オリヴァー・ハリス『バッドタイム・ブルース』

これも友人にいただいた本で、最近は自分で買うよりもらうほうが多いみたい。いただいて読むのはハズレもあるけど、たいてい自分では買わない本なのでアタリだとすごくうれしくなる。今回もアタリでうれしい。

主人公はロンドンの高級住宅地ハムステッド犯罪捜査課刑事ニック・ベルシー、38歳。この日、彼が目が覚めたのはハムステッド公園の小さな丘で、上半身がずきずき痛むし、腕時計も鍵も携帯電話もない。血がぽたぽた落ちるので、白鳥のいる池へ降りていって水の中へ頭をつっこむ。
出勤して洗面所で着ているものを脱いで洗う。カードは何日か前に無効になっている。彼の考えは【カードがなければ借金もないような気がして、借金がなければどこへ逃げるのも自由だと思う。】
ベルシーが机の上の仕事連絡シートを見ていくと、行方不明が1件あった。この地域でも最も地価の高いところだ。金持ちが姿を消したら貧乏人と同じではない。自分の今日の仕事はこれと決めて出かけると、通報した掃除人の女性がいた。雇い主には会ったことはないが、今日は遺書があったから通報したという。ベルシーは家に入る。

行方不明者の家に夜もどったベルシーは、二階の屋根から大きなプールを発見して飛び込む。食べ物と高級酒をいただき、服を着替え、住まいのない彼は寝室で横になる。

本の中のことなのに、いったいどうするつもりなのか、はらはらしながらどんどん読んでしまった。
ロンドンにはいろんなタイプの飲み屋があるんだな。
【〈ホワイト・ハート〉は古くて天井の低いパブで、都会の富みに寄生するようにして、ロンドンの裂け目みたいな場所におさまっている店だ。労働者やスーツの連中が、パブの暗い隅を漂うように行き来し、携帯電話を眠りにつかせて、一杯ひっかけたり、社内恋愛を楽しんだりする。隠れ家を集めた街のようだ、とベルシーは思った。】
(府川由美恵訳 ハヤカワ文庫 1040円+税)

関西翻訳ミステリー読書会(ギリアン・フリン『冥闇』)

第11回関西翻訳ミステリー読書会に行った。わたしの参加は8回目。
課題本のギリアン・フリン「冥闇」(めいあん)をぎりぎりで読み終って、昨日感想を書いた。

翻訳者の中谷友紀子さんが参加されていていろいろとお話あり。「冥闇」が映画化されるそうである。リビーにはシャーリーズ・セロンという話があるとのこと。
まず参加者全員が順番に感想を述べるのだが、読み始めるときは鬱陶しかったが、読み出したら良くなったとほとんどが肯定的だった。わたしも主人公リビーと身長が同じなことろに好意を持ったと言って笑いをとりました(笑)。

主催者から入り口で渡された資料のうちの一枚。1985年1月、母パディ32歳、長男ベン15歳の事件のあった日の出来事を時間の推移にそって書き出した表組である。大変な労作だ。それにそって意見が交わされた。
32歳で15歳の息子とは17歳で産んだのかと表にすると一目瞭然で、いろんな意見が述べられた。
リビーはぐうたら暮らしをしてきたけど、いざとなると賢い人だとみんな言ってた。

わたしにとってカンザスは映画「オズの魔法使い」で竜巻があったところ(最後のセリフ「わたしはカンザスに帰ります」がお気に入り)で、本書でリビーが家の中を逃げるシーンがあり、逃げこんだところが地下の竜巻シェルターだった。というようなことを発言した。ミステリーから遠く離れて(笑)。

そしてまたカンザス州はサラ・パレツキーの生まれたところ。この機会にとサラ・パレツキーの「ブラッディカンザス」を出してきたのでもう一度読み返そうと思っている。「冥闇」を頭に入れて読めばカンザスへの理解が深まりそう。
(中谷友紀子訳 小学館文庫 924円+税)

ギリアン・フリン『冥闇』

明日の〈第11回 関西翻訳ミステリー読書会〉の課題書、ギリアン・フリンの「冥闇」(めいあん)を8月半ばに買って読みかけたが挫折してしまった。読書会は明日6日である。
9月になってから慌てて読んだのだが、最初はいやいやだったのが後半に主人公のリビー・デイが好ましくなってきた。過去の事件のところをとばして〈現在のリビー〉だけを読み返すと、リビーに好意を持つにいたった(笑)。

〈1985年〉カンザス州で小さな農園を経営している母パティと兄ベンと姉2人とリビーは暮らしていた。父は離婚したのに金をせびりにきて暴力をふるう。

事件が起きたときリビーは7歳だった。母と姉ふたりが惨殺され、壁には悪魔崇拝の気味悪い血文字があった。15歳の長男のベンの犯行場面を見たとリビーは証言し、ベンは逮捕され終身刑を宣告される。リビーは遠い親戚をたらいまわしされて育つ。

〈現在〉アメリカ、カンザス州の小さな借家に住むリビーは31歳。身長147センチという小柄な女性。(わたしと変わらんやんとわたしは独り言-笑)
仕事はせずに善意の人たちによる寄付金で暮らしてきたが、たくさんあった寄付金はついに底をついた。ずっと寄付金の管理をしてきたジムは「・・・これからぼくたちは・・・新しい局面を迎えることになる」とリビーを呼び出して言う。
働くのはいやだしぐうたら考えていると〈殺人クラブ〉の会員ライルから連絡がある。クラブの会員たちはベンの無罪を主張していて、自分たちでも事件を解明しようと思っている。リビーがなにか提供すれば謝礼金が支払われると聞いたリビーは過去の殺人事件に向きあうことになる。

やっとベンに面会に行く気になってリビーは刑務所に行く。ベンはリビーを見て母にそっくりになったと言う。ベンの諦めきった穏やかな物腰と口調にリビーは真相を隠していると思う。
(中谷友紀子訳 小学館文庫 924円+税)

レジナルド・ヒル『ベウラの頂』を繰り返し読んでいる

この夏、レジナルド・ヒルの「ベウラの頂」を繰り返し読んでいる。
いまもっとも好きな作家レジナルド・ヒル。訳されたものはほとんど持っていて繰り返し読んでいる。後期の作品が特に好き。
20年くらい前のことだが、英国の作家3人を招いてブリティッシュ・カウンシル主催の講演会が京都であった。わたしはその3人の作品を読んだことがなかったんだけど、おもしろそうに思えて講演会に行ってみた。
とても楽しい勉強になった講演会だったが、講演者の一人がレジナルド・ヒルだった。よく覚えているのは質問タイムにひとりの女性が「わたしはエリーが好きです」と言ったこと。にっこりと笑って答えたヒルさん。むむ・・・
わたしはエリーもパスコーも知らず、帰りに売っていた本を買ってサインをしてもらった。その後、友だちに借りて何冊か読んだのだがもひとつのめり込めなかった。それから長らく読まなかったが、図書館で借りて読んだ数冊でファンになり、新作が出たら買うようになった。それでも目についたら買うくらいだった。ジュンク堂へ行ったときにこれまだ読んでないと買うこともあった。そうこうするうちにだんだんのめり込んで行き、図書館で読んだ本も買っていった。ダルジール警視シリーズは前期の2冊だけ訳されていない。

どれもこれも好きだが、「武器と女たち」がいちばん好きなときがあり、いまは「ベウラの頂」がいちばん好きだ。
15年前に3人の少女が行方不明になっていまだにそのままである。ダルジール警視の心の傷は癒されないままに月日が経っていった。そして、また、金髪の少女がひとり行方不明になった。
パスコー主任警部は15年前にはここにいなかったが、今回の事件と同じ歩みで娘のロージーが大病にかかる。ウィールド部長刑事は今回の事件では少女の遺体を発見する。あのときと同じ状況だった。あのときの少女たちの隠された遺体はどこにあったのか。

一人だけ逃げて助かった少女ベッツィは行方不明の少女の両親にもらわれて、エリザベスと名を変えなに不自由なく育つ。行方不明の少女のように金髪になりたくて黒髪を漂白しようとして失敗するが、髪はかつらをかぶり、肉体をしぼって美しい姿になり、将来を期待されるクラシック歌手である。

ダルジール、パスコー、ウィールドに加えて若き女性刑事シャーリー・ノヴェロが活躍する。

パスコーは病院の娘のベッドに付き添いながら事件について考える。そして疲れた体にむち打って事件の解明に出かけようとして、エリーにこう言う。
【「ぼくは頭のなかで一度、彼女(※娘のロージのこと)を亡くした。そして、これまでたびたび目にしていたけど、その心の裡を本当に汲むことはできなかったことが理解できるようになったんだ。ああいう子供を亡くした気の毒な人たちが、なぜあんなにやたら興奮して抗議デモをしたり、圧力団体を結成したり、請願をしたり、その他あらゆることをやるのか。それは断じてうやむやにはできないからだ。理由や責任を問わずにはいられないからだ。いわれや因縁、いつ、どうやって、誰が、ということを知らずにはいられないからだ。(中略)彼らに残されているのは知るということだけだ。ぼくがこの段階で言っているのは正義でも報復でもない。ただ単に知るということだけだ(後略)」】

最後の中部ヨークシャー渓谷夏期音楽祭のシーンが圧巻。
ここから出発しようとするエリザベスはマーラーの〈亡き子を偲ぶ歌〉を圧倒的な存在感の英語で歌い上げ、聴衆の感動を誘う。15年前に行方不明になった子供を持つ3組の両親が来ている。エリザベスはこの歌を歌うことで事件に終止符を打ったつもりだった。

だが、ダルジールは彼女を帰らせない。ダルジールとパスコーにはエリザベスに聞くことがある。
【二人は長年一緒に仕事してきたので、縄張りを区分するかすかな境界線ができていた。ダルジールの言葉を借りれば、「おれはきんたまを蹴り上げるから、きみはせっせと心理学のご託を並べろ」というわけだった。】
(秋津知子訳 ハヤカワポケットミステリ 1800円+税)

英国ちいさな村の謎(2)M・C・ビートン『アガサ・レーズンと完璧な裏庭』

くそ暑い日々が続いているが、今週はお盆休みな感じで過ごしている。昼寝し、お風呂に入り、おやつを食べ、買い物に行った帰りはカフェでゆったりし。
今日は友人が高級チョコレートと文庫本を1冊送ってくれた。コーヒーを飲みながらチョコを食べてコージーミステリというのはわたしにとって最高のバカンス。すでに読み終えてしまった。明日こそ会報をやろう(笑)。

送ってくれた本は、M・C・ビートン「アガサ・レーズンと完璧な裏庭」で、英国ちいさな村の謎シリーズの3冊目である。あちらでは24冊も出ている人気シリーズで、日本では来年に4册目が翻訳されることになっている。
1冊目は読んでなくて、2冊目の「アガサ・レーズンと猫泥棒」を読んで感想を書いた。

アガサはバーミンガムのスラム街で育ち、ロンドンのPR業界で強引に働いて成功し、引退してコッツウォルズの村に家を買って住んでいる独身女性。
季節は春に向かう時期。アガサがバカンス旅行からもどってきた。ニューヨークからバミューダ、モントリオール、パリ、イタリア、ギリシャ、トルコを一人旅。村人へのお土産を忘れないで買ってきて、まず牧師夫人に会いに行く。

アガサの旅行中に村に移住してきたメアリーは美人でおしゃれで、料理も庭仕事もなんでもできる。村の行事にも口を出す。アガサが惹かれている隣人のジェームズと仲良くしているみたいだ。アガサは心穏やかでない。

村のガーデニング・コンテストが行われることになり、ガーデニングなんかまったくやらないアガサ【育ったバーミンガムのスラム街では、地面から頭を出した植物は街の子どもたちにたちまち踏みにじられたものだ。】は、今回もずるをする。
庭を高いフェンスで隠しておいて、コンテスト前夜に業者が出来合いの植木を植えるという姑息な方法を元の部下にやらせる。その代わりにアガサはロンドンで半年間仕事に復帰すると契約させられる。

メアリーに夢中だった村の人たちの気持ちがだんだん覚めてきた。ジェームズも関係を持つところまでいったのに覚めてきたようだ。
そんな雰囲気の中でアガサとジェームズはメアリーの死体を発見する。
(羽田詩津子訳 原書房コージーブックス 781円+税)

アン・クリーヴス『青雷の光る秋』(2)

フェア島のフィールドセンターは元灯台を改造した建物で、職員の住宅があり、同時に外からくる自然愛好家やバードウォッチャーの宿泊施設でもある。モーリスは大学で教えていたが、妻を捨て20歳若いアンジェラと結婚してこの地へ来た。アンジェラはBBCの番組でレギュラー解説したり、鳥の本を出版するなど華やかに活動している。
炊事係のジェーンは共同生活していた相手と別れてこの島へ来た。いまは宿泊者の食事を仕切っている。仕事が気に入りここに根付くつもりのところをアンジェラに来年は雇わないと言われる。有力者の寄付を確実にするために彼の縁者を雇うつもりだ。ここの理事長はモーリスだが仕切っているのはアンジェラである。

フランとペレスのパーティは楽しく終り人々が帰りはじめたころ、モーリスの娘ポリーが荒れて人々は気まずく帰ることになった。それでもペレスとフランにとっては無事に楽しくパーティを乗り切れて気分がよい。明け方前にペレスは父親に起こされる。事件だと電話があった、お前は警察官だろ。

鳥小屋と呼ばれている部屋でアンジェラが殺されていた。象牙の握りのついたナイフが背中に突き刺さっており、髪には鳥の羽根が飾られていた。
島は外との交通が途絶えており、ペレスは一人で殺人事件と向き合うことになった。しかも殺人犯は島の中にいる。一人ずつから話を聞くことからはじめるが、アンジェラのすさんだ私生活がだんだん明らかになる。
第二の殺人が起こった。やがて第三の殺人に。

最後はとても理不尽なことになってしまい、読後落ち込んでしまった。
(玉木享訳 創元推理文庫 1200円+税)

アン・クリーヴス『青雷の光る秋』(1)

アン・クリーヴスの〈シェトランド四重奏〉の4作目「青雷の光る秋」を読み終えた。シリーズ最初の「大鴉の啼く冬」を2007年12月に読んで、「白夜に惑う夏」は2010年9月、「野兎を悼む春」は2011年8月に読んだ。おお、5年半かかって読んだんだ。
〈四重奏〉はこれで完結だが、本書の〈あとがき〉によると続編が今年の1月に出ているそうだ。翻訳してほしいなあ。

季節を変えてシェトランド諸島の四季とそこに住む人たちの暮らしが描かれる。ジミー・ペレス警部とロンドンから来て島で暮らしている画家のフランはゆっくりとつきあってきた。フランは島の有力者でペレスの旧友ダンカンと結婚して娘キャシーがいるが離婚している。フランとつきあううちにペレスはキャシーを自分の娘と思えるようになった。

今回、キャシーを実父のダンカンに預け、ペレスは両親に紹介するためフランを伴って自分の生まれたフェア島で過ごそうと悪天候の中を到着した。飛行機は大荒れでフランは死ぬ思いをした。彼女はそのときの気持ちを整理して自分と娘とペレスのことをスケッチブックに書きこんだ。

嵐で空からも海からも本島との交通が途絶えているが、島のフィールドセンターでふたりの婚約祝いパーティが開かれた。たくさんの島人が参加したが、その後にセンターの監視員アンジェラが殺される。孤島での殺人で犯人はこの島にいるはずだ。ペレスはひとりで捜査を開始する。
(玉木享訳 創元推理文庫 1200円+税)

レジナルド・ヒルの『ベウラの頂』は何度読んでもすごい

テーブルの横の本棚には何度でも読みたくなる本を置いてあって、ご飯を食べた後になにか読みたいなと思ったらすぐに手に取れる。レジナルド・ヒルの本は全部ここにあって、ひととおり読んだらまた読みたくなるのだが、特に好きなのが数冊あって、「ベウラの頂」はその中でも好きな1冊なのだ。

少女が行方不明との知らせが中部ヨークシャー警察のダルジール警視にとどいた。いまから15年前の未解決事件が心に甦る。15年前、ダム工事のために湖に沈む村で3人の少女が行方不明になり、必死の捜査をしたが少女たちの行方はわからなかった。重要容疑者の青年ペニーも姿を消したままだ。

村人が移り住んだ町で再び起きた事件。町のあちこちに「ペニーが帰ってきた」という落書きが見つかった。
あのときはパスコー主任警部はいなくて、ダルジールとウィールド部長刑事が関わったのだが、ダルジールは事件を忘れることはなかった。

行方不明の3人のあとにベッツィが襲われるが逃れることができた。
ベッツィは両親と3人家族だったが、母が薬の過剰服用で亡くなり、そのあと父はポケットに石を入れて入水自殺した。残されたベッツィは金持ちの親戚ウルフスタン夫妻に引き取られて成長する。ウルフスタンの娘メアリーは行方不明の3人のうちの一人だった。太った黒髪のベッツィは金髪の美少女メアリーのような娘になりたくて、神経性無食欲症になり、髪を漂白しようとして失敗し丸坊主になってしまう。ウルフスタンは一流の精神科医にベッツィを診てもらう。

太ったベッツィは15年後のいま、金髪のかつらをかぶり美しい容姿と見事な声に恵まれて、新進のクラシック歌手エリザベス・ウルフスタンとして前途洋々たるものがある。

毎年の夏休みにこの村でウルフスタン主催で音楽祭が催される。今年はエリザベス・ウルフスタンのマーラーの〈キンダートーテンリーダー、亡き子を偲ぶ歌〉が中心になる。

今度は絶対に捕まえるとダルジールは決意している。村を訪れるとまた今回も失敗するだろうと冷たいまなざしにあう。こどもを失った夫婦の様子が痛々しい。彼らも音楽祭にやってくる。
(秋津知子訳 ハヤカワポケットミステリ 1800円+税)

シャルロッテ・リンク『姉妹の家 上下』(3)

バルバラとラルフは家にあるわずかな食べ物で数日を過ごした。ラルフは薪を割りバルバラはフランシスの自伝を夢中で読んでいる。夜はふだんの生活と同じように別々の寝室で眠っている。

自伝の続き:第一次大戦で心に傷を負ったジョージは孤独に一人で暮らしはじめた。アリスは回復を待つのに疲れてロンドンに帰り、旧知の男と結婚する。すでに婦人参政権運動を闘った闘士の面影はない。
第二次大戦でドイツ軍によるロンドン空爆がはじまり、アリスは二人の娘を疎開させようとフランシスに頼む。父親のチャールズが亡くなり、ジョンと別れてもどったヴィクトリア、昔からいる家政婦のアデライン、そしてアリスの娘のローラとマージョリーの女性ばかりの5人家族になる。その上にフランスからきたマルグリットがヴィクトリアのフランス語教師としてしばしば訪れるようになる。
一波乱も二波乱も、フランシスには恋も波乱もやってくる。

電話だけが通じるようになりローラから心配の電話がかかる。次に電気が回復して寒さからは逃れることができた。ラルフはスキーで買い物に出かける。夜になるとバルバラは屋敷中の灯りをつけてラルフの帰りを待つ。ラルフは帰らず、訪れたのは再婚したジョン・リーとマルグリットの間に生まれた当主のフェルナンだった。彼が持ってきた食べ物と酒でバルバラは生気を取り戻す。
最後まで自伝を読んで屋敷のすべてを知ったバルバラは危ない存在になっていた。

道に迷って農家に助けてもらったラルフが食糧を持って翌日もどってきた。電話の様子で心配になったローラはロンドンを発ち、列車とバスで来られるところまで乗り継ぎ、あとは歩いてたどり着いた。
(園田みどり訳 集英社文庫 上 905円+税 下 876円+税)

シャルロッテ・リンク『姉妹の家 上下』(2)

第一次大戦のヨーロッパで思い出すのが中学生のときに読んだ「チボー家の人々」第1巻「1914年夏」である。それ以来1914年という言葉が頭にしみ込んでしまった。その次にはドロシー・L・セイヤーズのピーター卿とハリエットのシリーズ、そしてヴァージニア・ウルフの「ダロウエイ夫人」と続き、映画の「突然炎のごとく」になる。児童文学でもあったなといま思い出しかけている。

本書のはじまりは1907年、ヨークシャーの地主チャールズは親たちに意地を通して結婚したアイルランド人のモーリーンと愛ある生活を送っている。娘のフランシスは14歳の怒れる娘で女学校がいやでたまらない。辛抱するようにいう恋人のジョンは20歳。美人の妹ヴィクトリアがいる。
しばらくして兄のジョージが恋人のアリスを連れてロンドンから帰省する。アリスは女権論者でフランシスに絶対的な影響を与えるようになる。ロンドンへ出たいフランシスは独身の叔母マーガレットを頼って家に住ませてもらう。

1910年11月18日、「黒い金曜日」としてイギリス女性解放運動の歴史に刻まれたこの日、婦人参政権を求めるデモで115人の女性が逮捕された。この日フランシスは風邪気味で家にいたのだが、負傷した女性が来てアリスからの伝言を伝える。デモの現場へ行ったフランシスは警官を傷つけたとされ逮捕される。拘置所で仲間とハンガーストライキをやり、4日目にはホースで流動食を流し込まれるという不当な待遇を受け体を壊す。
恋人のジョンが面会にくるが話が合わなくなっている。結局、父親が縁を切っていた実力者の祖父に頼んだらすぐに解放された。そのために父は自分の意志を曲げたので、それからはフランシスを無視するようになる。
ジョンは妹のヴァージニアと結婚して政治家として華やかな活躍をはじめる。

第一次大戦がはじまり、ジョージもジョンも戦線に出る。フランシスは看護婦の助手などして二人と出会う。
(園田みどり訳 集英社文庫 上 905円+税 下 876円+税)