カーター・ディクスン「九人と死で十人だ」

本棚の前に物が置いてあるという状態で長いこと経って、先日ようやく物をどけたら出てきた本の山の中にあった。国書刊行会の世界探偵小説全集が10册ばかり。1999年刊行だから15年ほど前になる。行きつけの書店に頼んでおいて毎月とりに行っていた。
またわたしのミステリ歴を書くけれども、こどものころから探偵小説が身近にあって、ハードボイルドも本格もいっしょくたに読んでいた。
70年代になってネオハードボイルドに目覚めたら女性探偵がたくさん現れた。そんなときにあえて本格ものを読みたくなったのだ。ところが読んだのは名前を知っていた作家で、同じ全集の中でも、アントニイ・バークリー、フィリップ・マクドナルド、シリル・ヘアー、レオ・ブルース、そしてエドマンド・クリスピン等は別にお気に入り本棚に並んでいる。あとは積んだまま忘れてた。

ああ、すみません、読んでみます、と今回出てきた本に向かってお辞儀して言って、1册とったのが本書だが、カーター・ディクスンはまたの名ジョン・ディクスン・カーである。なんで積んどく本に入れたのかな。愛してやまない「皇帝のかぎ煙草入れ」は何度読んだことか。「火刑法廷」のすごさ。「夜歩く」は父が好きで読めと言われた。

おとといと昨日と今日と本書を読んでとても楽しかった。恋愛小説でもあるのだ。「皇帝のかぎ煙草入れ」を思い出してまた読もうと思った。想い合う男女の心の動きがステキだから。

第二次大戦中の話で、軍艦と同じ色に塗られたイギリス商船がニューヨークを発ってイギリスの某港へ出航する。船は軍需品の輸送も担っていて爆薬や爆撃機も積載されている。乗客は9人。元新聞記者マックスの兄はこの船の船長である。
女性が二人乗っている。40代はじめと思われる美貌のブロンド、エステル・ジア・ベイ夫人。毛皮のコートから出たハイヒールの足がすらりと伸びている。もう一人はヴァレリー・チャトフォード嬢で、マックスが酔ったエステルに抱きつかれているところを見て嫌悪の表情。その後もマックスとヴァレリーはケンカするシチュエーションばかりだが、お互いに気になってしかたがない。
エステルが殺され、乗船員全員の指紋をとることになる。

船は潜水艦警戒水域を航行して行く。H・Mことサー・ヘンリー・メリヴェールが活躍して犯人を見つける。
(駒月雅子訳 国書刊行会 世界探偵小説全集26 2400円+税)

アーナルデュル・インドリダソン『緑衣の女』(2)

この家に引っ越して来たとき、前の住まいに忘れたものを知り合いが持ってきてくれた。普通に礼をいい冗談を言いあって彼は帰った。それを窓から見ていた夫のグリムルは、お前はまるで売女のように体をくねらせていたとなじり殴った。彼女は吹っ飛ばされ口の中が血だらけになった。なにが起こったかまったくわからない。それからの年月、彼女は何度もこのときのことを思い出した。自分が悪いから彼が怒るのだ、すべて自分が悪いのだと自分を責めるのではなく、家を出ていればどうなっただろう。知り合った頃は真面目な人だったのだ。
彼女の前の夫は船乗りで船が転覆して溺死した。小さな娘ミッケリーナを連れて働いていたが、熱心に求婚するグリムルと結婚した。娘は新しい父親になじまなかった。
息子が二人できたが、子どもたちにも暴力をふるう。たまに人間らしくなって優しいときもある。ミッケリーニが病気になり体が動かなくなった。二人の弟は姉の世話をしていっしょに遊ぶ。ようやく声が出るようになったがグリムルに対しては恐怖しかない。こうして恐怖の生活を母と3人のこどもは続けてきた。

エーレンデュルの娘エヴァ=リンドは胎盤剥離でお腹の子を失い、病院のベッドに意識不明で横たわっている。昏睡状態でも側で話す父の言葉は聞こえているから話すようにと医者に言われてエーレンデュルは話し続ける。自分のこどものときのことを話すのは自分のためにもなった。

シングルデュル=オーリが4年越しの恋人ベルクソラと結婚について言い合いしたとき、CDを探してこの歌をかける。マリアンヌ・フェイスフルが主婦ルーシー・ジョーダンの思いを歌っている。Marianne Faithfull – Ballad of Lucy Jordanいつかパリでオープンカーを飛ばすことを夢見ている主婦ルーシー。「俺たちもパリへ行こう」とシングルデュル=オーリが言った。
(柳沢由実子訳 東京創元社 1800円+税)

アーナルデュル・インドリダソン『緑衣の女』(1)

友だちが「緑衣の女」がよかったと教えてくれたので買って読んだらすごくよくて、読み終ってすぐに前作の「湿地」を買って読んで先日感想を書いた。
「エーレンデュル警部シリーズ」で翻訳があるのがこの2冊である。そしてもう一度「緑衣の女」を読んだ。捜査官エーレンデュルの私生活や性格がよくわかった。部下の二人の警察官のことも、アイスランドの首都レイキャヴィクのこともわかってきた。

新しく開発された住宅地で、こどもの誕生日パーティが開かれている。騒ぎは最高潮に達していて、親が留守で弟の面倒を見ている若者は手持ち無沙汰にソファに座っていた。彼はこの家の赤ん坊が手にしたおもちゃのようなものを見て人間の骨だと気がつく。人間の肋骨の一部だ。そんなはずないと怒る赤ん坊の母親に、自分は医学生だからわかると言った。母親の質問に一人の子どもが自分が拾ったと言い、その場所へとみんなでぞろぞろ行くと、指差されたところからあごの骨と歯が見えた。
その発見の第一報を受けたのは女性警察官のエリンボルグだ。一見年齢不詳、40歳から50歳の間、太ってはいないが美食家で、離婚して4人のこどもを育ててきた。1人は養子ですでに独立しており、3人のこどもと再婚相手と暮らしている。ちょうど食事に人を招いていて帰るところだった。
エリンボルグからのポケベルがシングルデュル=オーリの脱いだズボンのポケットで鳴った。ポケベルはなによりも優先する。彼は恋人のベルクソラの下から這い出した。
エーレンデュルは家庭料理を出すレストランで食事をはじめたところだ。
45分後に3人は骨の発見場所で会う。古い骨なので考古学者が仕切っていて鑑識課の係員たちは手伝ってもいいと言う。
エーレンデュルは新興住宅地を見回した。反対側の湖の方面の草地にスグリの木が4本ある。こんなところに誰が植えたのかとエーレンデュルは不思議に思った。
エーレンデュルは考古学者たちが建てたテントに入って掘ったところに降りてみた。ゆっくりと歩いていると靴先に当ったのは人間の手で指が突き出されている。「生きたまま埋められたのか?」
そのとき、携帯電話に娘のエヴァ=リンドの声で「助けて、お願い」と聞こえ、そこで電話は切れた。
現在の話の中に過去の話がはさまれる。読者はそれで詳細を知ることができるが、警察官たちは調査と頭脳で核心に迫っていく。
(柳沢由実子訳 東京創元社 1800円+税)

アーナルデュル・インドリダソン『湿地』(1)

アイスランドの作家アーナルデュル・インドリダソンの「エーレンデュル警部シリーズ」でいま翻訳があるのは3作目の「湿地」(2000 翻訳2012)と4作目の「緑衣の女」(2001 翻訳2013)の2冊。
さきに「緑衣の女」のを読んだらすごくよかったので、前作の「湿地」を買って読み終った。

アイスランドの作家の本を読んだのははじめてで、アイスランドといえば歌手のビョークしか知らなかった。そして2008年金融危機のニュースでアイスランドの経済だけでなくどんな国かを知った。同性婚が認められているとか、人名には姓がなく電話番号だって名前で登録されているとか。広さは北海道と四国を合わせたくらいで人口は32万人。

エーレンデュル警部は首都レイキャヴィクの犯罪捜査官で50歳、かなり前に離婚している。娘エヴァ=リンドと息子のシンドリ=スナイルがいるが、別れた妻にずっと会わせてもらえなかった。エーレンデュルは妻がつけたこどもたちの名前が嫌いだ。大きくなってから二人は父を探して会いに来たが二人とも問題を抱えていた。特に娘がやっかいだ。いま彼女は妊娠していてクスリから離れようとしている。

レイキャヴィクの北の湿地にあるアパートで老人の死体が発見された。老人ホルベルクに部屋に入れてもらった者が殺して逃げたらしい。死体の上には「あいつはおれ」というメッセージを書いた紙が置いてあった。

エーレンデュルと同僚のエーリンボルグとシングルデュル=オーリの3人が捜査にあたる。シングルデュル=オーリはアメリカの大学で犯罪学を学んだ秀才で、背が高くエレガントでいつもきちんとした服装をしている。エーレンデュルと正反対だ。シングルデュル=オーリがプロファイルを作るべきと言うと「なんだ、それは、プロフィール(横顔)のことか」というぐあいだ。女性警察官のエーリンボルグの個人生活は出てこないが、エーレンデュルの捜査法に対して批判的になるときがある。

ホルベルクには家族がいない。部屋に残されたものを調べると引き出しの下から古い写真が出てきた。古い墓石の写真でウイドルという女の子の名前、亡くなったときは4歳。そこからエーレンデュルの引くことのない捜査がはじまる。
(柳沢由実子訳 東京創元社 1700円+税)

アーナルデュル・インドリダソン『湿地』(2)

墓石の少女ウイドルとその母コルブルンについて、エーレンデュルはかつての先輩で定年退職した警部マリオンから話を聞く。コルブルンはホルベルクに強姦されたことを警察に訴えたが当時の担当者は受け付けず、かえって訴えた女性に恥をかかせたという。
エーレンデュルはコルブルンの姉エーリンを探し出して話を聞く。コルブルンは強姦された結果妊娠したが、生まれたウイドルを可愛がって育てた。だがウイドルは3歳で脳腫瘍で亡くなってしまい、コルブルンは自殺した。

1963年、3人の女性がバーで楽しく飲んでしゃべり踊った。一見インテリっぽく見えるホルベルクは一人の女性を家まで送り家に入り込み強姦し、もう一人の女性は家まで後をつけて入り込み強姦した。
一人はコルブルン。もう一人の女性を捜すのにエーリンボルグとシングルデュル=オーリは苦労するが、ついに見つける。結婚して二人のこどもがいたカートリンは強姦されたことを誰にも言わずこどもを産み、夫の子として育ててきた。末っ子として可愛がって育てた三男のエイナルだ。

その夜飲んでいた三人組の男のうち、ホルベルクが殺され、もう一人は刑務所にいる。あとの一人は25年前に姿を消したままだ。

墓を堀り、遺体の臓器を調べ、上司の非難をものともせずに湿地に立つアパートの床下を掘り死体を見つける。
そのかたわら、別れた妻の依頼で結婚式場から消えた花嫁の行方も調べる。これも原因は家庭内DVにあった。そして娘のエヴァ=リンドに心配のあまりどなりつけたりもする。
(柳沢由実子訳 東京創元社 1700円+税)

アイスランドの作家 アーナルデュル・インドリダソン

アイスランドの作家アーナルデュル・インドリダソン「緑衣の女」(2001 日本語訳は2013)を読み終って、もう一冊訳されていた前の作品「湿地」(2000 日本語訳は2012)を慌てて買って読んでいる。ものすごくおもしろいけど、その内容はというと、強姦(湿地)と家庭内暴力(緑衣の女)による悲劇から生まれた殺人なのである。
「湿地」は女性が強姦され警察に行っても相手にされなかったが、その強姦による結果が犯罪のもととなった。「緑衣の女」はすさまじい家庭内暴力が主題である。

アイスランドの首都レイキャヴィクの犯罪捜査官エーレンデュルが主人公のシリーズで、彼は同僚とともに事件に取り組む。
不幸な結婚をして離婚し、娘と息子がいるが長いこと会えなかった。娘がやってきたら妊娠しておりなんとかクスリをやめたいと言う。
「湿地」を読んでいると「緑衣の女」でわからなかったことが、こういうことがあって、娘はああなったのかと合点。
ああ、早く読んでしまおう。

アーナルデュル・インドリダソンとエーレンデュル捜査官はヘニング・マンケルのクルト・ヴァランダー刑事のシリーズについで好きな作家とシリーズになった。

イアン・ランキン『監視対象』(2)

マルコム・フォックスはロジアン・ボーダーズ州警察職業倫理班(PSU)に所属する警官である。別れた妻に暴力をふるってから禁酒するように彼女に言われ、それ以来一滴も飲んでいない。エジンバラの一軒家で一人暮らしをしている。介護施設にいる父と恋人と暮らしている妹がいる。
妹の恋人のヴィンスが撲殺された。妹はその前に怪我をしてギブスをはめていて階段から落ちたのが原因と言っている。だれもそれを信じていなくてヴィンスのDVのせいだと思っている。そしてフォックスが妹の敵討ちをしてヴィンスを殺したと疑われる。

フォックスはヒートン刑事の汚職を調べて立件までいったとき、新しく児童搾取およびオンライン保護部のアニー・イングリスから捜査に協力するよう依頼される。児童ポルノのオンライン取引をしていると疑いがあるジェイミー・ブレックの内密調査である。ところがブレックはヴィンスの事件の担当していてフォックスを調べる立場なのである。
最初はお互いに調べる立場、ヴィンスの件ではブレックが押す立場だが、フォックスは「子供を見るのが趣味とはな、ブレック巡査部長、私が吊るし上げてやる」と思うのであった。
二人は捜査中にヒートンを擁護する者たちに後をつけられ、証処をでっち上げられ、二人もろとも停職になる。

フォックスとブレックはだんだんと相手を信頼するようになる。お互いの得意なところを活かし、腐敗した警官たちにせまる。まっすぐなフォックスと柔軟なブレック。
フォックスは「何者かがきみを小児愛者に仕立て上げようとしたんだぞ」と息まくが、ブレックは冷静になぜこんなことになったか解明することだと答える。
後半は二人がいっしょに捜査にあたる場面が多くて、二人がユーモアを交えて理解しあっていくところが楽しい。停職中なのだが給料は出るとあってホッとした(笑)。
(熊谷千寿訳 新潮文庫 1100円+税)

イアン・ランキン『監視対象』(1)

イアン・ランキンの新シリーズと知って飛びつくように買った。わたしはリーバス警部シリーズ13冊を出るたびに読んできた大ファン。DVD BOXをお借りしてイギリスのテレビドラマ「リーバス警部シリーズ」も4作見ている。〈「黒と青」 「ゆれる愛」(邦題「首吊りの庭」)「死せる魂」「死の理由」〉リーバス警部も好きだが彼が働くスコットランド、エジンバラの街や風景が好き。

先月の11日に買ったのだが、キンドルで漱石を読んだりしたものだからすぐに読み出せなかった。しかもさっさと読めない本で、いま読み終ったところだがまた最初からおさらいしないといけない。文字は少し大きいけど厚い文庫本だ。

主人公のマイケル・フォックス警部補は監察室に勤務する警官である。警官の不正や不品行を調査するのが仕事である。彼は小学生のときからウォッカを飲み酒に親しんできたが、いまは絶対の禁酒を守っている。バーではたいていトマトジュースを飲んでいる。離婚していて一人暮らし。ズボンのベルトはしなくてズボン吊りを愛用している。車はボルボ。同僚のスポーツカーに乗るとどうも足元がしっくりしない。

フォックスは老父を介護施設に入れて少なからぬ費用を負担している。妹は好きな男と同棲しているがその男からDVを受けているらしい。

今日はここまで。続きをまた書きます。
(熊谷千寿訳 新潮文庫 1100円+税)

杉江松恋『海外ミステリー マストリード100』

24日の日記「本との出会いとVFC例会」で書いたけど、家から本を持って出るのを忘れるという珍しいことがあった。それで堂島地下街のコンビニで週刊誌か女性誌でも買おうと思ったんだけど、ふと横にあった文庫本の細い棚を見たらこの本があった。
杉江松恋「海外ミステリーマストリード」(日経文芸文庫)。この本が出ているのも知らなかったが、著者のお名前は雑誌やネットでよく見かける。シャーロック・ホームズでギネスを手に読むのにちょうどいいと思った。

それでお仕事で遅くなるIさんを待ちながら1/3くらい読んだ。そしてふと気がつき、目次の書名の上に□があったので、読んだ本に*を入れていった。数えたら100冊のうちの50冊読んでいた。うーん、少ないような、いや多いような気もするが、ミステリ読みとしては少ないかな。
サラ・パレツキーとドロシー・L・セイヤーズがあるし、「レベッカ」があるのがいいな。レジナルド・ヒルよしよし、フェルディナント・フォン・シーラッハがちゃんとある・・・。
途中でミステリーから離れた時期が長いけど、こどものときから父親の探偵小説と雑誌を読んでいるから古いのはよく読んでいる。ポー「黒猫」、ルルー「黄色い部屋の秘密」、クロフツ「樽」、ミルン「赤色館の秘密」、ベントリー「トレント最後の事件」、そしてセイヤーズの「大学祭の夜」なんかを思い出す。親兄姉が読んだ後のよれよれになった雑誌「宝石」でウィリアム・アイリッシュやチャンドラーやクレイグ・ライスを読んだ。そんなことも思い出してしまった。

ここからが本の紹介。
1冊の本の紹介が3ページに収めてある。日本語タイトルと作家名(生年-没年)があって原書名と出版年がある。そして〈あらすじ〉〈鑑賞術〉〈さらに興味を持った読者へ〉〈訳者、その他の情報〉となっている。
読んでない本は〈あらすじ〉〈鑑賞術〉でかなり内容がわかり、これから買って読もうと思った本あり。
ありがたいのは〈さらに興味を持った読者へ〉で、100冊に入れなかった作家の紹介があること。特にわたしがミステリーにもどってきたときに、ポケミスをがばっと買って読んだネオハードボイルドがたくさん取り上げてあるのがうれしい。これが100冊のうちに入っていたらチェックの数が増えていたはず(笑)。

不満がいっこ。〈さらに興味を持った読者へ〉の章に警察小説がかなり入っていて好きな警察官たちがいるのだが、イアン・ランキンのリーバス警部の名前が出てこない。見落としかもしれないけど現時点では見あたらないので。いまちょうどランキンの「監視対象ー警部補マルコム・フォックスー」を読んでいるところです。
(日経文芸文庫 650円+税)

カーリン・イェルハルドセン『パパ、ママ、あたし』

スウェーデンのストックホルム、ハンマルビー署のコニー・ショーベリ警視と部下たちが、すさまじい犯罪に正面から立ち向かうシリーズ。先日読んだ「お菓子の家」が第1作で今回の「パパ、ママ、あたし」は第2作。2冊ともタイトルは甘いのに内容は強烈な犯罪と真っ正面から立ち向かう警官たちの物語である。次作でショーベリシリーズの第一期三部作が終る。そのあと部下のメンバーが変わって3作あるそうだから楽しみ。

若い母親は泣き叫ぶ病気のわが子を抱いてなすすべなく立っていた。夫は日本での技術セミナーに出ていて、あと4日と何時間かで帰ってくる。彼女は泣き止まぬこどもを抱いてドアに鍵をかけ外に出た。

イェニファーとエリーセの姉妹のアパートはたいていの日が午前中からパーティで、母親の友人たちがたくさん集まっている。コーヒーとオープンサンド、そして酒とタバコをそれぞれが持ってくる。
未成年の姉妹は母親にかまってもらえなくて、冷蔵庫から黙って酒を取り出して飲んでいる。イェニファーはボーイフレンドと約束があると言って出かけた。

父親は息子を出て行かすまいと暴力をふるう。ヨッケは学習能力に欠けていて24歳になっているのに就職できず、母の介護で父に小遣いをもらい、新聞配達で補っている。倒れて意識不明だったが、目が覚めると傷だらけの顔でよろよろと起き上がり父の財布からお金を盗んで外に出た。今夜はイェニファーとフィンランドクルーズの船に乗る約束がある。
船は出港し、イェニファーはバーで男性に話しかけられたり、酒をおごってもらったりしながら船は進み夜は更けていく。そしてイェニファーの絞殺遺体が見つかった。

ハンナは3歳と数カ月の子どもだ。明るくなって目が覚めると一人ぼっちだった。母がいないので泣くが返事がない。冷蔵庫と冷凍庫から食べられるものを出して食べる。あちこち電話の数字を押しているうちに女の人が出て、バルブロと名のり話し相手をしてくれ、窓からなにが見えるか聞きだす。ハンナは一人で夜になると泣き寝入りし、朝は空腹で目が覚め、そこにあるものを食べる。

バルブロは警察に連絡するが電話番号を確定するには1週間かかると言われる。彼女は意を決して歩いてハンナの住宅を探すことにする。ハンナが窓から見えると言った景色を求めて。しかしストックホルムは広い。

ショーベリが信頼している部下のペドラは深夜のジョギング中に、公園で倒れている女性とベビーカーの赤ん坊を見つける。赤ん坊は病院で治療を受けるが母親は死亡していた。
同じ夜に起こった二件の殺人事件の関係者が交わる。
(木村由利子訳 創元推理文庫 1200円+税)