こういうときの読書、レジナルド・ヒル『完璧な絵画』

昨日は関電前抗議行動で一人の男性が警察に不当逮捕された。今日は天満署前で抗議集会が行われた。わたしは膝が悪いから何時間も立っているのがしんどいし、なにかあれば足手まといだから行かなかった。だが、昨日も今日もIWJによりユーストで報道されているから家のパソコンで見られる。その上にツイッター上でいろんな目撃者の体験談やそれをふまえた意見が読める。家で気をもんでいると気持ちがざわざわする。
今日はツイッターを読むほかはミステリを読んでいた。なんや、いつもと変わらんやん(笑)。

ずっと精神安定用に読んでいた本は少女小説だったが、最近はレジナルド・ヒルの本が多い。どの本でも効くのだが特に「完璧な絵画」がいい。ヨークシャーの田舎エンスクームに派遣されている巡査が行方不明になる。いろいろあってウィールド部長刑事、パスコー主任警部、それにダルジール警視までが出向く。
お伽噺に出てくるようなエンスクームの村、そしてそれまでばらばらだった男女が最後にはお伽噺のように結びつく。うっとおしいやつと思っていた相手のことがだんだんわかって恋になる。
孤独に暮らしているゲイのウィールドと村で古書の通信販売をしているディッグウィードとが最後には誤解が解けていっしょに住もうと決めるところがすごく好き。ウィールドに幸せになってほしいと願う乙女心(笑)。

あちこちめくって最後のところを読んで気分がよくなって家事をやって買い物に行った。それからは新しい本、ヘニング・マンケル「ファイアーウォール」を読み出した。これが最初っからおもしろくってたまらない。クルト・ヴァランダー刑事は健在。
(レジナルド・ヒル「完璧な絵画」秋津知子訳 ハヤカワミステリ 1400円+税 / ヘニング・マンケル「ファイアーウォール 上下」 柳沢由美子訳 創元推理文庫 各1200円+税)

サラ・パレツキー『ナイト・ストーム』(3)

放っておいてほしいとシャイム・サランターに言われたヴィクだが、彼女は事件を追いかけ、いろんな人から話を引き出していく。サランターは孫娘が行方不明になり深夜にヴィクの住まいを訪ねる。
読んでいてサランターってジョージ・ソロスに似たとこがあると思った。ソロスはハンガリー系のユダヤ人でアメリカに渡って財を成し、慈善活動や政治活動に大金を使っている。サランターも東欧出身のユダヤ人であり、財団をつくって移民を助ける事業をしたり文化的な活動をしている。

サランターの過酷な少年時代がヴィクの部屋で語られる。
リトアニアから東へ向かった父と兄はパルチザンとともに戦ったが、スターリンの強制収容所で最後を迎えたのが、のちに何年もかけて調べてわかった。残った母は姉とサランターの命を助けようと、警察の補助組織の男(リトアニア系ユダヤ人の絶滅作戦に協力したリトアニア人)の慰みものになって耐えたが、結局、母と姉は殺された。
13歳のサランターは過酷な日々を生き延びて脱走し路上生活ののちにスウェーデン行きの貨物船に乗せてもらい、そこからシカゴにやってきた。

おそろしく過酷な捜査を続けるヴィクの物語にひととき温かい光がふりそそぐ。恋人のコントラバス奏者ジェイクのひとこと「ヴィクトリア・イフィゲネィア。ぼくの生涯のなかで、きみのように美しい人を見たのは初めてだ——たぶん」二人は午前2時の閉店時間まで踊って食べてベッドに入り翌朝ジェイクは演奏旅行へ。
ヴィクはすぐに仕事へ。

それにしても体を動かす調査活動とコンピュータを使っての調査と、私立探偵も大変な時代になったものだ。少女たちだってたいしたもの。家族の過去をネットで探ろうとしたり。
ヴィク・ストーリーをずっと読んできて思うんだけど、最初は電話とファックスだったがパソコンを使いこなすようになる。最初はさまざまな機関の知り合いに電話で秘密情報を教えてもらったりしていたが、いまや検索で間に合うことが多い。最初はウィンドウズだったけど、かなり早くからMacになった。40歳のときはヴィクを慕っている若者ケンがパソコン関連を手伝ってた(バースデイ・ブルー)。
いつのことだったか、ヴィクがパームを使っていた。わたしもパームが欲しいと思ったことがあったと思い出す。(パームって名前がいま出てきてびっくり)

サラ・パレツキーさんとお会いしてから2年経つ。奈良駅内の喫茶店でiPadを出して写真を見せてくださった。あれは最初のiPadだった。わたしが買ったのはiPad2だ。
(山本やよい訳 ハヤカワ文庫 1160円+税)

サラ・パレツキー『ナイト・ストーム』(2)

物語は従姉妹のペトラからの深夜の電話からはじまる。
ペトラはロティの紹介で移民と難民を援助するマリーナ財団で働くようになり読書クラブを担当している。ヴィク(V・I・ウォーショースキー)は赤いドレスで長い知り合いのジャーナリストのマリとパーティに行っていたが、そこから出る口実ができたのは大歓迎だった。少女たちはナイトクラブにでも行ったのかと思い探しに出ると、墓場から声が聞こえた。少女たちは輪になって月の光を受け詠唱をはじめた。ヴィクが近づくと少女たちはパニックを起こす。
シカゴ市は17歳以下の夜間外出を禁止している。それが12歳ともなれば警察の注意をひくし、移民の子であればなおさら困ったことになる。生け贄役をしていたタイラーが輪から外れて石段の方へ行ったのだが背筋も凍りそうな叫び声をあげた。彫像のように見えていたのは人間の男性だった。胸には金属の棒のようなものが刺さっていた。
警察に知らせる前に少女たちを立ち去らせようとヴィクは全員を導いて歩き出した。
少女たちの中にはシカゴ有数の大金持ちの孫と上院議員候補の娘が入っている。不法入国者の娘も入っている。

最初から吸血鬼伝説の世界に読者を引っ張り込む。そして次は殺人、その次は殺人か自殺か不明。
死体で発見されたのは私立探偵のヴフニクだった。なにを探っていたのか、だれに雇われていたのか、ヴィクは翌日から調べはじめる。
そこへ旧友の弁護士レイドンから電話で呼び出される。ヴィクが行くとレイドンはチャペルの石段近くで倒れていた。救急車、警察、レイドンの冷酷な兄との話をすませ、優しい主席司祭と話す。そしていま会いたいという強引なサランターに会いに血の付いたドレスのまま次の面会へ。
シカゴ有数の大金持ちであるシャイム・サランターから指定されたクラブにつくと、身繕いをするように一室に案内される。髪を整えバンドエイドを貼ったりしてようやく人前に出られるようになり面会。なんとサランターの頼み(命令)は「この件は放っておいてもらいたい」だった。
【「放っておく?」わたしの声は半オクターブ高くなった。「ヴフニク殺しの結果として、今日、あなたの財団が襲撃されたというのに?」サランターは首をふった。「財団が襲撃されたのは、移民を排斥しようとするこの国のヒステリックな感情のせいだ。男が殺されたせいではない」】
(山本やよい訳 ハヤカワ文庫 1160円+税)

サラ・パレツキー『ナイト・ストーム』(1)

一回目を読み終わり二回目を読んでいるところだ。いつものことだがストーリーがおもしろいのでどんどん読んでしまう。結局一度目は全体をつかめてないし細部も楽しめてない。大団円でほっとして、さあもう一度とアタマにもどる(笑)。ヴィクは今回も体を張って頑張るが、もうちょっとで危ういところだった。

二度目もかなり読んだので明日から感想を書こうと昨夜思ったのだが、深夜になってからなんか風邪を引きそうな気分になった。寝ると暖まるまでに時間がかかり明け方までごろごろしてしまった。めっそないことだ。お風呂を省略したのがまずかったかな。

それで今日はいつもどおりにしていたけれど、日常生活はそれでいいが気分が上がらないので、感想は後日に延期する。

今回の舞台の東欧については映画と小説の知識がわずかにある程度。
先日見た映画、マイケル・ウィンターボトム監督「ウェルカム・トゥ・サラエボ」、サリー・ポッター監督「耳に残るは君の歌声」も時代は違うが東欧のこどもの話だった。「ナイト・ストーム」に出てくる東欧出身の大金持ちのこども時代も悲惨なものだったのだ。
(山本やよい訳 ハヤカワ文庫 1160円+税)

サラ・コードウェル『かくてアドニスは殺された』(2)

この作品はゲイミステリとして紹介されたものだった。ジュリアが一目惚れした美青年には男性の恋人がいた。その二人の恋については書き手がロンドンにいる安楽椅子探偵だから、激しい描写はないが、生きていること、おこなったことの哀しさがしみじみと伝わってくる。

それとユーモア。ホテルの客室係の女性たち4人が本を読んでいて、昼休みの時間をしっかり起きていたと証言する。彼女たちは非常に興味深い本を順番に朗読していた。恋愛小説ではなくエンゲルスの「家族、私有財産および国家の起源」。二人が大学院生ということだ。女性と学問について批判した警察の副署長に通訳の女性がつっかかって激しい応答。この本はわたしも若いときに読んだので笑った。

ユーモア、その2。ジュリアのペティコートとスリップの裾がスカートより長くて困っていると、仲良くなったメアリルーがハサミで切り取ってくれる。その後もスカートの裾を直してもらうが、メアリルーの部屋で下着姿のまま話していたら彼女が主婦の生活の話をしているうちに泣き出し、ジュリアが抱いてあやしているところへ、ご主人がノックをせずに入ってきておかしな雰囲気に。

サラ・コードウェルは女性で、オクスフォード大学で法律学を学び、卒業後はウェールズ大学で法律学を講義し、その後、ナンシー大学でフランス法を学んだ。
テイマー教授のシリーズは4冊あり本書は第一作。いま検索していたら、テイマー教授は年齢・性別不明なんだって。そうかヒラリーって女性かなって思ったけど、男性でもある名前かなと思い直したんだった。
また読みたい作家ができた。
(青木久恵訳 ハヤカワポケットミステリ)

サラ・コードウェル「かくてアドニスは殺された」(1 )

柿沼瑛子さんお勧めのゲイミステリのうちの1冊。あとの2冊とともにアマゾンの中古本で買った。「かくてアドニスは殺された」(1984)というタイトルはずいぶん前から知っていたが、読もうと思ったのははじめて。1981年に発表されたサラ・コードウェル最初の作品である。そのころはハードボイルドな女性探偵ものに向かっていた。すこし落ち着いてからエドマンド・クリスピンがすごく好きになった。ドロシー・L・セイヤーズは別格で、ジョセフィン・テイが好きになって訳されているのは全部読んだ。

「かくてアドニスは殺された」は読み出したらとても味わいのある作品だった。書き手はオクスフォード大学のテイマー教授で、猫の餌やりをロンドンを留守にする友人に頼まれて、休暇をロンドンで過ごしている。教え子の法曹学院の弁護士たちがそのまわりにいて和気あいあいと飲んだりしゃべったりしている。
そのうちの一人ジュリアはたよりない女性で、しょっちゅうものを落としたり転んだりしているのだが、休暇をとってヴェネツィアにツアー旅行に行った。残った弁護士たちは彼女からの手紙をみんなで読んでわいわい言うのを楽しみにしている。
ジュリアはツアー客の中に美青年を見つけて熱を上げている。また女性客とも親しくなった。そんな微に入り細にわたる手紙を読んでみんなわいわい言っているうちはよかったのだが、ジュリアが殺人容疑で逮捕されたというニュースが入ってきた。ジュリアは青年の部屋の中にいたのちに一人で出て行った。2時間後に青年の死体が発見された。
ジュリアの無罪を証明するために弁護士たちは各々ができることをはじめる。テイマー教授は〈安楽椅子探偵〉として活躍する。
(青木久恵訳 ハヤカワポケットミステリ)

ニコラス・ブリンコウ『マンチェスター・フラッシュバック』

先日〈翻訳ミステリー大賞シンジケート〉のサイトで〈わが愛しのゲイ・ミステリ・ベスト5◆パート2(執筆者・柿沼瑛子)〉を読み、〈パート1〉も読んでびっくり、10冊のうち3冊しか読んでない。
そのうち2冊(サラ・コードウェルの「かくてアドニスは殺された」、ニコラス・ブリンコウの「マンチェスター・フラッシュバック」をアマゾンの中古本で注文。「かくてアドニス・・」のほうはクラシックミステリの香りがして楽しそう。

「マンチェスター・フラッシュバック」(1998)は最近見た「ジョイ・ディヴィジョン」のイアン・カーティスを描いた映画「コントロール」と同じマンチェスターが舞台だ。ディケンズの作品にも出てきてた工業都市で、大阪が日本のマンチェスターといわれていたときもあった。

マンチェスター警察のグリーン警部がロンドンのカジノへ行く。カジノの支配人がジェイクできちんとした仕事ぶりだが、15年前はマンチェスターの不良少年でありグリーンと関わりがあった。
ゲイ小説ということで、グリーンとジェイクが恋人同士だったとか思って読み出したのだが、そこは違ってた。

グリーン警部は15年前の男娼殺しと同じ手口の殺人事件が起きたので、ジェイクに手伝ってほしいという。殺されたのはジェイクの男娼時代の仲間だった。
ジェイクは16歳から自分は〈燃え尽きた男〉と思っており、知らない人からも〈トップモデル〉と間違えれほどきちんとした服装をしている。いまやジェイクは結婚していて愛し合っている妻がいる。

一等車でマンチェスターの駅に到着したジェイクは15年前の自分と向き合う。
当時17歳のジェイクは体を売って稼いだ金で夜になると親友のジョニーとディスコに繰り出し、パンクミュージックとドラッグで狂っていた。そうしているうちに路上で少年に出会い、児童福祉関係者によってとほうもないことが行われているのを知る。またゲイを蔑んでいる警官とのやりあいがあり、ジョニーは殺される。

イギー・ポップやデイヴィット・ボウィやブライアン・フェリーの曲がかかるディスコで、ラリった少年たちが踊る。80年代のパンクシーンを思い出しつつ読んだ。
著者のあと2冊(「アシッド・カジュアルズ」「ラリパッパ・レストラン」)を読むのが楽しみ。

ユッシ・エーズラ・オールスン『特捜部Q キジ殺し』

だいぶ前に読み終ったのに感想を書いてなかった。少々あやふやになった記憶を探りつつ書こうと思って広げたらなかなかおもしろい。これから友だちにまわすので、もどってきたらまた読もう。

前回の〈檻の中の女〉事件を解決して名前をあげた〈特捜部Q〉のカール・マーク警部補に、上司のヤコプスンは告げる。「オスロ警察から特捜部Qを視察にくるから頼むよ」そして、チームを強化するためローセ・クヌスンという女性を一人入れたという。そういうことにも反発を感じるカール。このローセが常識破りでおかしい。でも仕事はどんどんこなしていく。

キミーという謎の女がいて街を歩いている。駅のエントランスホールで待ち受けてこれっと思ったのはミンクのコートを着た上品な女性で、車輪のついたスーツケースを持っている。乗車券の料金を調べている女性からスーツケースをさっとうばい、外に出てタクシーに乗った。1時間してキミーは見違えるような女になっている。しかし、彼女を見た者がいて今度こそ捕まえろと言っている。

アサドが古いファイルから次に取り組むべき事件を探し出した。1987年の連続殺人事件は18歳と17歳の兄妹が身元の確認もできないほど暴行され殺されていた。容疑者の少年たちの父親はみんな裕福で影響力を持っていた。
いま少年たちは大人になって、民間病院の経営者、国際的に名高いファッション・デザイナー、株式ディラー、亡くなったが船舶会社代表など。同じように有閑階級に属していたキアスティン(キミー)についてはいま誰も居所を知らない。犯行を認めて服役中の一人だけはみじめな人生を送っている。

キミーは麻薬中毒のティーネにお金を払って情報をもらっている。ゴミ箱から拾った女性誌に出ている有名デザイナーのフローリンが、キミーを捜していたとティーネは告げる。

だんだん過去と現在の事件がつながっていく。警察上層部や官僚たちの圧力の中を3人組はひたすら事件と取り組む。
(吉田薫・福原美穂子訳 ハヤカワポケットミステリ 1900円+税)

三宅菊子さん 追悼/イアン・ランキン

イアン・ランキンの「死者の名を読み上げよ」を読んでいたら、二度も死者の名を読み上げるところがあった。一度目はG8に反対する集会でイラク戦争の犠牲者1000名の名前を読み上げる。読み手が交代しながら読んでいく。二度目はリーバス警部がバーでグラスを掲げて事件の死者の名を5人読み上げ、続いて先週亡くなった実弟の名前を読み上げる。
【死者の名を読み上げ、忘れ去られてないことを死者に知らせる。】

思い出したのは三宅菊子さんのこと。
8月8日に三宅菊子さんが東京都内の自宅で亡くなっているのが見つかったとツイッターの書き込みで知った。それまで何十年も彼女の存在をすっかり忘れていた。
わたしが彼女のことを知っていたのは、作家三宅艶子さんのお嬢さんである菊子さんが、松川事件の被告だった佐藤一さんと結婚したときだ。朝日新聞に広津和郎さんの小説が連載されたのが1954年だといま検索してわかった。わが家は一家で愛読したというのは松川事件に関わっている広津さんの小説だからだ。年齢からいって三宅さんが秘書をしたのはもっと後かしら。とにかく被告だった佐藤さんと結婚したというニュースはショックだった。祖母が三宅やすこ、母が三宅艶子という作家を家族に持つ毛並みの良いお嬢様がというショックだったかな。お嬢様だからこそできたとも思った。初期の「アンアン」にお二人の写真があったような気がする。小津安二郎の映画の一シーンのようだった。

いま検索したら著作もたくさんあり、東京の出版界で活躍されていたのを知った。きりきりしゃんとしたひとだったみたい。
ここに、名前を読み上げ、ご冥福をお祈りします。

コリン・デクスター『キドリントンから消えた娘』

「キドリントンから消えた娘」(1976)は「ウッドストック行最終バス」(1976)に次ぐモース主任警部シリーズの2作目で、憂愁が漂うモース警部に思い入れてしまう。

キドリントンはオクスフォードに近いモース警部が住んでいる町である。
3年半前のこと、オクスフォード行きのバス停留所で出会ったのは就職先が決まった青年と後から来た少女。赤いバスの二階にいっしょに乗ってオクスフォードに到着すると、青年は乗る列車が決まっているのに少女と遊ぶことに決めた。青年は後々一番ホームに行かなかったことを何度も後悔する。

2年前にエインリー主任警部は、キドリントンから家出して行方不明になっている少女バレリーを死亡したものと考えていた。3週間前にエインリーが交通事故で亡くなり、いま上司はバレリーからの両親宛の元気でいるという自筆の手紙を出して、モース主任警部にこの事件の捜査を命じる。殺人事件でなく失踪人探しかとうんざりするモース。

モースとルイス巡査部長は両親の家、学校の教師、近所の人たちを訪ねて当時の様子を聞く。モースはバレリーは死んだものとしか考えられず、手紙の筆跡についてしつこく仮説をたてる。しかし、エインリーがなぜ死ぬ前にロンドンへ行ったのかも考える。ルイスはロンドンへ行くべきだというが、まだモースは死亡説にこだわる。そこへまたバレリーから手紙がとどいた。「あなたがたは、私を捜していられるそうですが、私はそれを望みません。家へ帰りたくないんです。」

モースは一人暮らしである。本棚には「スインバーン全集」(わたしはスインバーンの本を1冊しか読んでいないが好きなのでモースに好意を持った-笑)と「ビクトリア朝好色文学選集」(モースはもっと人目につかないところに置いておこうと思った)があり、ロンドン市街地図はその裏にあった。
モースの過去には女が多過ぎるほどいた。そのうちの一人や二人は夢の中に現れる。いまは40歳もなかばなのに結婚もせず孤独である。

最後の一行
【家出娘たちの中のあるものは、けっして帰ってこなかった……永久に。】
(大場忠男訳 ハヤカワポケットミステリ)