アン・クリーヴス「白夜に惑う夏」(2)

調べた結果、仮面の男は自殺でなく殺されてから吊るされたものとわかる。イングランドから来て、港で船から降りる人たちに画廊のパーティ中止のチラシを配っていたのが彼だ。誰も彼のことを知らない。
前回と同じくインヴァネス署からやってきたテイラー主任警部が指揮をとることになった。テイラーは捜査の中心になるつもりだが、いらいらしながらも地の利があるペレスを尊重して行動する。
ケニーは仮面を外した男の顔を見て兄のローレンスでないことを確認した。ローレンスはベラに夢中だったがふられたので出て行ったものと思われている。イングランドへもどったテイラーのしぶとい調査で仮面の男の正体がわかる。
二人目の犠牲者を見つけたのもケニーだった。羊が岩棚で身動きがとれないでいるのを助けたあとに、視線を下にすると岩にぶつかってロディが死んでいた。

ペレスはフランの家で娘のキャシーに本を読んで聞かせる。この子の父親ダンカンは彼のかつての親友だった。そのわだかまりを超えて、いまのペレスの望みはフランとキャシーといっしょに家族を作ることだ。

ロディの死を捜査していると携帯電話がないことがわかり、クライマーに頼んで崖を探してもらうことになる。クライマーのカップルが崖をくだって岩棚をひとつひとつ探すが、洞穴で見つけたのは人骨だった。もっと昔に別の殺人があったのだ。
テイラーとペレスと部下の緻密な捜査の結果、ついに三つの殺人事件がつながっていることがわかり、殺人者がだれかがわかる。

とても緻密なミステリであると同時に、白夜のシェトランド島に住む人たちの気持ちがよく描かれている。暗くならない夜って想像できないけど、眠れない夜の憂鬱な気分が伝わってくる。イングランドから来たテイラーがペレスを見ていらいらすることで、シェトランドのペレスの気質が伝わってくる。
〈シェトランド四重奏(カルテット)〉あと2作訳してほしい。
(玉木享訳 創元推理文庫 1260円+税)

アン・クリーヴス「白夜に惑う夏」(1)

前作「大鴉の啼く冬」に続く〈シェトランド四重奏(カルテット)〉の2作目になる。前回の主役だった画家のフランはこの地で画家として頑張っている。そしてフランに想いをよせるようになった警官ジミー・ペレス警部が地道な捜査でがんばるし、前回もインヴァネス署からやってきたテイラー主任警部が精力的に働く。

シェトランド島の夏は観光の季節である。本土からたくさんの人たちが押し寄せて白夜を過ごす。両親のいる島で休暇を過ごしたペレスは、シェトランドにもどりフランをエスコートして展覧会場へ行く。今夜はフランとどうにかなるチャンスだと考えているので落ち着かない。会場の〈ヘリング・ハウス〉はベラ・シンクレアの持ち家で元はヘリング(ニシン)を干していたところを画廊に改造してある。島の出身で大金持ちになったベラは妖艶な画家で、甥のロディはロックミュージシャンとして人気が高い。今夜は絵の展示とともにロディも歌い、酒も出回るがもひとつ出足が悪い。会場で黒装束で仮面の男が泣き出し、みんな困惑して見ているだけなので、ペレスは連れ出す。

小農場主のケニーは介護センターで部長を務めている妻のエディスと暮らしている。15年前に〈ヘリング・ハウス〉を作り直したのはケニーと行方不明になったままの兄ローレンスだった。ケニーは男が走って行くのを見て、帰ってから庭にいたエディスに男を見なかったかと聞く。見なかったという返事だったが、翌日、ケニーはボート小屋で仮面をかぶった男の死体を発見する。
ペレスはフランの家から仕事場へ行く途中、携帯電話で男の変死体があると知らされる。自殺するつもりでこの島へきたわけではないだろう。なんらかの理由があってパーティに出席したはずだ。(玉木享訳 創元推理文庫 1260円+税)

大阪大空襲から65年—講演会は満員で入れず写真展を見てきた

昨日、姉の家で明日は空襲記念日やねと、65年前の3月13日夜から14日未明の大阪大空襲が話題になった。両親と長兄と次姉は命からがら逃げて、豊中市の父が働いている会社の寮へ歩いて行った。たまたまよそにいた長女は翌日戻ってきて家を探したら焼け野原で、遺体の山が築かれ死臭が漂っている中をもしかして家族がと探し回った。

姉が前日(3月11日)の朝日新聞夕刊を出してきたのを見たら、「遊郭のむ炎 娼妓の無念」という記事があった。新町遊郭経営者の息子だった徳田さんは、空襲のとき母と西成区の叔母の家に逃れたが、途中にはたくさんの人たちが火だるまになったり道頓堀川でおぼれ死んでいた。娼妓たちは4・5日後にがれきの下になっていた防空壕の中で黒こげになっているのが発見された。
徳田さんはそのことを封印して話したことがなかったが、年に数回、娼妓たちが蒸し焼きにされる夢を見る。「お女郎さんの無念を伝えるためにも、語らなあかん」と語り出したという記事だった。
新町遊郭の存在は中学生だった兄は知っていたが、通ってはいけないと親にも学校にも言われていたそうだ。「裏新町」と言われていたそうだが、わたしははじめて存在を知った。

今日13日に徳田さんの「ピースおおさか講演会」が森ノ宮のピース大阪であるというので、電話したらもう席がないが、写真展をやっているというので行ってきた。
特別展「焦土大阪〜写真でみる大空襲〜」は、毎日新聞社の焼け跡を撮った写真と、一昨年の12月に中央図書館でやった「なつかしの昭和堀江展」に出ていた写真があった。その他寄贈された戦争中の物品や書類などの展示をするコーナーがあった。
常設展示のシチュエーション・ガイダンス「15年戦争」では、日本のアジア諸国侵略のありさまが写真で展示されている。15分ほどの映像が15分おきに上映されている。

せっかくの機会に入れず残念だった。
※徳田さんの証言の様子は、朝日放送「NEWSゆう+」で15日午後6時台に放映される予定とあるので、忘れずに見よう。

追記(15日)
朝日放送「NEWSゆう+」で6時半ごろから10分くらい放映された。徳田さんが65年ぶりに故郷の新町へ足を踏み入れて、当時の住処の後を訪ね、すっかり変わったとおっしゃっていた。映っていた道はたいていわかる。父上が出征するときの映像も写し出された。娼妓たちが歩いていた。そして焼け跡の写真もあった。徳田さんはそのシーンを見ながら、焼け焦げて誰ともわからない遺体からの臭気のすさまじさについて語られた。
講演会では壇上ではなく一般席に座っておられて、発言のときは立ってマイクをもたれていた。大空襲のことはいままで話したことがなくて、去年はじめて語り出したそうだ。

初めて知ったのだが、うちの近所の日本交通の会社の敷地に空襲で亡くなった人たちの慰霊碑が建てられていた。当時の会社の社長が供養として建てられたそうだ。そこへお参りされて、これから毎年来ると言っておられた。

おばあちゃんの念仏

先日行ったお葬式は真言宗だった。お坊さんの「南無大師遍照金剛」と唱えるお経でわかった。その後に姉の家に行ったとき、謡本(うたいぼん)が数冊机の上に置いてあった。姉は謡を30年もやっている。謡で「南無大師遍照金剛」と出てくるのは「葵の上」「道成寺」で、「南無阿弥陀仏」というのは「隅田川」「当麻」だとページを開いてくれた。鎌倉仏教が興るまでは密教で、それ以後に鎌倉仏教が広がった。というような話をして「鎌倉仏教」という本を貸してくれた。まだ読んでないが。

わたしは不信心者であるが、仏像やお経は好き。
山梨のおばあちゃんの念仏はこうだった。「ふーどう、しゃかー、もんじゅー、ふーげん、じーぞう、みーろく、やーくし、かんのん、せーいし、あーしゅく、あみだ、だいにち、こーくーぞう」この後に「なむあみだぶつ」を何度か言う。母親もこれをうたって(?)いることがあった。
いまふと思い出して検索したら、「不動明王、釈迦如来、文殊菩薩、普賢菩薩、地蔵菩薩、弥勒菩薩、薬師如来、観音菩薩、勢至菩薩、阿弥陀如来、阿しゅく如来、大日如来、虚空蔵菩薩」のことだったのね。

新町遊郭を描いたマンガ、もりもと崇「難波鉦異本」(なにわどらいほん)

“難波鉦異本 上 (BEAM COMIX)東京から遊びにきたOちゃんが買ったばかりの本、もりもと崇「難波鉦異本」(なにわどらいほん)上・中を読み終わって持ってきてくれた。難波のそれも新町が舞台になっているからね。まだ下巻は出ていないそうだ。
マンガを最後に読んだのはいつかも忘れてるくらい久しぶりだ。読み出したら昔みたいに夢中になってしまった。

新町遊郭の遊女たちの格付けは、〈太夫〉が〈松〉で相撲でいえば三役、〈天神〉が〈梅〉で幕内クラス、〈鹿子囲〉が〈桐〉で十両クラス、以下になるとショートタイムでも客をとらせられる。
夕霧太夫亡きあとの新町遊郭。主人公の和泉は〈天神〉で、新町一の三絃の名手であり、実力からいえば〈太夫〉のところを、客あしらいが下品なので、〈天神〉で止まっている。禿(かむろ)のささらを従えての、すさまじくもしたたかな日常が描かれている。
ストーリーがおもしろくて、絵が良くて、構成がしっかりしていて、エロくて、いやなところが少しもない。

本書にある新町郭東口大門があった新町橋と横堀川の跡あたりをよく歩いている。埋め立てられて長堀通りになってしまった西長堀川の橋の名残りや、大阪大空襲で消失したわが家があった場所は日常的に見ているので、古地図を見ているように懐かしい。

中巻にこんなところがあった。
大坂落城で真田隊全滅のあと、ひとりの武士が行くあてもなく死のうとしているとき、やはり身一つで逃れてきた姫君を犯すが、その後にその女性が姫と知る。
姫は言う。「見よ、この骸の山を・・・大坂は負けたのじゃ・・・・勝者ではない、敗者こそ無念の骸の上に何かを成して報いるべきぞ・・・」
姫君は遊女となり、武士は商人となる。その後の話も哀切である。
早く下巻が読みたい。
(エンターブレイン 上下とも620円+税)

大阪あそぼ&大阪まちあるき

図書館の展示スペースでやっている「大阪あそぼ」がおもしろいと聞いたのは最終日の前日だった。その翌日3日(最終日)は姉の家に行く約束をしていたので、早めに家を出て開いたばかりの図書館へ寄って見てきた。

ギャラリーには、サイトからプリントしたものがたくさん貼ってあった。こんなサイトがあるのを全然知らなかった。「大阪あそぼ」は大阪市内各地の紹介をしており、すでに何十カ所分もある。
プリントしたものが貼られた下のガラスケースには、関連した本や地図や浮世絵が展示してある。昔の大阪がかいま見られて楽しかった。

展示は終わってしまったが、サイトでプリントできる。
堀江は「日本一の海運王へ・・・岩崎彌太郎、起つ〜三菱発祥の地をたずねて〜」
新町は「天下一の花街・大坂新町を歩く〜夕霧太夫の面影を求めて〜」.
プリントしてみた。A4だったら2枚にプリントしたほうがいい。

先日、なんとなくNHK大河ドラマ「龍馬がゆく」を見ていたら、岩崎彌太郎がずいぶん出てくる。たしか三菱財閥を築いた人だわと見ていたのだが、これで解決。近所の土佐稲荷神社は江戸時代の土佐藩蔵屋敷があったところだった。めちゃくちゃ貧しい暮らしの彌太郎がどうしてのし上がっていったのか興味がわいてきた。

各ページがサイトからプリントできるので、持って散歩できる。

もうひとつ「大阪まちあるき」というのがあって、「文明開花 幕末維新人物伝コース」なんていうのもある。

バイロン卿の娘エイダ

図書館でマーク・フローエンフェルダーの著作「THE COMPUTER」という大型本を借りてきた。コンピュータの歴史や人物に関する本だけど、最初は計算ということからはじまっている。世界最古の集計システムはチェコで発見された骨で、人為的に刻まれた数に関する痕跡の一番古いものだとか。
それからいろいろな人の肖像画と実績が記されているが、知っている名前はパスカルくらいだ。
めくっていくと美しい女性の肖像画に出くわす。詩人バイロンの娘、エイダ・バイロン・ラブレイス(1815〜1852)である。バイロンは有名な与謝野鉄幹の歌「ああ、われ、ダンテの奇才なく、バイロン、ハイネの熱なくも・・・」のバイロンである。その娘さんがなんでコンピュータの本にあるのか。

エイダは一歳のとき母に連れられて家を出た。エイダがバイロン卿に影響を受けて詩人になるのを恐れたためだ。母は自分の妹に頼んでエイダに数学と科学を教え込ませる。成長したエイダはイタリアの数学者の論文を英訳し、それに彼女自身が長い注釈を書いて発表した。この注釈のために彼女は「世界最初のプログラマ」という栄誉を受けているそうな。彼女はバベッジ(数学者で発明家)の装置が完成した暁には、コンピュータが家電品と同様に一般家庭の必須品となることが当然であると予見していた。プログラム用語の一つ、Ade(エイダ)は彼女にちなんだものなんだって。ひぇーっ。(ハント・ヴェルク訳 トランスワールドジャパン 6500円+税)