ダニエル・シルヴァ「亡者のゲーム」

わりと最近になってわたしはロマンス小説が好きなんやなと自覚した。日本のも海外のも少女小説に囲まれて育ち大人になっても昔の小説を読み返しているわたし。先日もブロンテ姉妹やバーネット夫人が好きと書いたばかりだ。ところがそこにロマンス小説が加わって生きる喜びが増えた(オーバーな!)。と同時にロマンス小説が好きなことについて考えるようになった。ミステリが好きだといっても実は探偵の恋物語が好きなんだ。

もともと冒険小説は好きでないと思い込んでいるのでほとんど読んだことがなかった。昔、男友だちたちとの会話からジャック・ヒギンスを1冊読んだことがある。その次に冒険小説と言えるかどうか知らないが「ダ・ヴィンチ・コード」をVFC会員の高齢男性会員に薦められて読んだ。どっちも最後まで読んでおもしろかったけれど、途中が苦痛でもあった。

そんなわけでダニエル・シルヴァ「亡者のゲーム」は翻訳者の山本やよいさんがくださったので読まねばならぬと思うがなかなか読み出せなかった。ところが読み出してみればおもしろくてどんどんいってしまった。
途中でこれって冒険小説やスパイ小説というよりも男のロマンス小説やんかと思うところが多々あった。そのせいか最後までおもしろく読めた(笑)。

ダニエル・シルヴァという作家の名前も知らなかったが、すでにこのガブリエル・アロンのシリーズはシリーズ最初の4作まで訳されていて、5〜13作目まで未訳、そして最新作が本書「亡者のゲーム」ということだ。
ガブリエル・アロンはイスラエル諜報機関の伝説的スパイだが、表向きは腕のいい絵画修復師として知られている。20年前にテロリストの手で当時5歳だった息子を失い、妻は生き延びたが心に深い傷を負いガブリエルとは離婚して入院中である。その後ヴェネツィアに住む若いユダヤ人のキアラと出会って結婚した。いま妻は双子を妊娠中。

【イスラエルとアラブの闘争についてはさまざまな解釈がなされているが、ガブルエルは、結局は同じ聖地をめぐって二つの宗教が死闘をくりひろげているのだと結論している。爆弾にも流血にも無縁の静かな時期が何カ月も、さらには何年も続くかもしれないが、真の平和は永遠に訪れないような気がしてならない。】(290ページ)
(山本やよい訳 ハーパーBOOKS 963円+税)

ロネ・シェルフィグ監督「ワン・デイ 23年のラブストーリー」

いつものことだが心温まる映画はないかなと探して、見つけたアマゾンプライムの映画を気分良く見終わった。
イギリスの作家デヴィッド・ニコルズが自らの小説を脚本にしたのをロネ・シェルフィグが監督した2011年のイギリス映画。これを見ようと決めたのはロケ撮影がスコットランド、イングランド、フランスで行われたと知ったから。最初のシーンはエディンバラで、大学や街や森林や野原がゆっくりと映し出されてうれしくなった。

主人公たちの出会いが1998年7月15日のエディンバラ大学の卒業式。イケメンのディクスター(ジム・スタージェス)と真面目なエマ(アン・ハサウェイ)が出会うのが23年にわたる恋の歴史のはじまりである。
最初の出会いがあった「聖スウィジンの日」である7月15日はふたりにとってなにか起こる日というか、毎年の7月15日を基準に物語が進んでいく。
エマはディクスターに恋しているのに友人としてつきあう。その期間が長いのでどうなるかと思って心配した(笑)。教師をしていたエマが作家になり、華やかにテレビの仕事をしていたディクスターのほうは時代に取り残される。その状況のときに愛している人の子どもが欲しいとエマがいう。
最初はちょっとまどろっこしかったが、後半どんどん引き寄せられて最後は良かったねとなった。ハッピーエンドではないがしっとりと心に残る。
主演二人を初めて見たがいい感じだったし、ディクスターの娘のジャスミンをやってる少女がむちゃくちゃ可愛い。

物語の力

読みかけで置いてある新刊本がたくさんあるのにiPad miniを出して「ジェーン・エア」(シャーロット・ブロンテ)をまず拾い読みし、「秘密の花園」(フランシス・ホジソン・バーネット)の花園シーンを読み、つぎに文庫本で「抱擁」(A・S・バイアット)を読む。読むページはだいたい決まっている。何度読んでも気持ちが落ち着くのに変わりはない。
物語はわたしには精神安定剤みたいなもの。眠れなかったりするほどの悩みごとがそんなにあるわけではないが、なんとなく先のことが気になってユーウツになったり、お金の心配でどないしょと思うことがたまーにある。そんなときは物語に逃げるのがいちばん。主人公たちはそれぞれの悩みを抱えながら妥協せずに生きている。本を読んで励まされ、この苦境どうにかなるやろと思わすのが物語の力だ。
「秘密の花園」を検索して映画の写真を眺めている。花園のシーンを見始めると飽きない。コーヒーカップを手にしていつまでも眺めている。

中将姫と折口信夫「死者の書」

先日から折口信夫「死者の書」を寝る前に読んでいる。ずっと昔に読んだ本でながらく忘れていたのを青空文庫で見つけた。iPad miniに移して読んでいるのだが、夜の読書にふさわしいしみじみとした物語だ。
ブロンテ姉妹、バーネット夫人からしばし離れて奈良の姫君に想いをはせる。

「中将姫」の絵本をこどものときに持っていた。絵本とはいえ仏教とかお経とか外国物を読むよりわかりにくかったが、蓮の糸で当麻曼荼羅を織り上げた話が不思議であると同時に神々しく、すごいことをしはったと思っていた。絵本の色づかいがまた独特の毒々しさを持っていて魅了された。継子いじめの話でもあって歌舞伎的だし。
そんなことを昨夜「死者の書」を読みながら思い出していた。

當麻寺には何度か訪れている。竹内街道を歩いて行ったこともある。いま思い出したが「死者の書」を読んだのはそのころだった。當麻寺の庭の石積みのところに長いこと座って、したしたという足音が聞こえるのを待っていたりした。

エドワード・D・ホック『怪盗ニック全仕事 2』

エドワード・D・ホックの3つのシリーズのうち、犯人を捜す物語のサム・ホーソーンとサイモン・アークは「事件簿」(『サム・ホーソーンの事件簿』と『サイモン・アークの事件簿』)で、ニックは泥棒だから「全仕事」なんだなと納得して本棚を眺めていた。そしたら、1冊『怪盗ニックの事件簿』(2003 ハヤカワ文庫)があった。
その後、怪盗ニックのシリーズ全部が訳されることになって、「全仕事」となり今年3月に『怪盗ニック全仕事 1』が出て、今回『2』が出たということである。

ニック・ヴェルヴェットはガールフレンドのグロリアとニューヨークで暮らしている。仕事は一件につき2万ドルで値打ちのないものを盗む泥棒である。世間で値打ちがあると決まっているもの(お金とか宝石とか)には頼まれても手を出さないのを原則としており、そういう仕事を依頼されるとはっきり断る。
たいていは裏社会での噂を聞いた人からの連絡で仕事がくる。突然の電話で会いに行き話を決める。お金はほとんどきちんと支払われるので、年に数回仕事があれば二人で豊かに食っていける。

今回も、マフィアの虎猫、サーカスのポスター、将軍のゴミ、石のワシ像、ヴェニスの窓、シャーロック・ホームズのスリッパなどなど、意表をついたものを盗むよう依頼される。
短編15話のうち、わたしは「なにも盗むな」がおもしろかった。言われた木曜日にじっとしていると2万ドルが支払われる。

秋の一日を家で静かに読書して過ごした。
世間離れした怪盗ニックの物語は楽しい。ニックとグロリアの会話に癒される。
(木村二郎訳 創元推理文庫 1300円+税)

快眠で快便

最近とみに思うのだが、快眠できて快便で、すごくありがたい。
若い友だちからのメールに、彼女たちのまわりでは「毎年健診を受けてたのに乳がんになってしまった」という話題で持ちきりだとあった。その言葉に刺激を受けて病気や健康や自分について思いをめぐらした。

晩ご飯を食べながら、相方が厄年に胃潰瘍になったことから、それまでの不摂生な生活、ヘビースモーカーだったこと、仕事が忙しく夜も眠らずに働き、その上で遊んだことを思い出してしゃべった。
悪いことばっかりやっていた。よく稼ぎはしたが、その分みんな使ってしもたというアホなわたしら。
そして大吐血のあとはタバコをやめて外食を減らした。仕事も減らしたので必然的に内食になった(笑)。
わたし自身もいまになって思うと神経性胃腸炎やった。長いこと毎週日曜日の夜になると下痢してた。翌日にはけろっとしてたから病気という実感はなかったけど、気持ちのよいものではない。

かなり長いこと元気だと実感。だってヴィク・ファン・クラブ作ってから毎月会報(9月号で通巻285号)を作って送り、VFCサイトを作ってから毎日(最初の2年は1日おきくらい)17年ブログを書いている。
よく眠りよく食べて快便。最近は寝つきが悪い日があるので運動不足に注意するべし。

ジョシュア・マイケル・スターン監督「スティーブ・ジョブズ」

アマゾンプライム映画にあったのを発見して見た。この映画(2013)ができたころは本の「スティーブ・ジョブズ 上下」を読んでいて、映画も見たいと思っていたのにころっと忘れてた。

ジョブズが実家のガレージでウォズニアックと仕事をはじめたときからはじまって、よく知っていること、よく知っていると思っている人たちのことが語られて楽しく見ていられた。
ほとんど仕事関連の話ばっかりで女性関係や結婚生活が少ししか出てこなかったのがちょっと残念。ジョブズの外面はよく出てたんだけど、ちょっとコクがなかったような気がする。
ジョナサン・アイブとの出会いの場面が楽しかった。

ジョブズがアップルを追放されたときはショックだった。仕事で使っていたからスカイリーが社長のときのマックも買っている。
自分らが心配しているだけならいいが、アップルはもうダメでしょうなんて要らぬことをいう人がけっこういた。マックのジマンをした覚えはないが、マックを使っているということ自体がジマンだったんだなといま思う。

お金がなくてブルーのiMacが出たときは見ているだけだった。その後出たイチゴ色が欲しいなんて言ってたけど買えなかった。相方が忙しかったとき、兄がiMacを買うというので本を買って勉強してからいっしょに日本橋へ買いに行った。てきぱきと指定したので店員さんがびっくりしてた。それから後は相方にまかせきりになってしもたけど。

この映画を見たら、もう1本のほうが見たくなった。
2015年の「Steve Jovs」はダニー・ボイル監督、アーロン・ソーキン脚本、ジョブズを演じるのが先日見た「ジェーン・エア」でロチェスターさんをやっていたマイケル・ファスベンダーだからよけいに見たい。彼のジョブズは似ているというよりぴったりな気がする。

関西翻訳ミステリ読書会で感じたこと

会場が西梅田の大阪駅前第2ビルなのでシャーロック・ホームズで夕ご飯を食べてから行った。
今日の課題書は昨日の日記に書いたロバート・B・パーカーの「初秋」だった。主催者のKさんがこの本が大好きでずっと前からやりたかったんだって。先日お会いしたときに話したので、最初の3冊を持っていった。「ゴッドウルフの行方」(ハヤカワポケミス)「誘拐」「失投」(2冊とも立風書房)で、どれも汚れていて外れているページもある。昨日書いたけど33年前の本だから。
みなさんの手を一周したがどなたも初見だったので持って行ってよかった。
読書家の集まりだから鋭い指摘があって、そうなのかとうなづいたり、言葉にならないけどちょっと違うなというところもあった。
一人ぐらいはスペンサー大好きな人がいるかと思ったらいなかった。ほんまに時代は変わってしもたんやな。

いろんなことをしゃべったのだが、あの時代の空気を伝えるのは無理だ。
帰りの地下鉄で思い出したんだけど「初秋」が出たころ、つまり33年くらい前のこと、千日前の飲み屋「中野」で、わたしは相方にいかに「初秋」がいかに面白いかをしゃべっていた。そしたら横にいた見知らぬ男性が「僕も読んだところです。ものすごくよかった」と声をかけてきて、1時間くらいスペンサーとスーザンとホーク大好きで盛り上がった。他にも得意先の編集者などロバート・B・パーカーがちょっとインテリぽい人の間で大受けしていた。

われながらいろんなシーンを生きぬいてきたものだが、いまはいまの時代の空気があるのだからそれでいいのだな。老婆心はいらんな。

ロバート・B・パーカー「初秋」を33年ぶりに読んでいる

明日開かれる〈関西翻訳ミステリ読書会〉の課題書ロバート・B・パーカー「初秋」をいまごろ読んでいる。明日ということは1カ月以上も前からわかっていたが、33年も前に読んだ本をようやく探したら安心して読んだ気になっていた。こりゃいかんわと昨日から慌てて読み出したのだが、内容を覚えていないのにおどろいた。もちろんストーリーやスペンサーとスーザンの言い合いのところなんかは覚えているけど細かいところは全然忘れてた。

この本が出版された1982年にわたしはなにをしていたろう。
我が家の最初のアップル社製品であるMacplusを買ったのが1987年だから、それより5年前だ。Macがなかった時代なんやな。
いま思い出していたら、78年ごろから夢中になったパンク・ニューウェーブもそろそろわたし的には終わりごろで、やっぱりわたしには読書とか思って翻訳ミステリにはまりこんだんだった。そのころ買った新本も古本も押入れの中で眠っている。
そうだ、スペンサーに入れあげているときにヴィク(V・I・ウォーショースキー)が現れたのだ。1985年に早川ミステリ文庫で発行されて次々と翻訳された。1991年にはヴィク・ファン・クラブ発足。1998年に「VIC FAN CLUB SITE」発足。最初のMacを手にいれてから11年目にウェブ時代に突入したんやな。スペンサーから話が飛んだ。これをアップしたら明日に備えて「初秋」にもどる。
「VIC FAN CLUB SITE」にある「わたしのサラ・パレツキー論」はスペンサーからヴィクへとわたしの視点が変わっていったことが書いてあってなかなかいいので読んでみてください。古いサイトなのでちょっとリンクがややこしいけど3章まであります。)

キャリー・ジョージ・フクナガ監督「ジェーン・エア」を再び見て

さきおととい見たのに昨夜もう一度見ることにした。字幕を読んでいる間にジェーンの表情や荒野の風景を見逃してしまうので今度は画面をちゃんと見ようということで。
原作のシャーロット・ブロンテ「ジェーン・エア」を何十回も読んでいるけど、読むときの年齢や境遇によっていろんな読み方をしている。好きなページも移り変わっている。若いときに読んだからもういいなんてことのない優れた小説である。
午後から時間があるとiPad miniを開いていた。iPad miniの画面で読むと飛ばさずに丁寧に読むから不思議。ジェーンとロチェスターさんをミア・ワシコウスカとミヒャエル・ファスベンダーに当てはめて読んでいた。
ミア・ワシコウスカは美しいひとだが美しくないとたびたび原作に書いてあるジェーンをうまく演じていた。しっかりと閉じた唇を開いて述べるしっかりとした考え。

飢えと寒さから救ってくれたセント・ジョンと二人の妹は実はいとこ同士だったとわかる(映画では省略してある)。叔父からの遺産がジェーンに入ったのを4等分して妹二人は家庭教師をやめることができた。
なにがあったとしてもジェーンの愛はロチェスターさんだけに向いている。セント・ジョンの求婚を断るところが誇り高くてよかった。

吉田健一訳の本ではいとこのセント・ジョンがシン・ジンとなっている。今回、映画の中でシン・ジンと呼ばれていて、なるほど(笑)。英語ができないとつらいね。