ギレルモ・デル・トロ脚本/監督『パンズ・ラビリンス』

毎晩のように映画を見てご機嫌生活をしているがええんかな。
子どものときから映画好き。父親や姉に新世界や十三の映画館に連れて行ってもらった。自分で稼ぐようになったら日曜ごとに映画館を3館くらい巡って、ハリウッド映画やフランス映画を見た。小さな上映会に行ってドイツ表現派やドキュメンタリー映画や古いフランス映画を見た。その後も見続けてヌーベルヴァーグもイタリア映画もいっぱい見てきた。「スクリーン」「キネマ旬報」は発売日に買ってた。
レーザーディスクを買ってからは、いままで見られなかった実験的な映画やアステアのダンス映画をたくさん買い込んで、頑張って買った29インチのテレビで毎晩見ていた。映画館もよく行ってた。「エイリアン」の3作目の先行ロードショーに並んでいるのを友人に見つかって冷やかされたこともある。

ところが、もう20年くらいはそんなに映画館に行っていない。家でビデオさえあんまり見ていない。パソコンのほうがおもしろくなったのが第一の理由かな。本はまあまあ空き時間を工面して読んでる。映画は集中する時間が2時間となるとまあいいやと思ってしまう。
最近、すこしは映画を見ようということになった。それでレンタルDVDを借りに行くのだが、お金を払うと思うと、借りるのは話題作とかこじゃれたのとか(笑)。

今回T氏にたくさん映画のDVDを貸していただいて見続けている。
前書きが長くなったが今日はギレルモ・デル・トロ脚本/監督「パンズ・ラビリンス」を見た。映画情報からして知らないので白紙で見たのだがとても気に入った。

第二次世界大戦の終盤のころのスペイン。内戦で父を亡くした少女オフェリア(イヴァナ・バケロ)はフランコ軍が進駐している村へ妊娠中の母とともに着く。母は夫亡きあと大尉と結婚した。子どもは父親がいる場所で産むものだという大尉の意向にそってやってきたのだ。
本の束を抱きしめた少女は森で母が気分が悪くなり自動車を止めて休んだとき、森の奥に吸い込まれるように入って行く。次は夜中に目が覚めて茶色いカマキリのような虫(妖精)が案内役になり、迷宮(ラビリンス)に入るとパン(羊の姿をした神)がいて、あなたは魔法の国の王女だとささやく。
外の世界はフランコ軍の支配する独裁社会。村の人たちはレジスタンスグループを組織して戦うべく森に集まっている。村から徴集された小間使いのメルセデス(アリアドナ・ヒル)はオフェリアにやさしい。

いろんなレジスタンスの映画を見てきたが、今回ほど時代の移り変わりを感じたことはない。リアルな場面であってもいまの映画である。「バットマン」と通じた暗さがある。
この映画は少女オフェリアがいるから成り立った。本を読む少女♪

「リーバス警部」との4日間

ほぼ毎夜「リーバス警部」とつきあい4日間で4本のシリーズドラマを見終わった。心はエジンバラに飛んでいる。観光客の入っていけない暗黒街や貧しい人たちの住む団地やクラブのシーンに、これがエジンバラ?と小説を読んでない人は驚くだろう。リーバスが行くバーも見られてよかった。これがほんとのスコットランドのバーかと感激(笑)。

小説と同じく映像のほうも暗い。ひたすらストーリーを追っていたのでもう一度見たいと言ったら相方に「こんなに暗いのは当分ええわ」と拒否されてしまった(笑)。しゃあない、翻訳のある3冊を読み返そう。
イアン・ランキンの作品はみんな長い。その1冊を2時間くらいのドラマに仕上げてあってモンクの言えない仕上がりなのがすごい。

リーバスのジョン・ハナーは見るごとに好きになっていった。シボーン警部は最初は違和感があったけど、だんだん頼りになるシボーン警部だと思えてきた。

「死せる魂」ではリーバスは悪夢に悩まされて眠れない夜が続いている。
忙しくしているところへ若いときの知り合い夫妻が訪ねてきて、行方不明になった息子を捜してほしいと頼む。リーバスは若いときにその彼女を愛していたが、母親から好かれていなかった。それで伝言を伝えてもらえなくて、待ちぼうけをくらう。それ以来の彼女なのである。
いっしょにエジンバラの街を情報を追って捜し歩き、ついに見つけたらえらいこっちゃで。二人の間も狭まっていき、リーバスは彼女の夫にバーで殴られる。

クリストファー・ノーラン監督『ダークナイト』(バットマン 2)

「ダークナイト」を見たら「バットマン ビギンズ」はこの映画の前編なんだなとわかった。ものすごくおもしろくて熱中してしまった。地方検事ハービー・デントが見たことのあるいい男だなと見つめているうちにわかった。「抱擁」のアーロン・エッカートではないか。ジョーカーにやられて命は助かるが顔半分大やけどを負う。美しい半分と皮が焼けただれて骨や歯や目がむき出しになった顔で、レイチェルを誘拐した者たちを追う彼が哀しい。

ゴッサムの街角にピエロのマスクをして男たちが集まり銀行を襲撃する。それぞれの仕事が完了するたびに仲間に射殺される。ボスであるジョーカーの指令は「用済みは殺せ」である。最後の一人が仮面を外すとその顔は隈取りされてピエロの顔である。赤く塗られ広く避けた口が笑っているよう。彼がジョーカー。

ジム・ゴードン警部補はバットマンにジョーカーの映像を見せる。最後まで争うことになる仮面の二人。
新任検事ハーヴェイ・デントが着任する。若くて正義感あふれた彼はゴッサム・シティの治安回復を目指して活躍をはじめる。元気いっぱいの彼にレイチェルは惹かれる。二人がレストランで食事をしていると、ウェインがボリショイ劇場のプリマとともにくる。そしてデントの地方検事への資金援助を約束する。

ウェインの会社と中国の企業との合弁事業計画があるのだが、ウェインが会社内容を調べた結果中止させる。ラウ社長は香港へ逃亡する。
ウェインは船に乗りクルーズを楽しんでいるように見せて、途中で海へ飛び込み水上着陸した飛行機に乗って香港へ向かう。
それからの香港での行動はあれよあれよと言ってる間にどんどん進んでいってよくわからなかったです。携帯電話がカギになってた。
なんだかだあってラウ社長は「ゴードン警部補まで配達」と納付書がついてゴードンのところへ。

このあたりからストーリーと映像を追いかけて無我夢中(笑)。仕掛けが大き過ぎる。
猛スピードの暴力シーンと爆音がいっぱい。はらはらどきどき。

すごーく暗くて重くて気持ちよい映画だった。

クリストファー・ノーラン監督『バットマン ビギンズ』

昨夜は遅くまで「バットマン ビギンズ」(2005)を見た。今夜もさっきまで「ダークナイト」(2008)を見ていた。評判はネットで読んでいたのでいつかは借りてきて見ようとは思っていたんだけど、なかなか先の長い話なのであった(笑)。正直うれしくありがたい。

「バットマン ビギンズ」はバットマン(クリスチャン・ベール)になるブルース・ウェインの子ども時代からはじまる。ゴッサムの立派なお屋敷のぼっちゃんだが、自分が原因で両親が強盗に殺されたというトラウマに悩む。大人になって武者修行にヒマラヤのようなところまで行って体を鍛えあげる。ゴッサムにもどってきたブルースは屋敷の地下の大洞窟を秘密基地として、執事のペニーワース(マイケル・ケイン)を助手に、バットマンとしての自分をつくっていく。
父親の残した会社ではフォックス(モーガン・フリーマン)が閑職に追いやられていたが、彼が開発した布や金属を使って小道具ができあがっていく。神秘的とか魔法とか全然なくて合理的なのだ。
悪い奴らに支配されている市の警官の中でただ一人清廉なジム・ゴードン警部補が涼しい風を入れてくれる。

執事をやっているマイケル・ケインは息の長い俳優やな。「探偵スルース」(1972)「殺しのドレス」(1980)が忘れられない。イギリスの映画や小説に欠かせない〈執事〉だが、これこそ本当の執事やな。

コリン・デクスター『ウッドストック行最終バス』

2010年になって読んだ「森を抜ける道」(1992)の感想に「ウッドストック行最終バス」(1976)をアメリカのウッドストックと間違えて買って読んだと書いてある。ハードボイルドミステリを追いかけていて、イギリスの本格ものは受け付けていなかったころだ。知り合いの青年に言ったら「ぼくも音楽祭のウッドストックと思い込んで買った」と苦笑いしてた。あれから30数年か、どうしているかしら彼。

コリン・デクスターのモース警部シリーズ第1作である。
ジャーマン夫人はオクスフォードの中心へ向かう道路のバス停で自分の乗るバスを待っていた。若い娘につぎのバスはウッドストックへ行くかと聞かれて行かないと答えると、二人の娘はヒッチハイクしようと歩き出した。
夫人はバスで帰宅し食事をしてテレビのニュースを見て、10時30分にはぐっすり眠っていた。同じ時間にウッドストックのある中庭で若い娘が倒れているのが発見された。娘は惨殺されていた。

オクスフォードからウッドストックへ向かってあと半マイルほどのところに、むかし玉石の上に馬蹄がひびいた古い中庭がある〈ブラック・プリンス〉があり繁盛している。酔った若い客が中庭で車の横の死体を発見しはげしく嘔吐した。

ルイス巡査部長とモース主任警部の登場である。モースはルイスに新聞のクロスワードの解答を見せて自慢する。
【「ルイス、時間の浪費だと思っているのかね?」/ルイスは利口だし、かなり正直で誠実な男だった。/「はい」/人なつっこい微笑がモースの口元に浮かんだ。彼は二人はうまくやっていけそうだと思った。】
そしてモースはダブルのウィスキーをたのむが、ルイスには勤務中だよと飲まさない。そして店にいた全員から話を聞きはじめる。

殺されたシルヴイアの日記に「ライアンの娘」を見に行ったと書かれている。「ライアンの娘」よかった。大好きな映画だ。この映画のころの事件なのか。

ジャーマン夫人はモースの質問に必死で記憶を呼びさます。娘の一人の言葉、「大丈夫よ、明日の朝は笑い話になるわ」それで二人の娘は同じ職場で働いていると推定できる。
(大場忠男訳 ハヤカワポケットミステリ)

アントン・コービン監督『コントロール』

この映画の存在を全然知らなかった。わたしがイアン・カーティスのファンであることを知っているT氏がDVDを貸してくださったのだ。70年代、イアン・カーティスがボーカルをやってたマンチェスターのバンド「ジョイ・ディヴィジョン」は、「クラッシュ」とともにいまでも大好き。レコードの時代の最後のほうだったと思うのだが、輸入版レコードを買って毎日聞いていた。CDの時代になってからやっぱり持っていたいとCDを買ったのを持っている。好きなジャケットデザインがCDサイズになったのがちょっと違和感あったけど。

自殺の知らせを聞いたときはショックだった。だれから伝わったのか覚えてないけど、シーンとした気持ちになったことをいまでも思い出す。1980年5月だった。

「コントロール」は、2007年のイギリス、アメリカ、オーストラリア、日本の合作映画。写真家アントン・コービンの初監督作品である。解説を読んでいたら、俳優たちがほんとに演奏をしていて、イアン役のサム・ライリーはボーカルをほんまにやっているのだ。ビデオやレーザーディスクで見ていたイアン・カーティスそのままのような歌いっぷりだ。はじめからぐんぐん引き込まれてしまった。

イアンとデボラは10代で愛し合い結婚して子どもが生まれた。昼は公務員として障害者のための求職センターで真面目に働き、夜にはバンド活動で狂わんばかりのパフォーマンスを見せすごい人気を得る。レコーディングやバンド活動の幅が広がり仕事を辞め音楽で生きていくことに。ベルギーで行われたアートイベントに参加してイベントの興行主のアニックと知り合いつきあうようになる。それはすぐにデボラにわかり、彼はふたりの間で揺れ動く。

妻と愛人との間で苦悩し、癲癇の発作と鬱病にも悩まされ、死を選んだイアン・カーティス。残ったバンドのメンバーは3人で新しいバンド「ニュー・オーダー」を結成し、いまにいたる。

政治と文学 ジュリアン・シュナーベル監督『夜になる前に』(2)

昨日は映画「夜になる前に」を見てすっかり興奮してしまい寝付けなかった。カストロ政権には好意を持っていたから、見ているときはえっという場面が多々あった。でも考えるまでもなく、文学はやばいものだ。新しく革命政府を打ち立てるためには文学は邪魔である。文学的なものも邪魔である。
アレナスの才能を認めて育てようとした先生が、軍部や官僚たちに節を曲げさせられるつらいシーンがあった。そういうふうにしていかないとキューバという小国がアメリカの鼻先で生きていけなかったのだろう。
アメリカへ渡ってせっかく自由になったのに、エイズに罹るなんてなんてことだ。

ロバート・レッドフォード製作/監督/主演『モンタナの風に抱かれて』

レンタルDVDを見る日が続いている。昔からときたまこういう時期があって毎日ビデオやレーザーディスクを見ていたのがいまはDVDになった。
「モンタナの風に抱かれて」(1998)でブログ検索したら、「馬が出てこなくっちゃ」というのと、男前の話のときに出てきたから、映画を見たのはブログ以前のようだ。
わたしと相方の趣味の一致点である「恋愛もの」「馬が走る」の両方がそろった映画として覚えていた。

ニューヨークで雑誌の編集長をしているアニー(クリスティン・スコット・トーマス)は弁護士の夫と13歳の娘グレース(スカーレット・ヨハンソン)と暮らしている。娘は早朝に友だちと馬で出かけて事故にあい右足を失う。友だちは死に、馬のピルグリムはグレースをかばって怪我をし心にも傷を負った。
専門家たちに荒れる馬を処分するように言われるが、グレースがいやがるのでなんとかしたいとネットで探すと、モンタナで馬専門のクリニックをしているトム(ロバート・レッドフォード)が見つかる。電話では通じないのでアニーはグレースを横に、鎮痛剤を打ったピルグリムを乗せたトレーラーを引きずってモンタナに向かう。

トムの落ち着いた対応にピルグリムの心は徐々に開き傷も回復していく。美しいモンタナの風景とトムのきょうだい一家のもてなしで、絶え間ない電話で気ぜわしく働くアニーも根性の曲がったグレースも癒されていく。
昔は乗馬をしていたアニーはトムに勧められていっしょに出かける。ふたりはお互いに愛し合っているのを意識する。トムはシカゴの大学で知り合った音楽家の女性と結婚したことがあった。

グレースもトムに心を開くようになり事故のときの状態を話す。トムはピルグリムはグレースをかばって怪我をしたのだといって、最終的にはグレースが乗るようにいい、いうことを聞かない馬をおさえ、グレースに撫でさせる。ついにグレースはピルグリムの鞍にまたがる。

クリスティン・スコット・トーマスはイングリッシュ・ペイシェント(1996)がよかった。この作品も気の強い女性の役がカッコいい。ロバート・レッドフォードはいうに及ばすでものすごくよい。そしてまた、モンタナの風景の美しいこと!

ジュリアン・シュナーベル監督『夜になる前に』(1)

「バスキア」の監督がキューバの作家レイナルド・アレナスの生涯を描いた映画(2000年の作品)だと相方が借りてきたDVDをいっしょに見た。タイトルがいいと思ったら主人公が書いた小説のタイトルなのであった。
レイナルド・アレナスという作家の名前もはじめて知った。アレナスは1973年にキューバの貧しい家に生まれたが、文章を書く才能があるのを教師が見いだす。
映画紹介サイトの〈解説〉によると、アレナスは14歳でカストロ率いる暴動に参加、62年までハバナ大学に通い、同時に同性愛に目覚めた。1980年にアメリカへ亡命。1987年にエイズであることがわかり、1990年に睡眠薬を多量に摂取して自殺した。

レイナルド・アレナス(ハビエル・バルデム)の貧しい子ども時代からはじまるが、成長するにつれいい男になる。友人やとりまきの美しい青年たちが出てきて美しい海で戯れたりの文学青年時代。友人が華麗なオープンカーでやってくる。ええ車やなあと歓声をあげると「エロール・フリンが乗ってた」と答えが。エロール・フリンっていい男や華麗な車の表現に使う普通名詞なのか。

彼の作品を認めてくれた文学者は国立図書館で働くようにいい、プルーストやカフカなどの必読本を貸してくれる。そして革命政府にとっては文学者はいずれ敵になるだろうと話す。その言葉どおりに弾圧がはじまり、文学と同時にホモセクシュアルであることで逮捕される。その寸前に偶然知り合ったフランス人夫妻に原稿を渡したのが、フランスで出版されてフランスにおける外国文学賞を受賞する。
脱獄しまた逮捕され刑務所で服役。ひどい刑務所だったが作家ということが知られて、服役者の手紙の代筆をする。手紙や原稿を外へ出すにあたっての手段がすごい。ジョニー・デップが熱演している。
独房やものすごい屈辱を受けた後にようやく出所。その後の生活で生涯の友となるラサロと知り合う。
カストロ政権による革命政府に不用な人間はいらないという政策により、ホモセクシュアルとして登録しアメリカへ亡命する。

原作を読まなくちゃ。

ロジェ・ヴァディム監督『危険な関係(’59) 』

原作の「危険な関係」(ラクロ)を読んだのはずっと昔のことで、澁澤龍彦あたりが紹介していたから読んだのだと思う。メルトイユ侯爵夫人という名前をずっと覚えているくらいに影響を受けた。徹底した悪女ぶりがすごい。

映画「危険な関係(’59) 」は製作されてすぐに日本で上映されたのだろうか。見たような気がしていたが、見ていなかったようでもある。ヌーベル・バーグ以前のフランス映画をいっぱい見ていた時代だ。
ジェラール・フィリップの最後の作品だということはいまはじめて知った。いま主な出演作品を見たら「危険な関係」以外は全部封切りで見ていた。

見たとはっきりいえるのは90年代にレンタルビデオで見たときだ。そのときは一言でいえばつまらなかった。音楽がセロニアス・モンクとアート・ブレイキーとジャズ・メッセンジャーズでそのときはわかっていたろうが、忘れたままだった。ただ若きジャン=ルイ・トランティニャンをいいなと思ったのは覚えていた。

さっき見たらびっくりするくらいよく覚えていた。全然つまらなくない。音楽がよくて画面とぴったり合っているところに感動した。ジャンヌ・モローの悪女ぶり、ジェラール・フィリップのモテ男ぶり、アネット・ヴァディムの色気のある清純さ、ジャン=ルイ・トランティニャンのおたくっぽい青年・・・登場人物みんなところを得ている。
ジャズクラブのシーンが長くて楽しめた。成熟した大人の社会であることが羨ましい。