メアリ・バログ『麗しのワルツは夏の香り』(1)

ハーレクインロマンスの宣伝用のを1册もらって読んてアホらしいと思ってから、ロマンス小説は書店では棚の前を素通りだし、図書館でも敬遠してきた。でも、わたしのもともとはロマンチック好みで「小公女」にはじまって、ドロシー・L・セイヤーズの「学寮祭の夜」なんか、ミステリとしてでなくロマンス小説として読んでいた。なんといっても「高慢と偏見」を20回くらい読んでいるし、映画はラブコメディが好きだし。
だからといってわざわざロマンス小説を買うことはしなかった。イギリス文学とミステリーの中にロマンチックはたくさんあるから。
それが、山本やよいさんが訳された本を頂いてからはすっかりはまった。といっても、メアリ・バログ「婚礼は別れのために」と同じメアリ・バログの〈ハクスタブル家のクインテット〉の一冊目「うたかたの誓いと春の花嫁」だけなんだけど。

今回3冊目の体験になる「麗しのワルツは夏の香り」をいただいて読んだ。18日火曜日の昼に届いたのを、今日20日木曜日午後に読了のメールを出している。めちゃくちゃ早い。534ページもあるのに。どれだけおもしろかったか、どれだけ夜更かししたか、どれだけ先へ先へと進みたかったかわかるでしょ。

ハクスタブル家のきょうだい4人(長女マーガレット、二女ヴァネッサ、三女キャサリン、長男スティーヴン)の成長と恋愛と結婚の物語。
村で貧しく暮らしていた一家が探し出され、スティーヴンがマートン伯爵を相続することになる。突然、豪華な邸宅に引っ越してロンドン社交界にも出入りするようになった4人は生活に適応していく。

最初のヒロインはヴァネッサで、肺病の夫と死に別れたが、さまざまな事情からスティーヴンの後見人エリオットに結婚を申し込む。最後には愛し愛されのハッピーエンドになるまでの細かい描写、二人の尽きぬ会話に引っ張られる。

今回はキャサリンの恋と結婚の話だが、また明日。
(山本やよい訳 原書房ライムブックス 933円+税)

ネレ・ノイハウス『白雪姫には死んでもらう』(2)

ティースとラースはテアリンデン工業の社長クラウディウスの息子で双子だったが、父は兄のティースが自閉症なのでラースを自分の跡継ぎにしようとした。ラースはおとなしくて宗教に気持ちが向いていたが、強引な父親に逆らえなかった。11年前の二人の少女殺しのグループ犯行にはラースも加わっていたのだが、父親が彼を迅速にイギリスの友人宅へ逃亡させた。その後、投資銀行で働き豪邸に住むラースは、いまユーロの損失を出した責任があり疲れ切っていた。母の取りなしを邪険に断った彼は駐車場で高級車の中で自殺する。
11年前の事件のあと、クラウディウスはトビアスが逮捕されてから村の共同体を壊さないよう頑張ったというが、実はトビアスの両親から土地を奪い商売を奪っていた。

村の共同体を守るためにトビアスは犠牲にされたとオリヴァーとピアにはわかった。行方不明のトビアス、ティース、アメリーを探さなければならない。その上にこの事件に関わったものの様々な死と傷害の捜査にも向かい合う。

物語の底に流れているのは「白雪姫には死んでもらう、彼女はいった・・・でも、だれもひどいことはできない。ぼくが見守っているから」というティースの真実。
(酒寄進一訳 創元推理文庫 1300円+税)

久しぶりに絵本を出した。お気に入りの「白雪姫」で、いままでいろんな白雪姫の絵本を持っていたが最高に好きな1冊。
(ジョセフィン・プール文 アンジェラ・バレット絵 島 式子訳 ブックローン出版 1500円+税)

ネレ・ノイハウス『白雪姫には死んでもらう』(1)

去年の12月に前作の「深い疵」を読んだ。本書は「深い疵」に続くドイツのホーフハイム刑事警察署の主席警部オリヴァー・フォン・ボーデンシュタインと同警部ピア・キルヒホフのシリーズである。いまの署長ニコラ・エンゲルとオリヴァーとは若いころに少しの間つきあったことがある。
オリヴァーはテレビレポーターをしている妻コージマと大きな二人のこどもと最近生まれた子と穏やかに暮らしてきた。仕事中にコージマを見かけたので電話すると、そこで携帯電話をもって話しているのを見ているのに、彼女は遠くにいると嘘をついている。それがきっかけでオリヴァーの気持ちは離れていく。その苦悩のために仕事に打ち込めなくなったりするが、ピアの援護もあり、鋭さを取り戻す。
ピアは法医学者ヘニングと別れて、動物で結ばれた縁のクリストフと暮らしている。
事件の物語とともに、警察官たちの生活と思いが丁寧に描かれているところがいい。

刑務所の門から10年ぶりにトビアスが出てきたのを迎えたのは、この土地出身の人気女優ナージャだった。ナージャはこの10年間ずっと愛しているという手紙をトビアスに出してきた。わたしのところへ行こうという彼女を断ってトビアスはアルテンハイン村の父の家に帰った。
家の外も内も汚れて臭かった。家畜も手放し畑仕事もやめてしまった。そして生活のために牧草地も安く売り払ったという。その上に母は4年前に出て行っていない。

11年前に二人の少女が殺されトビアスが犯人とされ逮捕された。彼はずっとえん罪を訴えていた。トビアスが10年の刑期を終えて出てきたいま、空軍基地跡地の燃料貯蔵槽から人骨が発見され、11年前の連続少女殺人事件の被害者とわかる。

〈黒馬亭〉ではトビアスが戻ってきたという話が店中で囁かれている。ウェイトレスのアメリーはベルリン育ちで前科者で派手好みの17歳、顔には200グラムを超すピアスをつけ、服はいつも黒一色。ベルリンで母と暮らしていたが、父がいるこの村に来た。父がケチなのでアメリーはこのバイトで現金を稼げるのがありがたい。18歳になったらベルリンへもどるつもりだ。
アメリーが仲良くしているのが30歳になる自閉症のティースで、仕事が終わころに外で待って送ってくれるようになった。いつも黙っているティースが今夜はこう言った。「シュネーベルガーはここに住んでいた」アメリーがトビアスが殺した娘かと聞き返すとティースは「そうだよ、白雪姫はここに住んでいた」と答えた。
(酒寄進一訳 創元推理文庫 1300円+税)

スティーブ・ハミルトン『解錠師』

表紙のタイトルのそばにアメリカ探偵作家クラブ賞受賞、英国推理作家協会賞受賞と入っている。米英で評価を受けた本だ。たしか日本でも「このミステリーがすごい!」と「週刊文春ミステリーベスト10」の両方で1位になった。わたしがあまり買わないタイプの本だが、今回は知り合いに勧められて買って読んだ。

マイクルは幼くして父親の暴力を見てしまった。恐怖のあとでようやく助けられたときは声が出なくなっていた。ニューヨークで酒屋を経営している伯父に引き取られて、耳は聞こえるが声が出ないまま成長した。

学校のロッカーを開けて便利がられ、グループで金持ちの邸宅に侵入する。やがてその特技が知られ犯罪に利用されるようになる。

最初は自分の勘と才能でやっていたが、プロの解錠師ゴーストの弟子となり鍛錬する。そして一流の金庫破り(ロック・アーティスト)と認められて師匠のあとを継ぐ。
【結論を言おう。そう、結論だよ。おまえさんは芸術家だ。だから、プリマドンナみたいなふるまいが許される。それこそが求められているんだ。そうしないと、相手は変に思う。そして、なにもかも振り出しにもどす。芸術家を呼んだはずが、とろいやつが来やがった。かまうものか、撤収しようぜ。】

犯罪にからんだ男の娘アメリアと宿命の恋をして、彼女だけに過去を絵にして打ち明ける。
しかし、一度はまった犯罪の世界から足を洗う前に警察に捕まる。長い刑務所生活を支えたのはアメリアとの絵手紙の交換だった。
牢を出てアメリアと会ったときに声は出るだろうという予感。
金庫破りの芸を緻密に描く犯罪小説であり、出会いと別れのあとに再会を予感する青春小説でもある。
(越前敏弥訳 ハヤカワ文庫 940円+税)

岸恵子『わりなき恋』

本書を知ったのは「週刊現代」の芳川泰久さんの書評で、「年齢を感じさせないヒロインの情熱、老いらくの恋の葛藤と美を描く長編」という言葉にいかれてすぐに買いに行った。
ご自身の体験を元にした作品だと思うけど、岸さんはご自身を主人公の伊奈笙子と親友の桐生砂丘子の二人に分けているように思えた。恋に一途になってしまった笙子を客観的に見て援護する砂丘子と。

笙子はドキュメンタリー作家で横浜とパリに住まいを持っている。どちらにも帰るのではなく、横浜に行く、パリに行く、と言っている。若くしてフランス人の夫を飛行機事故で亡くし、フランスで育った娘テッサはすでに結婚してこどもが2人いる。70歳になったなんて見えないエキセントリックな美人である。

その日フランスへ行く飛行機のファーストクラスは満席だった。笙子は隣席の旅慣れたふうな男、九鬼兼太と言葉を交わす。彼は大企業の専務で世界各地を飛び回っている。名刺を出したのでシナリオを破ってパリの電話番号を書いて渡すと、九鬼は「すばらしいかたとお目にかかりました」と笑顔に笑窪を浮かべた。
ロケハンの仕事から離れてパリへもどるとプラハの九鬼から電話がありパリでの食事に誘われる。
次の逢瀬は日本で笙子の誕生日である。横浜での食事の後でホテルに泊まるという彼に、ホテルよりもわたしの家が落ち着くでしょうと、洋室に案内し自分は母屋に寝ることにするが、歯ブラシを持って行くと風呂上がりの素裸の九鬼がいた。抱き合って過ごすことになった一夜。笙子は長い一人暮らしで体が応じなくなっている。笙子は「七十歳と十七時間・・・私もう若くないの」といい、九鬼は「七十歳と十七時間ですか、すてきですね。あなたはとんでもない人なんですよ」という。彼はもうすぐ還暦だという。
思ったらすぐに行動の笙子は婦人科の医師に相談し親切に対応してもらう。なかなか開かなかった体が応じるまでになったのはかなり経ってからだった。

読んでいるうちにフランソワーズ・サガンを思い出した。若い日のサガンが書いた「ブラームスはお好き」で、主人公ポールは39歳、彼女を恋するシモンは25歳。別れるときにポールは「シモン、もう、私、オバーサンなの、オバーサンなの」と階段の手すりから身を乗り出して言うが、シモンには聞こえない。彼は階段を駆けおりた。若いわたしは別れの甘美させつなさにしびれたものだった。
「わりなき恋」は、歳月の残酷さ、男の身勝手さが描かれて、だからこそせつない「わりなき恋」が身にしみる。
若いときはサガンに夢中になり、いまになって岸恵子さんの「七十歳と十七時間・・・私もう若くないの」の笙子の恋に夢中になっている。
ふと思い出した。サガンというペンネームはプルーストの「失われたときを求めて」に出てくる人物の名前だった。「わりなき恋」は「失われたときを求めて」で老いについて語る一節を思い出させた。
(幻冬社 1600円+税)

ジャネット・イヴァノヴィッチ『あたしの手元は10000ボルト』

5月10日の〈関西翻訳ミステリー読書会〉の課題書だったので久しぶりに買って読んだ。
読書会で翻訳者の細美さんが言っておられたが、阪神大震災(1995年)で被災して仮設住宅住まいのときに翻訳の話があったそうだ。第1作の「私が愛したリボルバー」は1996年発行でVFCでもずいぶん話題になった。
「わたし」でなく「あたし」と訳したことの話もされていたが、はじめて読んだときは新鮮だった。3冊目くらいまで買って読み、そのあとは借りて読んで何冊目まで読んだか覚えていない。19冊原書で出ていて訳されているのは12冊、本書が12冊目である。
課題書なので買ったがどうもこの表紙はこまっちゃうな。最初のころのハードボイルドな表紙がなつかしい。

主人公のステファニーの職業はバウンティ・ハンター(保釈保証会社の逃亡者逮捕請負人)である。たしか1作目が出たころに見た映画がバウンティ・ハンターものだった。いま検索したがそれらしいのが見つからない。いろいろあるのがわかったのが収穫。女性バウンティ・ハンターが主人公の「ドミノ」を見たい。サム・ペキンパーの傑作「ワイルド・パンチ」もバウンティ・ハンターものなんだな。

今回はハンター生活に慣れてきたあたし(ステファニー)が、この商売の師匠でありアブナイ男のレンジャーの闘いを援護する。バウンティ・ハンターのレンジャーに憧れて、そっくりさんになった男がレンジャーが若いときに生まれた娘を母親と継父のところから誘拐する。娘の無事を祈りつつ誘拐犯を追うレンジャーとステファニー。そして幼なじみの刑事モレリがからむ。
レンジャーがカッコいい。子分とハイテク機器を使いこなして犯人を追う。ステファニーのところで泊まるがセックスなしだけど、同じベッド。次の朝一にモレリが訪ねてきたときは偶然カーペットに枕と毛布が落ちていて、危機一髪!なのであった。
あたしはにせのレンジャーに近づいて娘を助けようと近づくが、スタンガンでやられて失神している間に携帯2台も非常ボタンも取り上げられてしまう。

モレルとレンジャー、いいオトコ2人のどちらとくっつくのかな。
レンジャーは「おれはデザートだ」という。
【「あんたの食生活の基盤になりえないもの、だ」んまあ、ここがあたしの難題なのだ。デザートは、あたしの食生活の基盤なのだ!】
【モレリはあたしを見た。「あんたを愛しているわ」あたしは彼に言った。「ああ」モレリは言った。「知ってる。だがおまえがそう言うのを聞くのはいいものだ。おれもお前を愛しているぜ」口に出さなかったのは、あたしはレンジャーも愛しているということだった。】
(細美遥子訳 集英社文庫 838円+税)

関西翻訳ミステリー読書会(ジャネット・イヴァノヴィッチ『あたしの手元は10000ボルト』)

第10回関西翻訳ミステリー読書会に行った。わたしの参加は7回目。真面目な読書家の集まりで、まさに読書会。
今日の課題本は女性のバウンティ・ハンター(保釈保証会社の逃亡者逮捕請負人)ステファニー・プラムが主人公のシリーズ第12作。翻訳家の細美遥子さんが出席されていろいろと疑問に答えたり知らないことを教えてくださって和やかな一夜だった。ほとんどの人が楽しく読めたと言っていた。

主催者のKさんが「この本はハードボイルドミステリーだ」と言われたのが、目からウロコだった。そうなのだ。少々たがが外れているところがあるが、ハードボイルド・ミステリーであるのは間違いない。
わたしの友人はこのシリーズのファンで原書で読んでいて、「ドタバタ ラブコメ ミステリー」と表現していたが、そうでもあるなあ。

久しぶりに読んで元気いっぱいのステファニー・プラムに出会えてよかった。警官とバウンティ・ハンターと二人のステキな彼氏のうちどっちにしたのか気になるなぁ。それだけでも原書を読んだ人に聞いてみるか。
(細美遥子訳 集英社文庫 838円+税)

ジャネット・イヴァノヴィッチ『あたしの手元は10000ボルト』前書き

いまこのブログのサイト検索したんだけどジャネット・イヴァノヴィッチではひとつも出てこなかった。数冊は読んだはずだけど、そんな昔だったのかとブログ以前のVFCサイトにある「kumiko pages」を探したら4作目と5作目の感想が出てきた。
最初の「私が愛したリボルバー」は1996年、いまから何年前よ、と指折って数えたら17年前のこと。ヴィク・ファン・クラブはあったが、当時はまだミクシィはなかったから、もっぱら口コミと会報の原稿で話し合ったのね。いまも思い出すけどすごく人気があった。友だちや姪たちが騒いでいて、ちょっとわたしは引き気味だった。

「kumiko pages」はサイト内検索が切れてしまったので、いま探したのをここに載せます。

#4 ジャネット・イヴァノヴィッチ「サリーは謎解き名人」
ジャネット・イヴァノヴィッチのステファニー・プラムもの4作目、扶桑社、734円+税。第1作「私が愛したリボルバー」が出たときはとても評判が良かった。女性だけではなく、男性にも良かった。それで、へそ曲がり、ではない、素直なあたしはいやになってしまったのだ。
男性がこの女の子なら許せる、みたいな可愛さがあるのが匂ってきたのだ。それで2作目からは感想を書くのがなんとなくね…。ところが、4作目にいたって、そのハチャメチャさがフツーでないのがよくわかってきた。ここまできたら男性が笑って許せる女の子ではない。もう文句言わんとほめることにする。すっごくおもろいわ。
1999.6

#5 ジャネット・イヴァノヴィッチ「けちんぼフレッドを探せ!」
バウンティ・ハンター(保釈保証会社の逃亡者逮捕請負人)のステファニー・プラムが主人公のシリーズ第5作目。4作目「サリーは謎解き名人」が出たのが99年10月なので、ファンは2年待っていたことになる。わたしは待っていなかったけど、友人や姪が待っていて、情報がないかとしょっちゅう聞かれていた。さっそく買って読んだ姪からはすぐおもしろかったとメールがきた。わたしは買ってまで読む気は起こらず、彼女は関東方面にいるので、ちょっと貸してというわけにはいかない。そこへ大津のDさんが買ったというメールがあったので例会に持ってきてもらった。
さっそく土・日・月で読んでしまった。やっぱりおもしろい。車が爆発したり、取っ組み合いしたり、つけ回されたり、ハードな出来事が続出するんだけど、気にならず読み通してしまう。軽い。湿り気がない。ま、いまのようなときに、明るい午後の日差しを浴びて読むのにちょうどいいかもしれない。かっこいいオトコが3人出てくるしね。(扶桑社 762円+税)
2001.9

探すのに時間がとられたので、「あたしの手元は10000ボルト」についてはいずれ書きます。
(細美遥子訳 集英社文庫 838円+税)

モーヴ・ビンキー『イヴニング・クラス 上下』

先日読んだ「サークル・オブ・フレンズ 上下」は映画(パット・オコナー監督)を見て原作を読みたくなりアマゾンの中古本で買ったもの。映画もよかったが原作もよかった。それで訳者だったか解説の栗原知代さんだったかが良いと書いておられた「イヴニング・クラス」を続けて買った。広告のページにはあと3冊あるけど、まあここまでにしようか。すごいストーリーテイラーで読み出したらやめられないというのはこのことかと思った(笑)。

エイダン・ダンはダブリンの高校教師でずっと次は校長になれると思っていたが、嫌っていたトニー・オブライエンが校長になることに決まった。ふたりの中は気まずくなる。トニーはエイダンの娘と知らずに彼の娘グラニアと恋愛中だ。これはまずいと考えた結果、エイダンには彼が好きなイタリア語のイヴニング・クラスをつくってまかせることにする。

かたや、ノラ・オドナヒュー(シニョーラ)が26年ぶりにシシリー島から戻ってきた。恋人を追ってイタリアに行ったものの古い町には彼の許嫁がいた。彼女は近くに部屋を借りて手仕事で自活していたが、彼が事故死したので帰ってきたのだ。

イヴニング・クラスに集まった30人あまりの、それぞれ問題や愛を抱えた生徒たちの物語が語られる。
クラスはそれぞれイタリア名前で呼び合うことになり、アイルランド名前とだぶるからややこしい。いろんなかたちのカップルができていく。
シニョーラの教え方に人気があがり誰も辞めないし、みんな仲良くなり、講座の終わりにはイタリアへ行こうと盛り上がる。
そして、イタリア旅行の日がきた。

木村二郎「残酷なチョコレート」

封筒から出したらすごくおしゃれなハードカバーで、帯に「職業、私立探偵。依頼の件はオフィスで聞こう。」とあるのがカッコいい。
読み終えてから気がついたのだが、カバーの写真が〈マンハッタンヘンジ〉みたいだ。ほんまにいま気がついたところ(笑)。ウィキペディアに「ニューヨーク市マンハッタン区の碁盤の目状の大通りの東西方向の通りにちょうど沿って太陽が沈むとういう一年に二回起こる現象である。」とある。本書の中の「この母にしてこの息子あり」に〈マンハッタンヘンジ〉の写真が部屋にかけてあるというところがあって気がついた。

雑誌「ミステリーズ!」に掲載された「永遠の恋人」「タイガー・タトゥーの女」「残酷なチョコレート」の3作を読んで感想を書いたのが当ブログに入れてある。
あと2作「バケツ一杯の死」「血は水より危険」を読んでいなかったのが残念だが本書で読めた。それに書き下ろしの2作「ツインクル、ツインクル」「この母にしてこの息子あり」が入っている。
(その他に女性探偵フィリスが活躍する「偶然の殺人者」があるのを忘れないように書いておく。)
いつものお気に入りの本と同じく、さっと読んでしまってからもう一度ゆっくり読んだ。

わたしは外国語ができないので翻訳にたよって読書している。家にあったのは童話のようなものでも翻訳ものであった。それが幼年時から続いていていまも同じくで主に翻訳ミステリを愛読している。日本語のミステリを友人がたまに貸してくれるが最後まで読み進めない(池波正太郎だけは別)。そんなわけで日本語で読んでいるんだけど、ヨークシャーだったりデンマークだったり、ニューヨークだったりするのを楽しんでいる。わたし以上に楽しんでいるひとはいるかなと思うくらい(笑)。
木村さんの小説は翻訳もの感覚で読めるということも好きの原因だと思う。それも直訳みたいなところが好きである。

それぞれの作品の前にマンハッタンの地図がある。作品ごとに出てくる場所が記入してあって親切だ。ヴェニス探偵事務所、恋人のグウェンと住んでいるアパート、グウェンの仕事場を地図で見てなんだか安心する(笑)。この距離だとタクシーかなんて思ったり。

「残酷なチョコレート」を読んだとき(2011年12月)の感想にはヴェニスは55歳を越えていると書いた。今回はミステリー作家の友人ジェイク・ヘイウッドを、おれより少し年下と書いている。その後にジェイクは60歳前後と書いているから、ヴェニスは60歳を少し越えたようだ。
仕事を終えて家に帰ったときのグウェンの迎え方やふたりの接し方は長いつきあいの夫婦だと思うけど、ヴァレンタインズ・デイ・プレゼントにバラを贈るのに、ちょっと玄関に置いていたり、いい感じ。

ヴェニスだけでなく他の登場人物のオーディオやラジオやiPadからジャズが流れる。きちんと曲名とミュージシャン名が書かれていてその人間を知る助けになる。ふたりが食後に見るDVDも古い趣味のよいハリウッド映画だ。テレビを見ているシーンがないのもいい。
(東京創元社 1900円+税)