手がいないとルームメイトに笑われてもしかたないドジなのだ。魔法会社に勧誘してくれたオーウェンとは仕事上で助けあっているが、オーウェンとのやりとりは、今度も「兄」としてだとさびしく思う。
そんな彼女が事件を解決するのに重要な役割を果たす。
【真面目でお人好しだからカモにしやすいと思ったのかもしれないけど、真面目な人というのは人から信頼されるものなの。こっちが向こうを信じていいか迷っているときでさえ、相手はわたしを信じてくれるのよ。】
最後にようやく兄のように接していた男性と愛し合っているのがわかって、よかった。

会社の同僚の失恋対策は「チョコレートのいっき食いと『テルマとルイーズ』の三回連続鑑賞」というのも気に入った。
そして、赤い靴にうきうきと反応してしまった。昔、わたしも赤いハイヒールを持っていた。細い足首がジマンで化粧もしないで足元だけが真っ赤なハイヒール。われながら似合ってた(笑)。
(今泉敦子訳 創元推理文庫 1080円+税)

ボストン・テラー『音もなく少女は』

最初のページはナタリーが書いた読者への短い手紙で、その手紙を出版社に送る原稿に加える。次のページは1975年の新聞記事で、「五十四歳のブロンクスの女性店主、麻薬の売人を射殺」というタイトルでフラン・カールが警察に自首してきた記事である。そして次は、イヴとチャーリーがイヴが住んでいる建物の屋上で毛布を広げて夜空を見上げている。イヴは17歳、チャーリーは21歳。イヴは聾者なのでチャーリーのシャツを引っ張って手話で話す。チャーリーは彼女に銀のネックレスを贈る。

物語がはじまる。イヴの母クラリッサは夫ロメインからひどい虐待を受けているが、宗教上の理由もあって別れられないでいる。ロメインは麻薬の売買のときに怪しまれないように、子ども連れを装うためにイヴを利用している。機嫌をとるために渡したカメラが皮肉にもイヴの未来を決める。
クラリッサと知り合ったドイツ人女性フランはナチスからアメリカへ逃れ、小さなキャンディストアを経営している。彼女が聾者の恋人をもったことに対して、ナチスに恋人は殺され、彼女自身も子宮を摘出された過去を持っている。
二人は親しくなりイヴとともに過ごす時間が増える。カメラを手にしたイヴは、写真を撮ることが生きることになっていく。
聾学校の日々をカメラを持つことで乗り切っていくイヴは、学校行事などの撮影も頼まれるようになる。フランが上級のカメラを買ってくれ、暗室もつくってくれる。
離婚を決意したクラリッサが殺されてしまい、フランとイヴは二人で生きていくことにする。

やがてイヴはチャーリーと知り合い仲が深まる。白人でないチャーリーと聾者のイヴはお互いに遠慮し合っていたが告白しあって恋人どうしになる。チャーリーは里親の家におり、やはり里子の妹ミミがいる。ミミの父親ロペスもまた麻薬の売人で、里親夫婦とチャーリーを脅す。愛し合う二人を襲うロペスの暴力はついにチャーリーの命を奪う。
チャーリーの元恋人のナタリーはイヴと行動をともにするようになり、最初のページの手紙を書く重要な人物となる。

最初から辛い話の連続で読むのが苦しいのだが、それなのにストーリーに沿って読み進んでしまった。現実的には犯し殺す男たちの暴力の前で犯され殺される女たちが描かれているのだが、暴力を振るう男たちの弱さと、暴力に立ち向かう女たちの強さが描かれているのに気がついた。だからずんずん読んでいけて、静謐な最後にいたる。
(田口俊樹訳 文芸春秋 876円+税)

シャンナ・スウェンドソン『ニューヨークの魔法使い 』

「(株)魔法製作所」のシリーズ第1作で2006年に発行され版を重ねているのだが、翻訳家の山本やよいさんに教えてもらうまで全然知らなかった。教えてもらわなければわたしの読書範囲には入らなかっただろう。全部で5冊出ていて、そのうち5作目は日本のみ発行だそうだ。おもしろいから是非と言われて2册買って、本書は1冊目である。

テキサスで生まれて育ち、ニューヨークに出てきて友だち2人とルームシェアしながら働く、ごく平凡な女性のケイティ。勤務先でいやな上司にこき使われる毎日のある日、通勤途上の地下鉄で2人の男性と知り合う。その後は会社に転職を誘うメールがきだしていつも削除しているが、あまりにひどい上司の言いがかりに気が変わって面接に行く。
転職した勤務先が魔法製作所で、アーサー王伝説にも出てくる魔法使いマリーンが長い眠りから覚めて最高責任者となっている。わたしは子ども向けの本でしかファンタジーを読んでないので、本書がどういうところに位置するかわからないのだが、克明な描写に引っ張られて読んだ。会社内や製品についての説明がうまい。きっとニューヨークのオフィスで働いたことがあるのだろう。

ボーイフレンドもいない普通の26歳の働く女性とされているけど、この話法がかつてわたしが愛読した少女マンガの作りと同じだ。自分では美人でなくセンスもなくて引っ込み思案の女子が、イケメンから愛される。日本の女子の読者に愛されるのも無理はない。わたしも好き。だけど、そういう物語に裏には魔法と会社経営と都会の生活などがしっかりと骨組みがあるのがすごいところ。
とにかくおもしろくてたちまち読み通した。表紙カバーのイラストもいい。
(今泉敦子訳 創元推理文庫 980円+税)

イアン・ランキンの短編『最後の一滴』

イアン・ランキンのジョン・リーバス警部もの最後の作品「最後の音楽」を読み終わったが、まだ未読の「死者の名前を読み上げよ」がある。買い遅れていただけだが、なんとなくまだあるって理由なき余裕(笑)。とはいえ目の前に読む本がいっぱいあってなかなか読み始められない。厚いし字が細かいし。
そこで思い出したのだが、停年退職したリーバズ警部が出てくる短編が「ミステリマガジン」2010年12月号にあった。「特集 警察小説ファイル13」(警察小説相関図などがあって便利)の中にある「最後の一滴」だ。ランキンがエディンバラを拠点とする慈善団体ロイヤル・ブラインドのために書き下ろした短編小説である。

シボーン・クラーク部長刑事が醸造所めぐりツアーを退職祝いとしてリーバスに贈ってくれたので、ふたりは工場のタンクの前に他の客たちとともに立っている。案内人はここには幽霊が出ると言う。幽霊は60年前にここで事故で亡くなったジョニーであること、当時はタンクが石でできていて金属の裏打ちがあったと説明する。
ツアーが終わって試飲室でビールを飲みながら詳しい話を聞くと、幽霊はまるで生きているようだったという。ジョニーは女性に絶大な人気があり、当時の社長の娘も夢中だったとか。
翌日、リーバスは醸造所の会議室で歴代の経営者などの写真を見ていた。

退職祝いをもらったときだから仕事を辞めてすぐのことだろうが、今後のリーバスがどうするのか気になる。
(加賀山卓朗訳 ミステリマガジン2010年12月号)

アン・ズルーディ『テッサリアの医師』

ミステリというと、ハヤカワ文庫と創元推理文庫は毎月チェックしているのだが、他の文庫まで目がいかない。小学館文庫ははじめてだ。翻訳ミステリを出してくださっているのも知らなかった。すみません。しかもギリシャの現代ミステリなんてはじめてだ。すごく熱中して読み終え、幸福感でいっぱい。現代ギリシャの物語なのに中世の物語のようでもある。

ギリシャの小さい町で結婚式が行われようとしているのに花婿が現れない。ウエディングドレスのまま浜辺で泣き崩れるクリサはもう若くない。医師との夢の結婚式を迎えたのにこんな結末になってしまった。クリサは図書館司書の姉と二人で暮らしている。しっかり者の姉に主導権をもたれて従って生きてきた。姉はさっさと部屋を元通りに戻す。

その日の夕方、教会で灯明を灯していた少年が苦しんでいる医師のシャブロルを見つける。花婿のはずのシャブロルは顔に薬品をかけられてひどい火傷をしている。少年は町へ医師を運び救急車を呼ぶ。そこに居合わせた太った男(名前はヘルメス・ディアクトロだが、本の中では太った男と形容している。自己紹介のときに名乗るので名前がわかる)は、医師の態度に不審を抱き調査をはじめる。警察ではありませんが調査員ですと自己紹介する太った男は、その町に留まって人々と話して事件の核心へ食い込んでいく。

ある朝、カフェニオンを経営しているエヴァンゲリアは太った男が外のテーブルにいるのに気づく。コーヒーを飲みながら太った男は昨日病院へ送った医師のことや町のことを聞き出す。医師はフランス人でクリサの亡くなった母親を診ていた縁で結婚することになった。この町でなにかが起こっていると感じた太った男は当分はこの町に留まろうとカフェニオンの2階に宿をとる。

自動車修理屋で仕事を頼んでいる間に、コーヒーでもと言われて家のほうに行くと、その家の主婦が母親の世話をしながらケーキを出してくれる。母の主治医はシャブロルだった。年老いた病人をゆっくりと診てくれる医師が、フランスからやってきてこの町に住み着こうとしていたときに、むごい仕打ちを受けてしまった。

太った男はいろいろな住人に話をして核心に迫っていく。そのかたわら悩める男を恋する男に変身させたり、町長にこの町に遺跡があるのを教えたりする。
普通の食べ物、パンやケーキやスープがほんとにおいしそう。甘いものを食べるシーンがたくさんあって、だから太った男なんだと納得。
そして、すべてが片付けたのちに黙って町を去っていく。シェーンのように。
(ハーディング祥子訳 小学館文庫 752円+税)

モンゴメリ『もつれた蜘蛛の巣』

最近になって読んだモンゴメリの本の3冊目、最初は2009年11月の「青い城」、続いて12月に「丘の家のジェーン」を読んだ。どちらも人生をうまく生きていくのが下手な若い女性が主人公だ。そして最後はその真心や必死さがむくわれる。そこへいくまでがこまごまと描かれ、小説を書くことがうまい人なんだと心底思った。

「丘の家のジェーン」を貸してくれたSさんが、最近買った「もつれた蜘蛛の巣」をまた貸してくださった。わたしとしては少しいらいらしているときで、コージーミステリのあとにロマンス小説はちょうどよかった。ちょいと食べ過ぎていたのも反省の時期に入ったということは読書が効いたのだと思う。

ダーク家とペンハロウ家は、誇り高く、精力旺盛で、力強く、一族の中でもまれながら外部の敵対する力に対して壁をつくっている。一族の長であるベッキーおばは85歳で一族のなにからなにまで知り尽くしている。名士だという者も偏屈者だという者もいるが、誰にとってもベッキーおばとして君臨している。彼女がみんなを集めて話があると言い出した。自分の死後に家族に伝わる水差しを誰に遺すか発表するというのだ。

その日、ベッキーおばの家にはダーク家とペンハロウ家の全員が集まった。過去のいざこざを忘れていない者や、若い男と女が一目で惹かれ合ったり。そして水差しを手に入れることがいかに重要なことであるかが語られ、全員が最後まで帰れないでいる。
ベッキーおばは指輪や置物などひとりずつに渡していく。マーガレットにはぼろぼろになった「天路歴程」を渡す(後に初版ものであることがわかる)。
ヒューとジョスリンは部屋の反対側に座っていた。彼らは夫婦なのだが結婚式のあとでジョスリンは実家へ帰ったままだ。その謎のいきさつの末に、素晴らしい最後となる。
探検家のピーターとドナの宿命的な間柄も素晴らしい恋物語だ。
美貌のゲイはハンサムなノエルとの結婚を夢見ていたが、幼なじみに横取りされてしまう。医師のロジャーはずっとゲイのことが好きで失意のゲイを慰める。ゲイはノエルの身勝手を思い知り、誠実なロジャーの恋はむくわれる。

という具合にひとつひとつが一冊の物語になるような恋物語がいくつもあって、それだけではなくマーガレットは結婚を断り、「天路歴程」を売ったお金で家を買い不幸な境遇の子どもと暮らすことにする。また一家の男たちの気持ちの変化もしっかり描かれている。
(谷口由美子訳 角川文庫 781円+税)

モンゴメリ『もつれた蜘蛛の巣』続き

読み終わったんだけどすぐに離れがたくあちこち開いて読んでいた。もちろん恋愛場面(笑)。たくさんの登場人物がいて複数の恋人たちがいる。ミステリではないのに〈主な登場人物〉の表があってなかなか便利。

恋人たちの特徴は〈一目惚れ〉だが、恋人たちどうしの〈一目惚れ〉だけでなく、他の人相手だったのが覚めて真の愛に目覚める場合もある。
ジョスリンはヒューとの結婚式にきていたフランクに一目惚れする。フランクはそんなことは知らずに急用で帰ってしまう。夫の家から逃げ帰り一目惚れをそのまま10年生きているジョスリン。
ノエルを友人に取られたゲイの失意を慰めるゲイを熱愛するロジャーは辛い。だが彼はだれも愛さなければ辛くないと人に言われて言い返す。「見返りに愛して欲しいなどと思ったことはない——だが、辛いのはこの上ない」。
ドナとピーターは過去があるが再会し愛し合う。駆け落ちしようというピーターに性急すぎるとドナは言い口論になる。最後にドナは「消えちまえ」と言ってしまう。
【ピーターは女が決して許せないたったひとつの罪を犯した、彼は彼女の発言を言葉通りにとったのだ。】
それぞれのハッピーエンドまでの長い物語を読んでいて飽きないのだからすごい。
(谷口由美子訳 角川文庫 781円+税)

レジナルド・ヒル『午前零時のフーガ』

本を読み終わって感想を書くのが習慣になっているが、前作の「死は万病を癒す薬」は読み出したこと、読んでいての連想で〈貧しい親戚〉のことを書いただけで本の感想を書いていない。いっぱい書くことがありすぎて書けないといおうか。おもしろく引っ張られて最後までいってしまう。読み終わったのに実はストーリーを把握できていないみたいな。いやストーリーはわかっているけど、あれよあれよという感じでいってしまうので、書こうと思うとまた読み返さなくてはいけない。名人芸に翻弄されている快感というようなものかな。また読み直したら書くことにしよう。

「午前零時のフーガ」は「死は万病を癒す薬」のあとを受けて、重体で入院した病院から退院し復職したダルジールが、まだけだるさを残しつつ出勤しようとする。この日は遅刻しないようにと慌てて出かけるが、電話がかかり留守電に話すのは昔の友人だった。そのまま車を出すとあとをつけている車がある。そのうちダルジールは今日は日曜日だと気がつく。ダルジールは教会に入って大聖堂で頭を垂れる。あとをつけてきたジーナはその姿を眺めている。ジーナは留守電にかけてきたダルジールの旧友で首都警察の警視長のバーディーと結婚の約束をしている。彼女は7年前に警官の夫が失踪したままになっているのを今回きちんとしようと思っている。

ダルジールとジーナはホテルのテラスで話し合うが、ダルジールはその前にノヴェロ刑事を呼び出して、自分たちを見張るように伝える。ノヴェロ以外にも二人を見張っていた者がおり、ノヴェロはそれを追って重傷を負う。ダルジールはジーナの部屋で疲れて横になってすぐに爆睡してしまう大失態。
パスコー主任警部は知り合いの娘の洗礼式に立ち会っていたが、ノヴェロの事件で呼び出される。ダルジールには連絡がとれずいらつく。

ジーナを追いかけている悪党たちの生まれから現在の姿、元は大悪党だがいまは実業家のキッドマンと政治家になったその息子、そして満点の秘書。警官たちと悪党たちの過去と現在が入り交じる。

過去と現在が入り交じり、未来へとつながっていく物語。ダルジール警視とパスコー主任警部とウィールド部長刑事の三位一体の3大スターが相変わらずの軽口と信頼で活躍。読み終わったら次の作品はいつ読めるかしらともう待ち望む。
(松下祥子訳 ハヤカワポケットミステリ 1800円+税)