クリント・イーストウッド監督・主演『グラン・トリノ』感想続き

昨日書き忘れていた。コワルスキー(クリント・イーストウッド)の飼い犬がよかった。主人と同じように老犬で主人のことをよくわかっている。これから出かけようというとき、浴槽でタバコをくわえた主人をなじるものだから、一度だけ吸わせてくれよとコワルスキーが頼む。それから着替えて最後の大仕事をしに出かけるのだが、その前に犬を連れて隣家のモン族のおばあさんに託す。犬はコワルスキーと今生の別れと理解して淋しく横たわる。
コワルスキーは大仕事を決行する前に、床屋で散髪してひげもあたってもらった。洋服屋では生まれて初めて服を誂えた(わたしは後で自分の葬式に着る服だと気がついた)。

コワルスキーは一見差別主義者のようだがそうではない。自分はポーランド系、床屋の主人にはイタ公と呼んでぼろくそ、タオの仕事先に紹介したのはアイリッシュ系が経営する小さな工場。まだいたけど忘れた。
だからモン族の一家のことをぼろくそ言ってても、パーティーに呼ばれるととけ込む。タオの人間を見抜いて教えるし助ける。

サラ・パレツキーの作品で毎度おなじみの老人、ミスタ・コントレーラスを思い出した。工場労働者出身の頑固一徹な老人。コワルスキーは息子夫婦に独居をやめて施設に入るように勧められる。ミスタ・コントレーラスは娘に同居を勧められる。ふたりとも頑として応じず。
そこで妄想、クリント・イーストウッドにミスタ・コントレーラスをやってもらってニコール・キッドマンにヴィクことV・I・ウォーショースキーをやってもらったらええやろな。

クリント・イーストウッド監督・主演『グラン・トリノ』

クリント・イーストウッドはこれで俳優引退と言ってたそうだが、その後「人生の特等席」に出演した。どちらもいいが、こっちのほうが好き。ハリー・キャラハンを思い出した。

「グラン・トリノ」はフォードの車種フォード・トリノのうち、1972年から76年に生産された名称だそうな。
コワルスキー(クリント・イーストウッド)はフォードで50年自動車工として働いてきたポーランド系アメリカ人。物語は妻の葬儀がカトリック教会で行われているところからはじまる。こわばった彼の表情で2人の息子の家族とうまくいってない様子がわかる。

愛車グラン・トリノを磨き上げ、それを眺めながら庭に座ってビールを飲むのが毎日の楽しみで、独り言で悪態をつくいやなじいさん。
朝鮮戦争に従軍してたくさんの敵を殺したこと、そのために勲章をもらったことを50年経ったいまも罪に感じている。

デトロイトの街は自動車工業が衰退して、いままで白人が住んでいた地域にアジア人や中南米の人たちが住んでいる。コワルスキーの隣人もモン族一家が住んでいて賑やかだ。
隣家の息子タオが従兄弟が入っている不良グループに脅かされて、グラン・トリノを盗もうと忍び込むがコワルスキーにおどされる。タオの姉のスーは礼を言いにきてホームパーティーに誘ってくれ、一家の歓待に彼の心は和む。
スーにタオを一人前にしてくれと頼まれて、仕事を教えるうちに心がほだされていくコワルスキー。彼が紹介した職場に行ったタオが不良たちにまた脅されたのを知った彼は、対策を考える。床屋に行き服装を整え、タオを家の地下室に呼んで鍵をかけ、ひとり不良たちの家に向かう。

若いカトリックの神父は最初こそ教条主義的なことを言っていたが、コワルスキーを捜してバーに行っていっしょに飲んだりしているうちにほぐれてくる。
コワルスキーの遺書には、家はカトリック教会へ、グラン・トリノはタオへと記してあった。
(明日に続く)

静かに暮らしている

本の感想を書こうと思っていたが、読書用眼鏡が壊れて新しいレンズがあさってになるとのことで、今日明日は不自由である。パソコン用は健在。
そんなもんで去年の日記アーカイブを読んでいる。
去年の今頃は大阪の瓦礫焼却の件で気持ちが昂っていて、集会や講演会によく参加していた。家にいるときは「IWJ」(インディペンデント・ウェブ・ジャーナル)の中継を毎晩のように見てた。タダ見じゃ悪いので1万円払ってIWJの定額会員になり、先日これからの1年の更新をしたところ。
11月29日は「大阪震災瓦礫の試験焼却日 前夜」、30日は「大阪震災瓦礫の試験焼却日 当日」の気持ちを書いている。ずっと焼却は行われて毎朝〈環境省大気汚染物質広域監視システム〉の「そらまめ君」を見ることで一日がはじまっていた。外出はマスクを忘れないようにしていた。
当初の予定は2年だったと書いているから、1年足らずで終了したのはよかったが。

あとは今年もいっしょやな。ミステリを読んで映画DVDを見て、野菜を食べる話。友人から柿を送ってもらって、違う友人から教えてもらった甘酒を飲んで、全然変わらぬ日常やん。30日には〈あたしら年寄りやさかいに静かに暮らすしかないな。映画「プリピャチ」に出てきた老夫婦のように。〉なんて書いておる。それから1年経った。ありがたいことに静かに暮らしている。

アップマーケットin芦原橋で遊んだ

9月に友人からこんなんあるよと、毎月第三日曜日開催〈アップマーケットin芦原橋〉を教えてもらった。彼女は焼き菓子を出品するそうなので行くつもりだったが、当日は雨で断念した。来月はと思っていたら10月はなんか用事ができて行けなかった。今日は早くから行く予定でいて、食べるものがあるらしいから昼ご飯を食べるつもりで出かけた。電車で行くと地下鉄で大正へ出てJR大正から芦原橋と大回りになる。タクシーで行ったら800円ほどで10分くらい。
暖かかったし駅から近い広場はたくさんの人出だった。テントを張ったお店がたくさんあって、外回りにはぐるりと、真ん中のコーナーも上手にレイアウトされている。催し物を見るように座る場所もある。すべてのテーブルの真ん中に秋の花を挿したガラス瓶があっていい感じ。
肝心の友人は今月は出店しなかったみたいだ。でも、彼女のおかげでここを知ったのだから感謝だ。

食べ物屋さんがたくさんある中から「大和フォー」というのを食べた。ベトナム料理のフォーを和風にアレンジしてあってうまかった。これからフォーに凝りそう。そしてコーヒー専門店では目の前で淹れたおいしいコーヒー。
オーガニック野菜の売り場で梅干しを買った。塩と紫蘇だけの梅干しがいままで買っていたのより安くてありがたい。カレー屋でカレー粉とアッサムティーを買うのに、お店の女性にいろいろ食べさせてもらった。ここでタンドリーチキンとシシカバブーを買って晩ご飯のおかず。蒸したら美味しかった。
小物や袋物のお店もたくさんあった。和歌山の龍神村から来たという女性の草木染めの店があって、気に入ったけど大きなものは高い。椿の花となにやらを煮詰めた染料で染めたという、渋茶色のスカーフを相方と共用することにして買った。
久しぶりにゆったりとした午後を過ごしていい気分。

クリント・イーストウッド監督・製作・主演『スペース・カウボーイ』

とても喜んで見た記憶があるのに感想が書いてないということは、このブログ以前に見たのだろう。覚えているシーンはあるけど大部分は忘れていて、ああそうだったと思い出したところもあった。製作は2000年。
引退して妻と悠々自適生活のフランク(クリント・イーストウッド)が、妻とガレージで戯れているところにNASAからの使者が来る。
かつてアメリカで作った宇宙ステーションと同じシズテムが引き続き使われているロシアの通信衛星〈アイコン〉が故障した。これを修理できる人たちはすでに死亡していて、生き残っているのはフランクだけだ。出世コースを歩んでいる昔の同僚からの依頼に疑いの目を向けたフランクだが、かつて行けなかったチーム・ダイダロスの宇宙行きをいま実現しようと決心する。
1958年に宇宙飛行士を目指して訓練していた〈チーム・ダイダロス〉のメンバー4人は、直前に空軍からNASAへ宇宙計画が移行したので結局宇宙へは行けなかった。彼らは技術者として働き引退した。
いまは、曲芸パイロットのホーク(トミー・リー・ジョーンズ)、ジェットコースター技師のジェリー(ドナルド・サザーランド)、牧師のタンク(ジェームズ・ガーナー)とかつての仲間達の職場をまわって説明すると、全員やる気まんまん。

身体検査からはじまって宇宙飛行士の訓練がはじまる。
最初は秘密にしていた企画だが、マスコミに漏れて〈チーム・ダイダロス〉はテレビにも出演。老齢を笑いのネタにされても受け流し訓練を続ける。クリント・イーストウッドを中心に高齢者が頑張るところが微笑ましい。4人プラス若者二人で宇宙へ出発。

リンジー・フェイ『ゴッサムの神々 上下』

1845年のニューヨーク、混沌とした街にアイルランドその他の移民があふれ、犯罪が横行している。真面目な美青年ティモシー(ティム)・ワイルドはバーテンをしてお金を貯めていたが火事ですべてを失い顔に大火傷を負う。兄のヴァルはその顔でバーテンは無理だろうと、創設されたばかりのニューヨーク市の警官になるように勧める。彼はパン屋の2階に部屋を見つけて働きはじめた。第六区の警官は55人の寄せ集めの与太者からなっていた。事務官に星の形をした銅の徽章をもらい街へ出る。ティムは火傷の痕を覆面で隠す。かろうじて目は見えている。

三週間後、ティムは夜の街を歩いていて血まみれのネグリジェ姿の少女バードとぶつかる。バードの言葉から捜すと胴体を十字に切り裂かれた少年の遺体が見つかる。続いて見つかった遺体は19人になった。
ヴァルはマーシーを見つけて聞け。だれがアイルランドの少年たちをロブスターみたいに切り裂いたか突き止めろと言う。
マーシーの家の側へ来たとき、火事で廃墟になった場所が見える。いくつかの建物の修理が始まっていた。「どの神を信じるにしろ、俺たちは進み続けるんだ」とティムは考える。
マーシーは慈善活動をしている美しく頭の良い自由な女性で小説を書いている。彼女を愛するようになったティムだが、事件を調べているうちに彼女のもう一つの面が見えてきた。
バードはティムとパン屋の女主人になつくようになり、ティムは彼女のこれからを考えて、学校へ行かすことにする。

あまりにもひどい事件なので途中で読むのをやめたが、もう一度最初から読み直した。
ニューヨークとそこに住む人たちの姿が荒っぽさのなかに描かれている。
マーシー・アンダーヒルを想うティムのこころがいじらしい。

アイルランド移民がニューヨークに着く映画にトム・クルーズとニコール・キッドマンの「遥かなる大地へ」があった。1892年のこととなっているから、半世紀後のことか。

もういっこ、ニューヨークの街を立派な馬車が走るイーディス・ウォートンの小説「エイジ・オブ・イノセンス」と映画化された「エイジ・オブ・イノセンス/汚れなき情事」を思い出した。1870年代だから四半世紀後ね。

本書は出る前から読みたいと言っていたのを、友人がいち早く買って読みまわしてくれた。Yさん、ありがとう。
(野口百合子訳 創元推理文庫 上880円+税、下920円+税)

エリック・トレダノ、オリヴィエ・ナカシュ監督・脚本『最強のふたり』

2011年のフランス映画。いま見終わって検索したら【第24回東京国際映画祭のコンペティション部門にて上映され、最高賞である東京サクラグランプリを受賞し、主演の二人も最優秀男優賞を受賞した。】【日本でも興行収入が16億円を超え、日本で公開されたフランス語映画の中で歴代1位のヒット作となった。】とあったのでびっくりした。
実在の人物 フィリップ・ポゾ・ディ・ボルゴが自身と介護人アブデル・ヤスミン・セローをモデルにして書いた本から映画化したもの。

スラムで育ったアフリカ系のドリス(オマール・シー)は、働く気がないのに面接に来たというハンコがほしくて、富豪フィリップ(フランソワ・クリュゼ)の邸宅に面接に行く。フィリップは事故で頸椎から下が麻痺して自由が利かず車椅子に乗ってもベルトで固定する状態だ。面接を待っているのはまっとうな介護人経験者のような人ばかり。なぜか富豪はドリスを選ぶ。
立派な二部屋がドリスの部屋になる。広々とした部屋の中にバスダブがあって、大きなベッドがある。あらゆる日常生活の介助が彼の仕事で、夜中に呼ばれてもうなされるフィリップに対処する。
権威というものが通じないドリスとだんだんそれをおもしろがるフィリップの間に友情が生まれる。日常生活のこまごましたことから、車椅子を乗せたバンから高級車の助手席に移動させてぶっとばすところまで、いろいろ。
口が悪いが悪気はないドリスは介助人として上流社会へ出てもマイペース。フィリップの娘のしつけにも口を出すし、フィリップの文通相手にも関与する。ドリスに絵の才能があるのがわかりフィリップは高値で知り合いに売る。
いつまでもこの仕事をさせるわけにはいかないと、介助人を変えたフィリップだが、やっぱりドリスが必要になり呼び戻す。たくさん笑わせて、最後はドリスが仕切ったフィリップのデートがステキ。始めから終わりまですごく笑わせてくれた。

シェカール・カプール監督『エリザベス』『エリザベス ゴールデン・エイジ』

「エリザベス」は1998年の作品。約10年経った2007年に製作された「ゴールデン・エイジ」と2日続けて見た。2作はつながった物語だった。

16世紀のイギリス、王位継承権一番目のエリザベス(ケイト・ブランシェット)は、妾腹の娘ということで義理の姉になるメアリー女王に蔑まれていたが、メアリーが亡くなったため、イングランド女王として即位する。
エリザベスはしっかりした女性だったが、地位を得てからは試練を超えてだんだん女王らしくなっていく。恋情を押し込んで、イギリス国と結婚したと言い、ヴァージン・クイーンと言われるようになる。

父のヘンリー8世が1534年にイギリス国教会を成立させた。亡き女王メアリーはカトリックだったが、エリザベスは父を継いでいる。
それでローマから憎まれて刺客につけ狙われる。国内にもカトリック信者がたくさんいる。
世界最強の艦隊を持つスペインとフランスから結婚を持ちかけられて断る。その後スペイン艦隊が攻めてきてテムズ川を遡ってくるという。大掛かりな海戦が繰り広げられ、劣勢だったイギリス海軍が巧妙な作戦で勝つことができた。

航海士ウォルター・ローリーとの恋。ウォルター・ローリーという名前は子どものときから知っていたけど、なんか物語を読んだのかな。この人がアメリカ新大陸に渡って、手に入れた土地に処女王にちなんで「ヴァージニア」と名付ける。
もう一度見て確認したいが、女王が進む道に水たまりがあって、ウォルター・ローリーがマントをさっと投げてその上を歩いてもらうシーンがあった。もしかしたらこの話をなにかで読んでいたのかもしれない。

いままでわたしが読んできた物語ではエリザベスよりもスコットランド女王メアリー・スチュワートのほうが気高くて美しく、エリザベスは冷たい女という印象が消えていない。この2本でエリザベスに興味がわいてきた。

中原淳一とともに

ツイッターで雑誌「ユリイカ」11月号は「少女イラストレーションと中原淳一」特集なのを知った。知ったらすぐに読みたい。
実は今年の夏に阪急百貨店の画廊での中原淳一展に行った。帰りにカフェでコーヒーを飲みながら、そろそろ淳一から卒業する時期かなと思った。帰ってからたまっている絵はがきを処分しようかなと思うところまでいったのだが、広げたら惜しくなってまた片付けた。実はひまわり柄の淳一ハンカチをバッグにひそませている。持っているだけで使いません(笑)。

そんなわけで今日堂島のジュンク堂へ買いに行って、ここに「ユリイカ」がある。まだ絵を見ただけで中身は読んでない。楽しくて役に立つ記事があるかな。
いまぱっと開いたところが「中原淳一パリ交友録」、中原淳一が高英男といっしょにパリに行った話が出ていて懐かしい。お二人のパリ通信を「ひまわり」と「それいゆ」で楽しく読んでいたっけ。
あっ、目次を見たら嶽本野ばらさんが書いてはる。「ゆとり世代の中原淳一」ってどんなこを書いているのかな。これアップして読もう。
(青土社 1238円+税)

ジーン・ポーター『そばかすの少年』

リンジー・フェイの「ゴッサムの神々 上下」を読んでいたら息が詰まってきたので、ちょっとゆるめようと「そばかすの少年」を引っ張り出した。「ゴッサム」はニューヨークの警察制度が発足した1845年を書いている。当時のニューヨークにはじゃがいも飢饉などによるアイルランドからの移民がたくさんいて悲惨な目に遭っていた。子どもたちが売春させられ殺されるところを読んでいたらちょっとひと休みしたくなった。

それで読みたくなったのが「そばかす」。アイルランドからアメリカ・シカゴへ恋人を追って行った貴族の子息が苦労した末に死に、火事で妻も亡くなり、怪我をして遺された息子は名前もわからぬまま孤児院で育つ。火事で右腕を失ったので養子の口もない。学校に紹介された家で虐待され家出して職を探す。
リンバロストの森の木材会社になんでもするからと支配人に頼むと、森の番人の仕事を与えられる。名前はと聞かれて「そばかす」と言うと、スコットランド人の支配人はマックリーンと自分の名前を彼に与えて名簿に記す。
リンバロストの深い森と沼地には立派な木材になる木がたくさんあり、マックリーン支配人は有刺鉄線で自分の広大な土地を囲っているが、泥棒が狙っている。毎日そこを歩いて見廻るのがそばかすの仕事になり、彼は誠心誠意働き、森の植物と動物について体で学ぶ。マックリーンにはそばかすが日ごとにわが子のように思えてくる。

森に研究のためにやってきた「鳥のおばさん」と呼ばれている女性学者といっしょに来た少女エンゼルとの交流はそばかすに生き甲斐を与えた。エンゼルを熱愛するが、身分違いのために苦しむ。
最後はエンゼルが奮闘して、アイルランドから甥を捜しにきた貴族を見つける。めでたし、めでたし。

その後、「そばかす」は「オ・モーア」となり、ジーン・ポーターの次の作品「リンバロストの少女」では、主人公の少女エルノラが困ったときに助けを求めると快く引き受ける。妻のエンゼルとの間に子どもが4人でもっと産むとエンゼルは言っている。
ともにリンバロストの森の魅力がいっぱいで楽しく、わたしが10歳ごろから愛読している少女小説。そのとき読んだ本はなくして児童図書館でコピーをとってもらったが、20数年前に文庫本が出ているのを発見した。
(村岡花子訳 角川文庫マイディア・ストーリー)