ジュデダイア・ベリー『探偵術マニュアル』

第4回 関西翻訳ミステリー読書会のテキストなので早めに買って読みはじめたが、あんまり読み進めなくって日にちがかかった。あとに控えている本があると慌てたら、後半になっておもしろくなって最後までいった。

途中でこの本はあれに似てると思い出そうとしたがタイトルも作家名も忘れている。たしか〈ジェイン・エア〉が入ってたぞと、当ブログのイギリスページを見ていったらあった。ジャスパー・フォード「文学刑事サーズデイ・ネクスト1 ジェイン・エアを探せ!」。もちろん〈ジェイン・エア〉が入ったタイトルで買った本である。めちゃくちゃおもしろかった。文学的でSFでロンドンで、クリミヤ戦争が131年目で。われながらていねいに紹介を書いているから読みながら思い出していた。

そこで「探偵術マニュアル」なんだけど、ハメット賞をもらっているからミステリとして優秀なんだろうけど・・・歯切れがわるいわたし。文学趣味であっても文学的ではないって感じを受けた。カリガリやらホフマンやらなんかなぁ。

途中で訳者あとがきを読んだらこの一言があった。「SF作家のマイケル・ムアコックが本書をスチームパンクの一作と位置づけている」ああそうかと納得。サイバーパンクがあるからスチームパンクもあるわなと直感で思って納得。検索したらスチームパンクはちゃんとしたジャンルだということがわかって、なんだ、あたしだけが知らなかったのね(恥)。それで納得したら読みやすくなった。

細部で楽しいところがあった。真面目な記録係から探偵に昇格した主人公アンウィンのあれこれ。
【アンウィンは、気持ちを落ち着けるために全部の鉛筆を削り、抽斗の中のペーパークリップと輪ゴムをサイズごとに分けて整理した。それから万年筆にインクを補充し、穴あけパンチに詰まった小さな紙の満月を捨てた。】(28ページ)
【僕には毎日掃除して油をさしている自転車がある。いつも手放さない帽子と、役目をきちんと果たしてくれる傘がある。列車の切符はいつもポケットに入れている。・・・】(144ページ)
(黒原敏行訳 創元推理文庫 1140円+税)

ベンジャミン・ブラック『溺れる白鳥』(2)

クワークはくたびれたどうしようもない男として描かれているのだが、女性からしたらかまってやりたくなる男なのだ。ボストンからフィービの祖父の3人目の妻で未亡人のローズがきて、なにくれとなくクワークの世話を焼く。
また、クワークは死んだディアドラの共同経営者ホワイトの妻ケイトを訪ねて話を聞くのだが、ふたりの間にはもやもやとした空気が立ちこめる。

だが、クワークの実の娘のフィービ、【彼女の鋼のような冷たさの前に、クワークはたじろいだ。やはりデリアの子だ。日ごと彼女そっくりになってくる。デリアは彼が会ったなかで、最高に意志の強固な女だった。最初から最後まで、鋼のようだった。そして彼が何より愛していたのは、そういう部分だった。すばらしく美しいが、自ら苦しみを抱え、人を苦しめる女。】クワークはかつてデリアというすごい女性を愛してしまった。いまは同じように冷たい娘のフィービをどうしようもなくて苦しんでいる。

フィービとローズの会話は何度読んでもおもしろい。なんで女たちの会話をほんとみたいに書けるんだろう。【フィービは考えて、言った。「あなたのこと、尊敬してます」するとローズは頭をさっと引き戻し、笑い声をあげた。鋭く張りつめた、銀のように冴えた声だった。「ほんとにねえ。たしかに、あのお父さんの娘だわ」】

【ローズはしばらく黙って彼を見すえていた。「言ったでしょう、ずっと前に。あなたとあたしはおんなじだって——心は冷たく、魂は熱い。あたしたちみたいな人間はたくさんはいないのよ」】ここんとこもいい。クワークをわかっている女性がいると思ってほっとした。
(松元剛史訳 武田 ランダムハウスジャパン 900円+税)

ベンジャミン・ブラック「溺れる白鳥」(1)

ベンジャミン・ブラックの本は2009年5月に「ダブリンで死んだ娘」を読んでいたので迷わずに買った。「ダブリンで死んだ娘」というタイトルがよかったから読んだのだが、ほんとに読んでよかった。現代アイルランドを代表する作家のジョン・バンヴィルが別名で書いているミステリということで、これからジョン・バンヴィルをチェックすると書いているがまだしてなかった(恥)。

前作と同じダブリンの〈聖家族病院〉病理科の医長で検死官のクワークが主人公である。古い友人の医薬品セールスマン、ビリー・ハントが電話で妻が自殺したという。カフェで会うとハントは妻の体を解剖しないでくれと頼む。耐えられないと。
ディアドラ・ハント(職業上の名前はローラ・スワン)はビューティ・パーラーの共同経営者だった。ダブリン湾に身を投げた彼女はそこまで乗ってきた車を停め服をきちんと埠頭の壁際に畳んでいた。クワークはハントの頼みをハケット警部に伝える。

ディアドラは父から虐待をうけるなど厳しい環境で育った。そしてハントと結婚して、仕事の才能があるのに気がつく。共同経営者のホワイトは女につけこむタイプで、いつの間にかディアドラは夢中になってしまう。
クワークの娘フィービはずっとディアドラから化粧品を買っていた。彼女の死後に店に行くとホワイトに出会いパブに誘われる。やがてフィービはホワイトを自分の部屋に入れる。ホワイトは事業は失敗するしとんでもないやつだが、ディアドラもフィービも難なく手に入れしまう魅力がある。クワークはフィービとホワイトの仲を知り心配する。

クワークは前作では酒飲みだったが、今回は禁酒している。彼が酒を飲むのは週に一度フィービとホテルで食事するときだけである。フィービは孤独な人生を送っている女性で、途中で叔父から父親になったクワークには特に冷たい。

ストーリーにはもちろん惹かれるが、それよりも1950年代のダブリンの描写がすごくいい。荷馬車がギネスを運んでいる道路とか。道路で倒れた馬の目の描写とか。憂鬱な小説なのだけれど手放せなくてここ数日繰り返し何度も読んでいる。
(松元剛史訳 武田 ランダムハウスジャパン 900円+税)

フェルディナント・フォン・シーラッハ『犯罪』

雑誌「ミステリーズ!」4月号にあったフェルディナント・フォン・シーラッハの短編小説「棘」と「タナタ氏の茶碗」(「わん」の字がないので茶碗とします)に惹かれた。エッセイ「ベルリン讃歌」もよかった。
単行本が出ると知って待っていて買ったが、読む本が山積していてなかなか読めなかった。3カ月も経ってようやく読んだ。瀟洒な美しい本なのもうれしい。

翻訳で読んでいるわけだけど、原作の気分というか空気の漂いがそおっと心に忍び込んでくるような短編集だ。先の2作品を読んでいたから、全体に気持ちの悪いというか、心の闇の部分を描くのが作風かと思っていた。そこんところが文学的と思えるのかななんて。それだけじゃなかった。

すべての作品が「犯罪」を描いており、犯罪を犯したとされた者が逮捕され弁護士が係わる。ドイツの法律に基づいた裁判と裁判に係わる法律家たちが描かれる。弁護士の私は犯人とされた人たちを法に従って弁護する。物語の終わりにはその冷静さとプロフェッショナルな態度に読者の気が静まる。

最後の作品「エチオピアの男」が良かった。
ドイツ、ギーセン市近くの牧師館の前に捨てられていた赤児のミハイルは、里親に虐待されなにひとついいことがなく育った。中学を出て家具職人に弟子入りし実技が優れていたので職人検定にかろうじて合格し兵役につく。除隊後〈ハンブルグには自由がある〉というどこかで読んだ言葉を信じてハンブルグへ行き家具職人として働く。工場で盗難がありミハイルは犯人とされ解雇される。後に犯人がわかりミハイルは無実だった。
仲間と歓楽街で会って2年間娼館の半地下にある暗い部屋に暮らし酒におぼれる。そして借金を返せないために袋ただきにされる。警察に逮捕され、このままでは身を持ちくずすとミハイルは思って、外国へ行こうと決意。銀行強盗で金をつくり空港でアジスアベバ行きの航空券を買う。
エチオピアの首都に着いたミハイルはハンブルグもアジスアベバも悲惨なことに変わりないと気づき絶望する。残ったお金で列車に乗り降りてからは草原を歩いて蚊に刺されマラリアになる。
倒れた彼を村人が助けてくれた。目が覚めてミハイルは人の情けを知り、その土地で家具職人の技を活かして村のために働く。看病してくれたアヤナとの間に子どもが生まれる。でも、まだ辛苦がある。
最後は心にそよ風が吹く。
(酒寄進一訳 東京創元社 1800円+税)

サラ・パレツキー『ウィンター・ビート 』(2)

新年早々にペトラから〈ボディ・アーティスト〉が殺されそうになったからすぐにクラブへ来てほしいと電話があった。駆けつけると本人はなんでもないといい、経営者は警察には届けなかったしヴィクにもすぐに帰ってほしいという。用心棒めいた男がいたりなにかがあるのをヴィクは感じる。
ナディアが描いた〈ボディ・アーティスト〉の体を見て、怒り狂った若い男チャドはナディアに接近するが友人たちに引き止められる。ナディアを助けだしたヴィクは「とっとと消えて!」といわれて首をひねる。
こういうことがあってのナディアの死である。チャドがまず疑われる。彼は自宅のベッドで意識を失っていて、ナディアを射った銃がそばにあった。チャドは意識不明で逮捕され拘置所の付属病院へ搬送された。
次の週にチャドの父親がヴィクの事務所へやってきた。息子が人を殺すはずはないと信じてヴィクに真相を調べてほしいと依頼する。ヴィクの目からでさえ容疑はかたまっているようだが、父親の懇願に折れて調べてみることにする。
チャドはイラクからの帰還兵でクラブでいっしょにいたのは仲間たちだった。単に心に傷を負ったイラク帰還兵が社会に順応できなくての犯行かと思われたが、調べていくうちに深い事情が明らかになっていく。
ナディアにも深い傷があったことがわかる。最後につぶやいたアリーというのは彼女の姉だった。バグダッドで働いていた姉は密かに現地の女性と愛し合っていたのがばれてひどい目にあった。いまナディアの妹も危うい目にあうところをヴィクが知る。

クラブで起こったひとりの女性の死から事件の背景が徐々に明らかにされる。大きな権力を相手にできるだけのことをやってのけたヴィク。ふたりのイラク帰還兵の応援が気持ちよい。最後は〈ゴールデングロー〉のサル・バーテルと得意先のダロウに頼んで応援を得る。ミスタ・コントレーラスもたくさん出てくるし、もちろんロティも。恋人のジェイク・ティボーはいい感じ。
(山本やよい訳 ハヤカワ文庫 1100円+税)

サラ・パレツキー『ウィンター・ビート 』(1)

【ナディア・グアマンはわたしの腕のなかで死んだ。】から物語がはじまる。ヴィクが真冬のシカゴの〈クラブ・ガウジ〉を出てほどなく、銃声と悲鳴とタイヤのキキーッという音がきこえたので駐車場を走りぬける。ナディアが倒れていて足元には血だまりができていた。ヴィクの腕の中で目を開き「アリー」と言ったのが最後だった。
救急車がきたがナディアは死んでいた。やってきた従業員のなかには従姉妹のペトラもいた。ヴィクがペトラに推測で話をしたらいけないと警察への対応の注意をしていると、女性警官が目撃者に入れ知恵をしないようにという。そして誰かに雇われてきたのかと聞くので、ここのクラブへショーを見にきたと答える。「私立探偵だってたまには休みをとるものよ」。ミルコヴァ刑事との応答のあと「ヴィク、こんなところで何してるんだ?」と、読者にも昔なじみのテリー・フィンチレー刑事がいう。今回はこのふたりの警官に最後までいらいらさせられる。
【クラブの裏口で女が殺されるという、年に一度あるかないかの夜に、たまたま、V・I・ウォーショースキーがそのクラブにきていた? 警部の耳に入ったらどんな質問が飛んでくるか、きみだってわかるだろ。なぜ今夜ここにきた?】

章が改まって、なぜヴィクが〈クラブ・ガウジ〉へ行ったかという話。感謝祭のあとに恋人のコントラバス奏者ジェイク・ティボーが、仲間のウォルシュがクラブで演奏するので、ヴィクとロティ、マックス、ミスタ・コントレーラス、ペトラを招待した。
ウォルシュは中世の旋律にヘビメタの歌詞を合わせるというブレンドをして、アンプをつけたハーディ・ガーディやリュートで弾き語りをした。クラブにとってこれは前座で本命は〈ボディ・アーティスト〉。ほとんど裸でスツールに座っている女性のうしろにはスクリーンがあってボディアートの画像が映し出され、音楽が流れている。彼女の体がカンバスになる。
その日にクラブが人手不足という話を聞きこんでペトラは夜のバイトをするようになった。

ペトラ【「・・・〈ボディ・アーティスト〉は自分の肉体をとりもどそうとしているんだってことと、自分の肉体をとりもどそうとするすべての女性がそれに勇気づけられてるってことを」わたしはペトラを見て考えこんだ。従姉妹とつきあいはじめて七ヵ月になるが、芸術の分野であれ、ほかの分野であれ、女性問題に対する意識を従姉妹が口にしたのはこれが初めてだった。】

ペトラはミスタ・コントレーラスの反対を押し切ってクラブのバイトを続けている。冬になったある日ペトラからすぐに来てと連絡が入る。そして事件の幕開け。
(山本やよい訳 ハヤカワ文庫 1100円+税)

ジェニー・サイラー『ハード・アイス』

女性探偵ものをT氏に貸していただいた4冊目。2000年発表で2001年に翻訳発行されている。前作運び屋アニーが主人公の「イージー・マネー」(未読)に次ぐ2作目。

メグは回収業者に所属して支払い不能におちいった車を差し押さえる仕事をしている。この仕事の前は刑務所にいたが、出所して故郷のモンタナ州へもどってきた。モンタナは北側がカナダに接していてものすごく寒い。冬はハローウィンより早く来て、やがて零下20度の日々になる。7月は暮らしやすい唯一の月で華やかに完璧にあっというまに通り過ぎる。

今日回収する車の持ち主はパイロットのベネットで簡単な仕事と思っていたが、ベネットはラジオのニュースで聞くところでは酔っぱらいどうしの喧嘩で死んだらしい。喧嘩の相手は男女のインディアンで男は逮捕され女レッド・ディアは逃げたという。自分の過去を思い彼女に対してひそかにグッドラックの言葉をおくるメグ。
こういう場合はとにかく早く回収するべしと自分の車に乗る素振りで発車する。もどってからその車にあった荷物をめぐってメグの家は荒らされ暴行を受ける。

メグは子ども時代をこの街で過ごした。父親は弁護士で羽振りがよく母親は美しい。しかし父親の性的志向がもとで夫婦喧嘩が繰り返され、ある日、母は父を銃で撃ち、父は命はとりとめるが子どものようになってしまった。いま母はすべてを売り払い自分のものになった夫とトレーラーハウスで暮らしている。

故郷へもどってきて過去と向き合い、自分の出生の秘密にも目を向けるが、ベネットの死からこっちロシア人ギャングにおどされ、いくところいくところで死体が見つかるありさま。
(安藤由紀子訳 ハヤカワ文庫 720円+税)

ロバート・クレイス「天使の護衛」(2)

パイクはラーキンを連れて私立探偵コールのところに行く。お腹が減っているとラーキンは言って風呂に入った。コールはサンドイッチを作る。ズッキーニとペポ南瓜と日本茄子を縦に切ってオリーブオイルと塩をふりグリルパンにのせて火を通す。奴らは5回ラーキンを殺そうとした、とパイク。居場所がだれから漏れているのか調べてみるとコールはいう。全粒小麦パンに野菜を重ね、ひよこ豆のペーストを塗ると、サンドイッチをグリルパンに戻しパンをぱりっと焼き上げた。風呂から出たラーキンは、わたしがベジタリアンだとどうしてわかったの? コールはパイクのためにつくったんだよと答えた。彼もベジタリアンなんだ。◎ここんとこ好き。(90〜97ページ)

パイクとラーキンがサンドイッチを持って新たな隠れ家に去ったあと「もしあの連中がおれの素性を知ったら、おまえさんを通じておれを見つけだそうとするかもしれない」とパイクがいった言葉を思い出す。コールは心のなかでつぶやいた。くるならこい——こっちもあんたの背後を援護してやるぜ、兄弟。◎まるで「昭和残侠伝」だ。(97ページ)

パイクはリビングの暗闇の中で機械的に腕立て伏せを繰り返しながら夜が過ぎていくのを待った。ハイのままでいるんだ〈ステイ・グルーヴィー〉。(110ページ)◎ハイのままでいる!ステイ・グルーヴィー! カッコいい!

ラーキンについてパイクがいう「きみは見られていないと感じている。誰にも見えなければ、きみは存在しない。だからきみは見られる方法を探すんだ」「わたしは11歳のときから心理セラピーを受けているのよ。あなたは3日間しかわたしのことを知らない。驚いたわね。わたしってそんなに見えみえ?」(327ページ)◎その後のお互いの父親に対する観察になるほどと思った。これじゃ恋に落ちて当たり前。
(村上和久訳 武田 ランダムハウスジャパン 950円+税)

ロバート・クレイス『天使の護衛』(1)

2006年に私立探偵エルヴィス・コール シリーズを4冊読んだ。もう一度読み直したいのに、4冊まとめて行方不明。押し入れの奥かもしれないが読む時間もないしまだ探してない。
エルヴィス・コール シリーズを読むと、強力な相棒ジョー・パイクとともに荒っぽく事件を解決するのが魅力になっている。今回はいつもと反対にジョー・パイクの仕事をエルヴィス・コールが援護する。

大金持ちの一人娘ラーキンは明け方の前の闇の時間に愛車アストン・マーティンをとばすのが好きだ。ある朝、目の前に銀色のメルセデス・セダンが現れ衝突する。車の中には前の席に男と女がいて後部座席に男が一人いた。ラーキンが救急車を呼ぼうと携帯電話をとりに車にもどると、メルセデスが発車し、男が一人走り去っていった。ラーキンは車のナンバーを記憶し救急車を呼ぶ。それから48時間後に彼女は司法省と連邦地区検事局の捜査官に面会することになる。それから6日後に彼女の殺害が企てられる。11日後にラーキンはジョー・パイクに会うことになる。この夜からすべてが変わった。

仕事を依頼するのはラーキンの父親コナー・バークリーだが、パイクを推薦したのは昔警察でパイクの上司だったバッド・フリンである。パイクとフリンが初めて職場で出会ってからの1章があって、読者はパイクの過去を知ることになる。パイクは暴力をふるう父親のもとで育った。海兵隊を経験し、警察を辞めてから傭兵として世界中で仕事をした。その腕を買われての仕事である。

当然、ラーキンはパイクに反発する。しかし誰も知らないはずの隠れ家を襲われ、パイクが依頼主にも秘密の行動をとるうちに、お互いにお互いの度胸を認めるようになる。調査の仕事などにエルヴィス・コールが加わる。
パイクは逃げるのではなくこちらから攻撃するのが解決方法だと作戦を立てる。その緊張感ある毎日の中で、コールがサンドイッチをつくるとラーキンはわたしは菜食主義者だと喜ぶが、コールはパイクのためにつくったんだよというシーンに和む。
パイクはこの娘のためにあらゆる手を使って闘う。だんだんふたりはいい相棒になり、凄惨な死体を見つけても度胸のあるラーキンになっていく。
(村上和久訳 武田 ランダムハウスジャパン 950円+税)

カレン・キエフスキー『キャット・ウォーク』

女性探偵ものをT氏に貸していただいた3冊目。1989年発表で1996年に翻訳発行されたもの。わたしはまるで知らなかったが、「カタパルト」(1997)、「浮遊死体」(1998)、「焦がれる女」(1998)、「デッド・エンド」(1998)と「キャット・コロラド事件簿シリーズ」として続けて福武文庫から出ている。(※カッコ内は日本での出版年)
訳者あとがきによると、キャット・コロラドはサクラメントの私立探偵で、サクラメントはカリフォルニア州のほぼ中央、「東京から見た浦和みたいなところ」だそうである。

親友チャリティが夫サムと離婚するつもりだが、サムは20万ドルをギャンブルですってしまったという。調べてほしいと頼まれたキャットは友だちの仕事はしたくないのにと思いながら腰を上げる。ラスベガスへ飛んだ彼女は幼なじみのデックに偶然出会う。デックはどうも危ない仕事をしているらしい。
ホテルのトイレで女性の死体と出くわすが、調べると女性はサムとつきあっていた。キャットはサムに会いにいく。その後、サムが建築現場で落下し死亡する。
新聞記者のジョーと知りあい意気投合し食事によばれて妻のベティと知りあう。そこには刑事のハンクがいた。ハンクは自分が乗る車に妻が乗って殺されてから独り身を通しているが、ようやくキャットを見て新しい人生を生きようと思う。

キャット「あたしは5マイル走れるし、2マイル泳げるし、玉突き台を自分で動かすし、荒っぽい言葉もしゃべれば、ワイルド・ターキーもあおるし、激辛メキシコ料理だって食べるわよ」
ハンク「いいね、まさにぼくの理想のタイプだ」
(柿沼瑛子訳 福武文庫 800円)