スーザン・ヒル『黒衣の女 ある亡霊の物語』(新装版)

先週の「週刊現代」のブックレビュー「特選ミステリー」で関口苑生さんが紹介していたスーザン・ヒルの「丘」が気になった。一冊も読んだことがない作家だし上下あるのが外れたらいややなとアマゾンを開いて考えていた。そしたら1年ちょっと前に出た本書の中古本が目につき、なんと4円+送料250円で手に入った。

解説に著者はヘンリー・ジェイムズ「ねじの回転」とディケンズの「クリスマス・キャロル」を再読しながら書いたとあったが、わたしも「ねじの回転」を思い出しながら読んでいた。その上にエミリー・ブロンテの「嵐が丘」も思い出していた。

昨日の日記に書いたように、シャーロック・ホームズでギネスと料理を前に読み出したのだが、たちまち我を忘れて読みふけった。そして目の前にKさんが座ったときはまだあっちにいて、「こんにちは」でこっちの世界へもどってきたのだった。

弁護士のアーサー・キップスは中年を過ぎてから4人のこどもを持つエズメと結婚して、一目見て気に入って手に入れた〈修道士の館〉と呼ばれる屋敷で幸せに暮らしている。クリスマスイブの夜に子どもたちが集まって賑やかに過ごしているうちに、恐い話をしようと誰ともなく言い出す。ひととおりすんだあと、今度はアーサーだと指名され、だれでも恐い話のひとつくらい知っているはずと言われる。「がっかりさせてすまないがそんな話は知らない」とアーサーは外に出てしまう。
庭に出たアーサーはハムレットの中の詩を思い出し、明日は家族の喜びの日を楽しもう。それがすんだら関係者はみんな死んでしまって自分しかこの恐怖を覚えていない恐い話を書き残そうと決心する。

そして物語がはじまる。
ロンドンの若い弁護士アーサーは雇い主のベントレー氏の言いつけで〈うなぎ沼の館〉へ行くことになる。顧客のドラブロウ夫人が亡くなったので葬儀に参列し遺品の整理をするという仕事だ。
キングス・クロス駅から二度乗り換えて小さな駅で降りると、そこで引き潮になるのを待って土手道を行くと〈うなぎ沼の館〉がある。霧深いロンドンを列車が出るときは気分がよかったがだんだん曇ってくる。
列車にはアーサーの他には一人の紳士が乗っているだけで二人は同じ駅で降りる。
ホテルに泊まるがなんだか怪しい雰囲気である。
子犬のスパイダーを貸してもらっていっしょに行動するところを読むのが救い。
迷っていたが「丘」を買おう。
(河野一郎訳 ハヤカワ文庫 680円+税)

スウェーデンミステリとシナモンロール

おととしの11月の関西翻訳ミステリ読書会の課題本はヘニング・マンケル「殺人者の顔」だった。始まる前に主催者のKさんがシナモンロールを1/4ずつ配ってくれた。この本の中で主人公のヴァランダー刑事がシナモンロールを食べるところがあったそうだ。わたしはそれを全然気がついておらず、その日がシナモンロールという言葉の初聞きで初食べだった。運よく1個残ったのをもらって帰って食べた。うまいやん。スウェーデンで発明されたパンなんだと検索して知った。それからはヴァランダー刑事が食べてたパンということでパン屋を探しまくり。大丸にあるパン屋のがうまくて2店で代わりばんこに買っている。

いま医師の山田真さんが薦めてくれたスウェーデンのミステリ、アンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレム / ヘレンハルメ美穂訳「三秒間の死角」(角川文庫)をもうちょっとで読み終る。そういえばヘニング・マンケルも彼が教えてくれたんだった。
この本では警察官がシナモンロールを食べるところが多い。小さい食堂でご飯を食べて、帰りにシナモンロール4個を袋に入れてもらって会議に参加なんてところもある。

短編小説と長編小説

おとといまでエドワード・D・ホック「サイモン・アークの事件簿 V 」を読んでいた。いま気がついたけど、ミステリーだとわたしは長編小説を読んでるときはストーリーに引っ張られてすごくはや読みだ。反対に短編小説はゆっくり読む。短編だと一編ずつ登場人物名が変わるし場所も犯罪のやりかたも変わる。それをアタマに入れるのに時間がかかり、じっくりと味わうことになる。つまらん小説ではそうはいかないけど、ホックのような老練な作家だとほんまに味わって読む。幸福感がわいてくる。読み終ってももう一度読んで味わいなおす。

そうやって読み終え感想を書き終えて、先日から待っているスウェーデンのミステリ、アンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレム / ヘレンハルメ美穂訳「三秒間の死角」(角川文庫)を昨日から読み出した。おもしろくて手放せないところをガマンして会報作りのかたわら読み進んでいる。それでふっと思った。この文庫は文字が大きいからかもしれないけど早く進んでく。それではじめに書いたようにストーリーに引っ張られたはや読みなのだと気がついた。
そして、これももう一度読むことになる。なぜかというと早読みしすぎてストーリーがわからなかったり、人物がこんがらがったりするから(笑)。
さて、これを早くアップしてコピーとりをしながら本を読もう。

エドワード・D・ホック『サイモン・アークの事件簿 V 』続き

ひとつだけ他と違う作品があった。
二つ目の「呪われた裸女」。なぜかサイモン・アークと〈わたし〉はニューヨークで私立探偵事務所を開いている。ドアを開くと〈わたし〉がいて奥の部屋にサイモンがいる。
開業から半年ほど経つと噂が広がり仕事がだんだんくるようになって、サイモンの部屋には骨董品の類いの置物が増えた。

ごく普通の私立探偵小説の発端のように依頼人ファミッジが登場して、仕事を頼みにコネティカット州から来たという。「どういうご用件でしょうか」と聞くと「厳密には裸になりたがる姪の件だ」という返事。おもしろそうだと奥の部屋のサイモンに取り次ぐ。
ファミッジの依頼は、裸になりたがる姪の男友だちジムが殺された。ファミッジは姪が警察に殺人者として逮捕されるのを恐れている。殺人事件の捜査は警察がするだろう。君たちに頼みたいのは姪にずっと服を着させておくことだ。そして姪が馬鹿なことをするのを阻止することだ。

ふたりはコネティカットまで行くことにする。電車でコネティカットくんだりまで行くのだからその姪は美人でなくてはならないと〈わたし〉は言う。駅に着くと裸になりたがる娘のジェーンが車で迎えにきていた。美しい娘である。
けったいでおもしろい短編小説だった。
(木村二郎訳 創元推理文庫 1100円+税)

ピーター・トレメイン『翳深き谷 上下』(3)

グレン・ゲイシュに着いた二人は来客棟へ案内される。他に客人がいるようなので係の女性クリーインに聞くと北の方の身分の高い方で、お二人と同じ神様を信じているとの答え。二人が食事を終えたときに客人ソリン修道士がもどってきた。ローマでしか見たことがない華美な法衣を着ている。噛み合ない会話をしているとき族長ラズラに面会にくるように迎えがくる。ここでラズラの妹オーラと夫で継承予定者のコーラ、ラズラの裁判官でもあるドルイドのムルガルを紹介される。
夜の宴の前に外で二人が話していると金髪の兵士ラドガルがやってきて、キリスト教徒であることを告げ、用事があれば手伝うと心強い申し出があった。

角笛による合図で宴会がはじまる。ソリン修道士と書記のディアナッハ修道士の席が隣である。エイダルフにとって気分のよくない会話になる。
音楽が始まると大胆にムルガルはキャシェル批判の歌をうたう。フィデルマは立ち上がってキャシェルの新しい歌を披露し、それはムルガルへの批判となり人々に感銘を与える。フィデルマは歌もうまいのである。

エイダルフは宴会のワインを飲み過ぎて気分が悪くそれがずっと続く。眠くて冴えないエイダルフであるが、フィデルマの危機に際してきりっと立ち上がる。
ソリン修道士が殺されているのを見つけたフィデルマが犯人とされてしまうのだ。法によりこれから9日間を隔離房で過ごしてもらうとムルガルは言う。エイダルフは法律書を読み理論でフィデルマの拘留を解く。そして二人で推理し行動する。驚くべき背景と矛盾が浮かび上がる。

ゆったりとした上巻から下巻はフィデルマの逮捕、そしてエイダルフの弁論と活躍でがぜんおもしろくなる。続く第二第三の殺人、恋あり活劇あり。そしてフィデルマの推理によりすべてが明らかになる。
(甲斐萬里江訳 創元推理文庫 上下とも 980円+税)

ピーター・トレメイン『翳深き谷 上下』(2)

フィデルマはモアン国王である兄コルグーに呼ばれて王の私室に行った。フィデルマによく似た長身、赤毛、色がさっと変わる緑色の瞳だけでなく身のこなしもよく似ている。兄は修道院を出てきた妹にここに住むようにすすめる。そしてサクソン人のエイダルフ修道士との結婚を口にする。フィデルマとエイダルフの仲を知っていての言葉だが、フィデルマはうなづかない。
和やかな話し合いのあとで王は肝心な用件を口にする。フィデルマに属領のグレン・ゲイシュに行ってほしい。その領地ではまだ古の神々を信奉している領民が多い。今回族長のラズラは当地でのキリスト教の教会設立などについて話し合ってもよいと言ってきた。そのための折衝の機会を持ちたいとのことで、王はフィデルマに自分の代理として行くように頼む。
戦士団を率いて行けという王に話し合いに兵隊を連れて行けないと断ると、せめて〈お前のサクソン人〉を連れて行けと兄王は言う。

ということで、フィデルマとエイダルフは険しい山道をたどっている。
グレン・ゲイシュに近づくと誰かに見張られている感じだ。そこへ大鴉の大群が旋回の高度を下げながら空に円を描いているのが見えた。その原因を見たいとフィデルマが言い、彼らは谷間を下っていった。そこには30体くらいの全裸の若者の死体が太陽回りに並べられていた。フィデルマは1体ずつ調べていく。エイダルフはどこかで殺されてからここに運ばれてきたと推定した。エイダルフの嫌悪の表情を見てフィデルマは「大鴉も、主の大いなる創造物ですよ。この“掃除屋”たちも、創造主によって定められた役割を担っている者たちではありませんか?」エイダルフは彼らは悪魔の創造物だと思うと反論するが、フィデルマに論破されてしまう。

途中やってきた騎馬団に無礼な扱いをされるが、「この国の王は、私がここで歓迎されなかったとお知りになれば、ご立腹になりましょう」と冷静に返して、いよいよ二人はグレン・ゲイシュに到着する。
(甲斐萬里江訳 創元推理文庫 上下とも 980円+税)

ピーター・トレメイン『翳深き谷 上下』(1)

修道女フィデルマ シリーズの長編6冊目、当ブログには「蜘蛛の巣」、「幼き子らよ、我がもとへ」、「死をもちて赦されん」、「サクソンの司教冠」の4冊の感想を書いている。
なぜか書いていない「蛇、もっとも禍し」はここにあるので、もう一度読んでから書くことにする。
短編集は「修道女フィデルマの叡智」、「修道女フィデルマの洞察」、「修道女フィデルマの探求」と3冊出ているが感想を書いてない。どこかにあるだろうし読んでいると思うので、いづれ調べて書くつもり。
アーカイブにある「アイルランド幻想」、「自分の殺害を予言した占星術師」はシリーズではないが、トレメインの著書である。

久しぶりのフィデルマシリーズ、出だしは上々だったが途中でしんどくなった。でも読み進むと下巻がすっごくおもしろくなった。フィデルマが殺人容疑者とされて拘留され、エイダルフ修道士が弁護にあたる。
下巻を二度読んで7世紀アイルランドの世界にひたった。上巻ももう一度読んで感想を書くことにして今日はおしまい。

ドロシー・L・セイヤーズ『学寮祭の夜』をまた読んだ

今週は会報仕事以外はずっと「学寮祭の夜」を読んでいた。今回は最初から最後まできっちり読んだ。この厚い文庫本になってからは何回目かな。ふだんは好きなところだけの拾い読みで全体を通しては読んでない。
昔から持っていた抄訳の「大学祭の夜」(黒沼健訳)こそは何十回何百回と言うほど読んでいる。引っ越しを何度もしているし、門外不出にするまでは友だちに貸していたのに、奇跡的にここにある。亡くなった姉にもよく寄越せと言われたっけ。妹が「なんで姉ちゃんが金盞花が好きかわかったわ」と文庫が出たときに読んで言った。関東にいるので読みたいと言っても貸してやらなかったから(笑)。こどものときから、わたしは金盞花が好きと言って、母親に「仏さんの花のどこがええんや」と言われていたのだ。妹はそれを小耳にはさんでいたみたいね。VFCサイト掲示板(いまはありません)で話題にしたときは何人かにコピーしてあげた。まただいぶ経ってから浅羽莢子さんの訳が創元推理文庫で出た。

そんなもんで分厚い全訳の文庫本を読みながらも、ハリエットとピーターの会話は古い本のその部分を思い出して口ずさむように読んでいる。ものすっごく憧れていた。貴族で金持ちで秀才でスポーツマンで、背がちょっと低めだけど。欲しいものはなんでも手に入っていたのに、ハリエットだけがノーと言った。
この物語を書いたドロシー・L・セイヤーズは、お金に困っていたから小説の主人公はお金持ちにしたとなにかに書いてあった。
ほんまに憧れのピーター卿なんだけど、ハリエットと知り合ってからは女性に対する見方が変わった。「学寮祭の夜」はピーターが変わっていき、ハリエットも意地を張るのをやめて、お互いに愛し合っているのを確認するとても素敵な物語なのだ。
(浅羽莢子訳 創元推理文庫 1320円+税)

エドマンド・クリスピン『列車に御用心』

関西翻訳ミステリ読書会の忘年会のとき見せてもらった「このミステリーはすごい」のなにかの部門の何位だかにあったタイトルが目に入った。エドマンド・クリスピンは大好きな作家である。オクスフォード大学英文学教授のジャーヴァス・フェンが活躍するシリーズで、特に「白鳥の歌」「愛は血を流して横たわる」が大好き。
今年の3月に出てたのを知らなかった。すぐにでも読みたい。
忘年会が前半後半あったので、前半の方々が帰られるときにいっしょに出てジュンク堂へ走った。本はすぐに見つかったのでまた忘年会にもどりみんなに見せてジマンした。

帰り道から読み出してすぐに読み終ったが、もひとつ要領を得なくて再読し、本格ミステリの短編は難しいと実感した。フェン教授が活躍する14作品と非シリーズの2作品が入っていて、ぼーっと読んでいるときはおもしろいのだが、再読してもつかめないところがある。
その結果、本格ものの短編小説はあまり好きでないとわかった。

「白鳥の歌」なんか恋愛小説として読んでいた。だから気持ちよく読めて何度でも繰り返し読める。
そう考えるとドロシー・L・セイヤーズのピーター卿とハリエットだってミステリーなんだけど恋愛小説だ。セイヤーズの暗号ものだってあんまり好きでないもんね。

というわけだが、推理の合間にフェン教授らしいユーモアと達観が気分よい。それとめずらしくも怒りの場面もあって(二階でのフェン教授の罵倒の声を階下にいた人が聞いた)、法律では裁けないものに対して正義感がありまっすぐな人なんだとわかった。
オクスフォードの自宅では、クリスマスに近所の孤児院の子どもたちを招いてパーティをすることも知った。
(富田ひろみ訳 論創社 2000円+税)

アーサー・コナン・ドイル『サセックスの吸血鬼』を青空文庫で

昨日、青空文庫で「源氏物語」がもうちょっと残っているのを読もうと思いながら、あれこれ見ていたらアーサー・コナン・ドイル(シャーロック・ホームズ)にぶつかった。たくさんある中で気に入ったタイトルが大久保ゆう訳「サセックスの吸血鬼」。
考えたら最近(といってもだいぶ前だが)読んだホームズは、ローリー・R・キング「シャーロック・ホームズの愛弟子」のシリーズなのだ。そのシリーズの「バスカヴィルの謎」を読んだときに、本家の「バスカヴィルの犬」を何十年ぶりに再読したんだった。

シャーロック・ホームズとワトソンのところに以前に関わった事件で知り合った人から依頼状が届いた。
紅茶卸経営者のファーガソンからの吸血鬼に関するもので、知人はホームズを訪ねて依頼するように薦めたという。
サセックス州はそう遠くない。古い屋敷が多い所だ。ファーガソンはワトソンの若いときのラグビー仲間だった。「貴君の案件喜んで調査する所存」と電報で承諾する。
翌朝やってきたファーガソンは体格が崩れ元一流選手の無様な姿をさらしていた。
話を聞いてホームズとワトソンは明日にも屋敷を訪ねると決めた。

翌日二人はサセックスに行き荷物を宿に預けてファーガソンの古い地主屋敷を訪ねた。
ファーガソンは最初の妻に死に別れてペルー人の若い女性と再婚し子どもが生まれている。前妻の息子が一人いて父を慕っている。

事件というのは愛する妻がわが子の生き血を吸っていたのを目撃されたというもの。その後は乳児には乳母が離れずについている。妻には昔からいる召使いがつききりでついている。

シャーロック・ホームズは論理的に事件を解決する。
モノクロの挿絵もよくて楽しめた。
シャーロック・ホームズの物語がこんなにおもしろいとは!!