ラナ&アンディ・ウォシャウスキー&トム・ティクヴァ監督『クラウド・アトラス』

ウォシャウスキー姉弟の映画は1996年の「バウンド」しか見たことがない。とても気に入ったのに詳細を覚えてなくて、いま検索してわかった。隣りどうしから深い仲になった女性ふたりの愛がよかった。

いま「クラウド・アトラス」を見て圧倒された。
2012年のウォシャウスキー姉弟のSF映画で、ヒュー・グラントが6役やっているくらいの知識しか持たずに見始めた。最初は面食らい、途中からおもしろくなり、最後はうなった。これは愛と革命がテーマの映画だ。

以下は映画紹介ページからコピペした
“波乱に満ちた航海の物語” (1849年)、”幻の名曲の誕生秘話” (1931年)、”巨大企業の陰謀” (1973年)、”ある編集者の大脱走”(2012年)、”伝説のクローン少女と革命” (2144年)、”崩壊した地球での戦い” (2321年)。上映時間172分。

最初はわけがわからなかったが、だんだんわかってきておもしろくなった。ヒュー・グラントだけでなく俳優たちはいろんな時代に登場する。
恋人が戦いの中で銃弾に倒れたクローン人間のペ・ドゥナは、堂々と捕まって想いを述べ処刑される。奴隷解放運動に参加すると金持ちの息子が恋人といっしょに親の家から去って行く。最後は熾烈な戦いから生き残ったトム・ハンクスが「あれが地球だ」と孫娘に空を指差す。

SUBのポスター、マックス・ローチ「We Insist!」

今夜のSUBは20年前から続いている竹田一彦さんの演奏日。おととし西山さんが亡くなる前は西山さんとのデュオの日だった。今夜はベースの手島甫さんとサックスの長谷川朗さんとの共演だったが、2部は2人の若者(女子アルトサックスと男子ドラム)が加わってボリュームのある演奏で楽しかった。
いつも楽しんで聞き、あとでなんであんなに楽しかったのかしらと考える。1セット1時間〜1.5時間を2セットなんだけど、時間を長く感じたことってないもんね。
それに常連の方々や店主の朗さんとの会話も楽しくって。

朗さんがきれい好きなせいで、西山さんがやっておられた当時の店内を崩さないようにしているけど、あちこち修繕したり加えたりして清潔感がある店になっている。
壁に貼ってあるミュージシャンの写真は古びたそのままで、わたしがいちばん気に入っているポスター(We Insist!)は外したらぼろぼろとちぎれてこぼれそう。カウンターに座り演奏が始まると椅子の向きを変える。ポスターからマックス・ローチがこっちをまっすぐに見つめている。いつもこのまなざしに励まされる。

パソコンのモニター新調

去年の冬のすごく寒い日、長時間の外出から帰ってパソコンつけたら画面が暗いまま。時間を開けて何度か起動してようやくつながった。それが二度三度あって気がついた。このモニターは寒いと働くのがいやなんや。暖かくなったらそんなことは忘れて快適に使っていたが、今年の冬も寒い日の朝に動きがにぶった。朝起きるとモニターがついてくれるかなと気にする。結局は動いてくれるのだが、とても精神衛生に悪い。

そんなもんで、師走の物入りのところだが、モニターだけ新調することにしてアマゾンに注文した。わたしのパソコンはMac miniで二台目なんだけど、モニターは一台目を買ったときのを使っていた。だから勤続疲労して当たり前だ。
ずっとアップル社の製品を使っていたが、今回はモニター専門の会社の製品である。いまのMac miniを使っている間はこれでいく。
前よりも少し画面が大きくなったのでVFC会報を作るのもラクになりそうだ。
老眼が進んでいるのでモニターが大きいのがありがたい。

クエ鍋!!

おとといは風邪を引きかけ気分だったのが、昨日はおさまってホッとしたばかり。それが今朝起きてすぐにクシャミとハナミズが連続でやってきた。相方と姉の家に行くと約束していたからマスクをして出発。歩きながらもハナミズが垂れるのでマスクをずらしてハナをかむやら超ブサイク。

鍋物で忘年会しようと決めていたので、魚を物色したらクエがあった。高級魚クエは昔一度食べたことがあるだけ。せっかく魚を食べるんやから安い魚はやめようと、清水の舞台から飛び降りてクエを買った。
姉の家に着いてもハナミズは変わらず、今日は座っとりという言葉に甘えてテレビで「相棒」を途中まで見ていた。それも悪いかなとちょっとだけお手伝い。夕方になり順番にお風呂に入った。

相方が今日の調理係でクエ鍋の準備をした。たまにはええやろとキノコも入っている。もちろん白ネギと白菜と菊菜をたっぷり。
うまいなぁと食べていたら、「あんた、クシャミが止まったね、クエで風邪が治ったんちゃう」と姉に言われた。そう言われればめちゃくちゃ体調がようなっている。最後におじやを食べて魚も野菜も食い尽くした。

帰りもタクシーを奮発して体が温かいままで帰宅。部屋をぬくぬくにしてお茶を淹れた。あれっ!ハナミズが全然ないやん、クシャミもなし。クリスマスチョコレートを食べながらワインを飲みつつ書いている。

エドマンド・クリスピン『列車に御用心』

関西翻訳ミステリ読書会の忘年会のとき見せてもらった「このミステリーはすごい」のなにかの部門の何位だかにあったタイトルが目に入った。エドマンド・クリスピンは大好きな作家である。オクスフォード大学英文学教授のジャーヴァス・フェンが活躍するシリーズで、特に「白鳥の歌」「愛は血を流して横たわる」が大好き。
今年の3月に出てたのを知らなかった。すぐにでも読みたい。
忘年会が前半後半あったので、前半の方々が帰られるときにいっしょに出てジュンク堂へ走った。本はすぐに見つかったのでまた忘年会にもどりみんなに見せてジマンした。

帰り道から読み出してすぐに読み終ったが、もひとつ要領を得なくて再読し、本格ミステリの短編は難しいと実感した。フェン教授が活躍する14作品と非シリーズの2作品が入っていて、ぼーっと読んでいるときはおもしろいのだが、再読してもつかめないところがある。
その結果、本格ものの短編小説はあまり好きでないとわかった。

「白鳥の歌」なんか恋愛小説として読んでいた。だから気持ちよく読めて何度でも繰り返し読める。
そう考えるとドロシー・L・セイヤーズのピーター卿とハリエットだってミステリーなんだけど恋愛小説だ。セイヤーズの暗号ものだってあんまり好きでないもんね。

というわけだが、推理の合間にフェン教授らしいユーモアと達観が気分よい。それとめずらしくも怒りの場面もあって(二階でのフェン教授の罵倒の声を階下にいた人が聞いた)、法律では裁けないものに対して正義感がありまっすぐな人なんだとわかった。
オクスフォードの自宅では、クリスマスに近所の孤児院の子どもたちを招いてパーティをすることも知った。
(富田ひろみ訳 論創社 2000円+税)

アーサー・コナン・ドイル『サセックスの吸血鬼』を青空文庫で

昨日、青空文庫で「源氏物語」がもうちょっと残っているのを読もうと思いながら、あれこれ見ていたらアーサー・コナン・ドイル(シャーロック・ホームズ)にぶつかった。たくさんある中で気に入ったタイトルが大久保ゆう訳「サセックスの吸血鬼」。
考えたら最近(といってもだいぶ前だが)読んだホームズは、ローリー・R・キング「シャーロック・ホームズの愛弟子」のシリーズなのだ。そのシリーズの「バスカヴィルの謎」を読んだときに、本家の「バスカヴィルの犬」を何十年ぶりに再読したんだった。

シャーロック・ホームズとワトソンのところに以前に関わった事件で知り合った人から依頼状が届いた。
紅茶卸経営者のファーガソンからの吸血鬼に関するもので、知人はホームズを訪ねて依頼するように薦めたという。
サセックス州はそう遠くない。古い屋敷が多い所だ。ファーガソンはワトソンの若いときのラグビー仲間だった。「貴君の案件喜んで調査する所存」と電報で承諾する。
翌朝やってきたファーガソンは体格が崩れ元一流選手の無様な姿をさらしていた。
話を聞いてホームズとワトソンは明日にも屋敷を訪ねると決めた。

翌日二人はサセックスに行き荷物を宿に預けてファーガソンの古い地主屋敷を訪ねた。
ファーガソンは最初の妻に死に別れてペルー人の若い女性と再婚し子どもが生まれている。前妻の息子が一人いて父を慕っている。

事件というのは愛する妻がわが子の生き血を吸っていたのを目撃されたというもの。その後は乳児には乳母が離れずについている。妻には昔からいる召使いがつききりでついている。

シャーロック・ホームズは論理的に事件を解決する。
モノクロの挿絵もよくて楽しめた。
シャーロック・ホームズの物語がこんなにおもしろいとは!!

ジェームズ・アイヴォリー監督『ハワーズ・エンド』

昨日見たアイヴォリー監督の映画「最終目的地」があまりにもよかったので、その勢いでまた見てなかった「ハワーズ・エンド」(1992)を見た。原作はE・M・フォースターの1910年の小説。
画面が美しく上品なのでさらっと見られるが、内容はとても厳しい。イギリスの上流階級の堅固な守りの意識と行動、そこへ這い上がれない下層階級の少し上の階層(事務労働者)の人間が描かれていてせつない。

20世紀はじめのロンドンに、姉マーガレット(エマ・トンプソン)、妹ヘレン(ヘレナ・ボナム・カーター)、弟ティビー(エイドリアン・ロス・マジェンティ)の3人姉弟が住んでいる。マーガレットは知的な美人、ヘレンは芸術家肌、弟は学生。遺産で豊かに暮らしている。講習会からヘレンが傘を持って帰ったのが縁で事務職のレナード(サミュエル・ウェスト)と知り合う。レナードは向学心があるが、だらしない妻がいて食べて行くために必死で働いている。
向こう側のアパートにウィルコックス一家が引っ越してきて、マーガレットは当主のヘンリー(アンソニー・ホプキンス)と妻のルース(ヴァネッサ・レッドグレイヴ)と親しくなる。ルースとは特に仲良くなるが、彼女は郊外にあるハワーズ・エンドの話をよくして、一度見に行ってほしいと何度も言う。そして亡くなるときにメモ書きでハワーズ・エンドをマーガレットに譲ると書き遺す。
しかし、ウィルコックス家の人たちはメモ書きだからと遺書を燃やしてしまう。
ヘンリーはマーガレットにだんだん惹かれていき求婚する。いままで女権論者だったマーガレットが応じて婚約。着るものもカジュアルから普通の人のように。
ヘンリーの2人の息子夫妻は自分たちの財産を心配して困惑する。
ヘレンは姉を批判しレナード夫妻と親しくしてウィルコックス家の人たちを困惑させ、ついに事件が起こる。

ジェームズ・アイヴォリー監督『最終目的地』

「最終目的地」(2009)はアイヴォリー監督のいちばん新しい作品。いままで見たなかでいちばんよかった。すぐに原作(ピーター・キャメロン)を読みたくなっていまアマゾンに注文した。

オマー(オマー・メトリー)はイラン系アメリカ人、大学で文学の教師をしており、同僚のディアドラ(アレクサンドラ・マリア・ララ)とは恋人同士である。
オマーが大学に残るためには博士号をとらなければならない。自殺した作家グントの伝記を書くことにして、作家の遺族に申し込むが拒否されてしまう。ディアドラの勧めもあって、直接頼もうとオマーは作家が暮らしていた南米ウルグアイへ向かう。

たどり着いたのは大きな邸宅で、グントの兄アダム(アンソニー・ホプキンス)と恋人のピート(真田広之)、グントの妻キャロライン(ローラ・リニー)、愛人アーデン(シャルロット・ゲンズブール)とその娘の5人が不思議な共同生活をしている。

近くにホテルがなく、オマーは伝記執筆の許可が出るまで粘るつもりでしばらくこの家に泊めてもらうことになる。
キャロライン一人が拒否しているのをなんとか応じてもらおうと、毎日オマーはアーデンの手伝いをしたり、アダムと話したりしながら待つ。アーデンとだんだん心が通い合っていく。
ある日、ピートの蜂の世話を手伝っていて蜂アレルギーのために危篤になる。アーデンがディアドラに連絡したので彼女がやってきて、てきぱきと看病し、伝記執筆の交渉に口を出す。芸術家肌のキャロラインと実務家肌のディアドラの会話は噛み合ない。

ピートは徳之島生まれの日本人で、アダムとは同性愛の生活が25年続いてきた。いまやピートは40歳になり、アダムはお金を工面してピートを独立させてやりたいと思っている。母親が遺した宝飾品を内密に持っていたのを外国でへ持ち出して売り資本金にしてやろうと考え、オマーに片棒を担がそうと画策する。ビートはそれを聞いて拒み、いまのここでの生活が自分の最終目的地だと言う。愛し合っているふたりが向き合うシーンがいい。

キャロラインが折れて伝記執筆OKとなり、オマーとディアドラはようやく帰国できる。別れを惜しむオマーとアーデン。

雪の季節になりオマーはアメリカで教師を続けている。教室でトマス・ハーディの「テス」からの一行を学生のために黒板に書く。そしてその言葉に押されて、南米ウルグアイのアーデンのところへ荷物をまとめて発つ。
オマーにとって最終目的地はアーデンのいるウルグアイなのだ。

トマス・ハーディの「テス」を読まなくっちゃ。何十年も前に読んだだけだから。先日見た映画「トリシュナ」は「テス」の映画化だったし、背中を押される。

マイケル・ウィンターボトム監督『トリシュナ』

ウィンターボトム監督の作品をたくさん貸してくれたT氏が新しいDVD「トリシュナ」(2012)を見せてくれた。
原作はトマス・ハーディの「テス」で19世紀末のイギリスの物語だが、テスを現代のインドの女性クリシュナに置き換えている。ウィンターボトム監督はハーディが好きなのか「日陰のふたり」も映画化していた。

インド北西部の田舎のホテルで働いている美少女トリシュナ(フリーダ・ピント)に、旅行中のイギリス青年ジェイ(リズ・アーメッド)が関心を持つ。ジェイは父親が経営するリゾートホテルで働くよう世話をし、トリシュナは気持ちよく働くが、そのうちにジェイの子どもを妊娠したのに気がつき実家に帰る。
父親は医者に連れて行きすぐに中絶手術を受けさせる。
親戚の工場で働いているトリシュナをジェイが追いかけてきてムンバイに行こうと誘う。ムンバイのマンションで暮らしダンスを習い、ジェイは映画の仕事をすることになり二人は仲間とともに楽しく仕事をし暮らしはじめた。
順調にいっていたのも束の間、トリシュナが田舎に帰って妊娠中絶したことを打ち明けるとジェイは受け止めきれなくて荒れる。
ジェイは父親が倒れたのでムンバイを去ってホテル経営を引き継ぐことにする。
ジャイブールの豪華なホテルでまた働き出したトリシュナだが、ジェイはだんだん威圧的な態度をとるようになり、性奴隷のようにトリシュナを扱うようになる。
耐えに耐えたあげくのある日、トリシュナはホテルのキッチンから包丁を持ち出す。

主役は美男美女だし、インドの田舎の景色やホテルの建物や部屋からの眺めがよくて、トリシュナの衣装がきれいで、悲劇に終った物語だけど、そんなことで少しだけ気持ちがやわらいだ。

モンス・カッレントフト『天使の死んだ夏 上下』(2)

暑さは続いている。だいぶ前に起こった森林火災が必死の消火活動にもかかわらず全然衰えないで燃え続けている。ヤンネは優秀な消防署員でバリ島へ行っていても気が気でない。

緑地公園で見つかった少女ジョセフィーンは危害を受けた記憶が消えていてなにも思い出せない。レイプではなく器具(ディルド)を使ったらしく、小さな破片が膣から見つかる。この事件が木曜日。日曜日にテレーサが行方不明になり必死の捜査をするが、見つかったときは海水浴場の砂浜で死体になっていた。体はきれいに洗われていて最初と同じ犯人と思われる。
そして2日後に少女の死体が見つかる。彼女はホテルのキッチンで働いていて、同僚の少年が自転車で通りかかって見つけた。

モーリンはジョセフィーンに催眠療法を受けてくれるように頼む。両親は反対だが本人はもしそれでなにかがわかればと承諾する。精神科医のヴィヴェーカは前作でモーリンと知り合った優秀な医師。診察の結果は〈森で襲われ、車でどこかの倉庫に連れて行かれ暴行され、そこから逃げ出して緑地公園にたどりついた〉というものだった。

ヤンネとトーヴェがバリ島からもどってきた。ヤンネをベッドに自然に誘うモーリン。翌朝、ヤンネは森林火災の消火活動に出かけて行く。
警察の報道会見にカシム署長はモーリンを同行する。最後に「娘が待っていますので」と質問をさえぎるところまでテレビで放映されたのを見ていた女がいた。
(久山葉子訳 創元推理文庫 1040円+税)