カーリン・イェルハルドセン『パパ、ママ、あたし』

スウェーデンのストックホルム、ハンマルビー署のコニー・ショーベリ警視と部下たちが、すさまじい犯罪に正面から立ち向かうシリーズ。先日読んだ「お菓子の家」が第1作で今回の「パパ、ママ、あたし」は第2作。2冊ともタイトルは甘いのに内容は強烈な犯罪と真っ正面から立ち向かう警官たちの物語である。次作でショーベリシリーズの第一期三部作が終る。そのあと部下のメンバーが変わって3作あるそうだから楽しみ。

若い母親は泣き叫ぶ病気のわが子を抱いてなすすべなく立っていた。夫は日本での技術セミナーに出ていて、あと4日と何時間かで帰ってくる。彼女は泣き止まぬこどもを抱いてドアに鍵をかけ外に出た。

イェニファーとエリーセの姉妹のアパートはたいていの日が午前中からパーティで、母親の友人たちがたくさん集まっている。コーヒーとオープンサンド、そして酒とタバコをそれぞれが持ってくる。
未成年の姉妹は母親にかまってもらえなくて、冷蔵庫から黙って酒を取り出して飲んでいる。イェニファーはボーイフレンドと約束があると言って出かけた。

父親は息子を出て行かすまいと暴力をふるう。ヨッケは学習能力に欠けていて24歳になっているのに就職できず、母の介護で父に小遣いをもらい、新聞配達で補っている。倒れて意識不明だったが、目が覚めると傷だらけの顔でよろよろと起き上がり父の財布からお金を盗んで外に出た。今夜はイェニファーとフィンランドクルーズの船に乗る約束がある。
船は出港し、イェニファーはバーで男性に話しかけられたり、酒をおごってもらったりしながら船は進み夜は更けていく。そしてイェニファーの絞殺遺体が見つかった。

ハンナは3歳と数カ月の子どもだ。明るくなって目が覚めると一人ぼっちだった。母がいないので泣くが返事がない。冷蔵庫と冷凍庫から食べられるものを出して食べる。あちこち電話の数字を押しているうちに女の人が出て、バルブロと名のり話し相手をしてくれ、窓からなにが見えるか聞きだす。ハンナは一人で夜になると泣き寝入りし、朝は空腹で目が覚め、そこにあるものを食べる。

バルブロは警察に連絡するが電話番号を確定するには1週間かかると言われる。彼女は意を決して歩いてハンナの住宅を探すことにする。ハンナが窓から見えると言った景色を求めて。しかしストックホルムは広い。

ショーベリが信頼している部下のペドラは深夜のジョギング中に、公園で倒れている女性とベビーカーの赤ん坊を見つける。赤ん坊は病院で治療を受けるが母親は死亡していた。
同じ夜に起こった二件の殺人事件の関係者が交わる。
(木村由利子訳 創元推理文庫 1200円+税)

カーリン・イェルハルドセン『お菓子の家』

ヘニング・マンケルからはじまったスウェーデン北欧そしてドイツのミステリがおもしろい。
今回また新しい作家カーリン・イェルハルドセンが紹介された。「お菓子の家」はコニー・ショーベリ警視シリーズの第1作。訳者あとがきによると当初の予定の3作は終ったが、シリーズは新メンバーも加わって6作目まで出ているそうだ。おととい買ったのは第2作「パパ、ママ、あたし」だが、両方とも甘いタイトルなのに中身はきつい。読んだ人からの口コミで硬い本好みの人へ広がっていけばいいな。

トーマスはこどもの時から目立たないように生きてきていまも一人暮らしをしている。だれも彼の存在に気がつかず職場でも無視されている。
【ここストックホルムの成人には、もちろん違うルールが適用される。ここでは個性的な考えが評価され、伝統を破る外見が、往々にして好意的に迎えられる。そして何よりも、教育を受け、自立していなければならない。】
こんなスウェーデンだがトーマスに社会は厳しかった。結果はいまのような目立たない男になってしまった。

年金生活者のイングリットは大腿骨を折っての入院生活のあとで家に戻ってきた。車椅子で送ってもらいドアのところで一人になった。杖をついて部屋に入ると嗅ぎ慣れない匂いがする。明かりをつけると知らない男が倒れていた。イングリットは病院へもどった。おどろいた看護婦のマギットはあと2時間半で仕事が終るから待っているようにと言う。そして二人は死体のある部屋へもどり警察へ電話する。

ハンマルビー署刑事課のコニー・ショーベリ警視は家で子どもたちの相手をしている。8歳の長男シモン、6歳と4歳の娘がいて、1歳児の双子は養子である。妻のオーサは教師で仲のよい家族だし、ショーベリは家事をいやがらない。しかし、妻のほうが家事の負担が多くなりショーベリが外へ出るときに爆発することがある。
呼び出しを受けてショーベリは現場へ向かう。
殺されていたのはまともな実業家で良き夫であった。なぜイングリットの部屋なのかも関連が見えない。

それから続く連続殺人、被害者の共通点は44歳くらいだということ、共通の地名もわかってくる。

ショーベリの部下たちのてきぱきとした仕事ぶりもよい。女性刑事ペトラや女性たちがいきいきと働いている。
なぜかオープンサンドをよく食べている。もう一度読んでのせているものをチェックしよう。
(木村由利子訳 創元推理文庫 1000円+税)

カーリン・イェルハルドセン『お菓子の家』

ヘニング・マンケルからはじまったスウェーデン北欧そしてドイツのミステリがおもしろい。
今回また新しい作家カーリン・イェルハルドセンが紹介された。「お菓子の家」はコニー・ショーベリ警視シリーズの第1作。訳者あとがきによると当初の予定の3作は終ったが、シリーズは新メンバーも加わって6作目まで出ているそうだ。おととい買ったのは第2作「パパ、ママ、あたし」だが、両方とも甘いタイトルなのに中身はきつい。読んだ人からの口コミで硬い本好みの人へ広がっていけばいいな。

トーマスはこどもの時から目立たないように生きてきていまも一人暮らしをしている。だれも彼の存在に気がつかず職場でも無視されている。
【ここストックホルムの成人には、もちろん違うルールが適用される。ここでは個性的な考えが評価され、伝統を破る外見が、往々にして好意的に迎えられる。そして何よりも、教育を受け、自立していなければならない。】
こんなスウェーデンだがトーマスに社会は厳しかった。結果はいまのような目立たない男になってしまった。

年金生活者のイングリットは大腿骨を折っての入院生活のあとで家に戻ってきた。車椅子で送ってもらいドアのところで一人になった。杖をついて部屋に入ると嗅ぎ慣れない匂いがする。明かりをつけると知らない男が倒れていた。イングリットは病院へもどった。おどろいた看護婦のマギットはあと2時間半で仕事が終るから待っているようにと言う。そして二人は死体のある部屋へもどり警察へ電話する。

ハンマルビー署刑事課のコニー・ショーベリ警視は家で子どもたちの相手をしている。8歳の長男シモン、6歳と4歳の娘がいて、1歳児の双子は養子である。妻のオーサは教師で仲のよい家族だし、ショーベリは家事をいやがらない。しかし、妻のほうが家事の負担が多くなりショーベリが外へ出るときに爆発することがある。
呼び出しを受けてショーベリは現場へ向かう。
殺されていたのはまともな実業家で良き夫であった。なぜイングリットの部屋なのかも関連が見えない。

それから続く連続殺人、被害者の共通点は44歳くらいだということ、共通の地名もわかってくる。

ショーベリの部下たちのてきぱきとした仕事ぶりもよい。女性刑事ペトラや女性たちがいきいきと働いている。
なぜかオープンサンドをよく食べている。もう一度読んでのせているものをチェックしよう。
(木村由利子訳 創元推理文庫 1000円+税)

ローナ・バレット『本の町の殺人』

友だちにもらったコージーミステリだが、ちょっとしんどいときの気分にぴったり。
主人公トリシアはミステリー専門書店を経営している。ニューヨークで華やかに暮らしていたが離婚してから心機一転してニューハンプシャー州の本の町ストーナムでミステリー専門書店を開いた。
ニューハンプシャー州はニューイングランド地域の一部で、東部がメイン州に北部がカナダに接している。そこに本の町ストーナムがあるという設定。訳者あとがきによると、町のモデルはヘイ・オン・ワイというウェールズの小さな田舎町で戦後に地場産業が衰退してから1960年代に本の町として再生し、いまは〈古書の聖地〉として知られて世界中から観光客が訪れているそうだ。

古書と専門書の店が軒を並べ、それを目当ての観光客たちが訪れる町。
トリシアの店はベーカー街221Bのシャーロック・ホームズの下宿兼探偵事務所の建物にそっくりで、飼い猫の名前はミス・マープル。お客は座り込んでコーヒーを飲みながらのどかに本を読むことができる。という優雅な生活がお隣りの料理本専門店の経営者が殺されて一転する。女性保安官は第一発見者のトリシアをなぜか犯人と決めてかかる。
その上に鬱陶しい姉のアンジェリカが訪ねてきた。トリシアは5歳上の姉がずっと苦手だった。
容疑を晴らそうと必死のトリシアに協力するアンジェリカは危険な目にもあう。二人は深く話し合い、事件を通してだんだん理解しあうようになった。
事件を調べる間に、認知症とされて施設に入れられていた老婦人グレイスを助け出すこともできた。
(大友香奈子訳 創元推理文庫 980円+税)

ジョセフィン・テイ『裁かれる花園』を再び

久々に「歌う砂」を読んだらアラン・グラント警部が相変わらず魅力的で、好きなところを繰り返し読んだ。クラダ島へ行くところ、そこで出会う人たちも気に入っている。
テイの本は何冊か持っているが、今回読みたくなったのがグラント警部シリーズではない「裁かれる花園」で、前回は図書館で借りて読んだ。今回どうしても手元に持っていたくなりアマゾンの中古本で手に入れた。読んでいるうちに忘れていたところを思い出したり、ここが気に入っていたと喜んだり楽しい読書ができた。
なにか書いてあるかなと〈ジョセフィン・テイ アーカイブ〉を探したら6年前に読んで感想を書いていた。

セイヤーズの「学寮祭の夜」はオクスフォード大学で、学寮祭に参加したハリエットがのちに寮で起きつつある怪事件の解明を頼まれて寮生活を送ることになる。
こちらは2年制の体育大学で実技の練習で明け暮れる学生たちに惹かれたルーシーが、学友だったヘンリエッタ学長に請われて長期滞在する。
どちらも学生たちの生態がよく描かれている。すでに中年になった主人公が若者たちに対して抱く批判的な気持ちがわかり過ぎる(笑)。
「学寮祭の夜」も「裁かれる花園」もミステリーというよりも、女学生ものという感じが好き。「学寮祭の夜」のほうが恋愛小説でずっと好きだが、こちらも宝塚的なところに惹かれる(笑)。
(中島なすか訳 論創社 2000円+税)

ジョセフィン・テイ『歌う砂』を4年ぶりに読んでいる

この間なにげなく本棚から抜き出してちらっと開いた「歌う砂」がおもしろくて最初から全部読んでしまった。
日記を書いておくとなにかと便利だ。「ジョセフィン・テイ アーカイブ」をたどると最初に読んだのは2010年である。あのときもずいぶんと興奮したけど、いま読んでもステキ。その勢いで前回は図書館で借りた「裁かれる花園」をアマゾンの中古本で注文した。届くのが楽しみ〜

グラント警部は典型的なイギリスの独身男である。こどものいなかったおばが亡くなって少なくない財産を譲られた。そのお金で刑期を終えた出獄者と偶然に出会えるように牢の側に小さな食料雑貨店をもっていることは「列の中の男」で語られている。

神経症に悩まされて休暇をとったグラント警部はロンドンから列車でハイランドへ到着する。従姉妹のローラとトミー夫妻の家でのんびり釣りでもするつもりだった。列車を降りるときに若者の死体に出くわす。調査では旅券などでフランス人の死者とされ、事件性はないとされた。
死者が持っていた新聞に書き付けられた言葉がグラントのこころから消え去らない。

しゃべる獣たち
立ち止まる水の流れ
歩く石ころども
歌う砂

新聞に心当たりのある人はいないかと新聞に広告を出し、川で釣りをしているとコレンが尋ねてきた。コレンはパイロット仲間のビル・ケンリックとパリで待ち合わせたが来なかったという。なぜビルはフランス人として死んだのか。

ローラはグラントに子爵未亡人ゾーイを紹介する。若々しく自然で少女のようなゾーイに惹き付けられたグラントだが、ゾーイとの釣りよりも謎の殺人の解明に興味をもつ。
【・・・グラントはビル・ケンリックに、もう一つ借りを作ったことに気づいた。ビル・ケンリックは、グラントがゾーイ・ケンタレンに恋するのを防いでくれたのだ。あと数時間のところだった。もしあと数時間二人きりでいたら、恋に落ちていただろう。】

核心に迫ってもう少しのとき、グラントはコレンと話し合う。二人が知っている同じ匂いがする男たちのことを例にして。
【・・・世の中の他の連中がみんな違うのと同じようにな。ただ一つ、共通の特徴は、病的なまでの虚栄心だ。】
(鹽野佐和子訳 論創社 1800円+税)

ジェシカ・ベック『エクレアと死を呼ぶ噂話』

ノースキャロライナ州の小さな町の小さなドーナツ店〈ドーナツハート〉のオーナー、スザンヌ・ハートが活躍するシリーズ4冊目。

スザンヌは毎日が午後7時にベッドに入って起きるのは午前1時という生活である。暗い中をジープで店に出かける。店に着くと粉をこねてドーナツを揚げカウンターを拭いて、夜が明けたころに最初の客を迎える。そして昼の12時には閉店して昼食にする。
ある夜、眠りかけているときにラジオから〈ドーナツハート〉という声が聞こえた。ラジオ局のニュースキャスター、レスターの声がドーナツは命を縮める食べ物だから〈ドーナツハート〉のドーナツを食べないように言っている。スザンヌは怒りに震えて起き上がり、ラジオ局へ行ってレスターを罵倒し派手な大げんかをする。
翌日、〈ドーナツハート〉のエクレアを口にはさまれたレスターの死体が発見され、警察がやってきた。エクレアは間違いなくスザンヌの店のもので、警察は彼女を容疑者とみている。店の客足が遠のいていく。
今回もまたスザンヌは真犯人を見つけようと親友のグレースと聞き込みにまわるが、レスターは口が悪くていろんな人間を攻撃してきたから調査も大変。

売れ残ったドーナツは教会に持って行くことにしているがまだ前日のが残っているほど。今回は病院の看護士さんたちにも持って行ったり、人にあげることが多い。そんなことだから材料費とアシスタントのエマの給料を払ったら経営はやっとこさである。そうでなくともまだ食器洗い機が買えずに手洗いをしていてグレースに呆れられる。

いつものように住人たちに楽しい?聞き込みをして歩く。恋人のジェイク・ビショップ警部が今回はこの町の警察の捜査の助けをすることになるが、スザンヌのことは心配はしても信頼が基本にあるから昔のように怒らなくなった。
お母さんを以前から熱愛している警察署長さん。スザンヌを熱愛しているジェイク。母と娘に幸せがやってきそう。
(山本やよい訳 原書房コージーブックス 860円+税)

スーザン・ヒル『丘 上下』

関口苑生さんの書評を読んで読む気が起こった。でも名前も知らなかった作家なので、まず先に出ていた「黒衣の女 ある亡霊の物語」を買ってみた。得体の知れない不気味な雰囲気が漂う作品に魅入られて、読後すぐにこちらも買った。スーザン・ヒル、すごい作家をいままで知らなかった。
「丘」は2004年に発表されたサイモン・セレーラー警部シリーズの第1作目。すでに7作が刊行されており、今年8作目が刊行される予定とのこと。本書が売れて次作も訳されることを願う。

イングランド南部の架空の田舎町ラファトンの警察署刑事部のサイモン・セレーラー警部が主人公である。サイモン・セレーラーは医師の家に三つ子のひとりとして生まれ、あとのふたりは医師である。セレーラーだけは医学になじめず、絵を描くのが好きなので絵画を学ぶが学校になじめず、法律の勉強をして警察に入った。そこで異例の出世で若くして警部に昇進した。線描画を描くセレーラーと警察官としてのセレーラーをきっちり分けて生活している。警察の人たちは画家のセレーラーを知らず、絵のファンは警察官のセレーラーを知らない。
P・D・ジェイムズのダルグリッシュ警視シリーズを思い出した。ダルグリッシュは詩人で詩集を出していることを警察の人たちに知られているが。
ラファトンには大聖堂の荘厳な建物があり、いまも信仰する人たのこころの拠りどころになっている。もうひとつラファトンにあるものは物語のタイトルになっているザ・ヒル(丘)である。

老人介護施設で真面目に働いていたアンジェラが失踪したのが最初で、次に失業中の娘デビーが行方不明になった。ザ・ヒルへ犬と散歩に行った老人が犬のリードを外すと犬はどこへ行ったのがついに戻ってこない。アンジェラはザ・ヒルへランニングに行っていた。

フレヤ・グラファム巡査部長はロンドンから転勤してきて間がない。離婚して心機一転ラファトン警察署で働きはじめた。続く失踪人を調べていて関連があると感じ若い巡査のネイサン・コーツとともに事件を追う。

町で開業している医師のキャットはセレーラーの三つ子のひとりである。彼らの母は教会の合唱団の世話をしている。フレヤは歌いたくなり合唱団に入る。
セレーラーは遅くなったフレヤを家に誘ってコーヒーを出し、またふたりはイタリアンレストランで食事を楽しむ。フレヤは恋に落ちる。セレーラーは女性から話を聞くのがうまい。

なんかね、普通のイギリス人のことがちょっとわかったような気になった。レジナルド・ヒルと重ね合わせて考えるといろいろと見えてきたような気がしてきた。
(加藤洋子訳 ヴィレッジブックス 上下とも860円+税)

アンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレム『三秒間の死角 上下』(2)

アンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレムの作品を読んだのははじめてなのだが、すでに2004年に「制裁」、2005年に「ボックス21」(2冊ともランダムハウス講談社文庫)、2006年に「死刑囚」(RHブックス・プラス)があり、2007年の未訳の本が1冊あって本書「三秒間の死角」になるシリーズである。

シリーズの主人公はスウェーデンの首都ストックホルム市警のエーヴェルト・グレーンス警部。本書でもしつこい捜査で警察上層部の秘密に迫る。彼と常にやりあっている検察官と今回は連携する。部下の二人の警部補は上司のやり方に慣れているベテランである。

人質をとったホフマンを1503メートル離れた場所から狙撃できる者は警察にはいない。警察の仕事に軍が介入することは許されていないが、法のほうを合わせることで軍の狙撃手に頼む。
現場で狙撃の命令を下すのはグレーンス警部である。警察上部の人間はホフマンの悪人イメージを作りあげた。いまになるとそういう悪人だから殺して当然な雰囲気になっている。グレーンスは狙撃手に命令を下す。

なにかおかしい。すべてすんだ後にグレーンス警部のもとにホフマンから封筒が届く。それを調べたグレーンスは部下のスンドクヴィストをアメリカで研修中のウィルソン潜入捜査担当官に会いに行かす。だんだん闇の中が見えてきた。

登場人物の名前が覚えにくくて、新しくまたは再び三たび出てくるたびに表紙カバーの〈主な登場人物〉を見ながら読み進んだ。
最後がよかった。
(ヘレンハルメ美穂訳 角川文庫 上下とも840円+税)

アンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレム『三秒間の死角 上下』(1)

医師の山田真さんが薦めてくれたスウェーデンのミステリ、アンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレム / ヘレンハルメ美穂訳「三秒間の死角 上下」(角川文庫)の二度目を読み終えた。
山田さんのおかげでヘニング・マンケルのヴァランダー刑事ものと、グレッグ・ルッカのボディーガード アティカス・コディアック+女性私立探偵ブリジット・ローガンものを知った(その上に翻訳者の飯干京子さんまで知り合えた)のだから、足を向けて寝られない。その他にもいろいろ教えていただいたが、好みが微妙に違っていて、最近はこれは久美子さんの好みではないでしょうと書いてあることが多い。おおまかに分けると山田さんは〈快男児〉で、わたしは〈腐女子〉なのである(笑)。
「三秒間の死角」は満点に近いと褒めつつ久美子さんにはどうかなと言われたのだが、好みではないが読み出したら離せなくて夜中になっても読みふけっていた。

いまのスウェーデンの警察の仕組みと警察官たち、警察官と摩擦を起こしながら仕事する若手検察官、そして潜入捜査員の仕事と人生が描かれている。
上部組織の決定で刑務所への潜入捜査が行われることになり、ホフマンが指名される。捜査員の人生が書類上に勝手に作り上げられ、定められた場所で逮捕され、そのときから極悪人として拘留されることになる。そして刑務所内で秘密任務を果たさねばならない。
ホフマンはソフィアと結婚して二人の男の子がいて幸せな家庭生活を送っている。表向きはホフマン・セキュリティ株式会社の経営者である。妻も働いていて子どもは保育所に預けて夕方どちらかが引き取りに行く。妻は彼が警察の仕事をしているのを知らない。

ホフマンを指名した捜査担当官ウィルソンは9年もホフマンを潜入捜査官として使ってきた。今回の指名はホフマンがいままで一度も失敗したことがないからだ。ウィルソンとホフマンの専用携帯電話がある。二人だけにつながっている電話だ。そして二人の間には微妙な友情がある。
話が決まるとホフマンは動き始める。自分は絶対に生きてソフィアのもとへ帰るという決意。自分を守るのは自分だけだ。
彼は図書館に行って人が借りそうにない詩集を5冊借りる。そしてハードカバーの本に細工して返す。
妻に真実を打ち明けて愛していると言い、考え抜いた自分の頼みを告げて彼は出て行く。果たして妻は頼んだことをやってくれるだろうか。

「きみはだれにも頼れない。絶対にそのことを忘れるな」とウィルソンに言われて踏み出す。
指名手配されたホフマンは4人の制服警官に見つかって暴力をふるわれて捕まり、つばを吐いて悪態をつく。ウィルソンは思う。“犯罪者を演じられるのは犯罪者だけだ”
(ヘレンハルメ美穂訳 角川文庫 上下とも840円+税)