シャルロッテ・リンク『姉妹の家 上下』(1)

ドイツ人の夫婦がクリスマス休暇を過ごしにヨークシャーの屋敷をまるごと借りる。借りたのは刑事弁護人のバルバラと弁護士のラルフ夫妻。ラルフのほうが収入がよく、バルバラのほうはジャーナリストの人気者で昨日の新聞にも大きな写真が載っていた。

ヨークシャーに住むローラは16年前から毎年屋敷を人に貸して、滞在客からのお金で大きな屋敷を維持してきた。借りた人は家主のようにふんぞり返ってその期間過ごせる。貸し家専門のカタログに毎年掲載を頼むが、滞在客を見つけるのが困難になっている。たいていは湖水地方かまっすぐスコットランドへ行ってしまうから。
お茶を飲みながらフランシス・グレイ17歳の写真を見て回想するローラ。

バルバラの案でラルフ40歳の誕生日を祝うためにブロンテ姉妹ゆかりのヨークシャーに2週間滞在することにした。最近はなにをしても二人の間はつまらないことがきっかけで鬱憤が噴出してしまう。バルバラにはこの旅行で夫婦関係を守りたいという思いがあった。
ロンドンは寒く北上するにつれ雨は雪に変わっていった。ようやく二人はヨークシャーにたどり着く。
待っていたローラは額縁に入ったフランシスの写真を見せ、この屋敷はフランシスから相続したと語る。
ローラは【バルバラは、鍵穴を通してのぞき見するのではなく、まっすぐ部屋に入ってきて知りたいと思っていることをたずねる、そういう感じの人だった。】と思う。そして、バルバラをフランシスそっくりだと思う。
近所の地主フェルナンがローラをロンドン行きの列車に乗せるために迎えにくる。

翌朝、バルバラが目を覚ますと電気がつかない。外は雪で埋もれている。昨夜は途中の店でわずかしか買い物をしなかった。暖房もなく食べ物もなく外界から遮断されてしまった。
ラルフは納屋まで雪をかいて行き、薪にするための丸太を見つけて生まれてはじめての薪割りをする。バルバラは納屋の床板にひっかかって転倒するが、空いた穴の中に紙の束を見つける。きっちりタイプされた原稿はフランシス・グレイが書き遺したものだった。
薪のストーブをつけた台所でバルバラはフランシスの生涯を読むことに没頭する。
このあとはフランシスの自叙伝になり、時代は1907年に遡る。
(園田みどり訳 集英社文庫 上 905円+税 下 876円+税)

ドイツのミステリで、ヨークシャー

ドイツのミステリーにはまっている。といってもフェルディナント・フォン・シーラッハとネレ・ノイハウスだけだけど、ふたりとも強烈だ。それで別の作家のも読んでみたくなって検索したらシャルロッテ・リンク「姉妹の家 上下」が出てきた。はじめての作家である。
アマゾンで中古本が1円であったので上下を注文したらすぐに上巻が届いた。送料が各250円なので502円で新品同様の本が手に入ってうれしい。カバーが豪華。山口はるみさん描く野の花、そのバックに外国名前のひとが描いた大きなお屋敷、真ん中あたりの美女は写真だって。

シャルロッテ・リンクはドイツの人気作家なのだがヨークシャーが大好きで、この物語の舞台はヨークシャーである。インテリのドイツ人夫婦がクリスマス休暇にヨークシャーの屋敷を借り切る。この家の持ち主ローラはこの屋敷にかかる費用を捻出するために、まるごと貸して自分はロンドンの妹の家に行く。
ローラはこの家を保護者のフランシスから遺された。
この物語は20世紀のはじめからはじまる。第一次大戦、第二次大戦があって戦後になり現在にいたる。

驚くべき早さで上巻が到着したので2日で読んだ。この際、下巻が届くまでにヨークシャーを堪能しようとレジナルド・ヒルの「ペウラの頂」を読んでいた。すごく洗練されたヨークシャーの物語。
今日下巻が届いたので読み出した。

ルース・レンデル『乙女の悲劇』

去年のいまごろ姪の家に行ったときもう20年以上前に亡くなった姉の本箱がそのままにしてあった。家を建てたときに作ったすごくでっかい本箱で、文庫本が置いてあるところは二重になっている。在庫を見るだけで大変だったが、欲しい本があれば持って行ってねと言われたのでミステリーを何冊かもらった。
P・D・ジェイムズやモース警部ものはすぐに読んだんだけど、ルース・レンデル「乙女の悲劇」(ウェクスフォード警部もの10冊目)を本棚の隅っこに置いたまま忘れていた。取り出して読んだらおもしろかった。なんちゅう贅沢(笑)。
ルース・レンデルがずっと嫌いだったと思い込んでいたが、数年前にそれほどいやでもないなと思っていくらか読んだのだった。いま調べたら「運命の倒置法」「階段の家」「わが目の悪魔」「ひとたび人を殺さば」「薔薇の殺意」を読んでいるのがわかった。

ロンドンから近いサセックス州の真ん中にある大きな町キングズマーカムがウェクスフォード警部が妻と住む町。町の外れの草むらで中年女性ローダ・コンフリーの死体が見つかった。
ローダはこの町出身で、若いころにサッカーくじに当たって大金をつかみロンドンへ出て行った。ロンドンで仕事をしていい暮らしをしているらしい。ときどき父親が入院している病院へ派手な身なりで来ていた。調べていくと彼女のロンドンの連絡先をだれも知らない。ロンドンでなにをしていたかもわからない。
死体を解剖してわかったことのひとつはローダが処女だったということ。
ロンドンへ出かけたウェクスフォード警部は、旧知の刑事たちに助けを借り足と頭脳を使ってローダを追う。ローダの持ち物から男性作家の存在が浮上する。

夫&男性への批判がいっぱいの長女が口走った言葉から「イーオニズム」という言葉を思い出し、ハヴロック・エリスの本を図書館で読む。導き出した結論に部下たちはついていけないほど。最後のウェクスフォード警部の解説がいい。

長女シルヴィアが夫と喧嘩してこども二人を連れ家に来ているのだが、その喧嘩の理由を「ウーマン・リブですよ」と妻のドーラが言う。
本書の書かれたのは1978年、おお、わたしがパンク・ロックをはじめて体験した年だ。日本のウーマン・リブはいつ頃だったか調べてみなきゃ。
働きたい、資格を持ちたい、と切実に言うシルヴィア、結局は夫が迎えにきてくれ、皿洗い機を買ってくれたので機嫌を治して帰るのだが。
(深町真理子訳 角川文庫)

ネレ・ノイハウス『白雪姫には死んでもらう』(2)

ティースとラースはテアリンデン工業の社長クラウディウスの息子で双子だったが、父は兄のティースが自閉症なのでラースを自分の跡継ぎにしようとした。ラースはおとなしくて宗教に気持ちが向いていたが、強引な父親に逆らえなかった。11年前の二人の少女殺しのグループ犯行にはラースも加わっていたのだが、父親が彼を迅速にイギリスの友人宅へ逃亡させた。その後、投資銀行で働き豪邸に住むラースは、いまユーロの損失を出した責任があり疲れ切っていた。母の取りなしを邪険に断った彼は駐車場で高級車の中で自殺する。
11年前の事件のあと、クラウディウスはトビアスが逮捕されてから村の共同体を壊さないよう頑張ったというが、実はトビアスの両親から土地を奪い商売を奪っていた。

村の共同体を守るためにトビアスは犠牲にされたとオリヴァーとピアにはわかった。行方不明のトビアス、ティース、アメリーを探さなければならない。その上にこの事件に関わったものの様々な死と傷害の捜査にも向かい合う。

物語の底に流れているのは「白雪姫には死んでもらう、彼女はいった・・・でも、だれもひどいことはできない。ぼくが見守っているから」というティースの真実。
(酒寄進一訳 創元推理文庫 1300円+税)

久しぶりに絵本を出した。お気に入りの「白雪姫」で、いままでいろんな白雪姫の絵本を持っていたが最高に好きな1冊。
(ジョセフィン・プール文 アンジェラ・バレット絵 島 式子訳 ブックローン出版 1500円+税)

ネレ・ノイハウス『白雪姫には死んでもらう』(1)

去年の12月に前作の「深い疵」を読んだ。本書は「深い疵」に続くドイツのホーフハイム刑事警察署の主席警部オリヴァー・フォン・ボーデンシュタインと同警部ピア・キルヒホフのシリーズである。いまの署長ニコラ・エンゲルとオリヴァーとは若いころに少しの間つきあったことがある。
オリヴァーはテレビレポーターをしている妻コージマと大きな二人のこどもと最近生まれた子と穏やかに暮らしてきた。仕事中にコージマを見かけたので電話すると、そこで携帯電話をもって話しているのを見ているのに、彼女は遠くにいると嘘をついている。それがきっかけでオリヴァーの気持ちは離れていく。その苦悩のために仕事に打ち込めなくなったりするが、ピアの援護もあり、鋭さを取り戻す。
ピアは法医学者ヘニングと別れて、動物で結ばれた縁のクリストフと暮らしている。
事件の物語とともに、警察官たちの生活と思いが丁寧に描かれているところがいい。

刑務所の門から10年ぶりにトビアスが出てきたのを迎えたのは、この土地出身の人気女優ナージャだった。ナージャはこの10年間ずっと愛しているという手紙をトビアスに出してきた。わたしのところへ行こうという彼女を断ってトビアスはアルテンハイン村の父の家に帰った。
家の外も内も汚れて臭かった。家畜も手放し畑仕事もやめてしまった。そして生活のために牧草地も安く売り払ったという。その上に母は4年前に出て行っていない。

11年前に二人の少女が殺されトビアスが犯人とされ逮捕された。彼はずっとえん罪を訴えていた。トビアスが10年の刑期を終えて出てきたいま、空軍基地跡地の燃料貯蔵槽から人骨が発見され、11年前の連続少女殺人事件の被害者とわかる。

〈黒馬亭〉ではトビアスが戻ってきたという話が店中で囁かれている。ウェイトレスのアメリーはベルリン育ちで前科者で派手好みの17歳、顔には200グラムを超すピアスをつけ、服はいつも黒一色。ベルリンで母と暮らしていたが、父がいるこの村に来た。父がケチなのでアメリーはこのバイトで現金を稼げるのがありがたい。18歳になったらベルリンへもどるつもりだ。
アメリーが仲良くしているのが30歳になる自閉症のティースで、仕事が終わころに外で待って送ってくれるようになった。いつも黙っているティースが今夜はこう言った。「シュネーベルガーはここに住んでいた」アメリーがトビアスが殺した娘かと聞き返すとティースは「そうだよ、白雪姫はここに住んでいた」と答えた。
(酒寄進一訳 創元推理文庫 1300円+税)

スティーブ・ハミルトン『解錠師』

表紙のタイトルのそばにアメリカ探偵作家クラブ賞受賞、英国推理作家協会賞受賞と入っている。米英で評価を受けた本だ。たしか日本でも「このミステリーがすごい!」と「週刊文春ミステリーベスト10」の両方で1位になった。わたしがあまり買わないタイプの本だが、今回は知り合いに勧められて買って読んだ。

マイクルは幼くして父親の暴力を見てしまった。恐怖のあとでようやく助けられたときは声が出なくなっていた。ニューヨークで酒屋を経営している伯父に引き取られて、耳は聞こえるが声が出ないまま成長した。

学校のロッカーを開けて便利がられ、グループで金持ちの邸宅に侵入する。やがてその特技が知られ犯罪に利用されるようになる。

最初は自分の勘と才能でやっていたが、プロの解錠師ゴーストの弟子となり鍛錬する。そして一流の金庫破り(ロック・アーティスト)と認められて師匠のあとを継ぐ。
【結論を言おう。そう、結論だよ。おまえさんは芸術家だ。だから、プリマドンナみたいなふるまいが許される。それこそが求められているんだ。そうしないと、相手は変に思う。そして、なにもかも振り出しにもどす。芸術家を呼んだはずが、とろいやつが来やがった。かまうものか、撤収しようぜ。】

犯罪にからんだ男の娘アメリアと宿命の恋をして、彼女だけに過去を絵にして打ち明ける。
しかし、一度はまった犯罪の世界から足を洗う前に警察に捕まる。長い刑務所生活を支えたのはアメリアとの絵手紙の交換だった。
牢を出てアメリアと会ったときに声は出るだろうという予感。
金庫破りの芸を緻密に描く犯罪小説であり、出会いと別れのあとに再会を予感する青春小説でもある。
(越前敏弥訳 ハヤカワ文庫 940円+税)

ジャネット・イヴァノヴィッチ『あたしの手元は10000ボルト』

5月10日の〈関西翻訳ミステリー読書会〉の課題書だったので久しぶりに買って読んだ。
読書会で翻訳者の細美さんが言っておられたが、阪神大震災(1995年)で被災して仮設住宅住まいのときに翻訳の話があったそうだ。第1作の「私が愛したリボルバー」は1996年発行でVFCでもずいぶん話題になった。
「わたし」でなく「あたし」と訳したことの話もされていたが、はじめて読んだときは新鮮だった。3冊目くらいまで買って読み、そのあとは借りて読んで何冊目まで読んだか覚えていない。19冊原書で出ていて訳されているのは12冊、本書が12冊目である。
課題書なので買ったがどうもこの表紙はこまっちゃうな。最初のころのハードボイルドな表紙がなつかしい。

主人公のステファニーの職業はバウンティ・ハンター(保釈保証会社の逃亡者逮捕請負人)である。たしか1作目が出たころに見た映画がバウンティ・ハンターものだった。いま検索したがそれらしいのが見つからない。いろいろあるのがわかったのが収穫。女性バウンティ・ハンターが主人公の「ドミノ」を見たい。サム・ペキンパーの傑作「ワイルド・パンチ」もバウンティ・ハンターものなんだな。

今回はハンター生活に慣れてきたあたし(ステファニー)が、この商売の師匠でありアブナイ男のレンジャーの闘いを援護する。バウンティ・ハンターのレンジャーに憧れて、そっくりさんになった男がレンジャーが若いときに生まれた娘を母親と継父のところから誘拐する。娘の無事を祈りつつ誘拐犯を追うレンジャーとステファニー。そして幼なじみの刑事モレリがからむ。
レンジャーがカッコいい。子分とハイテク機器を使いこなして犯人を追う。ステファニーのところで泊まるがセックスなしだけど、同じベッド。次の朝一にモレリが訪ねてきたときは偶然カーペットに枕と毛布が落ちていて、危機一髪!なのであった。
あたしはにせのレンジャーに近づいて娘を助けようと近づくが、スタンガンでやられて失神している間に携帯2台も非常ボタンも取り上げられてしまう。

モレルとレンジャー、いいオトコ2人のどちらとくっつくのかな。
レンジャーは「おれはデザートだ」という。
【「あんたの食生活の基盤になりえないもの、だ」んまあ、ここがあたしの難題なのだ。デザートは、あたしの食生活の基盤なのだ!】
【モレリはあたしを見た。「あんたを愛しているわ」あたしは彼に言った。「ああ」モレリは言った。「知ってる。だがおまえがそう言うのを聞くのはいいものだ。おれもお前を愛しているぜ」口に出さなかったのは、あたしはレンジャーも愛しているということだった。】
(細美遥子訳 集英社文庫 838円+税)

関西翻訳ミステリー読書会(ジャネット・イヴァノヴィッチ『あたしの手元は10000ボルト』)

第10回関西翻訳ミステリー読書会に行った。わたしの参加は7回目。真面目な読書家の集まりで、まさに読書会。
今日の課題本は女性のバウンティ・ハンター(保釈保証会社の逃亡者逮捕請負人)ステファニー・プラムが主人公のシリーズ第12作。翻訳家の細美遥子さんが出席されていろいろと疑問に答えたり知らないことを教えてくださって和やかな一夜だった。ほとんどの人が楽しく読めたと言っていた。

主催者のKさんが「この本はハードボイルドミステリーだ」と言われたのが、目からウロコだった。そうなのだ。少々たがが外れているところがあるが、ハードボイルド・ミステリーであるのは間違いない。
わたしの友人はこのシリーズのファンで原書で読んでいて、「ドタバタ ラブコメ ミステリー」と表現していたが、そうでもあるなあ。

久しぶりに読んで元気いっぱいのステファニー・プラムに出会えてよかった。警官とバウンティ・ハンターと二人のステキな彼氏のうちどっちにしたのか気になるなぁ。それだけでも原書を読んだ人に聞いてみるか。
(細美遥子訳 集英社文庫 838円+税)

ジャネット・イヴァノヴィッチ『あたしの手元は10000ボルト』前書き

いまこのブログのサイト検索したんだけどジャネット・イヴァノヴィッチではひとつも出てこなかった。数冊は読んだはずだけど、そんな昔だったのかとブログ以前のVFCサイトにある「kumiko pages」を探したら4作目と5作目の感想が出てきた。
最初の「私が愛したリボルバー」は1996年、いまから何年前よ、と指折って数えたら17年前のこと。ヴィク・ファン・クラブはあったが、当時はまだミクシィはなかったから、もっぱら口コミと会報の原稿で話し合ったのね。いまも思い出すけどすごく人気があった。友だちや姪たちが騒いでいて、ちょっとわたしは引き気味だった。

「kumiko pages」はサイト内検索が切れてしまったので、いま探したのをここに載せます。

#4 ジャネット・イヴァノヴィッチ「サリーは謎解き名人」
ジャネット・イヴァノヴィッチのステファニー・プラムもの4作目、扶桑社、734円+税。第1作「私が愛したリボルバー」が出たときはとても評判が良かった。女性だけではなく、男性にも良かった。それで、へそ曲がり、ではない、素直なあたしはいやになってしまったのだ。
男性がこの女の子なら許せる、みたいな可愛さがあるのが匂ってきたのだ。それで2作目からは感想を書くのがなんとなくね…。ところが、4作目にいたって、そのハチャメチャさがフツーでないのがよくわかってきた。ここまできたら男性が笑って許せる女の子ではない。もう文句言わんとほめることにする。すっごくおもろいわ。
1999.6

#5 ジャネット・イヴァノヴィッチ「けちんぼフレッドを探せ!」
バウンティ・ハンター(保釈保証会社の逃亡者逮捕請負人)のステファニー・プラムが主人公のシリーズ第5作目。4作目「サリーは謎解き名人」が出たのが99年10月なので、ファンは2年待っていたことになる。わたしは待っていなかったけど、友人や姪が待っていて、情報がないかとしょっちゅう聞かれていた。さっそく買って読んだ姪からはすぐおもしろかったとメールがきた。わたしは買ってまで読む気は起こらず、彼女は関東方面にいるので、ちょっと貸してというわけにはいかない。そこへ大津のDさんが買ったというメールがあったので例会に持ってきてもらった。
さっそく土・日・月で読んでしまった。やっぱりおもしろい。車が爆発したり、取っ組み合いしたり、つけ回されたり、ハードな出来事が続出するんだけど、気にならず読み通してしまう。軽い。湿り気がない。ま、いまのようなときに、明るい午後の日差しを浴びて読むのにちょうどいいかもしれない。かっこいいオトコが3人出てくるしね。(扶桑社 762円+税)
2001.9

探すのに時間がとられたので、「あたしの手元は10000ボルト」についてはいずれ書きます。
(細美遥子訳 集英社文庫 838円+税)

木村二郎「残酷なチョコレート」

封筒から出したらすごくおしゃれなハードカバーで、帯に「職業、私立探偵。依頼の件はオフィスで聞こう。」とあるのがカッコいい。
読み終えてから気がついたのだが、カバーの写真が〈マンハッタンヘンジ〉みたいだ。ほんまにいま気がついたところ(笑)。ウィキペディアに「ニューヨーク市マンハッタン区の碁盤の目状の大通りの東西方向の通りにちょうど沿って太陽が沈むとういう一年に二回起こる現象である。」とある。本書の中の「この母にしてこの息子あり」に〈マンハッタンヘンジ〉の写真が部屋にかけてあるというところがあって気がついた。

雑誌「ミステリーズ!」に掲載された「永遠の恋人」「タイガー・タトゥーの女」「残酷なチョコレート」の3作を読んで感想を書いたのが当ブログに入れてある。
あと2作「バケツ一杯の死」「血は水より危険」を読んでいなかったのが残念だが本書で読めた。それに書き下ろしの2作「ツインクル、ツインクル」「この母にしてこの息子あり」が入っている。
(その他に女性探偵フィリスが活躍する「偶然の殺人者」があるのを忘れないように書いておく。)
いつものお気に入りの本と同じく、さっと読んでしまってからもう一度ゆっくり読んだ。

わたしは外国語ができないので翻訳にたよって読書している。家にあったのは童話のようなものでも翻訳ものであった。それが幼年時から続いていていまも同じくで主に翻訳ミステリを愛読している。日本語のミステリを友人がたまに貸してくれるが最後まで読み進めない(池波正太郎だけは別)。そんなわけで日本語で読んでいるんだけど、ヨークシャーだったりデンマークだったり、ニューヨークだったりするのを楽しんでいる。わたし以上に楽しんでいるひとはいるかなと思うくらい(笑)。
木村さんの小説は翻訳もの感覚で読めるということも好きの原因だと思う。それも直訳みたいなところが好きである。

それぞれの作品の前にマンハッタンの地図がある。作品ごとに出てくる場所が記入してあって親切だ。ヴェニス探偵事務所、恋人のグウェンと住んでいるアパート、グウェンの仕事場を地図で見てなんだか安心する(笑)。この距離だとタクシーかなんて思ったり。

「残酷なチョコレート」を読んだとき(2011年12月)の感想にはヴェニスは55歳を越えていると書いた。今回はミステリー作家の友人ジェイク・ヘイウッドを、おれより少し年下と書いている。その後にジェイクは60歳前後と書いているから、ヴェニスは60歳を少し越えたようだ。
仕事を終えて家に帰ったときのグウェンの迎え方やふたりの接し方は長いつきあいの夫婦だと思うけど、ヴァレンタインズ・デイ・プレゼントにバラを贈るのに、ちょっと玄関に置いていたり、いい感じ。

ヴェニスだけでなく他の登場人物のオーディオやラジオやiPadからジャズが流れる。きちんと曲名とミュージシャン名が書かれていてその人間を知る助けになる。ふたりが食後に見るDVDも古い趣味のよいハリウッド映画だ。テレビを見ているシーンがないのもいい。
(東京創元社 1900円+税)