マイクル・イネス「ハムレット復讐せよ」を読み出した

今日は予約してあったつるかめ整体院へ行って1時間しっかり診てもらって、帰ってから1時間昼寝した。近いからほんとにラク。長いこといろんな整骨院へ通ったが、こんな近くでほんとにありがたい。
目が覚めたら晩ご飯ができていてまたもやありがたく頂いた。冬みたいに大根の煮物と山芋を摺ったのがあった。いろいろと考えたメニューである。

夜は読書。暑さを忘れるいちばんの方法だ。クラシックミステリーのずっと読んでなかった本をあれこれ見ていたら、一度読んで置いてある本が気になり出した。何度も読んでいる超お気に入りのエドマンド・クリスピンは別として、あとはそのとき読んだだけだから。
それで、マイクル・イネス「ハムレット復讐せよ」(1937)を開いたんだけど、最初からおもしろい。まだ主役のジョン・アプルビイ警部は出てこないが、解説を読むと最後は警視総監まで出世して「サー」の称号も受けるそうだ。興味津々。
アプルビイ警部の登場を待ちながら、お屋敷に集まった人たちの退屈な会話を読もうと思ったが、その会話がおもしろいのだ。イギリスの大きな邸宅にたくさんのお客が集まり、大広間でハムレットが上演される。舞台になる広間の説明のところまで読んだ。
公爵の一言「大回廊用の花のことなんだがね。シェイクスピア縁りの野の草花ではどうかね・・・」の後に、まだらになった雛菊、紫のすみれ、真白いタネツケバナ・・・グロキシニア、金魚草、シオノドクサス、コルウイチア・・・と花の名があげられる。領地内に草花が咲き乱れている場所もあるらしい。
(滝口達也訳 国書刊行会 世界探偵小説全集16 2500円+税)

カーター・ディクスン「九人と死で十人だ」

本棚の前に物が置いてあるという状態で長いこと経って、先日ようやく物をどけたら出てきた本の山の中にあった。国書刊行会の世界探偵小説全集が10册ばかり。1999年刊行だから15年ほど前になる。行きつけの書店に頼んでおいて毎月とりに行っていた。
またわたしのミステリ歴を書くけれども、こどものころから探偵小説が身近にあって、ハードボイルドも本格もいっしょくたに読んでいた。
70年代になってネオハードボイルドに目覚めたら女性探偵がたくさん現れた。そんなときにあえて本格ものを読みたくなったのだ。ところが読んだのは名前を知っていた作家で、同じ全集の中でも、アントニイ・バークリー、フィリップ・マクドナルド、シリル・ヘアー、レオ・ブルース、そしてエドマンド・クリスピン等は別にお気に入り本棚に並んでいる。あとは積んだまま忘れてた。

ああ、すみません、読んでみます、と今回出てきた本に向かってお辞儀して言って、1册とったのが本書だが、カーター・ディクスンはまたの名ジョン・ディクスン・カーである。なんで積んどく本に入れたのかな。愛してやまない「皇帝のかぎ煙草入れ」は何度読んだことか。「火刑法廷」のすごさ。「夜歩く」は父が好きで読めと言われた。

おとといと昨日と今日と本書を読んでとても楽しかった。恋愛小説でもあるのだ。「皇帝のかぎ煙草入れ」を思い出してまた読もうと思った。想い合う男女の心の動きがステキだから。

第二次大戦中の話で、軍艦と同じ色に塗られたイギリス商船がニューヨークを発ってイギリスの某港へ出航する。船は軍需品の輸送も担っていて爆薬や爆撃機も積載されている。乗客は9人。元新聞記者マックスの兄はこの船の船長である。
女性が二人乗っている。40代はじめと思われる美貌のブロンド、エステル・ジア・ベイ夫人。毛皮のコートから出たハイヒールの足がすらりと伸びている。もう一人はヴァレリー・チャトフォード嬢で、マックスが酔ったエステルに抱きつかれているところを見て嫌悪の表情。その後もマックスとヴァレリーはケンカするシチュエーションばかりだが、お互いに気になってしかたがない。
エステルが殺され、乗船員全員の指紋をとることになる。

船は潜水艦警戒水域を航行して行く。H・Mことサー・ヘンリー・メリヴェールが活躍して犯人を見つける。
(駒月雅子訳 国書刊行会 世界探偵小説全集26 2400円+税)

アーナルデュル・インドリダソン『緑衣の女』(2)

この家に引っ越して来たとき、前の住まいに忘れたものを知り合いが持ってきてくれた。普通に礼をいい冗談を言いあって彼は帰った。それを窓から見ていた夫のグリムルは、お前はまるで売女のように体をくねらせていたとなじり殴った。彼女は吹っ飛ばされ口の中が血だらけになった。なにが起こったかまったくわからない。それからの年月、彼女は何度もこのときのことを思い出した。自分が悪いから彼が怒るのだ、すべて自分が悪いのだと自分を責めるのではなく、家を出ていればどうなっただろう。知り合った頃は真面目な人だったのだ。
彼女の前の夫は船乗りで船が転覆して溺死した。小さな娘ミッケリーナを連れて働いていたが、熱心に求婚するグリムルと結婚した。娘は新しい父親になじまなかった。
息子が二人できたが、子どもたちにも暴力をふるう。たまに人間らしくなって優しいときもある。ミッケリーニが病気になり体が動かなくなった。二人の弟は姉の世話をしていっしょに遊ぶ。ようやく声が出るようになったがグリムルに対しては恐怖しかない。こうして恐怖の生活を母と3人のこどもは続けてきた。

エーレンデュルの娘エヴァ=リンドは胎盤剥離でお腹の子を失い、病院のベッドに意識不明で横たわっている。昏睡状態でも側で話す父の言葉は聞こえているから話すようにと医者に言われてエーレンデュルは話し続ける。自分のこどものときのことを話すのは自分のためにもなった。

シングルデュル=オーリが4年越しの恋人ベルクソラと結婚について言い合いしたとき、CDを探してこの歌をかける。マリアンヌ・フェイスフルが主婦ルーシー・ジョーダンの思いを歌っている。Marianne Faithfull – Ballad of Lucy Jordanいつかパリでオープンカーを飛ばすことを夢見ている主婦ルーシー。「俺たちもパリへ行こう」とシングルデュル=オーリが言った。
(柳沢由実子訳 東京創元社 1800円+税)

アーナルデュル・インドリダソン『緑衣の女』(1)

友だちが「緑衣の女」がよかったと教えてくれたので買って読んだらすごくよくて、読み終ってすぐに前作の「湿地」を買って読んで先日感想を書いた。
「エーレンデュル警部シリーズ」で翻訳があるのがこの2冊である。そしてもう一度「緑衣の女」を読んだ。捜査官エーレンデュルの私生活や性格がよくわかった。部下の二人の警察官のことも、アイスランドの首都レイキャヴィクのこともわかってきた。

新しく開発された住宅地で、こどもの誕生日パーティが開かれている。騒ぎは最高潮に達していて、親が留守で弟の面倒を見ている若者は手持ち無沙汰にソファに座っていた。彼はこの家の赤ん坊が手にしたおもちゃのようなものを見て人間の骨だと気がつく。人間の肋骨の一部だ。そんなはずないと怒る赤ん坊の母親に、自分は医学生だからわかると言った。母親の質問に一人の子どもが自分が拾ったと言い、その場所へとみんなでぞろぞろ行くと、指差されたところからあごの骨と歯が見えた。
その発見の第一報を受けたのは女性警察官のエリンボルグだ。一見年齢不詳、40歳から50歳の間、太ってはいないが美食家で、離婚して4人のこどもを育ててきた。1人は養子ですでに独立しており、3人のこどもと再婚相手と暮らしている。ちょうど食事に人を招いていて帰るところだった。
エリンボルグからのポケベルがシングルデュル=オーリの脱いだズボンのポケットで鳴った。ポケベルはなによりも優先する。彼は恋人のベルクソラの下から這い出した。
エーレンデュルは家庭料理を出すレストランで食事をはじめたところだ。
45分後に3人は骨の発見場所で会う。古い骨なので考古学者が仕切っていて鑑識課の係員たちは手伝ってもいいと言う。
エーレンデュルは新興住宅地を見回した。反対側の湖の方面の草地にスグリの木が4本ある。こんなところに誰が植えたのかとエーレンデュルは不思議に思った。
エーレンデュルは考古学者たちが建てたテントに入って掘ったところに降りてみた。ゆっくりと歩いていると靴先に当ったのは人間の手で指が突き出されている。「生きたまま埋められたのか?」
そのとき、携帯電話に娘のエヴァ=リンドの声で「助けて、お願い」と聞こえ、そこで電話は切れた。
現在の話の中に過去の話がはさまれる。読者はそれで詳細を知ることができるが、警察官たちは調査と頭脳で核心に迫っていく。
(柳沢由実子訳 東京創元社 1800円+税)

アーナルデュル・インドリダソン『湿地』(1)

アイスランドの作家アーナルデュル・インドリダソンの「エーレンデュル警部シリーズ」でいま翻訳があるのは3作目の「湿地」(2000 翻訳2012)と4作目の「緑衣の女」(2001 翻訳2013)の2冊。
さきに「緑衣の女」のを読んだらすごくよかったので、前作の「湿地」を買って読み終った。

アイスランドの作家の本を読んだのははじめてで、アイスランドといえば歌手のビョークしか知らなかった。そして2008年金融危機のニュースでアイスランドの経済だけでなくどんな国かを知った。同性婚が認められているとか、人名には姓がなく電話番号だって名前で登録されているとか。広さは北海道と四国を合わせたくらいで人口は32万人。

エーレンデュル警部は首都レイキャヴィクの犯罪捜査官で50歳、かなり前に離婚している。娘エヴァ=リンドと息子のシンドリ=スナイルがいるが、別れた妻にずっと会わせてもらえなかった。エーレンデュルは妻がつけたこどもたちの名前が嫌いだ。大きくなってから二人は父を探して会いに来たが二人とも問題を抱えていた。特に娘がやっかいだ。いま彼女は妊娠していてクスリから離れようとしている。

レイキャヴィクの北の湿地にあるアパートで老人の死体が発見された。老人ホルベルクに部屋に入れてもらった者が殺して逃げたらしい。死体の上には「あいつはおれ」というメッセージを書いた紙が置いてあった。

エーレンデュルと同僚のエーリンボルグとシングルデュル=オーリの3人が捜査にあたる。シングルデュル=オーリはアメリカの大学で犯罪学を学んだ秀才で、背が高くエレガントでいつもきちんとした服装をしている。エーレンデュルと正反対だ。シングルデュル=オーリがプロファイルを作るべきと言うと「なんだ、それは、プロフィール(横顔)のことか」というぐあいだ。女性警察官のエーリンボルグの個人生活は出てこないが、エーレンデュルの捜査法に対して批判的になるときがある。

ホルベルクには家族がいない。部屋に残されたものを調べると引き出しの下から古い写真が出てきた。古い墓石の写真でウイドルという女の子の名前、亡くなったときは4歳。そこからエーレンデュルの引くことのない捜査がはじまる。
(柳沢由実子訳 東京創元社 1700円+税)

アーナルデュル・インドリダソン『湿地』(2)

墓石の少女ウイドルとその母コルブルンについて、エーレンデュルはかつての先輩で定年退職した警部マリオンから話を聞く。コルブルンはホルベルクに強姦されたことを警察に訴えたが当時の担当者は受け付けず、かえって訴えた女性に恥をかかせたという。
エーレンデュルはコルブルンの姉エーリンを探し出して話を聞く。コルブルンは強姦された結果妊娠したが、生まれたウイドルを可愛がって育てた。だがウイドルは3歳で脳腫瘍で亡くなってしまい、コルブルンは自殺した。

1963年、3人の女性がバーで楽しく飲んでしゃべり踊った。一見インテリっぽく見えるホルベルクは一人の女性を家まで送り家に入り込み強姦し、もう一人の女性は家まで後をつけて入り込み強姦した。
一人はコルブルン。もう一人の女性を捜すのにエーリンボルグとシングルデュル=オーリは苦労するが、ついに見つける。結婚して二人のこどもがいたカートリンは強姦されたことを誰にも言わずこどもを産み、夫の子として育ててきた。末っ子として可愛がって育てた三男のエイナルだ。

その夜飲んでいた三人組の男のうち、ホルベルクが殺され、もう一人は刑務所にいる。あとの一人は25年前に姿を消したままだ。

墓を堀り、遺体の臓器を調べ、上司の非難をものともせずに湿地に立つアパートの床下を掘り死体を見つける。
そのかたわら、別れた妻の依頼で結婚式場から消えた花嫁の行方も調べる。これも原因は家庭内DVにあった。そして娘のエヴァ=リンドに心配のあまりどなりつけたりもする。
(柳沢由実子訳 東京創元社 1700円+税)

アイスランドの作家 アーナルデュル・インドリダソン

アイスランドの作家アーナルデュル・インドリダソン「緑衣の女」(2001 日本語訳は2013)を読み終って、もう一冊訳されていた前の作品「湿地」(2000 日本語訳は2012)を慌てて買って読んでいる。ものすごくおもしろいけど、その内容はというと、強姦(湿地)と家庭内暴力(緑衣の女)による悲劇から生まれた殺人なのである。
「湿地」は女性が強姦され警察に行っても相手にされなかったが、その強姦による結果が犯罪のもととなった。「緑衣の女」はすさまじい家庭内暴力が主題である。

アイスランドの首都レイキャヴィクの犯罪捜査官エーレンデュルが主人公のシリーズで、彼は同僚とともに事件に取り組む。
不幸な結婚をして離婚し、娘と息子がいるが長いこと会えなかった。娘がやってきたら妊娠しておりなんとかクスリをやめたいと言う。
「湿地」を読んでいると「緑衣の女」でわからなかったことが、こういうことがあって、娘はああなったのかと合点。
ああ、早く読んでしまおう。

アーナルデュル・インドリダソンとエーレンデュル捜査官はヘニング・マンケルのクルト・ヴァランダー刑事のシリーズについで好きな作家とシリーズになった。

「道草」読んで暗くなっている

なんだか気分が暗いのは梅雨のせいではなくて、漱石「道草」の健三と妻とのやりとりを反芻してるから。われながら読んでる本に影響されやすい。お金を借りに来る人たちになけなしのお金を渡したり、自身が知り合いに借りてつくったお金を渡したりする。思っていなかった原稿料が入ったときは自分の趣味のものを買うから健三はそれでいいけど。
漱石夫妻のことでアタマがぐるぐるまわっているのに、今日はまたすっかり内容を忘れていた「彼岸過迄」を読み出した。「彼岸過迄」「行人」「こころ」が後期三部作と呼ばれているのも知らなかった。ちなみに前期三部作は 「三四郎」「それから」「門」である。これは知っていた。
漱石はほんまにおもしろい。ゆるりと読んでいくつもり。なんて、読み出したらおもしろいからめちゃ速読してしまう。

VFC会報はぼちぼちとやっている。今月もけっこうなページになりそう。こちらも梅雨のせいかとっとといかない。明日やろうと毎月同じことを言っている。

夏目漱石『道草』

昨夜から読み出したらおもしろくて手放せない。結局さっきまで読んでいて読了。
キンドルを買ってから青空文庫の夏目漱石を読むようになった。パソコンの画面で読むよりも文庫本感覚で読めるからかな。
何十年間も漱石を読むということは、全集でなく文庫本で「明暗」「虞美人草」「三四郎」と「草枕」を読むということだった。特に「草枕」は持ち歩いて読んでいる。好みが固まったままなので、これはいかんと先日久しぶりに「行人」を読んだ。二郎の苦悩、一郎の苦悩、いる場所を失い投げやりにならざるを得ない嫂。近代恋愛小説だった。

「道草」は夫と妻の物語である。漱石夫妻の姿を自ら描いた私小説。
健三は3年間のイギリス留学から帰ってきた。ある日かつての養父 島田と道ですれ違い、間違いなく彼だと確信する。間もなく島田がやってきた。顔つきや着るものの描写がすごくリアルでディケンズのよう。それから金を貸せと頼まれ迫られる物語がはじまる。元養父母、そして間に立ってやってくる人たち、実姉、実兄、尾羽打ち枯らした妻の父親。金のなる木とばかり、たかる、たかる。
長編小説の最後のほうで、順番は「彼岸過迄」「行人」「こゝろ」「道草」「明暗」。

イアン・ランキン『監視対象』(2)

マルコム・フォックスはロジアン・ボーダーズ州警察職業倫理班(PSU)に所属する警官である。別れた妻に暴力をふるってから禁酒するように彼女に言われ、それ以来一滴も飲んでいない。エジンバラの一軒家で一人暮らしをしている。介護施設にいる父と恋人と暮らしている妹がいる。
妹の恋人のヴィンスが撲殺された。妹はその前に怪我をしてギブスをはめていて階段から落ちたのが原因と言っている。だれもそれを信じていなくてヴィンスのDVのせいだと思っている。そしてフォックスが妹の敵討ちをしてヴィンスを殺したと疑われる。

フォックスはヒートン刑事の汚職を調べて立件までいったとき、新しく児童搾取およびオンライン保護部のアニー・イングリスから捜査に協力するよう依頼される。児童ポルノのオンライン取引をしていると疑いがあるジェイミー・ブレックの内密調査である。ところがブレックはヴィンスの事件の担当していてフォックスを調べる立場なのである。
最初はお互いに調べる立場、ヴィンスの件ではブレックが押す立場だが、フォックスは「子供を見るのが趣味とはな、ブレック巡査部長、私が吊るし上げてやる」と思うのであった。
二人は捜査中にヒートンを擁護する者たちに後をつけられ、証処をでっち上げられ、二人もろとも停職になる。

フォックスとブレックはだんだんと相手を信頼するようになる。お互いの得意なところを活かし、腐敗した警官たちにせまる。まっすぐなフォックスと柔軟なブレック。
フォックスは「何者かがきみを小児愛者に仕立て上げようとしたんだぞ」と息まくが、ブレックは冷静になぜこんなことになったか解明することだと答える。
後半は二人がいっしょに捜査にあたる場面が多くて、二人がユーモアを交えて理解しあっていくところが楽しい。停職中なのだが給料は出るとあってホッとした(笑)。
(熊谷千寿訳 新潮文庫 1100円+税)