サラ・パレツキー講演会の報告に感動

9月23日にあった日本ペンクラブでのサラ・パレツキー講演会の感想を、ミクシィの「サラ・パレツキー コミュニティ」の書き込みで読んだ。すごくきちんと聴いての報告と感激に心打たれた。コミュに参加している女性たちが、尊敬する作家の言葉を伝えたいという気持ちで真面目に書いているところがすごい。きっと新聞や雑誌に有名人が感想を書くだろうけど、もうそんなものは読まなくてもいい。

ヴィク・ファン・クラブが発足した19年前にはパソコンはあり、翻訳者の山本やよいさんがヴィクのことが出ていると教えてくれた〈パソコン通信〉の「ミステリ会議室」におそるおそる入った。結局、そこはしっくりこなくて、会報をつくるためにタイピングの練習をしたり、ソフトの使い方を覚えたりのほうに精を出した。

阪神大震災後にインターネットをはじめた。そして掲示板で発言することを覚えた。ヴィク・ファン・クラブのサイトを作ってから何年か後に掲示板「VFC BBS」をはじめた。覚えてくださっているかたもいらっしゃると思うが、大もめしたり、けったいな人が入ったりのド派手な掲示板だった。わたしのネット経験を豊かにしてくれたといまは感謝している。

ミクシィについていろいろと言われているけれど、「サラ・パレツキー コミュ」についてはありがたく思っている。ここで知り合った人が語り合える友になり、ヴィク・ファン・クラブの会員になり、親友にもなった。

ピーター・テンプル「壊れた海辺」

知らない作家の本を読んでいこうと思って図書館で借りた。分厚い文庫本で文字がびっしり。著者のピーター・テンプルは1946年南アフリカ生まれ、オーストラリアに移住し記者・編集者生活を経て作家になった。たくさんの著作がありオーストラリア・ミステリ界の第一人者だそうだ。

舞台はオーストラリアの南方に位置するヴィクトリア州の田舎町ポート・モンローと少し都会のクロマティ。ジョー・キャシン上級部長刑事は丘の朝の散歩を楽しんでいた。曾祖父の兄弟が植えた樹々が聳えているところを2匹の犬が狩りをしている。そこへ納屋に浮浪者がいると通報があった。追い立てると出てきた男レップは50代くらいで身分証もなにも持っていないという。クロマティへ行くというので、お金をいくらか渡そうとすると、「おれを人間扱いしてくれたからそれだけでいい」と答える。結局、キャシンはレップを連れて帰りベッドを提供し、自分の土地の大工仕事や牛の世話を頼むことになった。

ある秋の朝、ブルゴイン家の屋敷の主がひん死の重傷で倒れているのを家政婦が見つける。州警察直接の指示のもと、キャシンはクロマティ署といっしょに捜査にあたる。被害者の時計が州を越えてシドニーで売られたという情報が入る。時計を持っていったのはアポリジニの少年たちだった。そしてそのうちの一人はアポリジニ活動家ウォルシュの甥だった。少年たちを穏便に取り押さえるのに失敗したキャシンは、アポリジニ、マスコミとあらゆる方面から攻撃される。

アポリジニが絡んだ事件はアポリジニ出身の警官を当らせるという方針で、アポリジニ出身の警官ポール・ダウがキャシンの相棒となる。二人がだんだん信頼関係を築いていくところがいい。
意識不明だったブルゴイン家の当主が亡くなり、海を臨む土地の売却問題が浮上してくる。
上司たち、キャシンの複雑な家族問題、そして一夜のつき合いだけで他の男と結婚した女性の子どもが自分の子だと思う気持ち。

社会問題と個人の問題の狭間で苦しみつつも、信じられる上司や友人、そして恋人も得るキャシンがきっちりと描かれている。
【「たしかに、おれは渡りの労働者だ」レップはキャシンと目を合わさずに言った。「金をもらって人がやりたがらない仕事をやる。州から金をもらって、金持ちの財産を守っているあんたらと同じだ。金持ちに呼ばれれば、あんたらはサイレンを鳴らして駆けつける、貧乏人が呼ぶと、順番待ちの名簿があるからちょっと待て、そのうちにと軽くあしらわれる(中略)「おれたちの違いはな、こっちは仕事にしがみつく必要がないってことさ、ただ出て行けばいい」】
(土屋晃訳 ランダムハウス講談社文庫 950円+税)

アン・クリーヴス「白夜に惑う夏」(2)

調べた結果、仮面の男は自殺でなく殺されてから吊るされたものとわかる。イングランドから来て、港で船から降りる人たちに画廊のパーティ中止のチラシを配っていたのが彼だ。誰も彼のことを知らない。
前回と同じくインヴァネス署からやってきたテイラー主任警部が指揮をとることになった。テイラーは捜査の中心になるつもりだが、いらいらしながらも地の利があるペレスを尊重して行動する。
ケニーは仮面を外した男の顔を見て兄のローレンスでないことを確認した。ローレンスはベラに夢中だったがふられたので出て行ったものと思われている。イングランドへもどったテイラーのしぶとい調査で仮面の男の正体がわかる。
二人目の犠牲者を見つけたのもケニーだった。羊が岩棚で身動きがとれないでいるのを助けたあとに、視線を下にすると岩にぶつかってロディが死んでいた。

ペレスはフランの家で娘のキャシーに本を読んで聞かせる。この子の父親ダンカンは彼のかつての親友だった。そのわだかまりを超えて、いまのペレスの望みはフランとキャシーといっしょに家族を作ることだ。

ロディの死を捜査していると携帯電話がないことがわかり、クライマーに頼んで崖を探してもらうことになる。クライマーのカップルが崖をくだって岩棚をひとつひとつ探すが、洞穴で見つけたのは人骨だった。もっと昔に別の殺人があったのだ。
テイラーとペレスと部下の緻密な捜査の結果、ついに三つの殺人事件がつながっていることがわかり、殺人者がだれかがわかる。

とても緻密なミステリであると同時に、白夜のシェトランド島に住む人たちの気持ちがよく描かれている。暗くならない夜って想像できないけど、眠れない夜の憂鬱な気分が伝わってくる。イングランドから来たテイラーがペレスを見ていらいらすることで、シェトランドのペレスの気質が伝わってくる。
〈シェトランド四重奏(カルテット)〉あと2作訳してほしい。
(玉木享訳 創元推理文庫 1260円+税)

アン・クリーヴス「白夜に惑う夏」(1)

前作「大鴉の啼く冬」に続く〈シェトランド四重奏(カルテット)〉の2作目になる。前回の主役だった画家のフランはこの地で画家として頑張っている。そしてフランに想いをよせるようになった警官ジミー・ペレス警部が地道な捜査でがんばるし、前回もインヴァネス署からやってきたテイラー主任警部が精力的に働く。

シェトランド島の夏は観光の季節である。本土からたくさんの人たちが押し寄せて白夜を過ごす。両親のいる島で休暇を過ごしたペレスは、シェトランドにもどりフランをエスコートして展覧会場へ行く。今夜はフランとどうにかなるチャンスだと考えているので落ち着かない。会場の〈ヘリング・ハウス〉はベラ・シンクレアの持ち家で元はヘリング(ニシン)を干していたところを画廊に改造してある。島の出身で大金持ちになったベラは妖艶な画家で、甥のロディはロックミュージシャンとして人気が高い。今夜は絵の展示とともにロディも歌い、酒も出回るがもひとつ出足が悪い。会場で黒装束で仮面の男が泣き出し、みんな困惑して見ているだけなので、ペレスは連れ出す。

小農場主のケニーは介護センターで部長を務めている妻のエディスと暮らしている。15年前に〈ヘリング・ハウス〉を作り直したのはケニーと行方不明になったままの兄ローレンスだった。ケニーは男が走って行くのを見て、帰ってから庭にいたエディスに男を見なかったかと聞く。見なかったという返事だったが、翌日、ケニーはボート小屋で仮面をかぶった男の死体を発見する。
ペレスはフランの家から仕事場へ行く途中、携帯電話で男の変死体があると知らされる。自殺するつもりでこの島へきたわけではないだろう。なんらかの理由があってパーティに出席したはずだ。(玉木享訳 創元推理文庫 1260円+税)